第7回 移転価格税制の動向と必要な対応 | KPMG | JP

第7回 移転価格税制の動向と必要な対応

第7回 移転価格税制の動向と必要な対応

本稿では、タイの移転価格税制の動向と必要な対応について解説します。

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タイの移転価格に関する新たな法案は、今まで明示的に移転価格に関する規定が存在しなかったタイにおいて移転価格リスクに大きな転換をもたらすものといえます。特に移転価格文書化については、日本親会社のBEPS対応とも関連し、多くの日系企業で対応が必要になるかもしれません。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • タイ歳入局は、2017年6月21日に、タイの移転価格に関する法案をウェブサイト上に掲載した。
  • 日本の税法上においても、タイ子会社との一定の取引規模がある場合、2017年4月1日以降に開始する事業年度からタイに関するローカルファイルの同時文書化が求められる。
  • 利益率が低いまたは赤字の会社、多額の技術支援料・ロイヤリティ等を親会社等に支払っている場合等は、タイ税務当局の視点からは移転価格リスクが高く留意が必要である。

I.タイ子会社から見た移転価格リスク

企業グループの移転価格リスクは、日本税務当局の視点によるリスクと、取引相手先国税務当局の視点によるリスクとに分けることができます。
タイに子会社を有する日系企業の場合、日本税務当局の視点は一般的に以下のように考えられます。

  • グループ内での一連の取引において発生した超過収益が、適切に日本の親会社に還流しているか?
  • 取引価格を通じてタイ販社やタイ製造会社に過大な利益が配分されていないか?
  • 日本におけるグループ全体の研究開発やアドミ機能に係る役務提供が、タイ子会社から適切に回収されているか?


一方、タイ税務当局の視点は一般的に以下のように考えられます。

  • 販売や製造といったタイ拠点の機能に応じて、一定の利益が安定的に計上されているか?
  • 事業リスクを負わないと考えられる製造・販売機能のみのタイ子会社が、赤字を計上することになっていないか?
  • 日本へ支払うロイヤリティやサービスフィーに関して、それらの根拠となる便益を享受している実態があるか?


より具体的なタイ税務当局の視点として、現状図表1のような会社が現地で移転価格調査の対象とされやすい、とみられています。

図表1:移転価格調査の対象になりやすい会社

1)利益率が低いまたは赤字の会社

  • 過去に赤字の事業年度がある
  • BOI(タイ投資委員会)の投資奨励による法人税の免税期間終了後に利益率が悪化した
  • BOIの投資奨励によって免税となる事業は黒字だが、非免税事業は赤字である
  • 前事業年度まで黒字だったが、赤字に転落した
  • 各事業年度の業績に著しい波がある
  • 原価割れ販売している特定の製品群がある
  • 同業他社と比較して利益率が低い

2)グループ会社間取引

  • 商品・製品の多くを親会社またはグループ会社に販売している
  • 原材料等の多くを親会社あるいはグループ会社より購入している
  • 多額の技術支援料、ロイヤリティ、その他配賦費用等を親会社等に支払っている
  • 支払い根拠が不明な費用を親会社等に支払っている

3)取引価格の比較可能性

  • 家電製品など最終消費財を製造する法人
  • 同種製品をグループ会社と第三者の双方に販売する法人

このように、タイ子会社でどの程度の利益・課税所得を計上するかについて、いわば相反する2つの視点が存在します。これら2つをどのようにバランスを保っていくかが、海外子会社管理の大きなテーマの1つといえるでしょう。

II.タイの移転価格税制の動向

1.移転価格調査の現状

タイにおいては、移転価格あるいは文書化に係る明確な法規制がありません。この点においては、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムなど、既に法整備が完了しているアセアン周辺諸国に比べて遅れている状況です。

しかし、過去から移転価格に係る税務調査は広く実施されています。これは主に、一般的な法人税の規定に含まれている以下の条項を根拠とするものです。

  • 歳入法第65条の2(4):合理的な理由なく会社が市場価格よりも低い価格で取引を行っている場合は、税務当局がその価格を市場価格に更正することができる
  • 歳入法第65条の3(15):法人税の計算上、合理的な理由なく資産の購入または費用が通常の価格を超える場合には、その超える部分の金額は損金に算入されない


移転価格調査は、主に売上100億バーツ以上の企業に対しては、歳入局の中央官庁にあたるLarge Tax Office(以下「LTO」という)が組成する移転価格専門のチームにより、それ以外の企業に対しては通常の税務調査の一環として行われています。

2.新法案が公表

しかし2017年6月21日に、タイの移転価格に関する法案が歳入局のウェブサイト上に掲載されました。この法案は、2015年に最初の骨子が内閣で可決された後、国民立法議会(National Legislative Assembly)の承認に至らず動きがなかったものが、今回修正版として公表されたものです。

今後、この法案は国民立法議会の承認を得て法施行されることになりますが、現在のところ承認および施行時期は未定です。

この今回公開された修正法案の全文は図表2に掲載していますが、ポイントは次のとおりです。


(1)対象法人
移転価格に関する付表および移転価格文書の提出を求められる法人は、関連者間取引を有する、売上収益の額が省令に定める金額を超える法人です。現在のところ、この売上収益の額は明らかにされていませんが、過去のタイ税務当局の徴税の傾向を考慮すると、多くの日系企業を含む外資系企業が対象に含まれるような水準となる可能性があります。
相当の理由なくこれらを提出しない等の場合には、20万バーツを超えない範囲で罰金が課されます。

(2)関連者
今までの移転価格調査の対象は実務上、第三者間取引も含められていましたが、今回の新法案では、対象を関連者取引とする旨が明記されています。また関連者の定義、50%以上の直接または間接の資本関係がある法人および実質支配関係にある法人、も明示されました。なお、関連者の定義が国外の法人に限定されていないため、タイ国内の関連者間取引も移転価格税制の対象となると考えられます。

(3)移転価格に関する付表
法人税申告時に、関連者間取引の金額などの関連者間取引に関する情報を記載した付表を作成し、歳入局へ提出が求められます。この付表については、未だ書式は公表されていません。

(4)移転価格文書
一方で、移転価格文書は申告時には提出が求められませんが、歳入局の調査の過程で提出を求められた場合に、その日から原則60日以内に提出しなければなりません。調査の通知または提出が求められてから準備するのでは間に合いませんので、事前に作成しておく必要があります。

図表2:現在歳入局より公表されている新法案全文

歳入法 第71条の2(1)
関連者間取引について、納税者が独立した第三者との取引において適用されるであろう、商業上および金融上の条件と乖離した条件で取引を行っていることが税務調査で発見された場合、税務調査官は、納税者の課税所得を独立企業間取引において獲得したであろう金額に更正する権限を有する。なお、当該更正に際しては、国際基準に沿うことを目的としてタイ国が締結している国々との租税条約を考慮するものとする。

歳入法 第71条の2(2)
歳入法における「関連者」の定義を以下に定める。

  1. 一方の法人が、他方の法人の株式の総数又は出資金額の50%以上を直接又は間接に保有する関係にある法人
  2. 同一の者によってそれぞれの株式の総数又は出資金額の50%以上を直接又は間接に保有される関係にある法人
  3. 一方の法人が資本・経営・支配権の観点において、他方の法人に依存しなければならない関係にある法人で財務省令で定めるもの(実質支配関係にある法人)

歳入法 第71条の2(3)
歳入法では、同条(1)に基づき、税務調査官が納税者の課税所得を更正した場合に、納税者に対して税金の還付申請を認める。納税者は法人税申告書の提出日から3年以内、もしくは税務調査官から更正通知を受けた日から60日以内に税金の還付を申請することができる。

歳入法 第71条の3(1)
関連者間取引を有し、かつ、その事業年度の売上収益の額が省令に定める金額(註:この省令はまだ公表されていない)を超える法人は、歳入局長が定める書式(註:この書式はまだ公表されていない)に従って、その事業年度の関連者間取引の金額などの関連者間取引に関する情報を記載した付表を作成し、その事業年度終了日から150日以内(法人税申告書の提出期限)に歳入局へ提出しなければならない。

歳入法 第71条の3(2)
法人税申告書の提出日から5年以内に、タイ歳入局は、関連者間取引を有し、かつ、その事業年度の売上収益の額が省令に定める金額を超える法人に対し、移転価格の算定・分析に必要な文書もしくは証憑の提出を求めることがある。提出を求められた納税者は、その通知を受けた日から60日以内に提出しなければならない。ただし、税務調査官はその裁量により、通知日から120日を超えない範囲でその提出期限を延長することができる。

歳入法 第35条の3
相当の理由なく71条の3に定める書類を提出しない、あるいは提出した書類に不備がある場合には、20万バーツを超えない範囲で罰金を課す。

III.日本の移転価格税制の動向とタイへの影響

現在の日本の税制上、2015年10月に公表されたOECDのBEPSプロジェクト行動13の最終報告書を受けて改正された租税特別措置法に従って、3種類の移転価格文書の作成が求められています。

このうちタイを含むすべての海外子会社に特に影響するのは、国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するために必要な書類(以下「ローカルファイル」という)です。これは、国外関連取引を行った本邦法人が作成を求められる、国外関連取引の内容を記載した書類および国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類であり、より具体的な内容は、租税特別措置法施行規則第22条の10第1項(図表3参照)に定めがあります。この内容は、各国で求められる一般的な移転価格文書の構成とほぼ同様であり、従って現地における移転価格文書化の一環として進めるのが有効かつ効率的であるといえます。

図表3:ローカルファイルの記載内容

租税特別措置法施行規則第22条の10第1項(抄)

第1号 国外関連取引の内容を記載した書類
イ.取引に係る資産及び役務の内容
ロ.取引において本邦法人及び国外関連者が果たす機能及び負担するリスク
ハ.使用した無形固定資産
二.契約の内容
ホ.取引価格の明細及び設定方法、事前確認等の状況
へ.国外関連取引に係る損益の明細等
ト.取引対象資産・役務等の市場の状況
チ.本邦法人及び国外関連者の事業内容、事業方針及び組織の系統
リ.密接に関連する他の取引

第2号 国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類
イ.選定した独立企業間価格の算定方法、重要な前提条件及び選定理由
ロ.比較対象取引の選定に係る事項及びその明細
ハ.利益分割法を用いた場合の計算
二.複数取引を一つの取引とした場合の理由及び取引の内容
ホ.比較対象取引等について差異調整を行った場合の理由及び差異調整の方法

ローカルファイルは、2017年4月1日以降に開始する事業年度から、原則確定申告書の提出期限までに作成または取得・保存が必要となります(以下「同時文書化義務」という)。なお、前事業年度の一の国外関連者との国外関連取引が50億円未満かつ無形資産取引が3億円未満である場合は、この同時文書化義務は免除されます。ただし、同時文書化義務が免除される場合であっても、ローカルファイルに相当する書類の提出等を求められる可能性はありますので、留意が必要です。

IV.タイ子会社に必要な文書化対応

以上で述べた通り、移転価格リスク対応の観点および移転価格コンプライアンスの観点から、タイ子会社にかかる文書化に着手する必要性は高いと考えられます。

移転価格リスク対応の観点からは、特に図表1の各項目に当てはまるタイ子会社については、今後調査を受ける可能性が比較的高いといえます。特に上述II.1の売上100億バーツの企業に対して行われる、LTO(租税管理事務所)が組成する移転価格専門のチームによる調査を受けた場合、会社が移転価格文書を準備していなければ議論の土俵に立つことができず、税務当局が採用した利益率に基づく取引価格に更正されるリスクがあります。

そのため、調査を受ける前に任意で移転価格文書を準備しておくことで、推定課税(シークレットコンパラブル等に基づく課税)のリスクを低減することができます。また調査の入り口段階で一定の抑止力になり、議論の主導権を確保することができます。

コンプライアンスの観点からは、日本のBEPS対応として、日本の親会社との前期の年間取引金額が50億円以上または無形資産取引金額が3億円以上であるタイ子会社については、当期中に(日本の親会社が3月決算法人である場合)ローカルファイルの作成が必要となります。またタイ新法案対応としては、特に今まで一度も文書化対応に着手したことのない会社の場合は、今後見込まれる承認および施行に備えて準備を始められることが望ましいといえます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
ASEAN 事業室 タイデスク
パートナー 井戸 志生

タイ子会社管理の基礎知識

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