移行期間の暫定合意に惑わされないには | KPMG | JP
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移行期間の暫定合意に惑わされないには

移行期間の暫定合意に惑わされないには

The Brexit Column - 英国のEU離脱交渉プロセスは、新居を購入するプロセスと似ています。KPMG英国ロンドン事務所のパブリックポリシー部門担当ディレクターのMark Essexは、どうすれば交渉過程で足元を見られずにすむのか、について私見を述べます。

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私たちの人生において家(新居)の購入は最大の取引であり、Brexitは英国が行う最大の取引です。私たちは新居の購入プロセスでの経験をどのようにBrexitに活かせるでしょうか。そして、先日の移行期間についての暫定合意(2019年3月末のEU離脱後から始まる2020年12月末までの激変緩和を目的とした移行措置)を受けてどのような対応をすべきでしょうか?

これはあまり完璧な例えではないかもしれませんが、なんとなくニュアンスを感じていただければと思います。英国がEU離脱を決めた2016年の国民投票が新居を探す決断だとすると、先日の移行期間についての条件付き合意はオファー(購入申出)の承諾にあたるのではないでしょうか。

新居の購入経験のある方にはわかると思いますが、ここまでたどり着くのも決して容易ではありません。というのは、まずは新居の購入に際して何を重要視するかについて夫または妻と議論し、その後、売り主にオファーを承諾してもらう必要があります。ですからここまで到達しただけでも立派な成果と言えるでしょう。

しかし冷静な方であれば、この先、待ちに待った引渡し(EU離脱協定に署名)と取引完了(実際のEU離脱)に向け、これまで以上に厳しい交渉が待っていることも理解していると思います。はたして協定は締結されるのか、締結されるのであればそれはいつになるのか、という問いに対して確信を持って答えられる人などいないのではないでしょうか。そのため、新居への入居予定者がこの段階でフライング気味に家具やキッチンの注文を始めてしまうのは楽観的すぎる行動と言えます。

企業のBrexitへのアプローチに関しても同じことが言えます。協定に法的拘束力が生じるまで、企業は今後も慎重な姿勢を崩すことなく代替案を準備しておき、必要に応じて導入していく必要があります。誰しも、現在借りている部屋の退去日が決まった後に(リスボン50条のもとでは2019年3月末までの12ヵ月後が退去日)足元を見られて価格をつり上げられるという事態は避けたいはずです。


不安定な基盤
今回の移行期間についての暫定合意が産業界にもたらす最大のリスクは、この暫定合意を受け、事態を楽観視する企業が増えてしまうことです。企業が選択する「よりリスクの低い」アプローチは、実際には以下のような理由で最もリスクの高い戦略となってしまうのです。

A. 協定が締結されない可能性はまだ残っており、今年の暮れか来年の初めに交渉が決裂した場合にこれらの企業は無防備な状態で取り残される。
B. 多くの業種の事業会社にとってそもそも(2020年12月末までの)21ヵ月という期間は短すぎる。

私のアドバイスはシンプルです。移行期間にかかる暫定合意に惑わされて対策を止めてはいけません。たとえば、資金調達面に影響が出ないようにしておく、EU市民の労働者を確保しておく、AEO(認定事業者)のステータスを取得しておくなど、今のうちにやっておける「あとになって後悔しない決断」はいくらでもあります。Brexitに関係なくこれらに取り組むことを予定しているのであれば、多忙な専門家を競合会社に奪われる前に今すぐ着手すべきです。不動産専門の弁護士や建築士への依頼が殺到してからでは手遅れなのです。

そして在庫水準を増やす(不要になれば元の水準に戻すだけ)といった戦略的な意思決定も必要になります。交渉が「No Deal」に終わった場合、国境での手続きが遅れるリスクに備えて、運転資金を十分に確保しておくこともとても有効な対策です。これは気に入った新居が購入できなかった場合に備えて他の新居も探しておくのと同じことです。

さらには、予定通りに計画が進んでいても、回収不可能なサンクコストが発生するといった不可逆的な意思決定も時に必要になります。これは最も難しい判断で、「少し様子を見てから」と考えている企業にとっては一番悩ましいものです。この状況を新居の購入プロセスで例えるならば、引っ越しのタイミングが合わず、新居の準備ができる前に現在居住中の家から引っ越さざるをえなくなった状況に似ているかもしれません。一時的に住む賃貸物件探しを先延ばしにしているうちに、やがて、手遅れになって住むところがなくなるよりは、仮住まいの家賃を払う方がましだということに気付くはずです。

こうした不可逆的な意思決定を迫られている人々に向けて、KPMG英国のBrexit統括責任者のJames Stewartは以下のような助言をしています。「あなたが法的に有効な契約書のない状態で大きな取引をすることを弁護士が絶対許さないように、企業も法的に有効な保証が得られるまではコンティンジェンシープランを維持しておくべきです。」

英国はまもなくBrexitへの扉を開けようとしています。しかし、最終合意文書に署名されるまで、まだまだ油断は禁物です。


本稿は英語版(原文)のコンテンツを和訳したものです。日本語版と英語版との内容に相違がある場合は英語版が優先されます。

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