IFRS保険会計Q&A(第2回)(週刊経営財務2017年10月16日号) | KPMG | JP

IFRS保険会計Q&A(第2回)(週刊経営財務2017年10月16日号)

IFRS保険会計Q&A(第2回)(週刊経営財務2017年10月16日号)

週刊経営財務(税務研究会発行)2017年10月16日号に、国際会計基準審議会(IASB)が2017年5月に公表した「IFRS第17号『保険契約』」に係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。第2回は、保険負債の測定モデルについて解説しています。

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はじめに

約20年に及ぶ議論を経て、2017年5月に国際会計基準審議会(IASB)がIFRS第17号「保険契約」(以下、「IFRS第17号」または「本基準書」という)を公表した。本連載では、難解といわれるIFRS第17号を分かりやすく解説するため、IFRS第17号の適用にあたり検討が必要となる主な論点をQ&A形式で説明する。第2回目の本稿では、IFRS第17号の骨子である保険負債の測定のうち、一般的な測定モデルであるビルディング・ブロック・アプローチ(BBA)を取り上げる。なお、文中の意見に渡る部分は私見である。

(注)特に断りのない限り、項番号および付録は本基準書のものを指す。

Q1.日本の保険会計とIFRS第17号における保険負債測定の主な相違点は何ですか?

A1.日本の現行保険会計では、生命保険契約を例にとると、契約者に対する将来の保険金等の支払義務に対する負債(責任準備金)は、契約当初の死亡率や解約率の予想に基づいて将来の支払金額を見積り、それを契約当初の市場金利に基づいて決定した割引率で現在価値に割り引くといった数理計算によって算出される。このため、契約当初に予想した死亡率や解約率、割引率が実績や市場金利とかい離した場合であっても、将来収支分析の結果計上される追加責任準備金を除けば、契約者に対する将来の支払義務(保険負債)に与える影響が財務諸表にただちに反映される仕組みにはなっていない。

一方、IFRS第17号では、保険契約によって将来生じる保険料や保険金といった一連のキャッシュ・フローを、毎期末にその時点の仮定(死亡率、解約率、割引率等)に基づいて再測定することにより、保険契約の現在価値を求める方法を原則として採用しているため、生命保険契約のような長期契約に基づく義務の実態をより正しく反映した測定値として有用と考えられている。また、保険契約から得られる収益も、保険料の収受のタイミングによらず原則として見積った将来キャッシュ・フローに基づいて算定される。
なお、日本の現行会計における生命保険契約の責任準備金の計算方式は平準純保険料式と呼ばれ、保険料中の純保険料および保険給付のみを見積りに反映した計算方式となっているが、IFRS第17号においては保険負債の測定に保険料中の付加保険料の他、新契約費、維持費といった事業費支出、配当金の支払等、契約の履行に直接関連するキャッシュ・フローのすべてを考慮する。ただし、一部の商品開発費や教育訓練費等の間接維持費についてはIFRS第17号においてもキャッシュ・フローには含めないこととされている。


Q2.BBAの概要について教えてください。

A2.BBAは、保険契約に基づいて将来生じることが予想される保険料および保険金、給付金等のキャッシュ・フローを見積ることにより保険負債を測定するアプローチである。IFRS第17号において一般的な保険負債の測定方法とされ、無配当契約等に適用される(32項他)。

BBAのもとでは、保険負債は将来キャッシュ・フロー、割引計算、非金融リスクに係るリスク調整(これら3つを合わせて「履行キャッシュ・フロー」という)および契約上のサービス・マージン(CSM)の4つのビルディング・ブロックから構成される(32項)。

1)BBA当初認識

  1. 将来キャッシュ・フロー
    新しい保険契約を発行しBBAに基づいて保険負債を計上する場合、当初測定日現在の仮定に基づいて、保険契約から生じる将来キャッシュ・フローの期待値を見積ることが要求されている(B38項)。
  2. 割引計算
    見積られた将来キャッシュ・フローに対して保険負債の特徴を反映する割引率によって、貨幣の時間価値及び当該キャッシュ・フローに係る金融リスクを反映することが要求されている(36項)。
  3. 非金融リスクに係るリスク調整
    非金融リスクに係るリスク調整は、企業が保険契約を履行するにつれて非金融リスクから生じるキャッシュ・フローの金額及び時期に関する不確実性の負担に対して企業が要求する報酬と定義されている(付録A)。
  4. CSM
    将来キャッシュ・インフローが、将来キャッシュ・アウトフローおよび非金融リスクに係るリスク調整の合計額を上回る場合、当該超過額をCSMとして認識することを要求している(32項、38項)。
    CSMは将来のサービス提供により認識される予定の未獲得利益を表しており、CSMを認識することで保険契約の当初認識時に利益が認識されることはない。
    保険契約の当初認識時においては以上4つのビルディング・ブロックの合計として保険負債が測定される。ただし、契約時点で保険料等の収受が未了の段階においては、CSMが割引計算された将来キャッシュ・インフローと将来キャッシュ・アウトフローおよび非金融リスクに係るリスク調整の差額として算出されることから保険負債計上額はゼロとなるのが原則である。
    例外的に、将来キャッシュ・インフローが将来キャッシュ・アウトフローおよび非金融リスクに係るリスク調整の合計額を下回る場合には、当該金額を損失(負債)として認識しなければならない。このような契約は不利な契約と呼ばれ、CSMはゼロとなる(47項)。


2)BBA事後測定

当初認識後、各会計期間末日において保険負債を再測定することが求められる(33項、40項)。

事後測定においては、1.各種仮定を会計期間末日のものに再評価することによる、将来キャッシュ・フロー、割引率および非金融リスクに係るリスク調整の見積りの変更、2.CSMのうち、当期に収益認識すべき金額を計上(CSMの償却)、3.保険負債に係る利息の計上等を行う(40項、41項、42項)。

将来キャッシュ・フローの変動によって当該保険契約から将来生じる利益(CSM)も変動する。このため事後測定による将来キャッシュ・フローおよび非金融リスクに係るリスク調整の変動額をCSMで調整する。
図表1は、事後測定のイメージを示している。

将来キャッシュ・フローの見積りの変更の場合、将来のカバーに関する変更のみがCSMを調整し、その他の変更は純損益またはその他の包括利益に計上される。
言い換えると、将来のカバーに関する見積りの変更は保険負債の内訳項目の間で調整されるため保険負債の総額は変わらず、それ以外の変更は保険負債と純損益またはその他の包括利益の間で調整されるため保険負債の総額が変動することとなる。

CSMの事後測定は、以下の計算式で算定される(44項)。

期末CSM残高=期首CSM残高+当期の新規契約に係る当初認識分+当該会計期間に係るCSMの利息±将来カバーに関する将来キャッシュ・フローおよび非金融リスクに係るリスク調整の変動分±外貨換算-当該会計期間に対応するCSMの償却額。

上記算式のうち、CSMの償却額は将来キャッシュ・フローおよび非金融リスクに係るリスク調整の再測定による変動額をCSMで調整した後に算定される。CSMは保険契約のデュレーション(予想残存期間)と給付金額を反映したカバー単位(coverage units)に基づいて、保険契約グループのサービスを反映するように当期を含めた各期に配分され、保険収益として計上される(B119項)。

また、CSMに関連する利息費用は当初認識時に使用した割引率を用いて計算することが原則である(B72項)。

なお、各会計期間において、以上の保険負債の変動額のうち、1.期首に見込んでいた当期の予想キャッシュ・アウトフロー(新契約費、投資要素の返済を除く)、2.非金融リスクに係るリスク調整の変動額(利息による増加、見積りの変更による増減を除く)、3.CSMの償却額は、保険サービスの提供に対する対価として保険収益に表示する(B121項(a)、B124項)。


Q3.BBAにおける経費の取り扱いについて教えてください。

A3.日本の現行保険会計においては、経費は原則発生時に費用処理されている。一方で、IFRS第17号においては一定の範囲の経費については、将来キャッシュ・フローの見積りに含める必要がある。IFRS第17号は経費をいくつかの区分に分類し、区分ごとにそれぞれ異なった会計処理および表示を求めている。IFRS第17号上分類が必要な区分は下記の通り。

保険関係の経費 (1)直接新契約費(B65項(e)) (3)間接費(B66項(d))
(2)直接維持費(B65項(f),(h),(l),(m))
投資関係の経費 (4)投資経費

はじめに会社全体の経費を保険関係の経費と投資関係の経費に分類する必要がある。投資関係の経費の分類についてはIFRS第17号上明記されてはいないものの、IASBが公表するXBRL形式のIFRS財務報告のための電子的雛型であるIFRS Taxonomyにおいて保険区分と投資区分の段階損益の表示が求められていることから区分する必要があると考えられる。

次に保険関係の経費を直接費と間接費に区分する。間接費についてはIFRS第17号において「当該契約を含んだ保険契約ポートフォリオに直接起因しないコスト」(B66項(d))と定義されている。B65項(l)において会計、人事、情報技術等にかかるコストや建物の減価償却費等、保険契約の履行に直接起因する間接費についても規則的かつ合理的な方法で各契約グループに配賦することが求められていることから、実務上の経費の大半はポートフォリオの履行に直接関連するコストとして各契約グループに配賦されることになると想定されるため、間接費の特定は限定的になると思われる。IFRS第17号においては間接費の例示として「商品開発や教育訓練のコスト」が挙げられている。このように区分された間接費については将来キャッシュ・フローの見積りには含めずに発生時に費用処理する(B66項(d))。

最後に直接費を新契約費と維持費に区分する。IFRS第17号において直接新契約費は「保険契約グループの販売、引受け及び開始のコストにより生じるキャッシュ・フローのうち、当該グループが属する保険契約ポートフォリオに直接起因するもの」と定義されている(付録A)。
なお、新契約費と維持費に直課できない費用項目については、配賦計算により新契約費と維持費に分類していくことになる。

直接新契約費と直接維持費については当初認識時の保険負債の測定において、将来キャッシュ・フローの見積りに含める。以後、直接維持費については期首に見込んでいた当期の予想キャッシュ・アウトフローを保険負債から減額し、保険サービスの提供の対価として保険収益に含める一方で、実際の発生額を費用処理する。直接新契約費については発生時に保険負債を直接減額する。

なお、直接新契約費の当初認識時の予想キャッシュ・アウトフローについては、時間の経過に基づいて規則的な方法で各期間の保険収益に配分し、同じ金額を保険サービス費用として認識することが求められている(B125項)。当該要求を満たすためには、直接新契約費について実際の経費支出による保険負債の変動と別個に、時間の経過による保険収益への未認識額の変動を管理する必要がある。


Q4.将来キャッシュ・フローの見積り方法について教えてください。

A4.

  • 履行概念
    IFRS第17号では、保険者が発行したすべての種類の保険契約に対して、履行概念に基づく現在価値測定モデルを適用している。別の概念として公正価値モデルがあるが、公正価値とは、測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格である(IFRS13号「公正価値測定」参照)。
    一方で、「履行概念に基づく」とは、保険者が保険負債を第三者に移転することを前提とするのではなく、保険契約者へのサービス提供によって一定期間にわたり直接に保険契約を履行するという事実を反映するように保険負債を測定することである(BC17項)。現在価値で測定するという点では、金融商品の測定で用いられる第三者との取引価格を表す市場価格や時価といった概念と類似しているが、保険負債の測定では保険契約を発行した保険者が保険金支払等のサービス提供を履行するという視点が大きく影響する点で異なっている。たとえば、保険契約を発行する企業の財務諸表において履行キャッシュ・フローは当該企業の不履行リスクを反映してはならず(31項)、将来キャッシュ・フローの見積りにおいて関連する市場変数の見積りが観察可能な市場価格と整合的であることを条件に、企業の視点を反映するとされている(BC19項)。
  • 将来キャッシュ・フローの見積りの実務的な対応
    具体的な将来キャッシュ・フローの見積り方法としては、将来キャッシュ・フローの構成要素ごとに設定した市場変数及び非市場変数(基礎率)に、見積り時点における保有契約から推定される将来の各会計期間におけるエクスポージャー(保有保険金額、年換算保険料等)を乗ずることにより算定することが考えられる。エクスポージャーについては基礎率ごとに共通ではなく、基礎率ごとに適当と考えられるエクスポージャーを選択していくことになる。なお、キャッシュ・フローがインフレーションに敏感である場合には、履行キャッシュ・フローの算定には、生じ得る将来のインフレ率の現在の見積りを反映しなければならない(B59項)。
  • キャッシュ・フローの予実差の検討
    IFRS第17号において、キャッシュ・フローの予想と実績の差の一部は実績調整として純損益に計上される。キャッシュ・フローの実績が予想と完全に一致することはないが、実績調整があまりにも多額である場合、将来キャッシュ・フローの見積りをもとに計算された保険負債は、保険契約に基づく義務の実態を正しく反映した測定値とは言えない。また、このような保険負債を含む財務諸表はもはや財務諸表の利用者にとって有用な情報ではなくなってしまう。そのため、保険契約を発行する企業は図表2に示すようなPDCAサイクルを通じて将来キャッシュ・フローの見積り精度の向上に継続的に取り組んでいく必要がある。
    特にバックテストに関しては過去の見積りの妥当性と将来の見積りの適切性の両者を疎明していくための重要な説明材料となり、IFRS第17号導入後の会計監査においても監査人の関心度が特に高い領域となることが予想されるため、あらかじめ保険会社の内部統制の一部として組み込んでおくことが望ましいと考えられる。
  • 将来キャッシュ・フローの見積りの再評価
    将来キャッシュ・フローの見積りは保険負債を再測定する度にその時点の保有契約に基づいて実施する。
    この際、エクスポージャーだけでなく、基礎率についても原則洗い替えることが必要となる。ただし、四半期ごとにすべての基礎率を洗い替えることは決算スケジュールや観察データの十分性の観点から実務上困難である場合がある。
    そのため、死亡率のような短期間での変動が通常見込まれない安定した基礎率については、バックテストや外部環境の重要な変動の有無の把握等により期中での重要な変動がないことを確認した上で前回洗い替え時点の基礎率を引き続き用いることも考えられる。
    一方で、割引率といった短期間での大きな変動が生じる可能性があり、保険負債の測定にも重要な影響を与える基礎率については、さらに高い頻度で洗い替えていくことも考えられる。
    基礎率の洗い替えについては粗基礎率の算定からアクチュアリーによる保険数理の視点による確認、粗基礎率の調整、社内における最終的な承認、外部監査人による検証に至るまで一定の算定期間が必要になると見込まれるため、実務負荷も考慮しながら決算スケジュールを検討していくことが必要である。


Q5.BBAに関する仕訳イメージを教えてください。

A5.保険負債をBBAで測定した場合の仕訳イメージについて、図表3の設例を用いて解説する。前提条件は下記の通り。

1)当期首に契約期間2年の保険契約を引き受けた。期中におけるその他の新契約はなし。

2)保険事故に対する保険金の支払いは翌期に行う。

3)企業は、会計方針として上記契約が属するポートフォリオについて割引率及びその他市場の変動による保険負債の変動の影響をその他の包括利益(OCI)として表示することを選択している(88項(b))。

4)企業は、非金融リスクに係るリスク調整の変動を、保険サービスの成果と保険金融収益・費用とに分解することを選択している(81項)。

5)直接新契約費の保険収益への配分は時間の経過に基づき、当期は予想キャッシュ・アウトフローの1/2を認識する。

 

1.当初認識時
当初認識時においては下記の通り履行キャッシュ・フローの差額をCSMとして認識するため、保険負債の合計額はゼロとなる。

保険負債(CIF) 100 保険負債(COF) 50
保険負債(新契約費) 10
保険負債(リスク調整) 10
保険負債(CSM) 30

2.期中仕訳
本設例においては保険料の収納時および新契約費の支払時には一旦日本基準と同様に損益計算書項目として認識している。決算仕訳において同額を保険負債の減額として認識する。

a.保険料の収納時

Cash 100 保険料 100


b.新契約費の支払時

新契約費 10 Cash 10

 

3.決算仕訳
a.発生保険金にかかる負債の認識
発生保険金について保険サービス費用を認識し、同額を発生保険金に係る負債として保険負債を計上する。

発生保険金 30 保険負債(発生保険金) 30

 

b.利息による増加

保険金融費用 12 保険負債(COF) 6
保険負債(リスク調整) 2
保険負債(CSM) 4

c.将来キャッシュ・フローのリリース
将来キャッシュ・フローのうち当期の予想発生額を保険負債から減額する(リリース)。ここで、将来キャッシュ・インフロー、直接新契約費については、期中仕訳において損益計算書項目として認識した金額を取り消して、保険負債の変動として処理している。

保険料 100 保険負債(CIF) 100
保険負債(COF) 25 保険収益 25
保険負債(新契約費) 10 新契約費 10


d.非金融リスクに係るリスク調整の保険収益への認識

保険負債(リスク調整) 6 保険収益 6


e.新契約費の保険収益への配分
直接新契約費の予想キャッシュ・アウトフローについては時間の経過に基づき各期間に配分し、配分額を保険収益および保険サービス費用として認識する。

新契約費償却 5 保険収益 5


f.履行キャッシュ・フローの見積りの変更(割引率の変更による影響額以外)

履行キャッシュ・フローの見積りの変更による影響額のうち、割引率の変動による影響額については企業が選択した会計方針に従いその他の包括利益として認識し(h.参照)、その他の変動による影響額についてはCSMを調整する。

保険負債(CSM) 8 保険負債(COF) 6
保険負債(リスク調整) 2

g.CSMの償却

保険負債(CSM) 13 保険収益 13


h.履行キャッシュ・フローの見積りの変更(割引率の変更による影響額)

その他の包括利益 5 保険負債(COF) 4
保険負債(リスク調整) 1

4.純損益及びその他の包括利益計算書における表示イメージ
本設例における当期の純損益及びその他の包括利益計算書のイメージは下記の通りとなる。なお、投資活動により投資収益を当期10計上したとものとしている。

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