関税: Brexitサプライチェーンの強化

関税: Brexitサプライチェーンの強化

Brexitの交渉が決裂した場合、通関手続きの遅れによる費用の増加を回避するにはどうすればよいでしょう。KPMG英国の関税部門統括であるBob Jonesは、今のうちに認定通関業者の申請をすることを推奨しています。 本稿では、コスト増をもたらす関税障壁、AEO(合理的なソリューション)、 自社ビジネスを映す鏡、をテーマに解説します。

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快晴の日には、イギリス海峡の対岸まで見通すことができます。しかし、ドーバーのホワイトクリフが2019年3月のBrexit交渉の決裂を象徴しているとすれば、英国とEU間の製品の輸出入に関する見通しは「見通しよし」から程遠いものとなります。

最悪のシナリオを想定したいわけではありません。英国とEUが離脱に伴う移行措置の合意に至る可能性は十分にあり、2019年3月までに通商協定が締結される可能性さえ皆無ではありません。これが実現すれば5,540億ポンド相当の英国・EU間のモノとサービスの貿易は継続されます。その一方で、それが実現しない可能性も「少なからず」あります。EUとの交渉が、ぎりぎりまでもつれ込む可能性が高いため、企業にはその結果を待っている余裕はありません。交渉決裂を想定したシナリオでは、摩擦のない貿易は突如中断され、英国は直ちに「摩擦のない」からは程遠いWTOの「最恵国」待遇へと逆戻りすることとなります。関税が課されるのみでなく、場合によっては報復関税が課される可能性もあり、また企業にとっては強制的な行政手続要件が急激に増えることになります。

クリフエッジ(崖っぷち)状態で離脱することになった場合、英国歳入関税局(「HMRC」)の通関業務はこれまでにないほど増加する可能性があります。現在、HMRCは年間で約55百万件の税関申告を処理しています。英国Institute for Governmentによれば、この処理件数が2億件増加し、2.55億件まで増加する可能性があり、企業にとっては全体で40億ポンドのコスト増になると予測されています。新たに18万の貿易業者(主に中小企業)が突然、輸出入検査の対象となるため、それに対応するためには新たに5千人程度の税関職員が必要になるとHMRCは予測しています。

テクノロジーによる事態の改善もすぐには期待できません。HMRCは新しい税関申告サービス(Customs Declaration Service)を2019年1月から導入する予定ですが、このテクノロジーはBrexitに伴う複雑な要素を想定した設計にはなっていません。そのため、英国がEUから離脱するまでにシステムの全機能の稼働が間に合わない可能性があります。


行き詰りと収入減
税関申告件数が5倍に増加することにより英国・EU間の国境における手続きが大幅に遅れることは容易に想像がつきます。これは例えば8時間で配達するJIT(ジャストインタイム)納入契約を結んでいるビジネスや生鮮食品を扱うビジネスにとっては重大な問題です。英国Freight Transport Associationは、ドーバー港での通関がわずか2分遅れるだけで、ケント州の高速道路で17マイルの渋滞が生じる可能性があり、6分増えればその渋滞はM25(高速道路)まで達すると予測しています。

またこうした税関での足止めによりコストも増加します。輸送用コンテナの英国からの出港が1日遅れた場合の滞船料は現行レートで少なくとも126百万ポンドですが、実際はこれを大幅に上回る滞船料が発生する可能性もあります。
そこで、現在シームレスな物流に依拠したビジネスを行っている場合(たとえば、期日どおりにドイツから機械の部品を調達する、フランスから医薬品を取り寄せる、アフリカから12月にトロピカルフルーツを顧客に提供するなど)、どのような方法で税関でのトラブルを回避することができるでしょうか。
その答えは、AEO(Authorized Economic Operator: 認定通関業者)の認定申請をすることで、Brexitからの影響を受けにくい社内体制を整備することです。


AEOの特徴について

  • 優秀さの証明:AEOはいわゆる認定制度で、世界70ヵ国で類似制度が導入されています。この制度により、サプライチェーンの安全性の確保と、税関検査を効率的に問題なく通過することが可能となります。
  • 行列回避およびコスト削減:AEOの認定を受けると、簡素化された通関手続きの適用対象となり、通関や安全・安心に関して略式手続きのみで済ませることが可能となります(例:国境での申告時に提出するデータの軽減)。またEU非加盟国の物品に対する通常の国境申告での標準的な関税は50ポンドですが、簡素化されたAEO申告の場合は15ポンドまで引き下げられる可能性があります。さらにAEOのもとでは、支払保証要件が緩和、通関特別手続きや、保税倉庫での保管や再輸出加工といった優遇措置の適用を受けることができます。
  • 待ったなし:申請手続きの完了までに6ヵ月かかり、その後HMRCで処理されるまでさらに3ヵ月から6ヵ月かかる可能性があります。現在、英国でAEO事業者の認定を受けた企業は600社程度(EU全体で登録されている企業のわずか4%)ですが、Brexitの前後で数万社にまで増えると予想されています。
  • まずは社内整備を:AEOでもっとも重要なことはすべてのデータを正確に時間通りに提出することです。そのため、正式な申請書を提出する前に、まず以下の項目を確認する必要があります。
  • HMRCで登録されている自社の概要とステータスを把握する。
  • 自社のサプライチェーンを十分に理解し、ボトルネックとなりうるリスクを特定・定量化する。
  • 既存の契約書をチェックし、現在およびBrexit後の法律上の輸出者・輸入者を確認する。
  • 従業員が正確かつ適時に必要なデータ(製品分類、原産地、評価に関する情報を含む)を用意するためのトレーニングを受け、資格を有していることを確認する。
  • 財務およびサプライチェーンのソフトウェア、システム、プロセスがAEOに適応したものとなっているかどうかを確認する。
  • セキュリティ関連の必要な機能を有しているかどうかを確認する。


自社ビジネスを鏡に映す
AEOは通関手続きを円滑にするだけではありません。認定要件を満たすためにサプライチェーンを徹底的に分析することで、Brexit後に新たな機会や事業の改善策を見出すきっかけとなります。さらなるグローバルベースでの取引への道が開かれるかもしれません。

本稿は英語版(原文)のコンテンツを和訳したものです。日本語版と英語版との内容に相違がある場合は英語版が優先されます。
Customs: Strengthening your Brexit supply chain

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