インド子会社におけるITを活用したガバナンス強化のための要点 | KPMG | JP

インド子会社におけるITを活用したガバナンス強化のための要点

インド子会社におけるITを活用したガバナンス強化のための要点

本稿では、インドに進出する日系企業の多くが抱えるガバナンス上の問題点や、その背景を探ってまいります。

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会社法改正やコーポレートガバナンス・コード、インド版SOXの導入や、更には在外子会社における売上の拡大などにより、インド子会社に対するガバナンス強化のニーズは高まっています。一方で、インドにおいて企業ガバナンスを強化するのは簡単ではなく、実際にKPMGが実施する日系企業向けのガバナンス・ヘルスチェックなどでも問題点が浮き彫りになる企業が非常に多くあります。
本稿では、インドに進出する日系企業の多くが抱えるガバナンス上の問題点や、その背景を探ってまいります。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • インド子会社管理において、管理不備のスパイラルに陥り、管理不備が慢性化しているケースが非常に多い。
  • インド固有のERPで最も有名なタリーは、データの物理削除が可能など様々な問題点を内包しておりガバナンス上の問題を引き起こしやすい。
  • 本社が利用するERPや、グループとして海外子会社向けに選定したERPを利用するケースの場合、当該ERPがインドに力を入れており導入実績も豊富であることが重要である。また、インドの税務や会社法などを熟知したベンダーをインド側に採用するべきである。
  • インド子会社で独自のERPを導入するケースの場合、自社にとって適正なERPと導入ベンダーを選定する必要がある。

I.インド子会社管理の実態

冒頭で述べたとおり、親会社における在外子会社のガバナンス強化の必要性は高まっているものの、在外子会社管理の実態はどのようになっているのでしょうか。
インド事業の立上げ当時から、有効な内部統制を内包した業務を設計し、大規模なERPを導入している日系企業もありますが、多くの会社は業務を進めながら内部統制、業務やシステムを構築したのではないでしょうか。このような企業では以下のような管理不備のスパイラルに陥ってしまい、管理不備が慢性化しているケースが非常に多く見受けられます(図表1参照)。

図表1 管理不備の負のスパイラル

出所:KPMGコンサルティング株式会社

図表1の状態で現地化を促進すれば、管理不備がさらに悪化することは自明です。このような管理不備のスパイラルに陥っている会社には以下のようないくつかの特徴があります。


管理不備のスパイラルに陥っている会社にてよく発生する事象

  1. ローカルスタッフ間の役割分担が明確でない。
  2. ローカルスタッフの流動性が高い。
  3. バックオフィス業務においても、手作業が多く作業負荷が高い。
  4. 税計算などの基礎的な計算を手計算しており、承認者である日本人もインドの税制等に詳しくないため、正しい税額が算出されているか不明である。
  5. 管理帳票の多くがExcelで管理されており、管理場所も整理されていない。
  6. 担当者や部署ごとで部品表や在庫データを個別に管理している。
  7. 複数の会計システムを並行稼働させ、月次ベースで2つのシステムの数値を突合させデータの精度を検証している。よって、2重入力が発生しており負荷が高い。

 

上記の結果として、発生する問題点

  • 不正が起きる/いつ起きてもおかしくない。
  • 決算処理に時間が掛かる。
  • 必要な情報が適時に入手できず、日本からの問い合わせや情報提供依頼にも多くの時間が掛かっている。
  • 決算向けの数字と、税務レポート向けの数字で誤差が発生するなど、情報の精度が低い。
  • 日本人管理スタッフの作業負荷が非常に高く、残業が大変多い。
  • いつも何かしらのトラブルが発生している。

 

上記の問題点の2つ以上が該当する場合は、管理不備の負のスパイラルに陥っている可能性があると考えられます。
上記の管理不備の負のスパイラルから脱却するにあたっては、業務の標準化、ルール化、さらにはマニュアルを整備することで、属人的な取組みを組織的な業務プロセスに改革する必要があります。

II.インドにおける特別な事情

インドを初めて訪れた日本人の多くはインドの特別な交通事情に驚かれただろうと思います。渋滞も酷いですが、交通規則も交通マナーも一般の日本人の想像をはるかに超えています。クラクションを鳴らし続け、車線も信号も守ることなく、常に割り込みを繰り返しながら車やバイクやオートリキシャが猛スピードで走って行きます。また、親子5人で一台のバイクに乗っている姿や、大人数でオートリキシャに相乗りする姿を見ると最大積載人数の決まりがあるのかすら分かりません。また、インドでは速度制限表示を余り見ることがなく、代わりにスピードを減速させるスピードバンプが多用されています。これは表示だけではルールが守られないため、強制的にルールを守らざるを得ない状況を作っているものと考えられます。このような背景からカルチャーショックを受ける日本人は多いのではないでしょうか。
このような交通事情が会社の業務にそのまま適用されることは勿論ありませんが、実際にインドでの業務の現場を見ていても、上記のような日本とインドの文化の違いについては認識しておく必要があると強く実感します。つまり、インドにおいてはルールを文書化するのみならず、そのルールを守らないと業務が運営できないような仕組みを構築することが求められています。これは業務システムを活用した内部統制の具現化ということになります。

III.インドにおける業務システムの事情と留意点

さて、インドに進出して事業を行っている企業のほとんどは何らかの業務システムを導入しているものと思います。これら、インドの日系企業が利用する業務システムの導入にあたってはいくつかのパターンが見られます。この項では、各パターンのメリット・デメリットや留意点を解説します。

1.地場のERPの導入

インド固有のシステム(例:タリー)を導入するケースです。ここでは、インドで最も有名なタリーを例にとります。タリーの特徴としては、以下が挙げられます。

  • 地場のERPであり、インド近辺の市場に特化している
  • インドにて20年以上の実績がある
  • 安価である(25,000円程度で購入もしくは月々1,000円程度から利用可能)


一方で、タリーを利用している日系企業においては、次のような課題も多く見受けられます。

  • タリー上の各種機能やデータが連動していない(受入と支払伝票など)ため、たとえば受入処理をしても当該データを利用して支払伝票を作成することができず、支払伝票もすべて手入力(購買先、品目、単価なども)する必要があり、入力ミスを起こしやすい
  • タリーにて管理できない情報は、別途Excelなどで管理する必要があるため、各種データを一元的に管理できない
  • 個人PC上にインストールされておりIT統制が確立されていない


(1)タリーの問題点1:データの連携
タリーを利用するすべての日系企業に当てはまる訳ではありませんが、多くの場合は、タリーの会計機能(買掛金管理、売掛金管理等)のみを活用し、受発注や在庫管理はExcelや他の地場ERPで実施しています。この結果、各種データが連携されず、発注書、受入、在庫登録と言った一連の手続きのすべての伝票等を手入力する必要性が生じます。また、Excelを利用して管理する場合は個別の担当者によって管理されており、業務が標準化されていないことも多く見受けられます。このように様々な情報が様々な担当者で個別に管理されている、さらには入力ミス等が多くデータの精度が低いことから、たとえば2ヵ月後の支払予定金額と言ったような簡単な情報ですら、データの収集、突合と修正等を繰り返し行う必要があり、結果として2週間程度の時間が掛かる上に情報精度が非常に低いといった日系企業も良く見受けられます。勿論のこと、決算時にも同様の状況が生じるため決算時の締め処理にも多くの時間が掛かります。このため、一部の日系企業ではタリーとは別に独自のExcelやAccessで構築した総勘定元帳等を設けて二重入力および二重管理し、ExcelもしくはAccessとタリーを突合することでデータの精度を担保しています。ただ、業務負荷が非常に高いため、実践している企業もこの解決法が最適とは考えていません。

 

(2)タリーの問題点2:税計算
また、タリーを利用している日系企業はタリーの問題点として、税計算をユーザーが行う必要がある点を挙げています。インドの複雑な税制を把握している一般事業会社の経理担当者(インド人)も中にはいますが、手計算なのでミスは生じ得ます。しかし、その伝票を承認する日本人管理者がインドの税制を理解しているケースは非常に少ないのが実情です。ヒアリングをしていくと、KKD(経験・勘・度胸)で各種伝票を承認しているとお話しされる大手企業の日本人駐在員の方も少なくありま
せん。

 

(3)タリーの問題点3:データ削除
さらに、タリーはデータの物理削除が可能な点が問題点として挙げられます。たとえば通常のERPの場合は、支払伝票を削除する場合においても、「削除フラグ」を付与することで、当該伝票が削除されたことのトレースが取れるようになっていますが、タリーの場合は(例え承認済みであっても)伝票を物理的に削除できてしまうため、その伝票が存在していたことのトレースが取れなくなります。実際に、この点を悪用されて不正を働かれている日系企業も存在します。


上記のような背景から、タリーを利用して5年程度たつ多くの日系企業では現地法人の経営層も上述のようなタリーの弊害が業務に強く支障を与えていることを理解し、タリーから他ERPへと乗り換え始めており、弊社にもお問い合わせを数多く頂いたり、ご支援を提供させて頂いているのが実態です。

 

一方で、タリーから他のERPへ変更した際に、しっかりとした検討がなされずに間違ったERPを、間違った方法で導入したが故に、ほとんど利用されておらず、結局タリーを継続して利用しているケースも散見されます。 以下は実際に弊社がヒアリングした際の実例となります。

  • ローカルスタッフにERP導入費用の見積りをさせ、本社に掛け合って予算を取ったが、見積りに含まれていたのは一部の費用だけで、導入費用が入っていないことが後に分かった。
  • アジアを拠点とするベンダーのシステムを導入したが、当該ベンダーはインドをマーケットとして捉えておらず、インドの税制改正等に対応できない。
  • 日本のIT部門が主体となってERPを導入したためインドの税務要件が理解されず、費用もスケジュールも当初の見積りを大幅に超えた上に、結局Excelを駆使して税務申告データを作成している。
  • 自社の規模に見合わないERPを導入し、結局プロジェクトが途中で頓挫した。
  • 地場のベンダーを使ってERPを導入してみたが、トレーニングもマニュアルもないことから、まったく使いこなせておらず、簡単な情報の抽出もできない。


大規模な日系企業を除き、ITの専門家をインドで抱えている企業は多くありません。また、インドの税制等や複雑性を理解するIT部隊を抱えている日本本社も多くありません。このため、ITが分からないインド側と、インドの税制等が分からない日本側でERP導入を推進し、結果的に失敗する事例は数多く存在します。
詳細は次に取り上げますが、このような背景から、タリーから他のERPに移行する場合には、インド側でも検討の初期段階からIT専門家に相談することが非常に重要になります。

2.本社や海外子会社向けERPのインド展開

本社が利用するERPや、グループとして海外子会社向けに選定したERPを利用するケースも良く見受けられます。 このような場合に留意すべき点としては、当該ERPがインドに力を入れており導入実績も豊富であることが重要となります。 インドの税制は世界的にも最も複雑な税制の1つである上に、税改正の発生頻度も高いことから、インドに力を入れていないシステムを導入すると、インドの税制に対応しきれずに、結果としてExcel等を活用して税務処理を行う必要が出る可能性があります。 また、この度のGSTのように大規模な税制改革にシステムが対応しない(ERPベンダーもインドの税制を理解していないため、対応できない)可能性もあります。実際にインド市場においてマイナーなERPを導入したことからERPが税対応できず、結果として税務処理をExcel上で実施し、決算上の数値と税務上の数値の突合に多大な労力を払っている日系企業も少なくありません。 また、数千万円の費用を投じてERPを導入したにもかかわらず、調達等の一部機能しか使えておらず、会計機能はタリーを使っているという企業も珍しくありません。このような会社においては、調達システムとタリー間の連携は人が手入力していると言うのが実態です。
また、インド市場でもメジャーと捉えられているERPを導入したにもかかわらず、本社主導で導入したことから、インドの実情にあっていないシステムとなってしまった日系企業も見受けられます。先に挙げたとおり、日本本社のIT部隊にインドの税制等を詳細に理解させることは困難を伴いますし、一方でインド子会社の担当者にERPの内容を理解させることも困難であることが一般的です。さらにはインド人と英語で電話会議を通じて要件を把握する必要があることから、知識とコミュニケーションの2つのギャップが同時に発生することも起きています。多くの場合は日本人駐在員が間に入ってコミュニケーションのハブとなりますが、基本業務が忙しいこと、ITの知識が少ないこと、などが原因となり最終的には駐在員が疲弊し対応ができなくなるケースが多く生じています。この結果として、インドにて必要な機能や内部コントロールが盛り込まれていないERPシステムを利用する日系企業も多く存在しています。このような場合、上述のようにERP外で税務処理を行っているケースが大半です。
なお、しっかりとしたERPが入っているにもかかわらず、管理不備の可能性がある場合には、これらの原因で何らかの問題があると考えられるため、外部のコンサルタントなどを活用し、業務およびシステムにおける内部コントロールをチェックする必要があります。また、今後本社等のERPを展開する場合においては、インド側でもIT関連のアドバイザリーを活用し、インドの実情にあった各種機能や内部コントロール機能が盛り込まれたシステムを導入すべきでしょう。

3.インド子会社独自でERPを導入する

インド子会社で独自のERPを導入するケースも数多くあります。また、当初はタリーを導入して使っていたが、上述のとおり問題が非常に多いため、インドで独自にERPを導入したいとのご相談を受けることも多くあります。ただ、先の「III 1. 地場のERPの導入」でも説明したとおり、自社にとって適正なERPと導入ベンダーを選定する必要がありますが、これをIT担当者の少ない現地法人のみで進めるのは非常に困難です。どのようなERPがインドではメジャーなのか、どのような導入ベンダーが存在するのか、それらを選定するための条件など様々な知見が必要になる上にすべてのコミュニケーションを英語で行う必要があります。特にご注意いただきたいのは、インドのSI(システムインテグレーター)ベンダーによく見られる傾向として、次の事項が挙げられます。

  • ERPそのもののセットアップだけが仕事の対象と考えており、結果としてマニュアル整備やトレーニングがしっかりと行われないままERPがユーザーに受け渡される。
  • ERP職人がプロジェクトマネージャになっているため、ERPの各種機能は非常に詳しいが、税制は分からず、プロジェクト管理の経験も少ない。
  • 実際にアサインされてきた人材が新卒ばかりで使い物にならない。


また、ローカル担当者が中心となりタリーを設定した場合、日本ではあまり考えられないような勘定科目が設定されているケースもよくあり、残高移行も一筋縄では行きません。このような背景から、弊社のようなコンサルティングファームにERPやベンダーの選定を依頼される日系企業も多くあります。また、インドでは日系企業においてもベンダーとは別にプロジェクト管理機能のみを中立的な立場の別のベンダーやコンサルティング会社に委託し、企業側にたってプロジェクトを管理し、ベンダーをコントロールさせることも一般的に行われています。ERP導入においては経営層が解決すべき課題も多々でてきますので、導入ベンダーまたはプロジェクト管理の委託先にプロジェクト管理に知見のある日本人が在籍していると、より安心して確実な導入に取り組めます。また、既に導入済みの場合においても、管理不備の可能性がある場合には、「III 2.本社や海外子会社向けERPのインド展開」で説明したとおり、業務およびシステムにおける内部コントロールをチェックする必要があります。

執筆者

KPMG インド バンガロール事務所
アソシエイト・ディレクター 田村 暢大

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