ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の台頭とその影響 | KPMG | JP

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の台頭とその影響

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の台頭とその影響

本稿では、ICOの仕組みについて解説するとともに、ICOの台頭が示唆する仮想通貨経済圏の拡大と仲介業者を軸とする既存の経済エコシステムへの影響について考察します。

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イニシャル・コイン・オファリング(ICO)やイニシャル・トークン・セール(ITS)と呼ばれる新たな資金調達手段が急速に台頭しています。
ICO/ITSに明確な定義はありませんが、一般的に、企業等が発行する独自の仮想通貨(コイン/トークン)を、購入者(投資家)がビットコインやイーサリアムといった流動性の高い仮想通貨で購入するという仕組みになっており、企業側から見ると資金調達手段の1つとなっています。
ICOの潜在的な影響については、中国等におけるICOの禁止や米国における法的位置づけに関する見解の公表など各国の政府・当局の素早い反応からもその大きさが伺えます。
本稿では、ICOの仕組みについて解説するとともに、ICOの台頭が示唆する仮想通貨経済圏の拡大と仲介業者を軸とする既存の経済エコシステムへの影響について考察します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 法定通貨ではなく仮想通貨で資金決済することで得られる金融商品の設計に係る柔軟性とその裏側に位置する資金調達側で満たされてこなかったニーズが合致することによってICOが急速に拡大している。
  • 仮想通貨とトークンの取引の一形態であるICOの台頭は、資金調達以外のトークン販売まで含めたトークン、さらにトークンに限らずあらゆる財やサービスが仮想通貨で決済される仮想通貨経済圏の拡大に発展していく端緒となる可能性がある。
  • 銀行といった資金決済側の仲介業者および証券会社といった株式や債券といった金融商品の仲介業者を不要とする仮想通貨経済圏の拡大は、これらの業界に対して構造転換を促すだけでなく、仲介業者を軸としたマネロン対策や消費者保護を図るための規制アプローチの抜本的な見直しに繋がっていく可能性を示唆している。

I.仮想通貨の機能

イニシャル・コイン・オファリング(ICO:Initial Coin Offering)やイニシャル・トークン・セール(ITS:Initial Token Sales)と呼ばれる仮想通貨を使った資金調達が世界的に急拡大するとともに、脚光を浴びています。
なお、ICOは、株式の新規上場を意味するIPO(Initial Public Offering)という用語になぞらえて使われるようになったものですが、実際の証券取引所に上場するわけではなく、また、ITSも含めて明確な定義はありません。本稿では便宜的にICOと表記します。

1.経済活動における2つの決済と通貨ごとの経済圏

ICOの仕組みおよびICOがもたらそうとしている影響について理解するうえではまず、日常の経済活動において、財(金融商品を含む)やサービスの取引は、通常、売り手と買い手の間で取引の対象物の受渡し(決済)と、対価の支払い(資金決済)という「2つの決済」によって成り立っていることを理解しておく必要があります。
資金決済には、通常、円や米国ドルといった法定通貨が使用されます。互いに使用する通貨が異なる場合、通貨自体の取引となる外国為替取引を別途実施する必要が生じ、相応の手数料や送金コストが発生します。また、取引に係る法規制も国ごとに異なるため、少額取引を中心に同一法規制・同一通貨の取引が選好されることになり、地域や通貨ごとに一定の経済圏が形成される傾向があります。

2.仮想通貨・ブロックチェーンの機能とICOの位置づけ

もう1つICOに係る理解を促すうえで踏まえておくべき事項として、仮想通貨およびその基盤技術であるブロックチェーン技術が提供している機能があります。
ビットコインをはじめとする仮想通貨は、図表1で示しているように、現行の経済システムにおいて提供されている複数の機能を単独で提供することが可能です。

図表1 仮想通貨が提供する機能と現行の経済システムで当該機能を提供しているもの

  仮想通貨が提供する機能 現在この機能を提供しているもの
1 価値の保存 現金、銀行口座、金(Gold)
2 価値の尺度 円などの法定通貨
3 価値の移転 現金決済、銀行間送金システム

 

こうした特性により、仮想通貨は、「1.価値の保存」の機能が活用され投資といった取引の対象となることもあれば、「3.価値の移転」の機能が活用され資金決済手段として機能することもあります。後者の場合、財やサービスの対価は、資金決済に使用する通貨建てで表示されることが一般的であり、自然と「2.価値の尺度」の役割も果たしていくことになります。
仮想通貨が持つこれらの機能は、過去からの取引記録を改ざんできない形で記録することにより、従来の巨大なサーバで集中管理する方式よりも格段に安価にデジタルデータである価値記録を第三者に移転することを可能にするブロックチェーン技術によってもたらされました。
ICOは、こうした仮想通貨・ブロックチェーン技術を応用して、流動性の高い仮想通貨を資金決済通貨とし、企業が発行するデジタルデータ(仮想通貨/トークン1)を取引の対象物として決済する商品の一例と言えます(図表2参照)。

図表2 「決済」と「資金決済」

II.ICOの仕組みと特徴

一般的なICOでは、企業等の発行者がトークンを発行し、トークンの購入者はビットコインやイーサリアムといった流動性の高い仮想通貨で資金決済を行います。
ICOを計画している企業等は、あらかじめ調達した仮想通貨の使途やトークン保有による便等を記載したホワイトペーパーと呼ばれる事業計画書を公表し、購入者側はこうした事前情報に基づいて購入の判断をする仕組みとなっていることが一般的です。

1.仮想通貨で資金決済する理由

ICOが法定通貨ではなく仮想通貨で資金決済する最大の理由は、金融規制です。法的通貨で集団投資スキーム型の資金調達をする場合、日本では金融商品取引法や取引所の上場規則など数多くの厳格な規制を遵守する必要が生じます。
ただし、仮想通貨で資金決済するだけでまったく規制が課せられない訳ではなく、民法等の一般法の対象となるほか、金融商品取引法や資金決済法などの金融規制の適用については、あくまでもトークンの性質によって判断されるものであることに留意が必要です。このため、ICOは、金融規制への適用可能性も踏まえて適切に商品設計を工夫することが重要となります。
一定の商品設計を満たす限り、既存の株式や債券といった金融商品と比較してかなり柔軟にトークン設計をすることが可能になります。たとえば、株式に似た性質を持つトークンであっても議決権を付与しない設計が考えられます。

2.トークンを発行する理由

企業等が発行する価値記録を表象する媒体が株式や債券でなくデジタルデータであるトークンである理由は、ブロックチェーン技術を活用したトークンを発行することにより、非常に安価に流通性のある媒体を発行できるようになったことがあります。
これまで、有価証券のような紙媒体でかつ流通性の高いものを発行するためには、偽造防止や印刷・保管コストなどが必要になり、また、デジタルデータを流通させる場合、資金決済システムのように独立性や高度なガバナンスを備えた「データ管理者」や高性能のシステムと厳格なセキュリティ対策が求められる「データ管理」とそれに見合う手数料が必要になるなど、いずれにしても割高な手法しかありませんでした。
また、トークンの発行は、容易に国境を越えて世界中からトークン購入者を募ることが可能になるというメリットもあります。このため、トークンのプラットフォームとなるブロックチェーンの基盤は世界を網羅的にカバーできるイーサリアムといったパブリック型ブロックチェーンを活用することが大半となっています。

3.ICOの特徴

前述のIPOとの対比で語られることの多いICOのメリットですが、ICOが現行の経済システムに与える影響を理解するうえで押さえておくべき特徴は以下のとおりです。

(1)資金調達手段としての利用者の範囲と利便性
IPOでは主幹事証券会社による審査や取引所の上場基準をクリアする必要があり、一定の経営実績や財務諸表監査が必要になるなど、資金調達までに要する時間やコストの面からだれでも利用可能な調達手段とは言えない一方、ICOは、IPOによる資金調達ができない企業であっても資金調達できる可能性があるなど「利用者の範囲」は、圧倒的に広いと考えられます。
また、ICOで発行されるトークンの設計は柔軟性が高く、株式に近い性質を持ちながら議決権を付与しない設計が可能など、企業側から見ると利便性は高く、今後は企業単位だけではなく、大企業の中の新規事業開発部門がプロジェクト単位でICOによる資金調達をするようなケースが出てくるかもしれません。

(2)トークンの売買における仲介業者の役割
IPOで株式を購入する場合および取得した株式を後日売却する場合、あえて相対取引することはなく、通常は証券会社経由で売買します。つまり、証券会社による仲介が株式の売買において大きな役割を担うことになります。
これに対して、ICO時のトークン購入者の資金決済は、ビットコインやイーサリアムを直接企業等に送る方法が一般的です。また、購入後のトークン売却については、仮想通貨取引所において取り扱われると売買が容易となるといった面はあるものの、基本的に取引相手が見つかる限りにおいては、自らトークンを売却することが可能です。つまり、ICO時の購入においてもICO後の売却においても仲介業者の役割は非常に限定的なものになっています。

4.ICOの法的位置づけ

一口にICOと言っても法的位置づけは一律ではなく、現段階では、トークンの性質に応じて検討していく必要があります。一般的には、トークンの性質を以下の図表3のような分類に当てはめて、考慮すべき法規制について検討するということが行われています。

図表3 トークンの性質に応じたICOの分類

収益分配型 トークンを購入し、収益に応じて分配を受け取る
プリペイド型 トークンを消費することで、特定の財・サービスを発行企業から受け取る
優待型 トークンの保持を条件として、発行企業から優待等を受ける
仮想通貨型 仮想通貨としての値上がり益を狙う

 

収益分配型は既存の証券法制の対象となる可能性が高く、トークンの設計には慎重な検討が必要となります。ただし、日本は仮想通貨が法定通貨と異なるとされていること等から、表面的には金融商品取引に法の集団投資スキームには該当しないのではないかと言われています。プリペイド型であれば、資金決済法上の前払い式支払い手段への該当可能性を検討しながら商品設計していく必要があります。
また、ICOの中には、一旦流動性の高い仮想通貨で独自の仮想通貨を購入し、その独自仮想通貨でトークンの売買を行うタイプもあります。この独自仮想通貨でのみ売買可能なトークンが拡大すると、当該独自仮想通貨に基づく一定の経済圏が確立されることになります。

5.ICOに対する海外当局の対応

海外の規制当局によるICOへの対応(図表4参照)を見ると、大きく中国などICO自体を禁止する国や米国など現行の証券法制への適用可能性に関してガイダンスが公表される国の2つに分けられます。
後者のケースでは、収益分配型に該当する場合、既存の証券法制が適用される可能性があります。日本と比べると、仮想通貨の法的位置づけ自体がまだ明確でないことから、経済実態に即して判断していく形になるため、日本よりも収益分配型ICOに証券法制が適用される可能性が高いと言えます。

図表4 海外当局のICOへの対応(2017年10月6日現在)

禁止 中国 全面禁止
韓国 全面禁止の方針
既存の法律の適用 米国 米国証券法への適用は実態に照らして判断(The DAOトークンは該当すると明示)
シンガポール デジタルトークンが証券の定義に当てはまる場合には規制対象
オーストラリア 「managed investment scheme」などになる場合には会社法の適用対象
香港 デジタルトークンが証券の定義に当てはまる場合には規制対象

III.ICOの台頭から仮想通貨経済圏の拡大へ

ICOを通じた資金調達は、2017年に入ってから急増しており、様々な統計が存在するものの、CoinDesk2によると、2017年8月24日までに募集を締め切った資金調達の合計は14億8674万ドルとなっており、2016年の2億5641万ドルを大きく上回ってい
ます。
また、この金額は2017年上半期のベンチャーキャピタルを通じた資金調達された金額869億ドルには及ばないものの、スタートアップ企業の資金調達手段として一定の地位を築きつつあると言えます。
しかしながら、ICOの台頭がもたらしている影響はベンチャーキャピタル市場にとどまるとは考えられません。

1.トークンのICO以外への活用

トークンというデジタルデータを活用して財やサービスを販売することは資金調達に限られるわけではありません。トークンに財やサービスを紐づけることにより、デジタルデータにしやすい金融商品だけでなく、実体のある商品や電子的な提供が難しいサービスについても売買の対象とすることが可能となります。
ただし、ICOのように市場が広がらない背景には、ICOと違って仮想通貨を資金決済手段としても商品特性に差が生まれないからだと考えられます。商品特性に差がなければ現時点では資金決済通貨は、現在使用している法定通貨が選好されることになります。

2.仮想通貨経済圏の拡大

ICOに参加するために仮想通貨を保有した者およびICOで仮想通貨を入手した者は法定通貨を仮想通貨に換えるというストレスを既に越えており、むしろ法定通貨に戻すことなく仮想通貨のまま別のニーズを満たす財やサービスを探しているかもしれません。法定通貨経済圏で販売されている財やサービスであっても仮想通貨で売れる時代が近づいていると言えます。
つまり、ICOの台頭は、単に新たな資金調達手段が現れたというだけではなく、仮想通貨を資金決済手段とする魅力的な大型商品が登場したことを意味し、法定通貨経済圏から仮想通貨経済圏の経済活動のシフトが進む端緒となった可能性があると考えます。
一旦仮想通貨保有者および保有額が拡大すると、仮想通貨で「しか」購入できない財やサービスだけでなく、仮想通貨「でも」購入可能な財やサービスに対する需要の拡大に繋がっていく可能性があると考えます。

IV.既存の経済を支えるエコシステムに与える影響

ICOの台頭単独ではなく、その後の仮想通貨経済圏の拡大まで見通した場合、経済を支えている既存のエコシステムは大きな影響を受けることになると考えられます。

1.金融システム・銀行システム

現在のエコシステムにおいて、資金決済は、中央銀行が構築する金融システムを通じて行われています。すなわち、現金決済に使用される紙幣は中央銀行券に限定され、為替取引は中央銀行を頂点とする銀行間決済システムを通じて行われるようになっています。
この金融システムにより、中央銀行は、市中に出回る資金量や短期金利をコントロールし、銀行は、銀行のみが為替取引を提供可能とする銀行法によって為替取引を業界独占的に提供3しています。
仮想通貨の経済圏の拡大は、送金・決済機能を仮想通貨が担うことによって、為替取引は銀行(口座)を通じて行われなくなり、資金決済に使われるマネーは銀行を通じて流れることはなくなり、中央銀行はマネーサプライをコントロールするすべを失うことになります。

2.金融商品の販売における仲介業者

ICOによる資金調達では、資金調達場面および発行されたトークンの売買場面での仲介業者の必要性は限定的であったように、取引がデジタルで完結するようになると、エンドユーザー同士が直接取引するようになり、仲介業者の役割は大きく減少します。
仮想通貨経済圏の拡大は、財やサービスの決済だけでなく、資金決済についてもエンドユーザー同士で完結できるようになるため、こうした資金調達および金融商品を含む財やサービスの売買場面における仲介業者の役割の減少を加速させるものになると考えられます。代わりに必要になってくるのが、幅広い商品をカバーするプラットフォームと顧客ニーズに応じた商品を検索・提案してくれる機能となってきます。

3.消費者保護

経済取引、特に金融取引が仲介業者を経ることなく行われるようになると、消費者保護やマネーロンダリング対策等の規制アプローチは大きく変わらざるを得なくなります。
現在の消費者保護やマネーロンダリング規制の多くは、金融機関を中心とした仲介業者への規制という形態が中心になっていますが、資金決済や財・サービスが仲介業者を通じて行われなくなる世界では仲介業者に対する規制では十分な規制ができなくなります。
また、財やサービスの決済においても資金決済においても、エンドユーザー同士で完結することが可能になるとすると、国境をまたぐ経済取引に対してどのような規制アプローチをとるかという課題も出てきます。

V.まとめ

ICOは、既存の資金調達手段にアクセス困難な企業のニーズを捉え、新たな資金調達手段を生み出しました。その原動力となったのが、仮想通貨とブロックチェーン技術です。
これにより、仮想通貨でしか購入できない財やサービスが台頭し、今後仮想通貨でも法定通貨でも購入できる財やサービスが次第に仮想通貨決済にシフトしていく形で金融取引を含むあらゆる経済活動が仮想通貨経済圏にシフトしていく素地ができつつあります。
また、資金調達は銀行や証券会社といった仲介業者を経ることなく、直接企業と投資家が結びつくエコシステムが構築されつつあります。仲介業者を経ない金融取引の拡大は消費者保護に対するアプローチを今後大きく変えていく可能性があります。
いずれにせよ、ICOの台頭を単なるブームと切り捨てたり、詐欺などの事例を取り上げてICO自体を否定したりするのではなく、本質を見極め、構造的な変化について理解し、今後のビジネス戦略に反映させていくことが重要です。

執筆者

KPMG ジャパン
フィンテック推進支援室
副室長 シニアマネジャー 保木 健次

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