中国子会社 経営管理上の落とし所を探る(前編) | KPMG | JP
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中国子会社 経営管理上の落とし所を探る(前編)

中国子会社 経営管理上の落とし所を探る(前編)

本稿では前後編2回にわたって、中国でビジネス展開をするうえでの頻出する12の経営課題について取り上げます。

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中国は、ビジネス展開するうえで無視することのできない巨大市場です。しかし、中国では税制等がネックとなり会計処理が進まないということがあります。税務や会計上の問題と認識していたところ、重要な経営課題が潜在している場合もあります。中国子会社の経営課題については、「会計や税務及び法務の視点をしっかりと押さえ、経営管理上の落とし所を探るというアプローチ」が必要と考えます。

本稿では前後編2回にわたって、中国でビジネス展開をするうえでの頻出する12の経営課題について取り上げます。今回の前編では、主に税務と会計が絡む課題として「発票基準と月次決算」「滞留債権」「輸入価格の決定」「滞留在庫」「原価計算制度」「会計士事務所の選定」の6つを取り上げます。

後編では、「外貨送金と資金繰り」、「人件費」、「減損」、「贈収賄」、「会計不正」、「法改正」の6つの経営課題をご紹介します。ご期待ください。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

本稿は2018年1月末時点の法令・基準・通達等を基に作成しております。

ポイント

  • 中国子会社の経営課題については、日本本社のマネジメントは現地担当者任せにせず、主体的に関与すべきである。
  • 日本本社の関与の前提として、「経営課題に対応した会計や税務及び法務の視点をしっかりと押さえ、そのうえで経営管理上の落とし所を探る」というアプローチが必要である。

I.発票基準と月次決算の適正化・早期化

経営課題の背景

費用は支払い後に「増値税専用発票」を入手した月に計上し、売上は入金を確認した月に増値税専用発票を起票し計上します。これがいわゆる「発票基準」といわれる処理で、「現金主義」に近似しています。この場合では収益と費用が対応せず、月次損益を正確に把握できません。また増値税専用発票の入手を待ち、費用計上するため月次決算が遅れます。このため月次決算の適正化・早期化において最大のネックとなっています。

 

1. 税務の視点

日本の消費税に近似する付加価値税である「増値税」では、毎月の税務申告上は、増値税専用発票がないと、仕入増値税額は売上増値税額から控除できません。納税義務は、例えば財貨または役務の売上代金を受領するか、売上代金取立書類を取得した当日に発生すると規定されています(増値税暫定施行条例第9条)。

なお日本の法人税に相当する「企業所得税」は原則的に「発生主義」です。毎年の税務申告上は、当期に帰属する収益・費用は、金銭の受払いにかかわらず、当期の収益・費用とすると規定されています(企業所得税法実施条例第9条)。

 

2. 会計の視点

会計基準は「旧基準」と呼ばれる「企業会計制度」と、「新基準」と呼ばれる「企業会計準則」の2つが併存していますが、基本的に、会計は発生主義です。例えば、収益は所有権移転や役務提供完了の実現時点で認識し、仕入計上は検収時に認識します(企業会計制度第85条及び99条、企業会計基本準則第30条~35条)。

発票基準から発生主義に修正するには、例えば、財貨の検収時点で契約書等に基づく増値税専用発票以外の証憑の裏付けで仕入を暫定計上(見積買掛金勘定を使用)します。売上は入金を待たずに、増値税専用発票以外の証憑の裏付けで相手先の検収時点で暫定計上(見積売掛金勘定を使用)します。そのうえで翌月に前月計上分を取消し(赤字発票を起票)、増値税専用発票を入手・起票した段階で確定計上で増値税申告を行う方法が2016年に財政部から正式に提示されました(「増値税会計処理規定」財会[2016]22号)。

なお国際財務報告基準IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」をほぼ反映した中国の「企業会計準則第14号」が中国で上場している企業は2018年1月から、非上場企業は2021年1月から強制適用となります。日本企業の中国子会社の多くは中国では非上場ですから、実際の適用は2021年1月からになりますが、早期適用も可能です。企業会計準則第14号には、代替的処理として出荷基準が認められるとは明記されていません。そのため従来、出荷基準を採用している企業は、企業会計準則第14号で規定する「支配の移転と履行義務の充足」に適合しているかについて、認識プロセスの再検討が必要になるでしょう。

 

3. 経営管理上の落とし所

適切な経営判断をするには、発生主義に基づいた月次決算数値を早期に入手する必要があります。しかし現地財務担当者は、月次の膨大な増値税申告作業以外に、この申告調整作業が必要になり、中国子会社には一時的な税負担が生じる場合もあります。例えば四半期ごと、あるいは月をまたぐ場合の一定金額以上等のある重要な月に増値税の申告調整を行うような落としどころを探ることが必要です。

II.滞留債権の増加

経営課題の背景

中国の景気が減速してくると、得意先の資金繰りが悪化し、入金が遅滞するようになります。現地の財務担当者によると滞留債権の貸倒引当処理は有税なので会計処理を進めにくいとのこと
です。

 

1. 税務の視点

中国では金融機関以外の一般事業会社は企業所得税法上では貸倒引当金を計上する場合、基本的に有税です(課税所得から控除不可)(企業所得税法第8条、同実施条例第32条)。課税所得から控除できるのは、取引先が破産、閉鎖、解散、撤退を宣言した場合と、債務者の返済期限より3年以上超過し、かつ確実な証拠で返済不能を証明できる場合に限定されています。

 

2. 会計の視点

貸倒引当金は期末に債権の回収可能性を分析し、発生すると見込まれる貸倒損失相当額を見積り計上します(企業会計制度第53条、企業会計準則第22号第41条)。「与信管理規程」を整備し、事前・事後の与信管理を徹底させます。「売掛金年齢分析表」を作成し、「債権の見える化」を進めてください。

 

3. 経営管理上の落とし所

中国の現地担当者には、「滞留原因を徹底して究明すること、有税となっても会計基準に準拠した処理を行い、債権の見える化をすすめる」という本社のポリシーを指示することが必要でしょう。日本の連結決算上で引き当てているという会社もありますが、これはあくまでも2次的な対応で、本来は現地子会社で会計処理すべきです。

難しい売上債権の回収には、弁護士にサポート頂き交渉・催促してもらいます。滞留の内容、相手先の状況・実在性には十分に留意してください。原因不明の滞留債権は、売上の架空計上や関係会社を利用した循環取引など不正経理の可能性もあるからです。

III.関係会社からの輸入価格の決定

経営課題の背景

中国子会社は日本の親会社から商品を輸入し、さらにロイヤリティを支払っています。最近税務調査が厳しくなってきていると聞いています。

 

1. 税務(移転価格税制)の視点

継続的に赤字で、かつ関係会社取引の比重が高い子会社には移転価格の税務調査が入りやすい傾向があります。そして、日本本社から仕入れる原材料の輸入価格が、同業同種の輸入価格よりも恣意的に高く設定されているために子会社が継続的に赤字になっていると認定されて多額の追徴課税されることがあります。

 

2. 税務(税関)の視点

税関調査は移転価格の税務調査とは別の視点で入ります。税関調査が入ると原材料等も止められ、短期間に書類を提出しなくてはなりません。また、輸入とは別に本社にロイヤリティを支払っている場合(企業所得税10%、増値税6%、付加税0.65%を源泉徴収)、貨物の売買代金の一部をロイヤリティに変えて租税回避していると見なされて、ロイヤリティも輸入価格に含めて関税を支払うべきという指摘をされる可能性があります。輸入価格との関連性について、通関申告書に「貨物に関するロイヤリティ支払の確認」という項目ができましたので(税関総署公告[2017]13号)、ロイヤリティと輸入物品に相関性がない旨を合理的に説明できるようにしておく必要があります。

 

3. 経営管理上の落とし所

税務調査や税関調査への対応とその結果としての課徴金は経営に大きなインパクトを与えます。他社の輸入価格レベルを常時把握しておく、経済状況の変動に応じて価格や料率を機動的に変更し、契約を適時改定する、移転価格のみならず税関にも注意することが必要です。移転価格同時文書を提出した場合、情報が活用され、税関当局にも照会される可能性にも注意する必要があります。

IV.滞留在庫の増加

経営課題の背景

倉庫に売れ残った製品や包装材が山積みになっているが、現地の財務担当者によると評価損の処理すると有税となるため会計処理が進まないとのことです。

 

1. 税務の視点

企業所得税法では、基本的に在庫評価損は有税です(課税所得から控除不可)。実際に棚卸で廃棄した、あるいは実際に損失が発生したことを証明できる合理的な証拠が必要となります(財税[2009]57号及び国家税務総局[2011]第25号)。

 

2. 会計の視点

会計上は、棚卸資産の原価が時価である正味実現可能価額よりも高い場合には棚卸評価損失引当金を計上する必要があります(企業会計制度第54条及び企業会計準則第1号第15条)。カビや腐敗、期限切れで、かつ使用価値がない場合は、損失処理します。在庫の滞留状況を「見える化」するには、「滞留在庫年齢分析表」を作成する必要があります。その場合には、ロット単位での在庫の受払数量と実地棚卸で確認された数量が、システムに適時適切に反映されていることが前提となります。

 

3. 経営管理上の落とし所

II. 滞留債権の増加」での記載と同様ですが、「滞留、不良の原因を徹底して究明すること、有税となっても会計処理を進め、在庫の見える化をすすめること」という本社のポリシーを現地担当者に指示することが必要でしょう。本来は中国子会社で処理すべき問題なので、日本の連結決算上で引当処理することは2次的な対応と言えます。現地担当者には棚卸の目的をしっかりと理解させるようにし、棚卸差異の発生や不良在庫の発生を、棚卸実施報告書に正確に記入させます。また在庫の「見える化」の仕組みを構築することは、在庫の架空計上や資産の不正流用などを防ぐことにもなります。

V.適切な原価計算制度の構築

経営課題の背景

費用・売上の月次の計上が発票基準に準拠していており、また在庫の実地棚卸の精度も低いために、適切な原価計算を行えずに「どんぶり勘定」になっています。このため品種別やプロジェクト別の正確な損益の把握ができていません。

 

1. 税務の視点

前記の「I.発票基準と月次決算の適正化・早期化」で記載したように、増値税専用発票が無いと、当該仕入増値税額は売上増値税額から控除することができません(増値税暫定施行条例第9条)が、この発票基準が適切な原価計算制度の構築に障害になっています。なお企業所得税法上は予定原価や標準原価を採用している場合も、最終的には実際原価に修正して税務申告することが必要です(企業所得税法第8条及び実施条例第29条)。

 

2. 会計の視点

中国では原価計算基準を整備し、製造業の国際競争力を強化しようとする動きが見られます。「企業製品原価計算制度(試行)」(財会[2013]17号)が2014年1月から施行され、製造業、農業、卸売、建設、不動産、交通運輸、情報通信、ソフトウェア、通信技術サービス等を対象に適用されるようになりました(金融・保険業は適用外)。

これは強制力はないものの、業種ごとに原価計算の範囲、直接費と間接費の範囲、製造間接費の配賦基準、仕掛品の計算方法等について、その実務ポイントが詳細に規定されています。

日本の「原価計算基準」(企業会計審議会昭和37年)と比較すると、中国の原価計算基準は実際原価に関する規定が中心で、標準原価については「期末には実際原価になるよう調整する」という現時点の「試行」(第48条)では簡単な規定です。基本的な考え方は日本基準と同じですから、日系企業にとって大きな違和感はないでしょう。これに本社の原価計算基準を加味することで、原価計算制度を構築する手掛かりになるはずです。

 

3. 経営管理上の落とし所

適切な経営判断を行うには、品種別・プロジェクト別等の損益が明確になっている必要があります。その制度構築の前提として発票基準から発生主義に修正する必要があります。原価計算の精度が上がれば、「原価の見える化」も進展し、社内のモニタリングも効果的になるので、「原価付替」というプロジェクト間や品種間の損益を付替え操作する会計不正の防止の前提となるでしょう。

VI.現地会計士事務所の選定

経営課題の背景

会計監査は現地の財務担当者が懇意にしているローカルの中小会計士事務所に依頼しています。その会計士事務所は監査報酬が安価で、監査報告書も期日通りに提出してくれます。一方で、会計監査上の指摘事項はほとんどありません。

 

1. 法務の視点

中国の会社法では、会社は毎会計年度終了時に決算書を作成し、中国公認会計士の会計監査を受けなければならないと規定されています(会社法第164条第1項)。会計士事務所の選定・解任は、会社の定款に従い董事会で決定することになっています(会社法第169条第1項)。

 

2. 会計の視点

中国子会社が作成した決算書は、会計監査を経て「財務報告書」となり、税務当局等にも提出されます。財務報告書には中国公認会計士の監査結果である「監査報告書」が添付されています。

中国には、中小規模の会計士事務所数が数多くあり、企業との関係では立場が弱い場合もあります。会計士事務所は企業に対して、貸倒引当金や棚卸評価損の計上など有税となる会計処理を、会社に強く指導しにくい立場にある場合もあるようです。

 

3. 経営管理上の落とし所

会計士事務所の選定を現地の財務担当者任せにせず、会計監査上の指摘事項をきちんとマネジメントに報告できる、信頼のおける会計士事務所を選定することです。選定にあたっては本社主導の会計処理の統一対応、国際財務報告基準IFRS対応、日本の内部統制対応、会計不正の防止等を考慮することも重要です。グローバルベースで財務諸表の一定の品質を確保するためにはどういう会計士事務所に依頼すべきかいう視点が大切です。

執筆者

KPMG/有限責任 あずさ監査法人
グローバルジャパニーズプラクティス
中国事業室 シニアマネジャー 増田 進

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