【対談】AIで「企業経営を変革」するために今できること | KPMG | JP

【対談】AIで「企業経営を変革」するために今できること

【対談】AIで「企業経営を変革」するために今できること

現在のAIブームと、その流れの中で企業経営を変革するために何ができるのか。日本のAI研究の第一人者である東京大学大学院教授の杉山将氏にお話を伺った。

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対談

左:杉山 将氏
東京大学 大学院
新領域創成科学研究科
教授

 

右:椎名 茂
KPMGコンサルティング株式会社
執行役員 パートナー

オックスフォード大学准教授のマイケル・オズボーン氏が発表した論文“THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)”によると、会計士や弁護士、経営者はAIに仕事を奪われる職業だという。だが、本当にそのような万能なAIが出現し、人間から仕事を奪っていくのだろうか?
日本のAI研究の第一人者である東京大学大学院教授であり、11月21日に開催されるKPMGフォーラムの基調講演者として登壇される、杉山将氏に、現在のAIブームと、その流れの中で企業経営を変革するために何ができるのか、KPMGコンサルティングの椎名茂がお話を伺った。

画像認識技術のブレークスルーが起こしたAIブーム

椎名:ここ数年、世間ではかなりAI(artificial intelligence、人工知能)が話題になっています。AIがブームになったのはこれで3回目ですが、今回これだけ騒がれるようになったきっかけは何だと思いますか?

杉山:このAIブームには、我々AI研究者も本当にびっくりしています。実は、機械学習※1のブームそのものは、アメリカでは2000年頃から始まっていました。その頃から、アメリカの巨大なIT企業の研究所などが我々の分野の研究者をどんどん雇用していったのです。ただ、日本ではそれがあまり注目されてこなかっただけなのです。
このブームの火付け役は2つあると、僕は思っています。1つは、2012年の画像認識のコンテストで、ディープラーニング(深層学習)※2が既存の技術を大きく上回ったことです※3。もう1つは、やはり同じ年に、グーグルのニューラルネットワーク※4が猫※5を見つけたとニューヨーク・タイムズ紙をはじめ多くのメディアで報道されたことです。それで一気に火がついたのではないかと。

椎名:1960年代に1回目のブームが来てから、ベースの技術はずっと研究されていましたね。その一つが機械学習であり、ニューラルネットワークが進化してディープラーニングという形に花開いたと。

杉山:研究としてブレークスルーがあったからだというべきかもしれません。そもそもAIという言葉が出てきたのが1950年代の中盤くらいで、当時、コンピュータで人間のような知能が作れるのではないかという機運が一気に高まりました。

椎名:ところで、杉山先生はどうしてAIを専攻しようとお考えになったのでしょうか?

杉山:ごく自然に選んでいました。プログラムを作れるようになって、どんなプログラムを作ろうかと思ったときに知能を作ろうかと。そこに何の迷いもなかったですね。
一般的にAIというと、たとえば「AIを使ってガンを見つけます」といった応用分野の話が出てくると思います。その応用分野を解くためには、アルゴリズムが必要になるのですが、そのアルゴリズムがきちんと動くことを保証する理論も必要になります。我々が研究しているのはその理論の部分です。
理論は、ある意味アプリケーションには依存しない独立したものです。汎用的なので、ここでいい方法を1つ作ると、あらゆる分野に使ってもらえるのです。


※1 機械学習(machine learning)とは、コンピュータにデータを入力し学習させることで、明示的にプログラムしなくても学習する能力を与えることである。
※2 ディープラーニング(deep learning、深層学習)とは多層のニューラルネットワークを使って学習させるという機械学習の手法の1つである。
※3 2012年のImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge(ILSVRC)で、カナダ・トロント大学のヒントン教授らのグループが、前年の優勝記録を4割も削減して優勝したこと。
※4 ニューラルネットワーク(neural network)とは、生物の脳機能に見られる特性のいくつかを計算機上のシミュレーショによって表現することを目指した数学モデルである。
※5 Googleがこの研究成果を発表したのは2012年6月下旬のことである。

AIは「知能」ではなく、ただのIT技術

椎名:2013年に、オックスフォード大学准教授のマイケル・オズボーン氏が“THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)”を発表しました。この論文には「AIでなくなる仕事」が書かれていましたが、それをきっかけにいろいろなところで仕事がなくなるのではないか、世の中が大きく変わるのではないかという話が出てきました。

杉山:AlphaGoが人間の囲碁棋士のチャンピオンに勝った※6ことも大きく報道されましたね。これでもう、明日にも人間がコンピュータに支配されるのではないか、仕事を奪われるのではないかといった風潮が強くなったのではないかと思います。でも、全然そのようなことはないのです。

椎名:一般の方々が思い描いているAIというのは、どうしても鉄腕アトムみたいな「悪い奴をやっつけろ!」みたいな感じですよね?

杉山:そういう人間に代わるような複合的な知能を持った汎用的な人工知能というのは、今の研究のすぐ先にあるゴールにはありません。
AlphaGoにしても、人間に勝ったといっても、それはごく限られた特殊なゲームでのことで、それを一般的な世界に汎用化できるかというと、全然できないわけです。
そもそも「人工知能」という言葉がよくないと、僕は思っています。今のAIは「知能」でもなんでもなくて、生きているわけでもなくて、ただのIT技術です。でも、「人工知能」というと、人間に代わる話になってしまう。

椎名:それは、具体的にはどのようなことでしょうか?

杉山:たとえば、テレビ局などが「ワトソン※7君がガンを見つけました」と報道をしていますが、そうではなく、正しくは「ワトソンというコンピュータプログラムを使っているエンジニアが、一生懸命朝から晩までデータを解析した結果、何かのガンが見つかりました」なのです。
これをあたかも人間であるかのように「ワトソン君が見つけました」と言うので、次はワトソンが反逆を起こすのではないかというお話が始まってしまう。でも、だからといって、ワトソンが反逆を起こすことにはならないわけです。

椎名:なるほど。人格化するから脅威になるのかもしれません。

杉山:現状の研究の方向性は、それぞれ決められたタスクを、人間と同等かそれ以上の精度で解決するようなアルゴリズムなり、人工知能プログラムを作っていくというものです。その先には、そういうプログラムをロボットなどに組み込み、本当に人間に代わるようなものを作るという話になるかもしれません。しかし、それは本当にただ想像しているだけで、技術的にこういうステップを踏めばできる可能性があるというマイルストーンに書けるようなレベルではないという気がします。

椎名:鉄腕アトムのように意志を持って動くとなると、まだもう少し先になるということですね。では、自動運転車のようなものはどうでしょうか?
杉山:自動運転などは今の技術の延長で十分に実現可能なものです。それと同じように、今のIT技術がもっと洗練されて、もっと便利になるような未来は近いところにあります。


※6 2017年5月、世界最強の囲碁棋士・柯潔(カ・ケツ)との三番勝負で、DeepMindが開発した囲碁プログラムAlphaGoが3連勝した。AlphaGoは、2015年に人間のプロ囲碁棋士を破り、人間に勝った初のコンピュータ囲碁プログラムとなったが、現在は引退している。
※7 ワトソンとは、IBMが開発した自然言語処理と機械学習を使用した意思決定支援システムのことである。IBMでは、人工知能と言わずに、「コグニティブ・コンピューティング・システム(Cognitive Computing System)」と呼んでいる。

増える大学発スタートアップ。課題はグローバル展開

椎名:話は変わりますが、2年ほど前にスタンフォード大学に行ったとき、コンピューターサイエンス学科に日本人留学生が1人もいませんでした。0人かと思うと、ちょっと寂しさを覚えたものです。

杉山:確かに今の学生達を見ていても、なかなか海外に留学したいという日本人は少ないですね。

椎名:一方で、最近では大学発スタートアップも増えています。この間も東大を卒業した若い経営者が経営するAIベンチャーが上場しましたが※8、ひと昔前なら、それこそ大手電機メーカーに入社するようなエリートがベンチャーに行っているわけです。

杉山:そうですね。我々の周りでも、今普通にベンチャー企業に就職しますし、会社を起こす人もいます。

椎名:大企業が大学発ベンチャーに出資するようになってきたことも大きいです。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が急激に伸びてきているので、昔に比べると起業しやすくなりました。
ただ残念なことに、日本はアメリカほど環境が整っていない。ベンチャーを起こすのはたいていテクノロジー系の会社です。シリコンバレーなら、彼らをファウンダー(創業者)としてCTO(最高技術責任者)に専任させ、CEOはベンチャーキャピタルが派遣して資金調達や経営を任せたりしますが、日本はそうではありません。せっかく今CVCが少しずつ出来上がってきているのですから、もう少しそこが後押しされて、ベンチャーがどんどん作れるような形になっていくと、また変わってくるような気がします。

杉山:確かに最近は従来のおとなしい学生とは少し違うタイプの、積極的な学生が増えてきていて、かなり期待できます。
欲をいえば、そういう学生には国際的に活躍してほしいですね。私は海外の学生にもたくさん知り合いがいるのですが、そういう人たちはもともと国際的に事業を展開していたりします。自分の国でスタートするというより、最初から3ヵ国でオフィスを立ち上げたりしているのです。日本で起業するのもいいのですが、そこはもう少し頑張らないといけないという気がします。

椎名:ものづくりもそうですが、何事も日本語で考えるのではなく、グローバル志向が必要かと。

杉山:そうです。ですから、若いうちに海外留学をしておくというのは重要だと思うのです。一度、日本の外を見た人が起業するとしたら、当然国際的に始めようと自然に考えるでしょう。でも、日本しか知らなければ、まず海外で起業しようというアイデアは出てこないですよね。


※8 2017年9月22日、国産AIベンチャーの株式会社PKSHA Technologyがマザーズ市場に上場した。

公的機関と企業の共同研究の重要性

椎名:今、“ものづくり”の世界でスマートファクトリー※9が急速に進んでいます。日本は従来から“ものづくり”が強いわけですが、それをさらに進化させるにはスマートファクトリーなどで得たデータをどのように使うかについても、きちんと考えていく必要があります。その際に重要となるのが標準化です。
私は、常々国際標準化団体等において、日本がうまくリードできるようにポジショニングする必要があると考えています。標準化では、杉山先生のような公的機関の役割は非常に大きいと思うのですが、いかがでしょうか?

杉山:基礎技術は汎用的なものなので、我々もいろいろな企業と共同研究をさせていただいています。もちろん競合となる企業もありますが、そこは、オープンにやっていきたいと思っています。
「平成27年度 大学等における産学連携等実施状況について」によれば、平成27年度の共同研究実施件数は前年に比べて9.2%、共同研究費受入額は12.3%増えています(図表1参照)。実際、我々のところにも、多くの方が相談にいらっしゃいます。

椎名:それはどのような方たちなのでしょうか?

杉山:これからAIを勉強するという方から企業で研究されている方まで、本当にいろいろです。ただ、多くの方は具体的なタスクがあり、それを今の技術で可能かどうかを判断したいと思って、我々を訪ねてきます。なかには、すぐに解決できそうな問題もたくさんあります。そういうものはすでにどんどん始めていますし、今後も企業と両輪でやっていきたいと思っています。
おそらく、こうした共同研究は我々のような公的機関でなければ企業もやりにくいはずです。ですから、我々としてはこうした形で貢献できればと考えています。

椎名:ドイツ政府が“インダストリー4.0”を提唱していますが、共通プラットフォームとか、データ基盤みたいなものがあるということはすごく重要だと思っています。同じ基盤で、日本オリジナルの技術を提供することによって、日本の覇権が生まれるとしたら素晴らしいですよね。


※9 工場内のあらゆる機器をインターネットに接続することで、機器の状態に関するさまざまな情報を見える化し、工場の効率化や経営との全体最適を図ることで、ドイツ政府が提唱するインダストリー4.0を具現化したものを指す。

図表1 大学等と民間企業との共同研究の実施件数

出所:平成27年度 大学等における産学連携等実施状況について(平成29年1月13日)

大学等と民間企業との共同研究の実施件数

経営者は、AIでビジネスモデルが変わる可能性が大きいことを意識する必要がある

杉山:今の悩みは、研究者が足りないことです。これは日本に限らない話で、世界中でAI分野のプレーヤーが不足しています。

椎名:若い研究者の方が大勢AIを研究されているように見えますが……

杉山:昔に比べれば増えましたが、そういう学生たちが社会に出て成果が出るにはまだ5年、10年かかります。
そうなると、企業に期待することになります。幸いなことに、日本の理系人材は修士を取って就職する人がたくさんいます。その意味では、国際的にはものすごくレベルの高い人材が会社にいるわけです。彼らの一部でもAI分野に参入してもらえれば、技術レベルは一気に上がるのではないかと思っています。

椎名:今、日本は少し遅れているけれども、5年後、10年後には海外に負けないくらいになっている、ということでしょうか? そうでしたら、明るい未来が見えてきそうです。

杉山:そうですね。そういう意味ではあまり悲観的には考えていません。日本のスタートが少し遅れているのは事実ですが、そのぶん今ものすごく加速しています。研究者もどんどん増えていますし、海外からも流入してきています。ですので、近い将来は国際的なプレーヤーとして、日本もきちんと対峙できるのではないかと思っています。

椎名:技術的には明るい未来がありそうですが、経営者としてはAIによってビジネスモデルが大きく変わる可能性があるということを常に認識しておいたほうがよさそうですね。
データが大量にある中で瞬時に判断をしなければいけないようなことはAIの得意分野ですし、金融の世界ではすでにFinTech10が定着し、仮想通貨が普通に使われています。もしかしたらお金そのものが世の中から消える世界がこないとも限らないわけです。
そういう技術の進歩というのはすごい勢いです。それをどこで応用していくのか。どのような心構えが必要なのか。とにかくビジネスモデルも企業経営も変わる可能性が大きいということを、経営者は常に意識する必要がありそうです。
本日はありがとうございました。

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