新収益基準のインパクトと対応方法Part1 | KPMG | JP
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新収益基準のインパクトと対応方法Part1

新収益基準のインパクトと対応方法Part1

本稿では、今後最終化される新収益基準が業務とシステムに与えるインパクトを明らかにし、これにどう対応すべきかを解説します。

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平成29年7月20日、企業会計基準委員会(ASBJ)から、企業会計基準公開草案61号「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「基準案」という)および企業会計基準適用指針公開草案61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下まとめて「新収益基準の公開草案」という)が公表されました。新収益基準を導入すると、認識する認識単位、金額、タイミングが変わることがあります。この影響は、企業の会計ルールの変更だけではありません。契約上の請求管理や会計上の債権管理などの業務、債権管理や総勘定元帳などの会計システム、そして契約管理システムの見直しも必要になるでしょう。
本稿では、今後最終化される新収益基準が業務とシステムに与えるインパクトを明らかにし、これにどう対応すべきかを解説します。

ポイント

  • 新収益基準のインパクトは、5つ(1. 会計ルールを見直す、2. 会計上の管理を見直す、3. 契約上の請求管理を見直す、4. 経営上の業績管理を見直す、5. ビジネスのあり方を考える)がある。
  • 新収益基準の導入で、従来、契約単位で売上計上していたものを、異なる「単位」、「金額」、「タイミング」で売上計上するならば、会計上の管理は契約上の請求管理と一致しなくなる。
  • 契約上の請求管理を行いつつ、新収益基準にしたがって会計上の管理を行うには、新たなパラレル・アカウンティングが必要になる。

新収益基準のインパクト

I.会計だけの問題ではない

「新たなパラレル・アカウンティングが必要になる」というのが、新収益基準導入のもっとも大きなインパクトです。
一般的にパラレル・アカウンティングとは、2つの会計基準に基づいてそれぞれの会計帳簿に記録を残すというものです。IFRS導入企業が、単体の会計帳簿をIFRSと日本基準の両方で作成するというのが、その典型例です。
しかし、本稿でいう“新たなパラレル・アカウンティング”は、一般的な意味のそれとは少し異なる目的で行うものです。なぜならば、新収益基準への対応のために行うパラレル・アカウンティングは、2つの会計基準に対応するためではないからです。
今後最終化される新収益基準は、日本基準です。日本基準に基づいて売上を計上するだけなら、パラレル・アカウンティングは必要ありません。現在の会計処理を新収益基準に切り替えるだけでよいはずです。つまり、シングル・アカウンティングで十分です。
では、なぜパラレル・アカウンティングなのでしょうか。それは、管理で必要になるからです。契約上の債権の管理にしても、税務上の計算にしても、従来どおり契約に基づいて行うのなら、現行の日本基準に基づく収益管理が必要になります(残ります)。収益認識基準による財務会計と税務会計・契約上の債権管理との間に違いが生じるため、いずれも維持することが必要なのです。
本稿は、新収益基準が業務プロセスとシステムにどのような影響を与えるかを示すことが目的です。

II.単位、金額、タイミングが変わる

平成29年7月20日、ASBJから新収益基準に関する公開草案が公表されました。これは収益の認識について包括的なルールを定めることが目的です。
新収益基準の特徴は、5つのステップを通して収益を認識するという点にあります。これは、IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」のコンセプトと同じです。もともと、新収益基準の開発にあたっては、IFRS15号の基本的な原則を取り入れることを出発点としているため、これは当然であると言えるでしょう。
5つのステップを通して収益を認識することで、大きく変わる点は3つです。1つは、認識する収益の「単位」です。ステップ1で顧客との契約を識別し、ステップ2で契約における履行義務を識別します。企業は契約の中で顧客に財の販売やサービスの提供を約束します。履行義務とは、その1つひとつ区別できる約束のことです。履行義務の捉え方によって、履行義務の単位と契約の単位とが一致することもあれば、異なることもあります。これらが異なる場合、業務プロセスとシステムにインパクトを与えることになります。
2つ目は、収益の「金額」です。契約のなかに複数の履行義務があれば、当然、その1つひとつに金額を付ける必要があります。ステップ3では契約全体の取引価格を算定し、ステップ4で取引価格を独立販売価格の比率に基づき各履行義務に配分します。変動対価のように、契約当初に金額がはっきりしないものは、見積もりを行い取引価格に含めた上で配分計算を行わなければなりません。その結果、配分後の金額が契約書上の金額とは異なることも考えられます。
収益を認識する単位の変更、配分された金額の契約書との不一致、いずれにしても、これらは会計上の話です。企業が顧客に請求し受領する金額と一致するとは限りません。こうなると、契約上の請求管理と会計上の債権管理は異なってくるのです。
3つ目が収益を認識する「タイミング」です。収益を認識するタイミングは、履行義務を充足した時です。それが、一時点か、それとも一定の期間にわたってなのか、一時点であればどの時点なのか、収益を認識するタイミングが変われば、企業の会計ルールの変更だけでは済まされません。
契約や履行義務の識別、取引価格の算定、収益の認識パターンの決定など、新収益基準を理解し適用していくことは会計上の論点として重要です。
しかし、企業にとって重要なことがもう1つあります。新収益基準を導入した結果、もし、いままで認識していた収益の「単位」、「金額」、「タイミング」が変わるならば、企業の業務プロセスとシステムに影響を与えるということです(もちろん、その件数や金額の重要性によって変わりますが)。では、その影響とはどういうものなのでしょうか。新収益基準の導入によって収益の単位、金額、タイミングが変わる場合のインパクトについて解説しましょう。

III.5つのインパクト

筆者は、新収益基準のインパクトを5つに分けて捉えています(図表1参照)。5つのインパクトの概要は、以下のとおりです。

図表1 新収益基準のインパクト

1.会計ルールを見直す

1つが、企業の会計ルールを見直すというものです。新収益基準は、収益の認識について包括的に処理方法を定めています。すべての企業に影響するものもあれば、特定の業種・業態にのみ影響するものもあります。企業が自社の状況を確認し、新収益基準の導入によって対応が必要な論点を絞り込み、重要性の基準を考えたうえで、会計処理の手続や勘定科目を見直し、これを企業の会計ルールとして設定する必要があるのです。


2.会計上の管理を見直す

新しい会計ルールにしたがって、認識する収益の単位、金額、タイミングが変わるなら、当然、新たに求められる収益の単位、金額、タイミングできちんと会計処理できるように、業務プロセスとシステムを見直す必要があります。これには、収益の認識に関係する内部統制のしくみの見直しも含まれます。
新収益基準では、契約負債の管理が必要になります。契約負債とは、顧客に財やサービスを提供する前に、代金を受け取った(もしくは代金を受け取る期限が到来した)場合に生じます。いわば、前受金です。こういうと、「今までもやっている」と思うでしょう。しかし、履行義務の単位で管理していない限り、顧客から受け取った金額を契約負債とするか、債権(または契約資産)の回収に当てるか判断できません。
それだけではありません。新収益基準には、債権とは別に契約資産という概念があります。債権も契約資産も、顧客に提供した財やサービスと交換に代金を受け取る権利のことです。期日が来れば支払ってもらえるのが債権ですが、契約資産はそれ以外の条件(たとえば、企業が何か別の約束を果たさないと支払ってもらえない)がついているものです。契約資産も債権と同様、金融債権として取り扱われます(基準案74項)。会計上はきちんと増減と残高管理を行い、回収可能性を評価する必要があるのです。
少し毛色は異なりますが、もう1つ重要な管理があります。それは税務上の対応です。新収益基準によって、認識する収益の単位、金額、タイミングが変わっても、仮に法人税のルールが変わらなければ、従来どおりの収益管理が必要になる可能性があるからです。


3.契約上の請求管理を見直す

新収益基準を導入しても、契約の内容が変わらなければ、顧客に対する請求管理は変わりません。そもそも、契約書には履行義務という言葉も概念もありません。顧客に対して財やサービスを提供すれば、それが会計上の履行義務と一致していようとなかろうと、契約に基づいて請求することとなり、それは従来の日本基準に基づく収益の認識に近いものになるでしょう。今後は、契約に基づく請求管理は会計処理とは必ずしも連動しないため、別個に管理を続ける必要があります。


4.経営上の業績管理を見直す

認識する収益の単位、金額、タイミングが従来と変わるなら、その影響は、実績の集計だけではありません。実績と比較するのは予算です。予算も実績と同じように、収益の単位、金額、タイミングを意識して設定する必要があります。実績と予算を比較して、業績を評価するのですから、業績評価のルールだって影響を受けるでしょう。業績の予想や業績見込みを把握する仕組みも無関係ではありません。
そもそも、企業の業績の中心となるものは、売上と利益です。実績や、予算を集計する上でも、また、業績見込みの算定や、中期経営計画を策定する上でも、収益の単位、金額、タイミングが変われば、影響が生じます。
したがって、新収益基準の導入によって見直すべき業務プロセスとシステムは、実績の収集にかかわるものだけではありません。予算の編成プロセスとシステム、予実分析システム、業績評価システムに与える影響も検討する必要があるのです。


5.ビジネスのあり方を考える

新収益基準への対応で負担が増える領域の1つは、契約のあり方、もっというとビジネスのあり方にある可能性があります。実際のところ、海外事例をみてみると、IFRS15号や米国会計基準のTopic606への対応で、契約のあり方まで踏み込んで検討するケースもあります。たとえば、1つの契約書に複数の履行義務が含まれていることから、契約書の書式を見直し、1つの契約につき1つの履行義務が対応するようにするといったものです。
契約というものは、業種や業態、取引慣行などの影響を受けますし、取引先との関係というものもありますから、そう簡単に変えられるものではないかもしれません。
しかし、もし新収益基準への対応で負担が増える原因が、あまり合理的でない理由によるならば、新収益基準にしたがって処理するという受け身の姿勢だけでなく、ビジネスのあり方を見直すという積極的な姿勢も、この会計基準への対応には必要でしょう。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
マネージング・ディレクター 山本 浩二

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