【インタビュー】統合報告の発展のために企業のCEOが果たす役割 | KPMG | JP

【インタビュー】統合報告の発展のために企業のCEOが果たす役割

【インタビュー】統合報告の発展のために企業のCEOが果たす役割

これまでのIIRCの活動や今後の目標、統合報告の普及に必要な要素や、統合報告のさらなる普及と質の向上に企業のCEOがどのような役割を果たすのか等をテーマに話を伺いました。

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2017年9月11日より15日まで、国際統合報告評議会(IIRC)のCEOであるRichard Howitt氏とChief Strategy OfficerのJonathan Labrey氏が来日をし、企業、経済産業省、金融庁、東京証券取引所、経済同友会、機関投資家、日本公認会計士協会、監査法人等、日本で統合報告に関係する様々な組織や人物と面会しました。

Howitt氏にとっては2016年11月に就任したIIRCのCEOとしての、初来日でした。目的は、関係者との顔合わせや、日本における統合報告の普及状況および課題に関する理解を深めることに加え、IIRCの今後の戦略について説明し、世界における統合報告の動向をふまえた意見交換をすることでした。

この機会を活かし、KPMGジャパン 統合報告CoE(以下「KPMG」という)は、Howitt氏およびLabrey氏へインタビューを行いました。これまでのIIRCの活動や今後の目標、統合報告の普及に必要な要素や、統合報告のさらなる普及と質の向上に企業のCEOがどのような役割を果たすのか等をテーマに話を伺いました。

ポイント

  • 統合報告は、財務的な事項のみならず、非財務的事項も考慮にいれた企業の中長期的な戦略を簡潔に明瞭に語る企業報告の形である。
  • IIRCは国際的に合意された統合報告フレームワークの構築を目的として設立され、2013年12月に国際統合報告フレームワークを公表後、統合報告の世界的な普及を目標に活動している。
  • 政府・規制当局、機関投資家、企業、基準設定団体から、その有用性についての理解を獲得し、その後押しにより、統合報告の普及が可能となる。
  • CEOの統合報告への積極的な関与により、企業にとっての重要事項にフォーカスした、中長期戦略、ビジネスリスク等が統合報告書で適切に説明できる可能性が高まり、より投資家等との対話に有用なものとなる。

左から
KPMG ジャパン 統合報告CoE
パートナー 芝坂 佳子

IIRC CoE
Richard Howitt氏

IIRC Chief Strategy Officer
Jonathan Labrey氏

KPMG ジャパン 統合報告CoE
パートナー 高橋 範江

IIRC設立の経緯

中長期的な価値向上に資する報告書への社会的希求

KPMG:本日はお時間を頂きまして、ありがとうございます。まずは、IIRCについてご存じでない方のために、IIRCの組織の設立の経緯や目的についてお話いただけますか?

Howitt:2008年の世界的金融危機がきっかけとなり、健全な資本市場を取り戻し、持続的な経済成長の重要性の再認識がされました。その結果、投資家は短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視点に基づく投資判断が求められるようになりました。同時に、知的財産、人的資産等の非財務的資産や、環境や社会問題に配慮した企業戦略なしに、企業が持続的に存続し、価値創造が困難であることへの気づきも出てきました。その結果、企業は財務的資産のみならず、非財務的資産を活用しながら、環境や社会への配慮を組み込んだ中長期的な戦略等に関する情報開示の必要性がより一層高まりました。

つまり、企業が中長期的な価値創造や持続可能性について、適切に投資家等に説明し、対話をし、また、投資家も短期的利益のみを追求するのではなく、長期的な視点にたって企業への投資判断をすることが、資本市場の回復や発展に繋がるという考え方が強まってきたのです。

一方、このような背景の中、企業は、財務情報のみならず、環境、社会リスクと機会、戦略等の膨大な情報を、複数の媒体を用いて報告しており、多大な負担を抱えていました。しかし、残念なことに、企業による報告書の多くが機関投資家等によって有効に利用されていない状況でした。

これらの課題に対処するために、英国チャールズ皇太子の働きかけにより、基準設定団体、投資家・アナリスト、会計士協会、監査法人、証券取引所、企業、アカデミア等が集結し、国際的に合意された統合報告フレームワークの構築を目的として、IIRCが2010年8月に設立されました。

KPMG:Howitt氏はIIRCのCEOに2016年に就任されましたが、就任に至った経緯についてお聞かせいただけますか?

Howitt:私は1994年から2016年まで欧州議会の議員を務めており、その間、主にCSRに関する領域で活動していました。たとえば、欧州における企業報告に大きな影響を与えた「企業の非財務情報と多様性に関するEU指令」の策定にも中心的にかかわってきました。

また、欧州議員であった2009年に開催されたHRH The Prince of Wales Annual Forum on Accounting for Sustainabilityの参加メンバーでもありました。このフォーラムがIIRC設立のきっかけとなりました。

翌年のIIRC設立後は、IIRCのアンバサダーとしても活動をし、国連持続可能な開発会議(リオ+20)等の国際会議にも参加しました。そして、2016年に前任のCEOが退任したことがきっかけで、私がIIRCのCEOに就任をしました。

グローバルで拡大し続ける統合報告とIIRCの活動

KPMG:2013年12月にIIRCが国際統合報告フレームワーク(以下「IIRCフレームワーク」という)を公表して以来、今日まで、62ヵ国の1,600以上の組織が統合報告を実践していると伺っています。統合報告がここまで普及するに至る間、IIRCとしてはどのような活動をされてきたのですか?

Labrey:2014年から2017年をIIRCとしては、Breakthrough phaseとして位置付けており、統合報告の早期導入を目指し、様々な施策を実施してきました。たとえば、持続可能な資本市場を目指した投資活動の必要性に共鳴をしてくれる機関投資家等とのグローバルネットワークの構築や、企業報告において重要な役割を果たしている主要な基準設定団体との連携、各国の政府や規制当局と関係性を構築し、統合報告の推進のサポートを得る等の活動をしてきました。

KPMG:具体的には、どのようなものですか?

Howitt:投資家とのネットワークの観点からは、たとえば、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)との連携を強化しており、2016年12月には、ICGNとIIRCで初めて共同カンファレンスを主催し、30を超える証券市場等から400名超の投資家や企業からの参加がありました。当該カンファレンスでは、長期的な価値創造を実現するために企業と投資家が何をすべきかについて有意義な議論をすることができました。

また、基準設定団体との連携の観点からは、IASB、FASB、GRI等の主要な基準設定団体を集めたCorporate Reporting Dialogue(CRD)をIIRCが主導して運営し、企業報告における方向性の一致を目指しています。

さらに、政府や規制当局によるサポートの観点からは、たとえば、南アフリカでは、既に上場規則に統合報告が義務付けられておりましたが、2016年に公表されたKING IVにおいては、IIRCフレームワークにより準拠したものとなっています。

そして、英国では会社法によって戦略レポートの作成が義務付けられており、英国財務報告評議会(FRC)は、当該戦略レポートとIIRCフレームワークの原則に親和性を認めています。

最近ではインドの証券取引所が企業のトップ500社に統合報告を導入するよう通知を出しており、統合報告書を発行する大手企業が出てきています。また、マレーシアでは証券監督当局がコーポレートガバナンスコードを改訂しましたが、当該改定版では統合報告を推奨しています。

政府や規制当局からのサポートを得ることができたのは、統合報告の考え方、意義や有用性が認められたからだと考えています。

2018年からは、IIRCのGlobal Adoption Phaseに入り、統合報告が「通常の」企業報告となるよう世界的に普及することを目指しており、その具体的な戦略は検討中です。

統合報告を活かす日本企業

有用性への気づきと2つのコード

KPMG:日本においては、企業価値レポーティングラボによれば、「自己表明型統合レポート発行企業」は、2010年では26社だったのが、2016年には279社にまで増えてきています。これは、2013年のIIRCフレームワークの公表をきっかけに統合報告を導入する企業が増加したことに加え、資本市場と企業の持続的な成長を目指して、企業と投資家の建設的な対話を促すために、2014年にスチュワードシップ・コード、2015年にコーポレートガバナンス・コードが公表されたことが、統合報告書発行企業数の増加に繋がったと考えられます。日本のこのような状況をどうご覧になりますか?

Labrey:日本のように、統合報告が法定制度で義務づけられていないにもかかわらず、企業がその有益性を認め、その結果、任意での発行数が年々増加しているという現象は、統合報告が市場の要望によって導入されることが可能であるということを裏付けており、IIRCとしても非常に喜ばしいことです。

KPMG:自己表明型統合報告書の調査をKPMGが3年連続で実施してきています。2016年の調査では、発行企業279社のうち、262社が東証一部上場会社であること、日経225構成銘柄に占める割合のうち50%の企業が統合報告書を発行していること等から、いわゆる「大手企業」が統合報告に強い関心を示していることがわかります。ただ、調査の結果、統合報告書の開示内容には、まだ改善の余地があることも明らかとなりました。

たとえば、企業の長期的な価値創造に与えるマテリアリティの検討についての記載開示や、企業の持続可能性に関するリスクと機会の開示等、現在発行されている統合報告書の多くは十分に説明できていない状況です。

マネジメントの意思を伝える統合報告書であるために

マテリアリティと時間軸、そしてKPI

Howitt:企業の中長期的な方向性を決定するのはマネジメントの役割であるからこそ、より長期的な視点にたったマテリアルな事項の検討、また特定された事項に対応する戦略の立案や、ビジネスリスクと機会の洗い出し等は、マネジメント、とりわけCEOのリーダーシップがなければ適切にできません。そしてマネジメントが、何を、どのような理由で、特定事項を企業の長期的価値創造にマテリアルであると判断したのかを、時間軸も考慮しながら、十分に説明する必要があります。

またマネジメントは、マテリアルな事項に対応した中長期的な戦略や、その達成状況を示す適切なKPIに関する説明をする必要があります。さらに、主要なビジネスリスクおよび当該リスクをどのようにして低減する予定なのか、また、どのようなビジネス機会があり、それがいつ財務的なインパクトに繋がっていくのかについても、十分に語る必要があります。そして、それらすべてを簡潔に分かりやすく語る有効なツールとして、統合報告書があります。

つまり、機関投資家等に自社のマテリアルな課題、中長期的な戦略や、リスクと機会等について説明をする際に、統合報告書を使った説明が有用であることを、マネジメント、とりわけCEOの理解が、今後の統合報告書の質の向上と、普及に繋がるのです。

KPMG:CEOに統合報告書を利用した投資家等の対話の有用性を理解していただくには、どうすれば良いと思われますか?

Howitt:個人的に知っている事例としては、統合報告の有用性について理解のある取締役がCEOに働きかけたという会社もありますが、このような恵まれたケースは少ないのかもしれません。その他、世界経済フォーラムなど、国際規模でビジネス界、政界、学会のリーダーが集まる大会等で、統合報告に関する事項がアジェンダとして取り上げられ、統合報告の有用性を説明する機会がありました。おそらく出席したCEOの統合報告への関心や理解度が高まったであろうと期待しています。

活用される統合報告書をめざして

Labrey:同業他社の動向も、CEOに大きな影響を及ぼすでしょう。その意味で、統合報告書の表彰制度は、報告書の質改善への企業の意識を高める観点から有効だと思います。

また、先ほども言及しましたが、開示事項や開示内容の質の改善には、規制当局の役割も大きいと考えています。規制当局からの要請事項や推進事項には、企業のCEOも敏感に反応し、統合報告への関心も高まっていくでしょう。

Howitt:その他、統合報告書を利用して、機関投資家等と有用な対話ができるようになると、内容と質をより良いものにしようというインセンティブがCEOに働いてくると思います。その結果、CEO主導により、統合報告書の質のさらなる向上に繋がるのではないでしょうか。

KPMG:日本においては、CEOの任期が比較的短いこともあり、自身の任期より長いスパンの戦略や目標がたてづらいという環境にあるかもしれません。その結果、CEOと投資家の対話が、短期的な事象にフォーカスしがちで、中長期的な観点からの戦略や、企業の長期的なビジネスの方向性等に関する対話が、まだ十分でないとも考えられます。

Howitt:企業のCEOによる統合報告への関心や、統合報告書の質の向上には、監査法人等の企業報告にかかわるプロフェッショナルによる普及活動も大きな役割を果たしていると思います。その意味で、KPMGジャパンが実施している統合報告書の調査は、企業に気づきを与えるきっかけとなり、非常に有用だと思います。

KPMG:最後にお褒めにあずかり、大変光栄です。どうもありがとうございます。今後とも、KPMGとして、統合報告の普及や理解の促進に積極的にかかわっていきたいと考えています。今後とも、どうぞ、よろしくお願いいたします。

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