Brexit(英国のEU離脱)における最新動向~KPMG調査結果から見る日系企業の現状と課題~ | KPMG | JP
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Brexit(英国のEU離脱)における最新動向~KPMG調査結果から見る日系企業の現状と課題~

Brexit(英国のEU離脱)における最新動向~KPMG調査結果から見る日系企業の現状と課題~

本稿は、KPMG Insight 2016年9月号に掲載した寄稿から約1年経過した現在のBrexitを取り巻く状況について、日系企業の現状と今後の課題について考察します。

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本稿は、KPMGインサイト2016年9月号「Brexit(英国のEU離脱)のおよぼす影響と今後の展開」(PDF:572kb)の続編として寄稿するもので、前回の寄稿から約1年経過した現在のBrexitを取り巻く状況について、KPMGジャパン主催のBrexitセミナー(2017年10月開催)参加者へのアンケート調査結果ならびに、KPMG英国が実施した主に在英EU市民を対象にしたヒアリング調査結果もふまえて、日系企業の現状と今後の課題について考察します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • Brexitを巡る、英国とEUの離脱交渉は、ようやく第一段階の基本合意に至り、今後、離脱後の双方の関係を協議する段階に移行する。これまでの主な論点は、「清算金」、「英国・EU双方市民の権利保護」、「アイルランド/北アイルランド国境管理」である。
  • KPMGジャパンが主催したBrexitセミナーにおける参加者アンケート調査では、経営環境に影響をおよぼす要因の主なものとして、為替、間接税、景気動向、規制、在英EU市民の雇用などが挙がった。その一方で、金融機関を除けば、多くの企業においてBrexitを見据えた対策が必ずしもできていないことが明らかになった。
  • KPMG英国が実施した、在英EU市民約2千名を対象にしたヒアリング調査によると、45%は英国残留予定、8%が現時点で英国外に移住予定、残る35%は英国外への移住を検討中との回答であった。また、若年層で、高学歴、高収入であればあるほど、英国外への移住を検討している傾向が強かった。
  • Brexitまで残すところあと15ヵ月弱。今後の選択肢を最適化するためにも、静観を終え、準備のための行動を起こすことが重要と考える。そのなかで、現在の商流や組織・機能の配置などを再検討し、この大きな変革を積極的に乗り切り活用することが期待される。

I.Brexitの現状~英国とEUめぐる離脱交渉の状況~

2016年6月に、英国のEU離脱是非を問う国民投票が実施され、Brexitが決定しました。2017年1月、ロンドンのランカスターハウスにおいて、単一市場への残留より移民の制限を優先する「Hard Brexit」を表明したメイ首相は、同年3月にリスボン条約第50条を発動し、正式にBrexitの手続きを開始しました。これにより、遅くとも2019年3月末にBrexitが決定した英国ですが、6月の解散総選挙では、開票の結果、保守党が第1党にとどまるものの、過半数の議席は維持できず、メイ首相は北アイルランドの地域政党の協力を得て、新たな政権の発足を目指す考えを示しました。9月、イタリアのフィレンツェにおいて、メイ首相は、Brexit後の激変緩和措置として2年の「移行期間」を設けるほか、離脱に際して一定の費用(清算金)を支払う考えも表明し、EUに対して一定の歩み寄りを見せ、膠着状態にある離脱交渉の打開を図りました。
Brexitをめぐる英国とEUの協議は、これまで難交渉が続いていたものの、12月8日、ブリュッセルの会談において、英国のEU離脱条件に関する第一段階につき、基本合意に至ったと発表されました。これに伴い、双方は今後、2019年3月末のBrexit後の混乱を避ける移行期間や、通商関係などの協議に移行します。
欧州委員会の発表した合意文書には、第一段階の交渉事項としてEU側が優先課題として重視していた3つの優先課題、すなわち、「清算金」、「英国・EU双方市民の権利保護」、「アイルランド/北アイルランドの国境管理」が盛り込まれています。

  • 清算金
    EU予算はEU加盟国が分担して負担しています。離脱によって、英国が未払いとなる分を債務としてEUが清算請求していましたが、英国はEU加盟国として合意した財政負担を履行することを認めました。ただし、詳細については今後も検討が必要だとしています。
  • 英国・EU双方市民の権利保護
    基本的にBrexit以降も英国・EU双方の市民は現状の権利を維持でき、在英EU市民がBrexit以降も同等の権利保護を受けるための行政手続きは簡易的であることを欧州委員会が確認しています。
  • 「アイルランド/北アイルランドの国境管理」
    英国は当該地域の歴史的な背景、その特殊性を認め、現状を維持して、「ハード・ボーダー」(厳格な国境管理措置)をしないこととしました。但し、メイ首相が閣外協力を得ている民主統一党(DUP)との意見調整は、継続課題となっています。


12月13日、英国下院はEU離脱法案について、EUとの最終合意を議会の採決に付すとした修正案を可決しました。しかしながら、上記の基本合意は、詳細事項については積み残しとなっている課題も多く、今後の双方の交渉にブレーキをかける可能性も含んでいるのも事実です。
なお、交渉原則として、これまでEU側は、英国の秩序あるEUからの離脱を保証することが交渉の主な目的とし、単一市場における4つの基本的自由(ヒト、モノ、カネ、サービス)は不可分として英国の「良いとこ取り」は認めないとしていることに対し、英国側は、できるだけ早く政策分野の技術的な協議に移行しBrexitによって生じる課題について合意することを優先しながら、単一市場のポジションにあり続けることについては断念(経済関係の深い分野では将来的にFTAで補完したい意向)していました。

II.Brexitがおよぼす影響~日系企業の経営環境に影響を及ぼす要因とは~

前回(2016年9月号)においても概説しましたが、Brexitに関する課題や影響はさまざまな領域で考えられることができます。特に英国とEUの交渉においては、関税、製品の基準や各種法規制、サービス(金融サービス含む)、ヒトの移動、投資や税制、知的財産権など多岐にわたります。また、離脱交渉上の論点として、英国と第三国間とのFTAやWTOの交渉などが挙げられ、交渉結果によっては、既存事業や商流、サプライチェーンに影響をおよぼす可能性が考えられます。

図表1では、実際にKPMGジャパンが主催したBrexitセミナーの参加者アンケート調査において、「Brexitが会社の経営環境に影響を及ぼす要因(n=288/複数回答)」を示しています。最も多かった要因として、為替の影響(USドル、ポンド、ユーロ)、次いで、間接税(関税や付加価値税など)、3番目に、規制の変更でした。それ以外にも、景気動向、EU市民の雇用、サプライチェーンといった要因が確認できました。

図表1 Brexitが会社の経営環境に影響を及ぼす要因

(n=288/複数回答)

図表1 Brexitが会社の経営環境に影響を及ぼす要因(n=288)/複数回答

別の角度の調査として、図表2「短期的にBrexitが会社の業績に与える影響の見込み(n=106)」について、ヒアリングしました。およそ半数近くの回答者が「現時点では判断がつかない」が46.2%、「ほとんど影響がない」が24.5%、「若干の悪影響」が22.6%という結果でした。

図表2 短期的にBrexitが会社の業績に与える影響の見込み

(n=106)

図表2 短期的にBrexitが会社の業績に与える影響の見込み

有効回答数:106

さらに、図表3「中長期的にBrexitが会社の業績に与える影響の見込み(n=105)」に関する調査では、「現時点で判断がつかない」としたのが60%、「若干の悪影響」が21.9%、「ほとんど影響なし」という回答が14.3%でした。

図表3 中長期的にBrexitが会社の業績に与える影響の見込み

(n=105)

図表3 中長期的にBrexitが会社の業績に与える影響の見込み

有効回答数:105

こうした調査結果から、遅くとも2019年3月末に英国がEUから離脱するという状況下において、多くの日系企業において、短期、中長期的にも自社の事業への影響の判断がつかない状況、といえます。


※Brexitセミナーの来場者は、155名。製造業(56.4%)、金融機関(16.5%)、卸売・小売業(8%)、運輸・輸送業(8%)を中心とする上場企業。
回答者(が所属する企業)全体の約84.5%が英国内に子会社を有している。

1.英国内の景気動向

英国内景気の状況として、KPMG英国のチーフエコノミストによれば、Brexitに端を発する今後の事業展開の不透明感は懸念ではあります。ところが、景気低迷により2017年第2四半期のGDP成長は0.3%にとどまったものの、経済は小幅な成長を続けており、数値目標を上回るインフレと労働市場のひっ迫により、早ければ2018年にも段階的な利上げが実行される可能性がある、としています。

2.税務上の論点

Brexitにかかる税務上の論点として、間接税については、英国が関税同盟を維持できない場合(現状、英国は関税同盟から離脱し、特別な自由貿易協定「FTA」で解決を図りたい意向)、将来の関税に係る不確実要素となります。その影響として、英国への輸出入品およびEU諸国向けに販売された英国商品の価格が上昇する可能性や、コンプライアンスコストおよび事務手続きの増加、あるいは統合基幹業務システムの再設計、一定期間にわたる対EU取引が不安定になる、などの可能性などがあります。
また、VAT(付加価値税)については、英国がVAT制度を現状のまま維持できるのか、またそれがEUの取引相手先との関係にどのように影響するのか不透明な状況下にあるものの、取引ごとのVATの取扱い、インボイス手続き、システム要件を変更する必要が発生するほか、サプライチェーンの一部でVATの課税漏れが生じる可能性、VAT税率や減免に対する自治権の拡大などが挙げられます。
関連して、Brexitがもたらす直接税への影響は、税務関連のEU指令(EU Directive)の効力が喪失することにより、配当や利子、ロイヤリティーを英国がほかのEU加盟国から受領する際に、支払い国で源泉税が発生する可能性が挙げられます。これにともない、持株会社への影響も考えられます。また、同様にEU指令に基づいて導入されている欧州における事業再編などの際に利用することのできる合併課税免除規定や移転価格税務調査の際に二重課税を回避するEU仲裁規定など、納税法人側を保護する規定が今後も利用できるかどうか不透明な状況にあることです。あるいは、EU内に所在しない会社の存在のよる、無税での資産移転や連結納税制度への影響も考えられます。

3.在英EU市民の雇用確保にかかる論点

BrexitにかかるEU市民の雇用問題に関連して、KPMG英国は在英EU市民約2千名と、在EUのEU市民約1千名を対象に実施した調査(The Brexit effect on EU nationals※ 2017年8月)において、以下のような調査結果が得られました。

  • 調査対象となった約2千名の英国に居住するEU市民のうち、45%は英国に残留予定と回答し、8%が現時点で国外移住を予定していると回答。35%は、英国外への移住を検討中と回答した。
  • 在英EU市民のうち、若年層で、高学歴、高収入であればあるほど、英国外への移住を検討しており、優秀な人材の流出リスクが浮き彫りとなった。
  • 英国は住みたい場所としての魅力は弱くなってきているものの、EUに居住するEU市民の約3分の2は、依然として英国は働く場所として魅力的であると回答し、(就労するにあたって)良い機会があれば英国に移住したい、と回答した。
  • 調査対象の在英EU市民のうち半数は、英国で歓迎されていない、価値を認められていないと感じている。英国に移住したくないと回答する在EUのEU市民の間では、英国が自分たちを歓迎していないという恐れが何よりも先立っている。
  • 在英EU市民の半数以上(51%)は、雇用主が、英国内に残ることを望むという意思を明確に表明することを期待している。さらに、39%の回答者は雇用主に対し、人材としての重要性を公に主張してほしいと希望している。


EU市民の権利保護については、離脱交渉に伴う政府レベルにおける政策論議の課題もありますが、一般事業会社のレベルでも、いかに優秀な人材の獲得(維持)戦略を構築し実践するかという課題を早期に認識する必要があります。

III.今後の対応

それでは、日系企業の、英国のEU離脱に向けての準備状況はどうでしょうか。セミナーの参加者アンケート調査では、図表4「Brexitを見据えて対策を検討・構築状況の有無にかかる設問(n=93)」について、90%近い企業が特段、事前対策の検討や、社内体制の構築をしていない、と回答しています。

図表4 Brexitを見据えて対策を検討・構築状況の有無にかかる設問

(n=93)

図表4 Brexitを見据えて対策を検討・構築していましたか?

有効回答数:93

Brexitセミナーを通じて、金融機関を除く、在英子会社を有する多くの日系企業において、Brexitにおける経営環境に影響をおよぼす懸念事項は認識しているものの、まだ影響分析ができていない、社内的な対策体制が構築されていない、ということが現状としていえるかと思われます。
2019年3月末まで残すところあと15ヵ月弱です。こうした中、どのようなことから準備ができるでしょうか。

1.今、準備できること(非金融系事業会社)

最も大きな影響を受ける業界は、規制が厳しく複雑なサプライチェーンを有する業界です。その意味では、自動車業界、家電、食品あるいは製薬業界が挙げられます。こうした業界においては、以下のような検討をする必要があります。

  • サプライチェーンおよび税関、関税および非関税障壁への影響が課題となるため、英国の近隣諸国または自国内での活動を再検討。
  • 通関手続の簡素化や迅速化を図るためにEU内におけるAEO(認定通関業者)の認定。
  • 将来の事業を継続させるため、多額のインフラ費用の計上やEU域内における新会社の設立の検討。

2.今、準備できること(金融機関)

一方、金融機関、特に銀行業においては、一般に他業種に先行してBrexitの影響について広く理解しており、事業推進上のさまざまな問題に対応するために広範囲で準備を進めている状況です。たとえば、ビジネスモデル、法務、許認可、規制、顧客への影響、オペレーション、アウトソース、データ保護、人事、税務などの専門領域での専任担当者からなる対策チームを組成し、Brexitによる影響の詳細な評価を実施しています。とはいえ、EUのパスポート権の喪失やEU域内における拠点を移転する可能性を考慮した場合、早急な行動が求められます。というのは、2019年3月までに離脱交渉が決裂した場合、一部の銀行業、保険業においては従来の業務が継続できなくなる可能性があるためです。

3.今、準備できること(まとめ)

いずれにせよ、これからの準備や検討にあたって必要なことは、将来的な選択肢を最適化するために、複数のシナリオを想定して各々に対応する行動計画を策定することが重要です。たとえば、

  • 英国拠点とEU拠点との間に商取引があるか?
  • 在英子会社があるか?
  • 英国に従業員(英国人 ・ EU市民)がいるか?
  • 自社のサプライチェーンの中に英国に依存する部分があるのか?


といった影響を受ける潜在的な要因を理解することが肝要です。また、最悪のシナリオ(クリフエッジ)を想定して、その状況における影響を定量化することも重要です。そして、ライバル会社との競争上の優位性を維持するために、来るべき時に備えて、そのタイミングが到来した際に、即座に行動できるように準備をすることです。そのためには、外部の専門家を活用し、いつまでに、誰が、何をする、といった行動計画をEU離脱までの時間軸でマッピングし、重要なイベントやTO-DOの行動計画を立案するといったアクションも必要かと思われます。
Brexitをめぐる英国とEUの協議は、現時点では、不確実な状況が継続することが見込まれることが事実ですが、実際に対応することが決まってから検討しても間に合わないほど、実務への影響が予想されるのも事実です。2019年3月末までの残された時間で、できる限り準備を実施し、Brexitを契機に、現在の商流の設計や組織のあり方を再検討し、この大きな変革を積極的に乗り切り活用することが期待されます。

執筆者

KPMG/あずさ監査法人
グローバルジャパニーズプラクティス
統括パートナー 三浦 洋

KPMG 税理士法人
国際税務部門
パートナー 福田 隆

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