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ドイツ会計制度の概要とその特徴

ドイツ会計制度の概要とその特徴

本稿では、ドイツに投資した場合に在独子会社が準拠すべきドイツ会計制の概要とその特徴について概説します。

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ドイツはアメリカ・中国・日本に次ぐ世界第4位の経済大国で、GDPおよび人口においては欧州最大のマーケットです。ドイツ経済は高い技術力に裏打ちされた自動車産業を代表とする堅調な製造業に支えられています。好調な経済環境や欧州の中央に位置するという地理的な条件から国外企業の投資先として注目されており、ドイツのGDPの約4分の1が国外企業のドイツ子会社によって生み出されていると同時に今後においてもこの比率はさらに高まっていくことが予想されています。
日本との関係においては、2017年より新日独租税条約が施行され源泉地国における配当源泉税等が軽減・免除されるなど所要の改正が行われております。
これらのことから今後日系企業による対独投資はより活発になることが考えられますが、本稿においては、ドイツに投資した場合に在独子会社が準拠すべきドイツ会計制度の概要とその特徴について概説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 在独の非上場の日系企業はドイツ会計基準にしたがって決算書を作成する必要がある。ドイツ会計基準はIFRSへの近接化が進んでいるものの、保守的な会計処理もいまだに残っている。
  • 一定規模以上の会社は法定監査を受ける必要があるが、その基準値は日本の会社法に定めるものと比較すると小さいものとなる。一方で決算書の作成と承認期限は日本と比べて時間的な余裕がある。
  • 連結財務諸表の作成と監査も規模に応じて必要になるが、所定の条件を満たすことで作成義務を免除することができる。一方、ドイツで連結財務諸表が作成されない場合には、ドイツ法人を頂点とする連結グループにおける子会社の個別財務諸表の作成と監査が必要になる。

I.ドイツにおいて採用される会計基準

1.HGB(ドイツ商法)とIFRS

一般的にドイツにおいて採用される会計基準にはHGB(ドイツ商法)とIFRSがあり、それぞが以下のケースにおいて適用されます。

  • 上場かつ連結財務諸表作成会社:IFRS
  • 非上場かつ連結財務諸表作成会社:IFRSもしくはHGB
  • 単体財務諸表作成会社(上場・非上場ともに):HGB

なお、EU域内で上場している会社の連結決算書にはIFRSを適用することがEU全体で義務付けられています。一方で、単体財務諸表は配当可能利益の算定や税務上の課税所得算定の基礎とするためにHGBに準拠して決算書を作成することになります。
在独日系子会社は一般的に非上場であるため、在独日系子会社にとって準拠すべき会計基準は原則としてHGBとなります。

II.ドイツ会計基準(HGB)の特徴

1.ドイツ会計の成り立ち

歴史的にドイツ企業の資金調達は銀行による融資がメインだったこともあり、ドイツ会計基準は投資家保護というよりも債権者保護を目的として発達してきました。現在においてもその影響から保守主義を重視した考え方が色濃く残っているとともに、取得原価主義かつ貸借対照表中心の会計基準として発達しました。近年ではBilMoG(会計近代化法)やBilRUG(EU会計指令実施法)などにより継続的にIFRSへの近接化が図られているものの、保守的な会計処理はいまだに残っています。

2.保守的な会計処理の具体例

保守主義とは予測される将来のリスクに備えて損失はより早期に計上する一方、収益はより遅めに計上したり、評価損は計上するが評価益は計上しないといった会計思考ですが、ドイツ会計基準においては、たとえば、

  • 外貨建の一年超の長期金銭債権債務については為替差損になる場合のみ換算替えを行う
  • 税効果会計においては繰延税金負債は計上する必要がある一方、繰延税金資産の計上は任意
  • 一般事業会社が保有する有価証券については1年基準にしたがって固定資産または流動資産として計上するが、短期投資については低価法により含み損のみを認識する(含み益は認識しない、ただし金融機関は除く)。長期投資については時価評価の対象外だが減損の対象となる
  • デリバティブについても期末時価評価時は含み損のみ認識し、含み益は認識しない
  • のれんについては定額法その他合理的な方法により見積経済耐用年数(不明な場合は10年)にて償却
  • 負ののれんは負債として認識し、発生原因(将来の損失)の実現に応じて取り崩す

などといった取り扱いが保守的な会計処理を具現化したものとして存在します。

III.ドイツにおける会社区分と売上高の定義の変更

1.会社区分の基準値

ドイツにおいては会社の規模(総資産・売上高・従業員数)に応じて小規模会社・中規模会社・大規模会社に区分されるのですが、その基準値は以下の図表1のように定められています。
中規模会社以上の会社は法定会計監査を受ける必要がある点につき留意が必要です。

図表1 ドイツにおける会社区分の基準値

  小会社 中会社 大会社
総資産
(千EUR)
~6,000以下 ~20,000以下 20,000超
売上高
(千EUR)
~12,000以下 ~40,000以下 40,000超
従業員数
(人/年平均)
50以下 250以下 250超

なお、総資産・売上高・従業員数の3つの基準値のうち、2年連続して2つ以上の基準を満たした場合には、その年度より当該会社区分となります。小規模会社から中規模会社へ区分が変更される場合には、その年度から法定会計監査が必要となるため、注意が必要です。
従業員数については3月・6月・9月・12月の各月末の従業員数の平均値を用います。
日本において会社法監査が要求される基準値(資本金5億円以上、または負債200億円以上)と比較するとドイツにおける基準値はかなり低いものとなっていることがわかります。そのためドイツにおける法定監査の裾野はかなり広いものとなっています。

2.売上高の定義の変更

2015年12月31日以降に開始する事業年度から売上高の定義が変更されており、これにより会社区分が影響を受けてしまう可能性があります。
従前は損益計算書に計上される売上高は通常の営業過程から生じたものに限定されていたのですが、当該改正により通常の営業過程以外から生ずるもの、たとえば従業員に対する販売・賃貸(社員食堂売上・社宅賃貸収入など)や廃棄対象製品の売却収入なども売上高の範囲に含められることとなり、売上高の範囲が拡大しています。
なお、固定資産売却益・利息収入・引当金取崩益などは売上高を構成せず、その他営業収益に区分されます。損益計算書の表示において特別損益項目は同時期の改正にて廃止されています。

IV.決算書の作成期限および承認期限

1.決算書の作成期限や承認期限

決算書の作成期限や承認期限等は図表2のように定められており、会計監査が必要な中会社や大会社の場合、出資者総会の承認期限が決算日後8ヵ月となっているため、日本の会社法で求められている期日と比較すると日程的には余裕を持った制度となっています。
状況報告書とは対象事業年度における経営状況や将来の見通し、および経営上のリスク等について経営者の立場から分析した文書のことで中規模会社以上の会社でその作成が必須となっています。
なお、決算書はドイツ語で作成する必要があります。
また、取締役が複数存在する場合には、全員が決算書に署名する必要があります。

図表2 決算書の作成期限や承認期限など

  小会社 中会社 大会社
決算書作成期限 6ヵ月 3ヵ月 3ヵ月
状況報告書 不要 要作成 要作成
会計監査 不要 8ヵ月 8ヵ月
出資者総会承認期限 11ヵ月 8ヵ月 8ヵ月
電子管報データ提出 12ヵ月 12ヵ月 12ヵ月

電子提出された決算書類は連邦司法省公表Webサイトに掲示され誰でも閲覧が可能となっています。

V.連結決算書の作成義務と作成義務免除制度

1.連結決算書の作成義務が生じる基準値

子会社(または孫会社)を保有する在独会社は以下の基準値を満たした場合には連結決算書を作成する義務が生じます。

  • 単純合算ベースで
    総資産24百万EUR超・売上高48百万EUR超・従業員数250人超、もしくは、
  • 連結ベースで
    総資産20百万EUR超・売上高40百万EUR超・従業員数250人超

上記3基準のうち、2年連続して2つ以上の基準を満たした場合、その年度より連結決算書を作成する必要が生じるとともに、法定監査の対象となります。
なお、従業員数は、3月・6月・9月・12月の各月末の従業員数の平均を用います。
ドイツで連結財務諸表を作成すると、ドイツにおける連結親会社以外の会社の個別財務諸表の作成は不要となります。

2.連結決算書作成義務免除制度

前述のとおり、子会社(または孫会社)を保有する在独会社は一定の基準を満たす場合は連結決算書の作成義務が生じますが、主として以下の所定の条件を満たすことによって、その作成義務の免除を受けることも可能です。

  • 日本の親会社の連結財務諸表およびその監査報告書が、ドイツ語に翻訳され、ドイツ商法325条以下の規定に基づきドイツ現地法人の決算日の12ヵ月以内にドイツでの電子開示がドイツ法人により実施されること。その際、ドイツ語への翻訳証明は必要とされておらず、また、日本の親会社の連結財務諸表で使用した通貨単位のEURへの換算も不要。
  • ドイツ子会社は日本親会社の連結財務諸表に含まれている(非連結子会社ではない)。
  • ドイツ現地法人は上場企業ではない。ドイツ商法の規定により、ドイツの上場会社に対して免除制度は適用されない。

このように、ドイツにおける連結財務諸表の作成免除規定がありますが、この適用に当たって留意すべき点も存在します。
そのなかでも重要なものが、「ドイツで連結財務諸表が作成されない場合には、ドイツ法人を頂点とする連結グループにおける子会社の個別財務諸表の作成と監査が必要になる」という点です。
たとえば、日本の親会社がドイツに欧州統括会社を置いてその下にドイツの事業会社が存在する場合、連結財務諸表の作成義務免除制度を利用すると、当該事業会社の個別財務諸表の作成と監査がその会社区分に応じて必要になります。
したがって、この例では事業会社の個別財務諸表の作成と監査の工数と欧州統括会社レベルの連結財務諸表の作成と監査の工数を比較して、連結財務諸表の作成免除規定の利用を検討することになります。
また、これ以外にも連結財務諸表の作成免除規定の利用にあたっては、以下の点について留意する必要があります。

  • ドイツ商法の視点から親会社の連結財務諸表に欠けている情報に関しては、ドイツで開示されるドイツ語訳された連結財務諸表に加えることができる。その際、その情報(特に、重要なリスクと不確実性に関する情報)は企業グループ全体の観点から慎重に取り扱われるものであることから、グループ経営陣の関与が必要になる。
  • ドイツ語に翻訳された内容が、言語的な問題により日本人の経営者によって管理することができない場合がある。
  • 翻訳が追加コストになる(日本語から直接ドイツ語訳を作成するケースと英訳を介在させてドイツ語訳を作成するケースがある)。

VI.帳簿の記帳と保存義務

1.帳簿の保存期間と対象書類

帳簿の保存期間は書類ごとに以下のとおり定められています。

  • 10年
    決算書、会計帳簿および記帳に直接関連する書類(請求書、領収書など)等
  • 6年
    納品書、注文書、見積書等で記帳に直接関連しない書類

記帳する際の言語は死語以外の言語で行うこととされています。在独の日系企業は一般的にはドイツ語または英語で行います。日本語で記帳する場合には、税務調査等で帳簿を閲覧に供する場合に翻訳の対応が必要になるケースがあります。
関連書類のうち紙面の証憑類はVAT関連の税務調査のためにドイツ国内で保管される必要があります。
データで保管すべき情報も原則的にはドイツ国内のサーバーで行う必要がありますが、シェアードサービスセンター等の活用に伴いドイツ国外で保管する場合には、ドイツ税務当局に対して所定の届出を行い、調査等が行われる際には当局によるデータアクセスが可能である状態にしておく必要があります。事前の届出なしにドイツ国外のサーバーでデータを保管していた場合には、罰金の規定があるので留意が必要です。

執筆者

KPMG ドイツ
フランクフルト事務所
シニアマネジャー 樋口 幹根

デュッセルドルフ事務所
シニアマネジャー 伊藤 剛

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