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eSportsの振興を通じた地方創生・新しい生き方の実践

eSportsの振興を通じた地方創生・新しい生き方の実践

本稿では、世界的に盛り上がりを見せるeSportsの振興を通じた地方創生・新しい生き方の実践について解説します。

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eSportsは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦を“スポーツ競技”として捉える際の名称です※1。他のスポーツと同じように複数のプレーヤーにより組成されたチーム同士の対戦について、メジャーな大会では観客数が数万人規模にのぼる大規模スポーツイベントとして行われ、放映権の売買等が大きなビジネスにもなっています。2000年頃に登場したeSportsは、現在、北米と韓国においてプロ・プレーヤーの活躍など大きな盛り上がりを見せています。韓国のチーム「SK Telecom T1」に所属するスタープレーヤー、Faker選手の年俸は30億ウォン(約2.9億円)と言われており、日本のプロ野球選手のなかでもトップクラスの選手と同等の年俸と推定されます。
本稿では、世界的に盛り上がりを見せるeSportsの振興を通じた地方創生・新しい生き方の実践について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者らの私見であることをあらかじめお断りいたします。

 

※1 一般社団法人 日本eスポーツ協会(JeSPA)

ポイント

  • eSportsはスポーツ産業として大きく発展する可能性を秘めている。そのために運営・経営に係る透明性の確保、分かりやすさ、地域への密着とグローバルへのチャレンジの両立が重要である。これはスポーツ産業全体にも通じる。
  • eSportsのイベントの開催、運営にあたって、既存のスタジアム・アリーナおよび、現在、日本各地で建設中または建設が予定されているスタジアム・アリーナの活用を念頭に置くこと。特に、国が推進している「スタジアム・アリーナ改革」の施策を深く理解することが不可欠である。
  • 地方創生や人生100年時代の新しい生き方を実践する手段の1つとしてeSportsが有効である。

I.注目されるeSports

eSportsは、2022年に中国・杭州市で開催される「第19回アジア競技大会」において正式種目として採用されることが既に決定しています。また、2017年8月28日付けSouth ChIna MornIng Postに掲載された国際オリンピック委員会のバッハ会長のインタビュー記事では、2024年にパリで開催されるオリンピックにおいてeSportsの正式種目としての採用について「何かを言うにはまだ早すぎる」といった主旨の慎重な見解を示したものの否定されなかったことから、オリンピックに正式種目として採用される可能性について言及している報道もあります。さらに、アメリカのプロバスケットボール協会(NBA)やフランスやスペインの名門サッカークラブがeSportsへの参入を発表し、プレーヤーの獲得・契約を進めています。
一方、日本においては、一部のゲームプレーヤーの間で盛り上がりを見せ始め、また競技団体の設立・統合などの動きもあり、今後、産業として大きく伸びる可能性を秘めています。米国や韓国に比べると普及の余地が大きく、先行する米国、韓国で発展した成功の要因と、その発展の過程で明らかになった課題を考察し、日本にとっての学びとすることが有効と考えます。
私たちKPMGは、日本においてスポーツが産業としてさらに発展するなかで、eSportsが既存のスポーツを補完する役割を担うことでスポーツ産業全体の発展に寄与すると考えています。日本ならではのeSportsの発展を目指すうえで以下を重視することが有効と考えています。

  1. 運営・経営に係る透明性の確保
  2. 誰にとっても分かりやすい面白さの創出
  3. 既存、建設中、建設予定のスタジアム・アリーナの活用
  4. 地域密着とグローバルチャレンジの両立

II.eSportsとは?

eSportsの言葉の定義は前述したとおりであり、PCなどの電子機器を利用してサイバースペース上で取り組むスポーツです。現在は、主にサッカーや自動車レースといった「スポーツゲーム」、「リアルタイム戦略シミュレーションゲーム」、「シューティングゲーム」という3つのジャンルを中心に、市販のゲームソフトが使用されています。オランダのゲーム市場調査会社Newzooが2017年2月に公表したレポートによると、2017年のeSportsの世界全体での売上は、696百万ドル(約775億円)で前年比41.3%の成長になる見込みで、北米、韓国、中国の3大市場で全体の59%を占めています。さらに、2020年には1,488百万ドル(約1,657億円)に拡大すると見込まれています。2015年から2020年の年平均成長率は35.6%です。売上の内訳は、放映権料、広告料、スポンサーシップ料が全体の74%を占め、残りは関連グッズやチケット等の販売によるものです。
公表されている調査データが限られているため、近しい年代で比較するとeSportsの2015年の売上の約325百万ドル(約362億円)は、メジャーリーグの2010年の売上※2の約1/20、日本のプロ野球の2008年の売上※3の約1/5の水準です。また、サッカーで比較した場合には、英国のプレミアリーグの2017年の売上※4の約1/10であり、日本のJリーグの2008年の売上※5の約1/2の水準で、約20年前のJリーグとほぼ同じ水準です。2020年には、日本国内で人気の高いプロ野球とJリーグの総収入を超える規模に成長する可能性が高いと考えられます(図表1、2参照)。

 

※2 Forbes 「The BusIness of Baseball」
※3 「週刊東洋経済」 2010年5月15日号
※4 DeloItte Annual ReVIew of Football FInance2017
※5 「週刊東洋経済」 2010年5月15日号

図表1 eSports売上成長率

単位:百万ドル

図表1 eSports売上成長率

出典:Newzoo 2017 Global Esports Market Reportを基にKPMG作成

図表2 eSportsグローバル売上

出典:Newzoo 2017 Global Esports Market Reportを基にKPMG作成

図表2 eSportsグローバル売上

III.米国、韓国における成功の要因と課題

eSportsは2000年頃に登場して以来、米国、韓国、そして最近では中国において非常に盛り上がりを見せています。こうした国々で普及するに至った要因は以下と考えます。

 

  1. 国民、地域の嗜好にあった競技(シナリオ、種別)の選定
  2. 魅力ある賞金の設定
  3. スポンサーの獲得

 

一方、日本での普及を考えた場合、課題となる事項は以下のとおりです。

 

  1. 日本では緻密な戦略や操作が要求され、対戦により明確な勝敗が決するタイプのコンピューターゲームの人気がそれほど高くなく、FPS(FIrst Person ShootIng:一人称視点の銃撃戦ゲーム)やRTS(Real TIme Strategy:リアルタイムで行う戦略型シミュレーションゲーム)等のeSportsが普及する素地があるとは言いにくいため、対戦型に代わる新たな日本らしい競技を提言することが重要。
  2. 日本では、「ゲームは子供の遊び」という意識が未だに強く、ゲーム競技者を育成する機会がなかったことから、プロ・プレーヤーの育成のための基盤整備が重要。特に専門学校、高等専門学校、工業高校における新たな職業資格取得を意図したライセンス制度の創設とカリキュラムの整備が重要。
  3. 賞金について法律上の解釈をめぐる課題があり、スポンサー企業を募ることが難しいため、スポーツ行政が中心となったガイドライン作りを行うことが重要。

IV.日本における発展のシナリオ

日本においてeSportsが普及・発展するためには、以下の4点が重要になると考えています。

 

日本での発展における4つのポイント

1 運営・経営に係る透明性の確保
2 誰にとってもわかりやすい面白さの創出
3 既存、建設中、建設予定のスタジアム・アリーナの活用
4 地域への密着とグローバルでのチャレンジの両立

1.運営・経営に係る透明性の確保

競技団体における運営の透明性、選手を擁するチームの経営の透明性を確保するために企業経営の手法を取り入れることが欠かせません。意思決定を行う枠組み作り、内部規程等のルールの整備とその実行を見守るマネジメントシステムを整えることが最も重要なことです。既に民間企業において実践されている手法やアイデアを取り入れることが近道と考えます。

2.誰にとっても分かりやすい面白さの創出

競技のルールの整備と運用を司る協会組織の設置が欠かせません。加えて設置された協会組織の運営が透明性を確保していることも必要です。また、日本らしい競技であることも面白さを創出するうえで大切な要素であると考えます。日本において長く歴史を持つ野球、サッカー、将棋、囲碁など既存の競技を参考にしてその基盤を活かすことが有効であると考えます。

3.既存、建設中、建設予定のスタジアム・アリーナの活用

内閣府発表の「日本再興戦略2016」 においてスポーツの成長産業化が位置づけられ、そのなかでもスタジアム・アリーナが地域活性化の起爆剤となることが期待されています。さらに「未来投資戦略2017」において、2025 年までに20ヵ所のスタジアム・アリーナの実現が掲げられ、スポーツ産業を我が国の基幹産業へと発展させ、地域経済好循環システムを構築していくことが示されています。たとえば、サッカースタジアムの場合、試合開催日以外では大きなイベント開催が少なく不稼働日となっていることが多いことから、eSportsの大会を不稼働日に開催することで、ピッチの芝生を傷めることなく稼働日に代えることができます。スタジアム・アリーナを中心とした地域経済の循環システムにeSportsイベントを組み込むことでeSportsの普及、定着にも繋がると考えます。

4.地域への密着とグローバルでのチャレンジの両立

子供から高齢者まですべての年代にまたがる活動として、特に高齢者にとっては健康増進のための活動として、また健常者だけでなく障害者も活躍できるコミュニティ活動として地域に根差すことが欠かせません。単なるゲームでは子供の遊びの域を出ず、社会に広く受け入れられることに難しさがあります。eSportsが地域社会に貢献する産業であること、育成した人材が地域の活動に貢献することを示すこと、競技性に加えて高齢者の健康増進にも寄与できることが第一歩となります。加えて、単に地域に閉じることなく、世界各地で開催される大会への出場、世界大会が開催できるスタジアム等の場づくりは、魅力ある地域の拠点を作ることに繋がります。

V.まとめ

コンピューターゲームやビデオゲーム産業は、長らく日本のお家芸であったと言えます。日本企業により開発された多くのハードウェアやソフトウェアが世界で一世を風靡し、また世界で活躍する多くのゲームクリエイターを輩出するなど、eSportsでも世界をリードする下地はあると考えます。ある研究では、ゲームは人の脳を活性化する効果があるという研究結果もあるなど、高齢化が進む日本だからこそ、世界をリードしeSportsを通じてスポーツ産業全体を発展させることに意義があるのだと考えます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
スポーツビジネス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
パートナー 土屋 光輝
アシスタントマネジャー 得田 進介

KPMG コンサルティング株式会社
パブリックセクター
パートナー 関 穣

Advanced Innovative Technology
パートナー 林 泰弘
マネジャー Hyun Baro

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