収益認識に関する会計基準の適用による影響 | KPMG | JP

収益認識に関する会計基準の適用による影響

収益認識に関する会計基準の適用による影響

本稿では、収益認識基準の適用により重要な影響を受けることが想定される取引を例に挙げながら、考慮すべきポイントについて解説します。

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企業会計基準委員会(ASBJ)は平成29年7月20日、「収益認識に関する会計基準(案)」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識基準」という)を公表しました。ASBJは日本基準を高品質で国際的に整合性のとれたものとして維持・向上を図ることを方針として掲げています。収益認識基準は国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」の内容を出発点に開発されたものであり、一部を除き、IFRS第15号(米国基準はTopic606)とほぼ同様の内容となっています。
この収益認識基準を適用することによって、収益認識の「単位」、「金額」、「タイミング」が変わる可能性があります。また、単に会計処理の問題にとどまらず、業務やシステム、さらには経営管理に大きな影響を与える可能性もあります。
影響を受ける度合いは、企業のビジネスや取引形態によって様々ですが、この収益認識基準の適用によりどのような影響を受けるのかを把握し、あるべき管理体制を見定めたうえで、適切な対応を図ることが必要です。本稿では、重要な影響を受けることが想定される取引を例に挙げながら、考慮すべきポイントについて解説します。

ポイント

  • 収益認識基準の適用により、収益認識の「単位」、「金額」、「タイミング」が変わる可能性がある。
  • 収益認識基準の適用により、会計帳簿および会計システムに直接的に影響を与えるのみならず、関連する諸システムや業務にも影響を与える可能性がある。
  • 期間売上高が変わる可能性があることから、業績評価や管理会計の在り方を見直す必要が生じる可能性がある。
  • 収益認識基準の適用は、グローバルベースでのグループ会社間の比較可能性の向上に繋がる。

I.期間売上高が変わる?!

収益認識基準の概要

収益認識基準は、IFRS第15号と同様に、収益を認識するための5ステップモデルを採用しています。ステップ1(契約の識別)とステップ2(履行義務の識別)において収益を認識する「単位」を、ステップ3(取引価格の算定)とステップ4(取引価格の各履行義務への配分)で収益を認識する「金額」を、そしてステップ5(収益の認識)で収益を認識する「タイミング」を決めることになります。この収益認識の「単位」、「金額」、「タイミング」は、必ずしも我が国の会計慣行とは一致せず、収益認識基準の適用により、収益認識の「単位」、「金額」、「タイミング」が変わる可能性があります。
まず、収益を認識する「単位」についてですが、収益認識基準は、履行義務単位で収益を認識することを要求しています。履行義務とは、企業が顧客に財またはサービスを移転する約束です。現状、契約単位(受注単位)で収益を認識することが多いですが、当該契約の中に複数の履行義務がある場合には、収益を認識する「単位」が変わり、結果、売上を計上するタイミングは変わることになります。
次に、収益を認識する「金額」についてですが、収益認識基準は、収益は取引価格で認識することを要求しています。取引価格とは、財またはサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額をいいます。取引価格を算定するうえで、留意すべき点は、上述した「履行義務が何か」ということと、「最終的にいくらのキャッシュを獲得できると想定されるのか」ということです。
最後に、収益を認識する「タイミング」についてですが、収益認識基準は、収益を履行義務単位で、それぞれの履行義務が充足した時、または充足するにつれて認識することを要求しています。取引が財の提供なのかサービスの提供なのかという点ではなく、企業が履行義務(約束)をどのように果たしているのかという、履行義務の充足パターンによって収益を認識するタイミングが決められることになります。
収益認識基準の適用により年度における売上高が変わるパターンとして2つのパターンが想定されます。1つは、契約のトータルの売上高は変わらない、すなわち収益認識のタイミングが変わるだけというものです。もう1つのパターンは、売上高計上金額そのものが変わるものです。現状の処理では、収益と費用が両建てで計上されているものが、収益認識基準では、総額表示でなく相殺(または収益から控除)されるケースが該当します。詳細は、「III.代理人取引およびリベート」にて説明します。

収益認識基準の適用によるインパクト

収益認識基準の適用によるインパクトは、次の5つのインパクトに整理できます。

  1. 会計ルール(会計処理)に与えるインパクト
  2. 会計上の管理に与えるインパクト
  3. 契約上の管理に与えるインパクト
  4. 経営上の管理に与えるインパクト
  5. ビジネスのあり方の変革

1.会計ルール(会計処理)に与えるインパクト

収益認識基準の適用は制度対応であり、現状の会計処理を基準の要求事項にしたがって変更していかなくてはなりません。現状の会計処理と大きく異なる場合には、会計方針書として取り纏め、経理部門のみならず、営業部門等関連する部署への周知が必要となります。


2.会計上の管理に与えるインパクト

収益認識基準の適用によって、現状の会計処理を基準の要求事項にしたがって変更していかなくてはなりませんが、変更するために必要な情報が、現状の体制で入手できているのか確認する必要があります。もし、必要な情報が、現状の体制では入手できていないのであれば、どのようにして必要な情報を入手するかを検討しなければなりません。場合によっては、システムの改修が必要となる可能性があります。
また、当該基準は個別財務諸表から適用されるため、日々の会計帳簿への記帳が必要となるケースも想定されます。その点において、連結財務諸表のみ適用となる、IFRSの任意適用とは、対応が異なるわけです。日常の会計帳簿への記帳は従来通り行い、月次(または四半期末)決算において修正仕訳を入れるという対応も考えられます。収益認識基準の適用による影響が限定的で、差異調整金額を簡単に特定できる場合は、このような決算時対応でも問題ありませんが、毎月次決算において、このような差異調整を行うとなると、経理部門の負荷が増大することになり、かつ、他の部門(特に営業部門)も決算が確定しないと業績を把握できなくなるということが課題となります。
日常の記帳から、収益認識基準に対応していこうとする場合には、日常の業務プロセスや販売システムの変更が必要となります。また、内部統制上のキーコントロールの見直しも必要となります。


3.契約上の管理に与えるインパクト

収益認識基準の適用により、収益認識の「単位」、「金額」、「タイミング」が変わることは、契約管理(受注残管理を含む)や債権管理にも影響を与えます。特に収益認識の「単位」が変わる場合は影響が大きいことが想定されます。詳細は「II 複数の履行義務」にて説明します。


4.経営上の管理に与えるインパクト

収益認識基準は、管理会計にも影響を与えます。制度会計は、収益認識基準の要求事項にしたがって処理しますが、管理会計は、従前のやり方を踏襲するということも考えられます。会計帳簿を含む制度会計と業績評価指標となる管理会計に、重要かつ複雑な差異が存在することは、その差異を常に把握しておかなければならないことの煩雑性や、場合によっては重要な判断を誤るリスクが避けられないことを鑑みると、やはり制度会計と管理会計は一致することが望ましいと思われます。
収益認識基準の適用により、特に適用初年度は売上高が減少することが多いのではないかと思われます。そのため、KPIの見直しが必要になるかもしれません。また、収益の認識のタイミングが変わることから、特に営業部門の業績評価や業績連動報酬に影響を与えることとなります。すなわち、契約の獲得のタイミングと収益認識のタイミングがずれることがあるので、業績評価の方針を変更する必要があるかもしれません。


5.ビジネスのあり方の変革

収益の認識における見積りと判断の困難性が、ビジネスそのものの複雑性に起因する場合、ビジネスの前提となる契約を見直そうとする誘因が発生するかもしれません。たとえば、複雑なリベート体系を、収益認識基準の適用を契機に、よりシンプルなものに変更することもあるかもしれません。

II.複数の履行義務

取引概要

1つの契約に複数の履行義務があり、それぞれの履行パターンは異なりますが、契約の取引価格は区分されていない場合には、重大なインパクトがあることが想定されます。たとえば、機械の販売に1年間のメンテナンスサービスを付けて販売し、2年目以降は、メンテナンスサービスを有料で販売するといった取引です。顧客の側から見ると、メンテナンスサービスの提供を受けなかったとしても、当該機械を支配することで便益を享受でき、また、企業側から見ても、メンテナンスサービスを個別で提供しているため、区分することができるような場合、機械の販売とメンテナンスサービスの提供は、それぞれ別個の履行義務となります。1年間のメンテナンスサービスは無料で提供すると思われがちですが、実はそうではなく、機械の販売とメンテナンスサービスの提供という2つの履行義務をディスカウントして販売したことになります。このような場合、それぞれの履行義務の独立販売価格の比率で、取引価格を配分することが求められます。それぞれ配分された取引価格をもって、機械の販売時とメンテナンスサービスの提供時(機械の販売後1年間にわたって)収益を認識することになります。
小売業やカード会社などで実施されているポイント制度や旅客運送業のマイレージサービスなども、それらが顧客への財・サービスの提供に伴って発生するものであれば、別個の履行義務として識別されます。

業務プロセス・システムへの影響

多くの企業では、会計システムと業務システムを一体的に運用するERPを利用していたり、それぞれ別個のシステムを使用している場合であっても、それぞれがインターフェイスによって連携していると想定されます。現状では、契約管理システムに、契約(または受注)単位で取引が入力され、同じ単位で販売管理システム、会計システム、債権管理システムに繋がっており、通常、契約価格と売上計上額と請求額は一致しています。ところが、契約の中に複数の履行義務がある場合、契約管理システム(または販売管理システム)に入力された契約価格が複数回に分かれて売上計上される場合、契約金額をそのまま売上計上することができなくなります。また、従来契約価格で一括して請求していたものを、収益を認識する単位が変わったからといって、わざわざ分けて、かつ一部を遅らせて請求するとは考えにくいので、売上計上額と請求額も一致しなくなります。これらの差異をどのように調整していくかが課題となります。

III.代理人取引およびリベート

取引概要

現状の会計処理においては、収益と原価を両建てで処理していますが、収益認識基準においては、両建てをせず、収益から相殺(または控除)される取引があります。ここでは典型的な例として、代理人取引とリベートについて説明します。

  • 代理人取引
    現状の実務では、契約が売買契約となっており、支払いが総額でなされる場合には、総額で売上高を計上することが多いと思われます。しかし、収益認識基準では、契約形態にかかわらず、財・サービスを企業の裁量で、自由に処分できない場合には、代理人取引となることが多く、その場合には、収益は、手数料相当分または利益相当分のみが認識されます。
  • リベート
    収益認識基準では、リベートは取引価格から減額することが明記されています。それに加えて、名目上はリベート以外のもの(たとえば、販売奨励費)であっても、その支払いの対価として、別個の財・サービスの受領が無い場合には、実質的なリベートとして取引価格から減額されます。

取引の影響

これらの取引は単に収益と費用を相殺(控除)するだけですので、業務に対する負荷は大きくありませんが、売上高の減額の影響は大きくなることがあります。利益に与える影響はないのですが、売上高に与える影響をしっかりと認識したうえで、対外的な説明や経営管理への対応を検討する必要があります。

IV.変動対価

取引概要

顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を「変動対価」と言います。変動対価には、以下のものが含まれます。

  • ボリュームリベートのように、一定の条件を満たした場合に支払われるリベート
  • 単価については事後的に交渉によって決定する、または、市場価格を含む一定の計算式によって事後的に算定されることが取り決められ、単価が確定するまでは仮単価にて取引を行い、後日単価が確定した時に、それまでの取引価格を遡及して修正する取引
  • 通常の対価の他に、目標達成を条件に支給するボーナス

変動対価については、期待値(確率で加重平均した金額)か最も可能性の高い金額のうち、企業が財・サービスの移転と交換に受け取る権利を有する対価を、より適切に予測する方の金額で見積もるとともに、不確実な事項が解消されたときに、認識した収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い金額までしか収益を認識できないという制限を受けます。

業務プロセス・システムへの影響

現状の収益認識の実務は、企業会計原則における実現主義の原則によって、確定した金額で処理する慣行が根強くあるため、変動対価については、その変動部分が確定した時に処理することが多いと思われます。しかし、収益認識基準はIFRSのコンセプトを踏襲しているものなので、取引の実態をより正確に表すために、見積りや判断の要素が取り入れられています。
この考えに対応するため、変動対価の見積り方法、見積りのプロセスを構築しなければなりません。見積りのプロセスには、重大な戻入が生じない可能性についての判断が必要となります。このような見積りや判断にあたっての根拠となる情報が、現状の体制では取れないのであれば、情報収集の仕組みを構築することが必要であり、場合によってはシステムの改修が必要となります。
変動対価の見積りは単に経理部門だけの問題ではありません。営業部門の業績評価をどのように測定するかにもよりますが、変動対価の見積りは、営業部門においても納得のいくものでなければなりません。

V.収益認識基準の適用にあたって

以上説明してきたように、収益認識基準の適用は、単なる会計処理の変更ではなく、企業の業績管理の在り方にまで影響を与える可能性があります。また、営業部門にも重大な影響を与える可能性があります。この収益認識基準の適用にあたり、どのように対応していく必要があるでしょうか。
まずは、収益認識基準の適用よる影響をしっかりと把握することが必要です。期間売上高に与える影響、業務処理および管理に与える影響、経営管理に与える影響の度合いを見極めて、しかるべき対応を検討することが必要です。
その際に、単なる制度対応ではなく、管理体制を見直す絶好の好機ととらえることが重要です。特に、グローバルに展開する企業においては、海外子会社は、IFRSまたは米国基準を適用しているので、収益認識基準とほぼ同様の処理を行うことになります。したがって、この収益認識基準の適用により、グループ会社間の業績比較可能性が向上すると考えられます。その上で、マネジメントは、収益認識基準適用後のあるべき管理体制を見定めて、対応の方針を定め、それを受けて経理部門と営業部門が連携して対応していくことにより、会計ガバナンスのさらなる向上にも繋がるものと思われます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
パートナー 荻野 毅

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