【対談】スマートワーク経営が導く企業成長 ~働き方改革で実現するワークライフシナジー | KPMG | JP

【対談】スマートワーク経営が導く企業成長 ~働き方改革で実現するワークライフシナジー

【対談】スマートワーク経営が導く企業成長 ~働き方改革で実現するワークライフシナジー

安倍総理大臣に働き方改革を提案した株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏に、日本企業が行うべき働き方改革について、KPMGジャパンCEOの酒井弘行が話を伺った。

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株式会社ワーク・ライフバランス 小室 淑恵 氏

小室 淑恵 氏
株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役社長

2006年7月、株式会社ワーク・ライフバランスを設立、代表取締役社長に就任。2016年5月、官邸にて安倍総理大臣に働き方改革を提案する。
産業競争力会議、内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、総務省などさまざまな官庁の委員を務めるほか、金沢工業大学大学院ビジネスアーキテクト専攻ワークライフマネジメント特論客員教授、株式会社かんぽ生命保険など複数の企業のアドバイザリーボードを兼務する。

 

 

「もっとよりよいものを」。日本人の道徳観と倫理観とがあいまって、これまで日本人は高品質を追求してきた。しかし、その考え方こそが長時間労働という慣習を生み出してしまったのかもしれない。2016年5月、内閣主導で始まった働き方改革は、日本企業にどのような影響を与えるのだろうか。
安倍総理大臣に働き方改革を提案した株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏に、日本企業が行うべき働き方改革について、KPMGジャパンCEOの酒井弘行が話を伺った。

限界まで働くのではなく、限界まで働かなくていいための仕組みを工夫する

酒井:最近、長時間労働が問題視され、「働き方を変えなければ」という風潮が強くなっています。
これについて、私は日本人の道徳観と倫理観が重なりあって原因の1つになっているのかもしれないと思っています。日本人は真面目なので、一生懸命、最後の最後までできる限りのことをしようとする。「もっとよりよいものを求めるべきだ」と、体力と気力の続く限りやることを美徳としています。これが長時間労働にも繋がっていると思うのです。

小室:充電切れになるまでやらないと満足しないということでしょうか?

酒井:そうです。なんとなくそういうものがあると感じています。でも、私は決してこの考え方が悪いものではないとは思います。
でも、日本の社会がこれをすべての人に要求することは必要ではなくて、この価値観を変えていかなければ、おそらく労働のルールも働き方も変わらないのではないかとも思います。
たとえば、消費者側にも問題があり、日本の消費者はわがままで、次から次へと止めどもなく要求を出してきます。それに対して、作る方・売る方も、この要求に応えることこそが道徳的・倫理的に正しく、どこまででも努力してその要求に応えようとします。こうした考え方や価値観を変えないといけないのではないでしょうか。

小室:消費者と企業、官庁と企業。この関係性でお互いをどんどん辛くしていますね。
先日、ある自動車販売会社について面白いことが書かれていました。その会社では、どうしても一番売れる営業マンの残業時間が長かったそうです。売れる営業マンほど、毎週末その車を納車しなければならないから、営業成績のいい人ほど土日が潰れ、次のお客様を開拓する時間がなくなってしまうという、非常にもったいない状態でした。
しかし別の社員が納車すれば「セールスだけして納車に来ない」と、お客様の不満が大きくなります。そこで、テーマパークで一度に複数のお客様へ車の引き渡しを行い、キャラクターに演出してもらうようにしたそうです。
この試みに、お客様は大喜び。家族を連れて、自費でチケットを買ってテーマパークに入り、キャラクターに紹介された車を受け取ってパークで1日中遊び、納車された車に家族全員乗って帰る。これならば、お互いwin-winで、しかも感動しますよね。

酒井:なるほど。それ、楽しそうですよね。それならば、きっと買った側には何の不満も残りませんね。

小室:労働時間をただ単に減らすという考え方ではダメなのです。減らすけれども、お客様により感動を与えるにはどうすればいいのか。このことに知恵を絞る。そうすると、さきほどの自動車メーカーのように、今まで見えていなかった付加価値が出てくるのです。
お客様は今までにない価値を手に入れてホクホク。営業マンも、空いた時間で次のお客様を訪問できる。このように、営業成績を上げやすいように支援する仕組みを組織としてきちんと考えることが重要です。

イノベーションを起こす第一歩として、働き方改革は不可欠になる

酒井:小室さんから見て、働き方改革に対する企業トップの方々の意識はどのような感じでしょうか?

小室:企業の経営者の方たちが気にされるのは、「そんなことをして、若い人は成長するのか?」ということです。「成長には時間が必要」という神話から、なかなか抜け出すことができず、「働き方改革をすることで、本当にその先に、成長する社員と発展するビジネスが待っているのか」「単に労働基準法に違反しないための守りなのではないか」「そんな弱気な経営をしたくない」など、経営者としての逡巡が見られます。
その一方で、働き方改革を経営戦略として前面に打ち出している経営者は「この社会で勝っていくにはイノベーションを起こすしかない」と考えています。

酒井:働き方改革でどうやってイノベーションを起こすのでしょう。

小室:イノベーションを起こすには、まず、違う考え方が対等にぶつかり合って化学反応を起こす必要があります。これが起きなければ、今までのビジネスと違うブルーオーシャンなど見つかりません。
何十時間会議しても、同じ価値観のメンバーだけで議論していたら、血みどろの価格競争が待っているレッドオーシャンしか見つかりません。しかし、日本人の人件費と人材不足では、価格競争で中国や東南アジア諸国の製品には絶対に勝てません。そのことを認識している経営者の方は、働き方改革というのがいかにイノベーションを生む、攻めの経営戦略であるかを理解しています。

酒井:なぜ、同じ価値観の人間ばかりになってしまうのでしょう?

小室:決して排除している意識はないと思いますが、ストイックさが原因のように思います。多くの職場では、まだまだ過度な労働時間を強いられている実情があります。そしていつのまにか「管理職などの責任のある地位に上がるには時間外対応を常時できる人でないと」という暗黙の了解が作られてしまい、結果として障がいを持っている方も、子育てをしている方も、親の介護をしている方も、ある地位から上には上がれない「働き方の足切り」が行われているのです。
すると、現場には男女や障がいを持つ方がいても、管理職以上になると全くダイバーシティがなくなるので、意思決定をする会議に違う考え方がもたらされないのです。だから化学反応が起きず、イノベーションも起きない。
だからこそ働き方改革で、ダイバーシティがある職場に変え、ダイバーシティがぶつかり合ってイノベーションを起こしていかないといけないのです。「気合いでイノベーション起こせ!」ではなくて(笑)。

酒井:では、経営者はどうしたらいいのでしょうか?

小室:働き方改革をしようと思うならば、たとえば「ここにはAIが必要そうだ、AIに投資しよう」とか、「自分が責任をもって取引先に交渉に行って、この商習慣を見直そう」など、トップ自らが動くことです。
そして、職員がモチベーションを持てるように働きかけます。たとえば、インセンティブ方針をガラッと変えたりなどですね。
ある財閥系のプロパティマネジメント会社は、働き方改革により30%以上残業時間を削減することが出来、それを金額換算すると1億6,000万円になりました。経営者はその1億6,000万円を、年度末に全額還元することにしました。しかも、チームの平均残業時間が20時間以下で、有給休暇取得率が80%以上のチームにはワークスタイルチャレンジ表彰金も出しました。自分の働き方をしっかり見直したほうが、実入りが増える構造を作ったことで、非常にモチベーションが上がりました。

酒井:私の認識も、小室さんとまったく同じです。もちろん、労働基準法に抵触することを回避するためにやると言っている経営者もまだまだいますが、それだけだと思っている人は今では相当に減っているのではないかと考えています。

小室:それは嬉しいです。きっと経営者のみなさまの意識も変わってきているのでしょう。

左:酒井 弘行
KPMGジャパンCEO
有限責任 あずさ監査法人 理事長

80年白鳥栄一公認会計士事務所(アーサーアンダーセン)入所。2010年専務理事、13年東京事務所長、15年に理事長就任。KPMGジャパンCEO、あずさ監査法人理事長を務める。

人々の考え方、制度、行政……、社会全部を同時に変えていかなければならない

酒井:日本は変わりつつある、と多くの経営者が考えているはずです。でも、国の制度で決まっているようなものは変わりません。
確かに、働き方改革でイノベーションを生み出す会社もあります。その一方で、制度に縛られて身動きできない会社もある。これはもう行政と一緒に改革していかないと難しいと思うのです。
先日、あるメーカーさんとお話しする機会があったのですが、研究開発部門で働き方改革をするのは難しいとお話しされていました。
研究内容にもよりますが、化学や製薬など、分野によっては実験に非常に時間がかかるものがあります。実験中ずっと職場にいなければならないとなると、研究そのものが日本ではできなくなってしまう。何かいい方法はないものかとおっしゃっていました。研究職とか学者というのは、難しいですね。

小室:そういう難しさを感じているのは、おそらく日本の研究開発機関の特徴ですね。研究者の職場をコンサルして感じたのは、2時間に1回ビーカーを振らなければいけない実験をしていたら、決まった時間に自分でビーカーを振る。ビーカーを振るのはその研究者である必要がないにもかかわらずです。こだわりが強くて、川上から川下まで全部本人がやっていますね。

酒井:どこでもそうですが、ある程度以上になると、なぜかすべての時間を滅私奉公しはじめますよね。研究は自分でやる「べきだ」みたいな。これも日本人の持つ価値観ですね。

小室:海外では研究はチームでやることが多いですね。ビーカーを振るといったことは研究者ではなく、アシスタントがやります。日本はアシスタントを雇う費用を仕組みとして用意していない。この仕組みの違いです。

酒井:やはり、社会全体が変わっていかなければいけませんね。どこか一部分だけを変えようとしてもうまくいかない。車がタイヤ1輪では動かないのと同じで、考え方や価値観、制度、行政を同時に変えていかなければいけないわけです。

小室:労働基準法の上限ができたら、研究開発機関は、「自分たちはどうしたらいいんだ」と困ります。だからこそ、アシスタントを雇おうとか、1人の研究者に何名のアシスタントが必要かということが議論されるようになるのではないでしょうか。

酒井:次のフェーズで議論が始まるということですね。

小室:労働時間に蓋をしないから、いつまでたっても優秀な人が歯を食いしばってやるという方向に行ってしまうのです。蓋をしたら、確かに一時期はものすごく大変になるでしょう。でも、それによって改革は加速されます。

働き方改革によって、ライフや新しいワークへの投資を実現する

小室:働き方改革を労働時間の圧縮と捉えている会社は、「早く帰りなさい」と電気を消して、社員を締め出します。そういう会社では、社員は「やれやれ、今日も帰れと言われた時間よりも5分前にはオフィスを出られたぞ」みたいな考え方をするようになります。
一方、本質的に取り組んでいる会社は、たとえば30%の労働時間を減らせたとしたら、そのうちの15%は退社時間を早めますが、残りの15%は次のビジネスを作っていくための準備や、今の生産性を上げるための勉強、他業界とアライアンスを組むための手順の整理などに充て、時間の投資を増やします。
減らすべき仕事と増やすべき仕事があるということです。それにもかかわらず、働き方改革を単に労働時間の圧縮と捉えて、減らして終了と思っていると、「あれ、来期の芽がなくなりましたよ」なんてことになってしまいます。

酒井:それは機械的に削減するからでしょうね。

小室:この両方をきちんと見極め、実行できる会社はどんどん筋肉質になっていきます。ただプレッシャーをかけて社員を帰らせている会社では、社員が「不安だけど、帰れって言うから帰ろう」という毎日なので、時間の経過とともに大きな差がついてしまうわけです。

酒井:その通り。なんでもかんでも機械的に処理していくとそうなってしまうのは当然です。KPMGでも、まず労働時間を減らす一方で、個人で使う時間を増やそうと考えています。たとえば異業種の勉強や、やりたかったけれども時間がなくてできなかったこと、そういうものを増やそうと考えています。
労働時間をただ減らすのではなく、何を減らして何を増やすかの選別が重要になってくるのですね。

小室:労働時間をただ削減するだけの働き方改革は従業員のモチベーションダウンにつながります。

酒井:やる気を維持するのは大変ですよね。自分が成長できるとか、組織が大きくなるとか、そういった希望がないとモチベーションは保てない。もちろん、残業が多いのも困るけれども、ただ「早く帰れ」と言われるような組織には希望も持てないですから。

小室:さきほど、30%減らしてそのうちの半分をプライベートな暮らしに、もう半分を仕事への時間の投資に使うという話をしましたが、この考え方を、私たちは「ワークライフシナジー」と呼んでいます。
ライフでは、それまで断ってきた学生時代の同級生との飲み会や新しい習い事、妻に押し付けがちだった育児、保育園や学校の行事など、仕事以外のさまざまなことを行います。そういう新しいインプットを始めることで、引出しが満タンになります。
ワークのほうも、30%の残り半分で、重要だけども今までなかなか着手できなかった新しい仕事を始めます。そういう新しい仕事のゾーンができて、そこにライフでのインプットを合わせると発想が変わってきます。このライフとワークの時間が相乗効果を生み出すようになると、会議でも、今までとは違うアイデアが出てくるようになります。そして、そのアイデアを実行しアウトプットが出る、というサイクルがしっかりと回るようになります。
ライフが豊かになるためには疲れを取り、新しいことに向かえる状態を作ることが大事です。

最近、NHKで「睡眠負債」というのをよく放送していますよね。日々睡眠不足の人は、はじめのうちは休日の朝に体が起き上がりません。自然に朝起きられるレベルになるまで、きちんと休息する必要があります。休日の朝でも普通に起きられるようになったら、それは相当エネルギーが充満してきているということ。
すると、自然に何か新しいことをしたいと思うようになります。たとえば、服を買いたいとか、映画に行きたいとか、ランニングをしたいとか。そう思うようになったら、それはレセプターが開いてきているということです。
レセプターが開いている人たちは、周囲からキャッチした情報を会社に持ち寄ってきます。そうすると、会社も彩り豊かになっていくのです。

酒井:欧米のように、2ヵ月の休暇があるといいのかもしれませんね。1週間の休みでは、「アー疲れた」と寝て終わってしまうけれども、2ヵ月あればインプットする余裕も生まれる。新しい発想やイノベーションといったアウトプットには、インプットは絶対必要です。長い休暇は休むだけのものではなく、何かを始めるためのものでもあるということなのですね。

後記

日本の働き方改革はこの先、どこに向かうのか?世界有数の少子高齢化社会で、労働時間が長い日本が、今後労働人口が減っていくなか、今現在あたりまえに考えている企業活動が行えなくなった場合、AIに頼るのか、移民を受け入れるのか…、このような社会の問題に、一番最初に直面するのは、もしかしたらこの日本かもしれません。
これは、確かに危機です。危機ではあるけれども、同時にチャンスともいえます。世界に先駆けて、最初のチャンスを得ることができるのです。この変化を危機と考えるか、それともチャンスと捉えるかは人それぞれでしょう。でも我々は、やはりこれは大きなチャンスだと思うのです。

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