仮想通貨とFinTechを巡る最新の規制動向 | KPMG | JP

仮想通貨とFinTechを巡る最新の規制動向

仮想通貨とFinTechを巡る最新の規制動向

本稿では、執筆時点の情報に基づき、抜本的な金融規制の改正が検討される背景について確認するとともに、このような改正が実施されることによる金融ビジネスへの影響について解説します。

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金融ビジネスの基盤となる法規制が大きく転換しつつあります。
2017年11月16日に開催された金融審議会では、金融担当大臣の諮問を受けて、IT(情報技術)の進展等を踏まえた検討を行う「金融制度スタディ・グループ」を設置することが決議されました。
今後、同スタディ・グループにおいて銀行法、資金決済法および貸金業法といった現行の業態別の金融規制について、機能別・横断的な法体系へのシフトを検討するとともに、「金銭」といった金融ビジネスの根幹にかかわる金融規制の定義の横断化についても検討を進めることになります。
本稿では、執筆時点(2017年11月30日)の情報に基づいて、こうした抜本的な金融規制の改正が検討される背景について確認するとともに、このような改正が実施されることによる金融ビジネスへの影響について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • ITの進展による顧客の変化と金融サービスの高度化がもたらした金融ビジネスの「アンバンドリング」と「リバンドリング」の拡大は、業態別の規制から機能別・横断的な法体系へのシフトの検討に繋がった。
  • ビットコインをはじめとする仮想通貨の台頭は、「金銭」といった金融ビジネスの根幹となる基本的概念を大きく転換するだけでなく、金融機関に対して法定通貨をベースとしたビジネスモデルとは異なるモデルへの転換を促している。
  • 金融機関は、「アンバンドリング」される機能ごとに競争力とビジネスの将来性について見直すとともに、顧客ニーズを基点に異業種と連携するオープン・イノベーションへの取組みを進めていくことが重要である。

I.FinTechの進展と新たな法改正の動き

1.業態別から機能別・横断的な金融規制へ

2017年11月16日に開催された第39回金融審議会総会・第27回金融分科会合同会合において、機能別・横断的な金融規制の整備等、情報技術の進展その他のわが国の金融を取り巻く環境変化を踏まえた金融制度のあり方について検討を行うことが決議されました。
その後、「金融制度スタディ・グループ」(以下「金融制度SG」という)が立ち上げられ、同年11月29日に第1回会合が開かれました。今後は、金融制度SGの議論を取りまとめた報告書の公表やワーキング・グループ等への改組、同グループとしての議論および最終報告書のとりまとめ等を経て2020年かそれ以降の関連法制の改正に向けた動きが進められていくものと考えます。
これまで、いわゆるFinTechの進展に対応して、2016年6月の銀行法等や資金決済法、2017年6月の銀行法等と2年続けて法改正されてきました。
2016年6月の銀行法等の改正では、銀行等の子会社の業務範囲に係る制限を緩和して、銀行によるフィンテック企業への出資を可能にするとともに、資金決済法の改正により仮想通貨交換業者に対する登録制が導入されました。
2017年6月の銀行法等の改正では、家計簿アプリやクラウド会計ソフトを念頭に電子決済等代行業者に対する登録制が導入されるとともに銀行等に対してオープンAPIの導入に係る努力義務等が課せられました。
金融制度SGにおける検討は、これらに続く第3弾の法改正に繋がるものですが、業態別から機能別・横断的な法体系へのシフトや「金銭」といった金融の基本的概念が変わる可能性があるなど、これまでの2回とは異なる抜本的な改正になると考えられます。

銀行法

第2条
この法律において「銀行」とは、第四条第一項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者をいう。

2 この法律において「銀行業」とは、次に掲げる行為のいずれかを行う営業をいう。

(1)預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。
(2)為替取引を行うこと。

こうした立て続けの法改正や抜本的な規制アプローチの変更は、
金融ビジネスを巡る競争環境に従来の延長線上ではなく、非連続的な変化が起きていることを示しています。

2.法改正を検討する背景と現行法制の課題

金融審議会および金融制度SGにおいては、今回の法改正の背景として次のような金融システムを取り巻く環境に関する4つの変化を提示しています。
 

金融システム取り巻く環境の変化

  • 金融サービスを個別の機能に分解し提供するアンバンドリングおよび複数のサービスを組合せて提供するリバンドリングの動きの拡大
  • 銀行に類似した金融仲介(シャドー・バンキング)の拡大
  • 金融機関のビジネスモデル再構築
  • デジタル通貨の出現等


また、現行法制の特徴と課題として、業態別の法体系に伴う業態間の規制差異、「金銭」といった金融に関する統一的な基本的概念の欠如および環境変化に対応していない規制の存在を挙げ、それぞれの課題に対して、機能別・横断的法体系、金融規制における基本的概念の横断化および変化に対応した規制の見直しといった検討の方向性が示されています。

これらの論点のなかで金融機関にとって押さえておくべき重要なポイントは、金融サービスのアンバンドリング・リバンドリングとそれに対応するための規制の機能別・横断的体系への変更、およびデジタル通貨の台頭と「金銭」等の金融の基本的概念の横断化の2つだと考えます。

II.FinTechの進展への対応

1.アンバンドリングされた銀行業務の競争相手

今回の法改正の検討における1つ目のポイントは、アンバンドリング・リバンドリングの拡大と業態別から機能別・横断的な法体系への変更です。
銀行法上、銀行は免許を取得することによって「預金」、「貸付け」および「為替取引」といった銀行業を営むことが認められます。言い換えると、たとえば、「為替取引」に係る業務だけを行いたい企業があっても、免許という厳格な規制に服する必要がありました。
しかしながら、これらの銀行業務は一定の制約の下で、下記のように銀行免許を取得することなく類似の金融サービスを提供することが可能となっています。これがいわゆるアンバンドリングされる金融サービスの典型例となります(図表1参照)。

図表1 銀行固有業務と類似の金融サービスの比較

銀行固有
業務
預金・為替取引 為替取引 貸付
類似業務 前払式支払手段 資金移動業 貸金業
根拠法 資金決済法 資金決済法 貸金業法
規制水準 自家型:届出制
第三者型:登録制
登録制 登録制
制約 原則払い戻し禁止
少額(100万円以下)に限る 預金を受け入れない

アンバンドリングされた金融サービスは、顧客ニーズに合わせて他のサービスとリバンドリングして提供されることが多くなります。たとえば、オンラインショッピングモールを運営する商流プラットフォーマーなどは、電子商取引だけでなく、資金移動業者として送金サービスを提供したり、貸金業者として後述する出店者に対するトランザクション・レンディングを提供したりすることがあります。
海外では、商流プラットフォーマーが、電子商取引を核にしつつ、預金・融資・為替取引に類するサービスを組み合わせる、つまりアンバンドリングした銀行業務のすべてをリバンドリングすることで実態として銀行と同等の業務を行っている例も存在します。
金融機関が留意すべきなのは、リバンドリングする業務は金融サービスとは限らないということです。このことは金融ビジネスにとって2つの変化を与えます。
1つ目の変化は、これまでよりも格段に顧客接点を持つ企業の数は減ることになり、その競争は金融・非金融の垣根を越えて行われることです。たとえば、顧客ニーズが商品選択、価格比較、購入決定、資金決済、商品の受領に至る一連のフロー全体の利便性向上である場合、リバンドリングして顧客との接点を持つ企業は1つとなります。
もう1つの変化は、2つの観点からオープン・イノベーションの必要性が高まることです。1つは、顧客との接点を持つために金融サービス以外の機能を提供する異業種との連携です。もう1つは、リバンドリングされる金融サービスの分野で自社サービスが選ばれるよう競争力を高めるためにベンチャー企業等と協働するオープン・イノベーションです。

2.台頭する新しい資金調達手段

預金・貸付け・為替取引をフルラインでサービス提供していることはかつてほど顧客に訴求する効果を持たなくなり、アンバンドリングされた個々の金融サービスの競争力が問われることになります。つまり、金融機関は、ITを駆使して利便性の高い金融サービスを提供する企業とその金融サービス単体の競争力で立ち向かっていくことになります。
たとえば、近年「貸付け」の分野で金融機関と競合するのは従来の貸金業者ではなく、豊富なデータとAI(人工知能)等を駆使した低コストかつ迅速な融資判断が特徴のトランザクション・レンディングになります(図表2参照)。

図表2 トランザクション・レンディングと銀行融資の比較

  トランザクション
レンディング
銀行融資
売上げ・
CFの把握
日々の売上げ・
決済データ
決算書を含む
多数の提出書類
担保・保証 原則不要 原則必要
審査機関 短い 長い

日々の売り上げデータや顧客の評判など企業の返済能力を判断するための正確かつ膨大なデータを有する商流プラットフォーマーは、AI等を駆使して迅速かつ精度の高い融資判断をするだけでなく、資金ニーズさえも容易に把握できます。
もう1つ、「貸付け」の競合として急速に台頭してきているのが、仮想通貨による資金調達であるICO(イニシャル・コイン・オファリング)です。
黎明期であるICOについては、利用者保護に係る制度整備等いくつもの課題があるものの、利用が出店者や会計ソフト利用者に限定されるトランザクション・レンディングと異なり、あらゆる企業の資金調達ニーズに対応する潜在性を有しています。
こうした顧客利便性の高い金融機関を通じない資金調達手段が拡大している環境変化のなかで、金融機関は、金融サービスをフルラインで提供できることではなく、貸付けといった個々の金融サービスの競争力を磨くことで、新たな金融サービスと競争していかなければなりません。

III.仮想通貨の台頭への対応

1.「金銭」の概念が変わる

今回の法改正の検討におけるもう1つのポイントは、デジタル通貨の台頭と「金銭」等の金融の基本的概念の横断化です。
デジタル通貨には、ビットコインに代表されるいわゆる仮想通貨のほか、世界の中央銀行が盛んに研究している法定デジタル通貨、民間銀行が発行を計画しているデジタル通貨まで多様な種類が含まれます。
これらデジタル通貨の台頭や発行に向けた検討の拡大により、現在「金銭」の概念が大きく揺らいでいます。たとえば、金融商品取引法のいわゆる集団投資スキームの定義では金銭で出資または拠出したものが同スキームに該当しますが、「金銭」に仮想通貨が含まれないとICOは集団投資スキームに該当しないということになり得ます。また、貸金業法も「金銭の貸付け」となっており、法定通貨による貸付けは規制対象となる一方で仮想通貨の貸付けは規制の枠外という事態が生じ得ることになります。
今回の法改正の検討では、この「金銭」といった金融の基本的概念が変更される可能性があります。銀行が金銭的価値の移転や保存に関与できない仮想通貨が法的にも「金銭」や「売買」の資金決済手段として認められる場合、銀行は、ビジネスモデルを大きく転換せざるを得なくなると考えます。

2.仮想通貨の普及とICOの台頭が変えるビジネス環境

仮想通貨の普及は、銀行固有業務の1つである為替取引のビジネス環境を一変させます。これまで為替取引は、前述の資金決済法で認められるアンバンドリング業務を除いて、規制によって銀行が独占的に提供してきました。
他方、仮想通貨は、エンドユーザー同士で直接金銭的価値の移転が可能であるため、銀行は為替取引を独占することはできなくなります。仮想通貨による価値移転が法的に認められると銀行は、代替手段を有する顧客に対して為替取引を営業することになりビジネスの前提が大きく変わります。
また、「金銭」や「売買」の概念に仮想通貨が含まれ、ICOに係る法規制が整備されると、前述のようにトランザクション・レンディングの拡大も含めた企業の資金調達手段の選択肢は大きく広がり、利便性の向上を図るなど競争力を高める施策を講じない限り、銀行融資の競争力は大きく低下する可能性があります。

IV.金融機関が直面する課題

1.ユーザーインターフェイスと顧客データの喪失

日常生活がデジタル化され、顧客のニーズを把握するために有用な情報が増加する中、マス市場も含めて顧客ニーズを満たす商品やサービスでなければ売れない傾向が強まっています。
そして、顧客データを集めるために必要な顧客との接点(インターフェイス)を巡る競争も激化しています。金融ビジネスの領域では、台頭する家計簿アプリやクラウド会計システム等の顧客と金融サービス提供者の間に立ってビジネスを行う電子決済等代行業者に対して登録制が導入2017年6月に導入されました。
電子決済等代行業者の場合、最終的な金融サービスは金融機関が提供するという点が特定の領域に特化したノンバンクプレーヤーによる金融サービスの提供や仮想通貨による金融機能の代替と異なりますが、顧客インターフェイスを金融機関から奪うという点においては変わりありません(図表3参照)。

図表3 電子決済代行業者の台頭による顧客接点の変化

前述のように顧客と接点を持つ企業は今後絞られていく傾向が強まります。そのなかで、企業の競争力を左右する顧客データは当該顧客接点を有する企業に集中していくことになります。
金融機関は、特定分野に特化したノンバンクプレーヤー、電子決済等代行業者のような中間的業者や商流プラットフォーマー、さらに銀行にとっては仮想通貨の台頭といった環境変化から生じる顧客とのインターフェイスとそこから得られる顧客データの喪失という課題に直面しています。

2.フルライン(自前主義)からオープン・イノベーションへ

金融機関だけでなくあらゆる企業にとって、個々のサービス単位でもリバンドリングしたパッケージであっても顧客ニーズを満たすことが最優先事項となっています。
個々のサービス単位では、単体で顧客に選ばれる、または、リバンドリングされる際に組み合わせの1つとして選ばれるサービスとなるよう他社との連携を含めたオープン・イノベーションを通じた競争力強化が必要になると考えられます。
また、リバンドリングしたパッケージを販売する場合は、自社サービスにこだわることなく、自社の競争力が弱いサービスや持っていないサービスに顧客ニーズがある場合は、積極的に異業種を含めた他社のサービスと連携していくオープン・イノベーションが求められます。

執筆者

KPMG ジャパン
フィンテック推進支援室
副室長 シニアマネジャー 保木 健次

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