IFRS保険会計Q&A(第3回)(週刊経営財務2017年10月30日号) | KPMG | JP
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IFRS保険会計Q&A(第3回)(週刊経営財務2017年10月30日号)

IFRS保険会計Q&A(第3回)(週刊経営財務2017年10月30日号)

週刊経営財務(税務研究会発行)2017年10月30日号に、国際会計基準審議会(IASB)が2017年5月に公表した「IFRS第17号『保険契約』」に係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。 第3回は、第2回で解説した保険負債の測定モデルにおいて重要となる論点を解説しています。

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はじめに

約20年に及ぶ議論を経て、2017年5月に国際会計基準審議会(IASB)がIFRS第17号「保険契約」(以下、「IFRS第17号」または「本基準書」という)を公表した。本連載では、難解といわれるIFRS第17号を分かりやすく解説するため、IFRS第17号の適用にあたり検討が必要となる主な論点をQ&A形式で説明する。第3回目の本稿では、保険負債測定のための諸要素のうち、主に原則的な測定方法であるビルディング・ブロック・アプローチ(以下BBA)において重要となる論点を取り上げる。なお、文中の意見にわたる部分は私見である。

(注)特に断りのない限り、項番号および付録は本基準書のものを指す。

Q1.IFRS第17号では、日本の保険会計にはない契約上のサービス・マージン(以下CSM)や、不利な契約という概念があると聞きました。一体どのような考え方でしょうか?

A1.BBAにおいて、保険負債は将来キャッシュ・フローの見積りに基づく現在価値として測定されるため、当該保険負債の構成要素には保険契約から生じる将来利益の現在価値が含まれている。この将来利益の現在価値がCSMであり、IFRS第17号の保険負債の特徴の一つである(BBAやCSMの計算方法の詳細は本連載第2回「保険契約負債の測定モデル」を参照)。

CSMが存在する限り、その保険契約からは利益が生じると予想されるが、履行キャッシュ・フローの見積りによっては、CSMがゼロとなるケースも起こり得る。たとえば、保険金などの将来キャッシュ・アウトフローの金額が大きく、保険料などの将来キャッシュ・インフローで賄いきれない場合には、将来の利益は生じず、CSMはゼロとなる(将来キャッシュ・アウトフローが将来キャッシュ・インフローを上回る場合の当該差額はマイナスのCSMとはせずに、差額分を損失として損益計算書に計上しなければならない。)。このような状態を不利な契約(onerous contracts)という。

このように、保険契約から生じる将来利益であるCSMの残高や、不利な契約による損失を把握できる点がIFRS第17号による保険負債の特徴であり、そのような金額を財務諸表に反映させることで、保険契約に関する実態をより忠実に財務諸表利用者に提供することを目的としている。

図表1 CSMが生じる場合と不利な契約になる場合のイメージ

Q2.保険契約を認識する場合のポイントは何ですか?日本の保険会計との相違はありますか?

A2.企業は、発行する保険契約を(1)カバー期間開始時、(2)保険契約者からの最初の支払期限が到来した日、(3)保険契約グループが不利となった日、の最も早い日から認識しなければならない(25項)。

カバー期間とは、企業が保険サービスを提供する期間であり、IFRS第17号では当該カバー期間の開始とともに保険契約を認識することが基本的な考え方となる。ただし、カバー期間の開始前に保険契約者からの保険料の最初の支払期限が到来した場合や、当該契約が属する保険契約グループが不利な契約となった場合には、保険契約を認識しなければならない。

日本の保険会計では、損害保険会社であれば「申込書」の到着が保険契約認識要件の一つとなっており、生命保険会社であれば、「告知」や「診査」が認識のトリガーの一つとなっている。IFRSではそのような具体的な要件は存在せず、カバー期間の開始という原則的な考え方が示されているに過ぎない。したがって、不利な契約の認識を含むいくつかの例外はあるものの、日本の保険会計の実務に基づいて計上された保険契約の認識時点が、カバー期間の開始と整合している限り、IFRSと日本の保険契約の認識時点は大きく異ならないと考えられる。


Q3.保険金の支払いや保険契約の解約があった場合の会計処理について教えてください。

A3.IFRS第17号では、保険契約の認識の中止については、(1)保険契約が消滅する場合、すなわち、保険契約で定められた義務が消滅するか、免除されるかまたは取り消される場合、あるいは、(2)72項の条件のいずれかが満たされる場合(保険契約の条件変更を行った結果、IFRS第17号の対象外になった場合等、一定の要件を満たす場合)にのみ、保険契約の認識の中止を行わなければならない(74項)。そのため、保険金の支払いや解約、条件変更等が保険契約の認識の中止要件を満たす場合、財政状態計算書上の保険負債を消去する必要がある。

たとえば、BBAを適用している保険契約について解約が生じた場合、対象となる保険契約が消滅するため、当該契約にかかる保険負債、すなわち、履行キャッシュ・フロー(将来キャッシュ・フロー、割引計算及びリスク調整から構成)とCSMの残高を取り崩すことが求められる(76項(c))。CSMは、前述の通り保険契約から生じる将来利益の現在価値であり、保険契約のデュレーション(予想残存期間)と給付金額を反映したカバー単位(coverage units)に基づいて、保険契約グループのサービスを反映するように当期を含めた各期に配分され、保険収益として計上される(B119項)。したがって、保険契約の認識の中止時には、認識の中止が行われるカバー単位を反映するように修正され、修正後のカバー単位に基づき、CSM残高を取り崩す(当期純損益として計上される。)。言い換えれば、CSMの金額は残存する保険契約のカバー単位を反映した金額になる。


Q4.契約の境界線とは何ですか?契約の境界線を考慮する際にポイントとなる点はありますか?

A4.BBAによって保険負債を計算する際には、将来キャッシュ・フローを見積もることになるが、将来のどの時点までのキャッシュ・フローを保険負債計算の見積りに含めるべきかを決定する必要があり、この時点を契約の境界線という。契約の境界線については34項に規定されており、企業が保険契約者に保険料の支払いを強制できる、または企業が保険契約者にサービスを提供する実質的な義務を有している、報告期間中に存在する実質的な権利及び義務から生じるキャッシュ・フローは保険契約の境界線内にあるとされている。ある時点の将来のキャッシュ・フローが契約の境界線内か否かを評価する際には、保険契約または保険契約ポートフォリオのリスクを保険料または給付額に反映できるか否かがポイントになると考えられる。

たとえば、将来のある時点で更新が予想される保険契約について、更新後のキャッシュ・フローを保険負債測定のための見積り計算に含める(契約の境界線内のキャッシュ・フローである)か否かを判断するケースを考えてみる。更新の際に再診査がなされ、更新時点での情報に基づくリスク評価結果に応じて新しい保険料が設定される場合、34項の「保険契約ポートフォリオのリスクを再評価する実質上の能力を有していて、その結果、当該ポートフォリオのリスクを完全に反映する価格または給付水準を設定できる」という状況に該当し、更新後のキャッシュ・フローは保険負債測定から除く(契約の境界線外のキャッシュ・フローである)と考えられる。他方で、更新の際に再診査は行われず、更新後の保険料や給付金が更新前契約と同一であるようなケースであれば、更新後のキャッシュ・フローも含めて保険負債の測定を行う(契約の境界線内のキャッシュ・フローである)という結論になるかもしれない。これらの結論は画一的に決定できるものではなく、更新であれば、契約条件、実務慣行、更新後保険料の設定方法などの要素を総合的に勘案して決定されることになる。

図表2 契約の境界線のイメージ

Q5.保険負債の測定単位はどのように規定されていますか?

A5.IFRS第17号に基づく保険負債の測定は、群団計算が前提となっている。すなわち、個々の保険契約をそれぞれ測定するのではなく、類似したリスクにさらされており、一緒に管理されている契約の群団をまとめて測定することが想定されている。背景にある考え方は、「保険活動の基本的な側面は、企業が多くの類似した契約について、保険事故が起きるものもあれば起きないものもあることを知りつつ発行すること(BC51項)」であるが、これは保険事業が大数の法則に基づいており、保険会社の実務も群団計算が基本であることと整合的である。

この群団計算を行う際にどの程度保険契約を集約するかについては、14項から24項における「集約レベル(level of aggregation)」で規定されている。集約レベルは、大きく分けると2種類のレベル(ポートフォリオとグループ)について規定されている。

企業はまず、保険契約のポートフォリオ(類似したリスクを有するものと見込まれ、一緒に管理される保険契約群)の定義を定めなければならない。たとえば、一般的に定額年金保険と定期生命保険は類似したリスクを有していないと見込まれることから、異なるポートフォリオに属することになる(14項)。

次に、ポートフォリオをより細分化したグループを設定する。保険契約のグループは、(1)当初認識時に不利である契約のグループ、(2)当初認識後に不利となる重要なリスクがない契約のグループ、(3)それ以外の契約のグループ、の少なくとも3つのグループに区分する(16項)。また、原則として同じグループには発効日が1年超離れた契約は含めてはならない(22項)。具体的な保険負債の計算(将来キャッシュ・フローの見積り、CSMの償却、不利な契約の判定など)は基本的に当該グループ単位で行われることとなる。

保険契約のグループをこのような単位に区分することが求められているのは、CSMの残高や不利な契約の判定と関係している。たとえば、収益性が大きく異なる2つのグループをまとめて計算した場合を考えてみたい。グループAは全体としてキャッシュ・フロー収支がプラスに転じている保険種目で、グループBは全体としてキャッシュ・フロー収支がマイナスとなっている不利な契約であったとする。これらをまとめて計算することで、グループAの収益性がグループBの損失をカバーし、全体として不利な契約とはならない可能性もあるが、このような処理は本基準書の意図するところではない。すなわち、不利な契約に関する情報は、契約のプライシングに関する企業の決定等にとって有用な情報であり、当該情報は適時に報告されることが望ましく、不利な契約に関する情報について、あるグループの中の不利な契約を他のグループの収益性の高い契約と相殺することで曖昧にすべきではない(BC119項)とするのが本基準書の考え方である。

図表3 集約レベルのイメージ

Q6.保険負債を割引計算するための割引率の設定はどのように行えば良いでしょうか?

A6.IFRS第17号の保険負債を測定する場合は、原則として貨幣の時間価値を調整する(割引計算を行う)必要がある。IFRS第17号では、割引率の決定に関して特定の方法を明示してはいないが、割引率に反映すべき要因が例示されており、たとえば、以下のものがあげられる。

  • 割引率は、当該保険契約の流動性の特性を反映した割引率でなければならない(36項)。
  • 金融資産を参照して割引率を決定する場合においては、参照する金融商品の観察可能な現在の市場価格と整合的でなければならない(36項)。
  • 保険負債の測定に使用される他の見積りと整合的でなければならない。たとえば、履行キャッシュ・フローが名目キャッシュ・フローであればインフレーションの影響を含めた割引率を採用しなければならないし、実質キャッシュ・フローであればインフレーションの影響を除いた割引率を採用しなければならない(B74項)。

また、割引率を決定するための指針として、2つのアプローチがガイダンスとして示されている(B80項、B81項)。

まず、ボトムアップ・アプローチは、リスクフリー・レートをベースに割引率を決定する方法である。具体的には、リスクフリー・レートに保険契約の流動性プレミアムを調整して割引率を算出することが規定されている。一般的に、保険契約は市場を通じて容易に売買が可能な国債等に比べ流動性が低いため、相当する流動性プレミアムを調整する必要がある。

また、トップダウン・アプローチは、企業が保有している資産ポートフォリオの期待運用利回りをベースに割引率を決定する方法である。具体的には、当該期待運用利回りから保険契約に関連性のない市場リスクプレミアム等を控除し、資産ポートフォリオと保険契約のデュレーションを調整して割引率を算出することが規定されている。たとえば、社債等の負債性金融商品を参照する場合、債券の利回りから、保険契約と関連性のない信用リスクや流動性に係る市場リスクプレミアム等を除去することとなる。当該方法を採用する際に参照する資産ポートフォリオについてIFRS第17号では特に制限をしていないが、保険契約と類似した特性を有した資産ポートフォリオを参照することで、必要な調整が少なくなる(B85項)。


Q7.リスク調整の測定はどのように行えばよいですか?

A7.リスク調整とは、保険金などの将来キャッシュ・フローの金額及び時期に関する不確実性を反映させた金額であり、IFRS第17号に基づく保険負債を構成する。リスク調整の測定が必要となるのは、見積りである将来キャッシュ・フローから生じる不確実性(リスク)は企業が負担しており、このような保険契約固有のリスクを財務諸表に描写するためである(BC206項)。

IFRS第17号では、リスク調整に関する具体的な算定技法や測定方法は明示していない。そのため、企業はリスク調整を測定するための方法を検討しなければならない。たとえば、企業のリスク管理の実務の中で資本コスト法に基づいてリスク量を計算している場合には、当該リスク量の計算実務をもとにIFRSのリスク調整を計算するということも考えられる。Q5で説明した集約レベルの規定はリスク調整には適用されず、リスク調整の測定単位は明確に特定されていないため(BC213(b))、リスク調整の測定単位は、企業の現在のリスク計算実務と同じ単位を使用することもできる。

リスク調整の測定にあたり考慮すべき点については、本基準書内にいくつか規定がある。たとえば、リスクの分散効果の程度を考慮すべき点や、履行キャッシュ・フローの不確実性について必ずしも不利な結果だけでなく有利な結果も含めるべき点などである(B88項)。また、リスク調整に相当するリスクを将来キャッシュ・フローの見積りや割引率の算定に含めることで、二重計算してはならないとされる(B90項)。

その他、リスク調整は図表4に掲げられる要因に影響を受ける特性を有しており、測定においてはこのような特性も考慮する必要がある。

図表4 リスク調整の特性

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