IFRS保険会計Q&A(第1回)(週刊経営財務2017年9月25日号) | KPMG | JP

IFRS保険会計Q&A(第1回)(週刊経営財務2017年9月25日号)

IFRS保険会計Q&A(第1回)(週刊経営財務2017年9月25日号)

週刊経営財務(税務研究会発行)2017年9月25日号に、国際会計基準審議会(IASB)が2017年5月に公表した「IFRS第17号『保険契約』」に係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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はじめに

約20年に及ぶ議論を経て、2017年5月に国際会計基準審議会(IASB)がIFRS第17号「保険契約」(以下、「IFRS第17号」または「本基準書」という)を公表した。本連載では、難解といわれるIFRS第17号を分かりやすく解説するため、IFRS第17号の適用にあたり検討が必要となる主な論点をQ&A形式で説明する。第1回目の本稿では、総論、保険契約の定義、適用範囲、契約の結合および分離の各論点を取り上げる。なお、文中の意見に渡る部分は私見である。
(注)特に断りのない限り、項番号および付録は本基準書のものを指す。

1.総論

Q1.IFRS第17号「保険契約」はどのような特徴を有し、どのような会計処理を求めていますか?

A1.保険契約を扱った会計基準としてはIFRS第4号「保険契約」があります。しかし、これは各国の従来からの会計基準に基づく多様な会計実務を認めた暫定的な基準のため、投資家やアナリストにとって保険契約を発行する企業の財務情報を比較することが困難でした。

こうした状況を解決するため、最初の真に国際的な保険契約基準としてIFRS第17号が開発されました。そのため本基準書は、発行する保険契約等に関する首尾一貫した会計処理を定め、保険契約関連の情報を忠実に表示することによって、企業間比較の問題点を解決するとともに、保険契約から生じる財務業績等の評価に有用な情報を財務諸表利用者に提供するといった特徴を有しています。本基準書によって、現行のIFRS第4号は置き換えられることになります。

また本基準書では、保険契約は保険引受サービス契約と金融商品の両方の特徴を有しており、多くの保険契約は長期間にわたって変動するキャッシュフローを生成すると考えられています。こうした保険契約の特徴を反映するため、以下のような処理が求められています(IN5項)。

  1. 保険契約から生じる将来キャッシュフローを現在価額で測定するとともに、保険契約に基づいて保険引受サービスが提供される期間にわたり、当該契約から得られる利益を認識する。
  2. 保険引受サービスによる損益は、保険金融収益・費用と区分して表示する。
  3. 報告期間におけるすべての保険金融収益・費用を純損益に認識すべきか、それともその一部をその他の包括利益で認識すべきかについて、ポートフォリオごとに会計方針として決定する。


Q2.20年に及ぶ検討を経て、ようやくIFRS第17号が公表されましたが、関係団体の反応はどのような感じでしょうか?

A2.いくつかの関係団体が出しているコメントを簡潔にまとめると図表1のとおりです。

好意的なコメントもありますが、導入にあたって多大な労力が必要になる可能性や検討が必要な課題がまだあるといったコメントもあります。

本基準書は現行実務を抜本的に変更することになるため、上記のようなコメントに対応しその適用を支援するべく、国際会計基準審議会(IASB)は様々な施策を講じています。たとえばTRG(移行リソースグループ)を設立し利害関係者からの質問を議論したり、Website上で各種解説資料やWebcastを掲載したりしています。

図表1 関係団体のコメント事例

団体名 コメント要旨
FSB(金融安定理事会) 移行にあたって十分な時間は確保されていると思われるものの、出来るだけ速やかに適用検討を開始すること、および新基準適用が有用な情報提供となるようにIASBと対話することを奨励する。
EFRAG(欧州財務報告諮問グループ) IFRS第17号の公表を受けて、エンドースメント・ステイタスを更新し、エンドースメント・アドバイスのドラフトを2018年第1四半期に、最終版を2018年第3四半期に公表する予定。
Insurance Europe(欧州保険協会) 現在の暫定的なIFRS保険契約を置き換えるための開発を支援する。IASBは業界が提起した重要な課題の一部は認識したが、重要な懸念はまだ残っている。IFRS第17号は重要な変更をもたらし、適用のコストおよび労力は多大になるだろう。
European Insurance CFO Forum(CFOフォーラム) IFRS第17号は保険会社の財務諸表に重要な変更をもたらし、適用に向けた努力と関連するコストは多額になると予想される。我々が提起した課題のうち、解決が必要な部分がまだ残っている。
クリス・ピーチ:オーストラリア会計基準審議会(AASB)議長 保険会計は時に「ブラックボックス」と投資家から考えられてきたが、IFRS第17号では財務成績における収入や費用が他の企業と同様に決定されることから、保険会社とそれ以外を比較分析するアナリストにとって助けとなるだろう。一見すると豪州基準と似ているが、微妙に異なるところがあり、慎重な検討が必要。(その後、豪州ではAASB17を公表し、2021年から適用予定)

2.保険契約の定義

Q3.IFRS第17号の適用対象である「保険契約」とは何ですか?

A3.本基準書が適用される対象は「保険契約」であり、その定義に合致するものが「保険契約」とされています。本基準書における「保険契約」の定義は以下の通りです(6項、付録A)。

『本基準書における保険契約とは、契約発行者が保険契約者から、特定の不確実な将来の事象が保険契約者に不利益を与えた場合に保険契約者に補償を行うことに同意することによって、重要な保険リスクを引き受ける契約をいう。』

そのため、法的形態が保険契約であったとしても、あるいは伝統的に保険契約とされていたとしても、たとえば重要な保険リスクの移転がなければ、本基準書上は保険契約としては取り扱われません(BC72項)。他方、我々が普段「保険」として取り扱っていないものでも、定義を満たせば保険契約とされる可能性もあります。

したがって、本基準書を適用するにあたっては、保険契約の定義を理解するとともに、従来の実務にとらわれることなく、契約の経済的実態に基づき保険契約の定義への該当の有無を判定していくことが重要となります。


Q4.保険契約の判定はどのように行いますか?

A4.保険契約に該当するか否かについては、本基準書において以下のようなガイダンスが提供されています。具体的には、これらの要件に該当するか否かを個別に判定していくことになります。

  • 不確実な将来の事象があるか否か
  • 保険リスクと他のリスクの区別
  • 重要な保険リスクか否か


Q5.不確実な将来の事象とは何ですか?

A5.保険契約の主要な特性の1つとして、特定の不確実な将来の事象という点があります。これは、一般に「保険事故」として知られています。不確実性(またはリスク)は、保険契約の本質であり、保険契約の開始時点では、以下のうち少なくとも1つの事象が不確実でなければならないとされています(B3-B5項)。

  • 保険事故が発生するか否か
  • 保険事故がいつ発生するか
  • 保険事故が発生した場合に保険者はいくら支払う必要があるか


Q6.保険リスクと他のリスクはどのように区別しますか?

A6.保険契約によって補償される特定の不確実な将来の事象は、「保険リスク」を発生させます。保険契約の定義は、保険リスクに言及しており、本基準書では、この保険リスクを「財務リスク」以外で保険契約者から契約発行者へ移転されるリスクと定義しています(B7項)。契約発行者が、重要な保険リスクにさらされることなく財務リスクにさらされる契約は、保険契約に該当しないため、当該契約は金融商品等として会計処理されることになります。


Q7.財務リスクとは何ですか?保険リスクと財務リスクはどのように区別しますか?

A7.「財務リスク」とは、特定の利率、金融商品価格、コモディティ価格、外国為替レート、価格若しくはレートの指数、信用格付けまたは信用指数、またはその他の変数の将来の変動リスクのことをいいます(付録A)。ただし非金融変数の場合には、それが契約当事者固有でないものに限られます。

ある契約のもとで重要なキャッシュフローを決定する変数が非金融変数で、契約当事者に固有のものであり、かつ当該契約によって保険契約者から契約発行者に移転されたリスクであれば、保険リスクとなります。たとえば、死亡、疾病、就業不能、損害に起因する財産の喪失、盗難等の保険契約者のリスクは、契約当事者特有のものであるため、保険リスクに該当します(図表2参照)。

図表2 保険リスクと財務リスク(例示)

保険リスク 財務リスク

以下の保険契約者のリスク

  • 死亡
  • 疾病
  • 就業不能
  • 破壊または盗難による資産の損失

以下の1つもしくは複数の将来の潜在的な変動リスク(非金融変数の場合は、契約当事者に固有のものでない場合に限る)

  • 金利
  • 金融商品価格
  • コモディティ価格
  • 外国為替レート
  • 価格またはレートの指数
  • 信用格付けまたは信用指数
  • その他の変数

出典:付録A、B26項より筆者作成

Q8.重要な保険リスクとは何ですか?

A8.保険契約に該当するためには、「重要な」保険リスクが存在することが必要とされています(B17項)。本基準書は、保険リスクの重要性を評価するための定量的なガイダンスを提供していませんが、定性的なガイダンスは示されています(図表3参照)。実務的には、こうしたガイダンスに基づき「重要な保険リスク」に該当するかを判断していくことになると思われます。

図表3 保険リスクの重要性評価のための主な定性的なガイダンス

  • 発生した保険事故の結果として保険者が重要な損失を被るおそれのある商業実態のあるシナリオが少なくとも1つある場合、保険リスクは重要と判断される。
  • 重要な追加金額が支払われる可能性がある場合に、商業実態があると判断される。
  • 保険事故の発生可能性が極めて低いことや、偶発的なキャッシュフローの期待現在価値が契約から生じるすべての残存キャッシュフローの期待現在価値の小さな部分しか占めていないことは、重要な保険リスクの判定上問題にならない(B18項)。
  • 企業が現在価値ベースで損失を被る可能性がある商業実態を伴うシナリオがある場合にのみ、重要な保険リスクを移転すると判断される。
  • 再保険契約については、それが再保険契約の発行者を重要な損失の可能性に晒さない場合であっても、発行者に元の保険のうち再保険の対象となる部分に係る保険リスクを実質的にすべて移転させる場合には、重要な保険リスクを移転させる契約であるとみなされる(B19項)。
  • 重要な追加支払額が特定のシナリオにおいて発生するか否かを決定する際に、企業は貨幣の時間価値を考慮する(追加支払額を現在価値ベースで決定する)。そのため、名目上の金額と追加支払額が同額の場合であっても、現在価値ベースでは追加金額が支払われるシナリオがあると判断される場合がある。
  • 保険契約者への返済を遅らせる契約上の条件により、重要な保険リスクが除去される場合がある(B20項)。
  • 保険リスクの重要性は個々の契約単位で判定される。そのため、契約ポートフォリオ単位で重大な損失の発生可能性が限りなく小さい場合であっても、保険リスクは重要であると判定される可能性がある(B22項)。

3.適用範囲

Q9.IFRS第17号はどのような保険契約に適用されますか?

A9.本基準書の適用範囲は、以下に該当する保険契約とされています(3項)。

  1. 発行する保険契約(再保険契約を含む)
  2. 保有する再保険契約
  3. 発行する裁量権のある有配当性を有する投資契約(企業が保険契約も発行する場合)

本基準書は、企業が発行する保険契約(再保険契約を含む)および企業が保有する再保険契約に適用されます。加えて、企業が発行する裁量権のある有配当性を有する金融商品も適用範囲に含まれます。

一方で、本基準書は、例えばIFRS第9号「金融商品」の適用対象となる金融商品に関する会計処理、または保険会社のその他の資産および負債といった、保険者としての会計処理以外の側面については取り扱っていません(BC65項)。また、再保険契約の契約当事者以外の保険契約者による保険契約の会計処理についても取り扱っていません(BC66項)。


Q10.保険契約の定義を満たす契約でも、IFRS第17号の適用対象外となる契約はありますか?

A10.保険契約の定義を満たす一定の契約であっても、製造業者、販売業者または小売業者が提供する製品保証、従業員給付制度から生じる雇用主の資産および負債、金融保証の一部、企業結合で支払うかまたは受け取る条件付対価等については、本基準書の適用範囲外とされています(7項、図表4参照)。

図表4 本基準書からの適用除外または選択適用となる対象

適用除外 適用される会計基準
  • 製造業者、販売業者または小売業者が提供する製品保証
  • IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」
  • 従業員給付制度から生じる雇用主の資産および負債
  • IAS第19号「従業員給付」
  • IFRS第2号「株式に基づく報酬」
  • 確定給付退職制度が報告する退職給付債務
  • IAS第26号「退職給付制度の会計および報告」
  • 契約上の権利または契約上の義務のうち、非金融項目の将来の使用または使用権を条件とするもの
  • IFRS第15号
  • IAS第38号「無形資産」
  • IFRS第16号「リース」
  • 製造業者、販売業者または小売業者が提供する残価保証、およびファイナンス・リースに組み込まれた借手の残価保証
  • IFRS第15号
  • IFRS第16号

以下を除く、金融保証契約

  • 発行者が保険契約とみなすと以前に明確に主張した契約で、かつ、
  • 保険契約に適用する会計処理を従来から適用してきた契約
  • IAS第32号「金融商品:表示」、IFRS第7号「金融商品:開示」およびIFRS第9号「金融商品」
  • 企業結合で支払うか、または受け取る条件付対価
  • IFRS第3号「企業結合」
  • 再保険契約を除く、保険契約者側における保険契約の会計処理
  • 直接規定する基準はないが、関連するIFRS基準として例示されているIAS第37号「引当金、偶発負債および偶発資産」、IAS第16号「有形固定資産」等、他のIFRS基準に従う

 

選択適用 適用される会計基準

下記の要件を満たした場合の、金融保証契約

  • 発行者が保険契約とみなすと以前に明確に主張した契約で、かつ、
  • 保険契約に適用する会計処理を従来から適用してきた契約
IAS第32号、IFRS第7号およびIFRS第9号とIFRS第17号の選択適用が認められる。

下記の要件を全て満たした場合の、固定料金のサービス契約

  • 個々の顧客に関するリスク評価を契約における価格決定に反映していないこと
  • 現金支払でなく、サービス提供により顧客を補償する契約であること
  • 契約により移転される保険リスクが、これらのサービスコストに係る不確実性ではなく、主として顧客によるサービス利用から生じること
IFRS第15号とIFRS第17号の選択適用が認められる。

出典:7項8項、BC66項、IFRS第9号B2.5項(a)に基づき筆者作成

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