ベルギーの投資環境と事業展開上の留意点 | KPMG | JP

ベルギーの投資環境と事業展開上の留意点

ベルギーの投資環境と事業展開上の留意点

本稿では、欧州における中核国の1つであるベルギーを取り上げ、ベルギーにおける投資環境および同国への新規市場参入を検討する際の事業展開上の留意点について解説します。

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英国のEU離脱に端を発し、米国トランプ政権の誕生など世界的に台頭する保護主義のなかで、2017年は欧州主要国における国政選挙が集中する年となり、欧州における政治経済環境は不確実な時代に入りつつあります。他方、日EU経済連携協定(EPA)交渉が7月に大枠合意に至るなど、日本企業にとって欧州市場の重要性は今後ますます高まり、魅力的な投資先であり続けると思われます。
本稿では、欧州における中核国の1つであるベルギーを取り上げ、ベルギーにおける投資環境および同国への新規市場参入を検討する際の事業展開上の留意点について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • ベルギーには投資環境として、地政学的な優位性、発達した物流インフラ、教育水準が高く多言語対応可能な労働人員、イノベーション重視の優遇税制などの特徴があり、欧州統括会社をベルギーに設置する日系企業も多い。
  • 連邦政府は、来年度からの法人税率の段階的な引き下げ(2020年度までに25%に)、2020年度からの連結納税制度の導入を含む税制改革の骨子を公表しており、今後投資先としての魅力がさらに高まる可能性がある。
  • ベルギーで会社を設立する際、日系企業にとって一般的な法人形態は、株式会社と有限会社である。会社設立には通常2~4週間程度の期間を要する。
  • 上場している多国籍企業のベルギー現地法人は、非上場、小規模の会社でも、法定監査、財務諸表の開示が要求される点に注意が必要である。また、日本の親会社のIFRS適用に伴い、決算の早期化が課題になることが多い。

I.ベルギーの概況、日系企業の現況および投資環境

1.ベルギーの概況

ベルギー王国は、ドイツ、フランス、オランダ、ルクセンブルグと国境を接し、イギリスとは海峡を隔てた隣国という関係で、5億人を超える豊かな消費人口を抱えるEU市場のほぼ中央に位置しています。国土面積が約3万km2(日本の約12分の1)、人口が約1,130万人の比較的小さな国ですが、2015年の名目GDPで世界26位、ユーロ圏では6位の経済力を有しています(IMF World Economic Outlook)。また、首都ブリュッセルは、欧州連合理事会、欧州委員会、NATOをはじめとする多くの国際機関の本部が設置される世界でも有数の国際都市です。
ベルギーは立憲君主制を敷いており、ブリュッセル首都圏地域、フランダース地域、ワロン地域の3つの地域と、フランス語、オランダ語、ドイツ語を使用する3つの共同体から成る連邦制をとっています。3つの公用語を持つ多言語国家であることに加え、古くからラテン、ゲルマン、アングロ・サクソン文化が交わる多文化社会でもあり、新しいアイデアや新製品のテストマーケットとしても注目されています。

2.日系企業の現況

日本とベルギーは1866年に外交関係を樹立し、昨年150周年を迎えました。現在、約230社の日系企業がベルギーに進出しており(外務省 海外在留邦人数調査統計)、欧州統括会社をベルギーに設置する企業も多く見られます。図表1では、直近5年間のベルギーへの直接投資額(FDI)を示しています。欧州債務危機等を背景に一度は落ち込んだものの、2015年以降堅調に増加しています。また、最近では、日系製薬会社や電気機器製造会社による大型買収関連の発表もあり、ベルギーが日系企業の投資先として有力な候補地であることが伺えます。

図表1:ベルギーへの直接投資額(出所:財務省)

ベルギーへの対外直接投資額(FDI)

ベルギーへの直接投資額(出所:財務省)

3.ベルギー投資環境

(1)欧州中核国としての魅力
ベルギーの投資環境の特徴として、以下のような点が挙げられます。

  1. 欧州市場へのゲートウェイとしての位置づけ
  2. 欧州の中央に位置する有利な立地に加え、港湾・空港などの発達した交通インフラ
  3. 首都ブリュッセルが、EUやNATOが本部を置く国際的な意思決定の場であること
  4. 高い労働生産性、外国語能力が高く、高度な教育を受けた人材を容易に雇用できること
  5. イノベーション重視の政策、研究開発活動や知的財産に関する優遇税制
  6. 他の欧州主要都市に比べて安価な不動産価格
  7. 外国人が暮らしやすい生活環境、優れた医療制度や日本人学校

 

(2)投資を検討するうえでの留意点

1.高い法人税率と税制改革の概況
ベルギーの法人税率は33.99%で、イギリスの19%、オランダの25%、ドイツの29.55%等と比較して高い水準にあります。ベルギーには、事業資本を仮に借入金で調達したとみなし、利息相当の金額を課税所得から控除することができる「みなし利息控除制度」があり、かつてはこの制度の適用により、実際の税負担を大幅に下げることが可能でした。
ただし、この制度の計算で使用される国債金利は欧州中央銀行のマイナス金利政策などにより近年大幅に下落し、2014年度に2.63%だった適用利率は、2017年度には0.237%となっており、制度の優位性は低下しています。
この点に関しては、現在の法人税率を2018年度に29.58%、2020年度以降は25%に引き下げること、2020年度以降の連結納税制度の導入などを含む税制改革案が、今年8月に連邦政府内で合意されています。

2.高い雇用コストと削減施策
ベルギーでは、社会保障費の企業負担の料率が約32.5%と高い水準にあり、個人所得税率が高いことと併せて企業の雇用コストの引き上げの要因となっています。
この点に関して、政府が進めているタックスシフト政策の一環で、社会保障費の企業負担は段階的に引き下げられており、従来約35%だったものが2016年4月1日より現在の約32.5%に改正され、2018年1月1日以降はさらに27.5%まで引き下げられることが決まっています。
また、研究活動に従事する一定要件を満たす従業員の雇用、シフト勤務と夜間勤務での雇用、経済状況の芳しくない特定の地域での雇用に関しては、雇用促進のための助成金制度が整備されており、それらを適用することで雇用コストの削減や優秀な研究開発人材を低コストで雇用できる可能性があります。

II.ベルギー 現地法人の設立

1.現地法人の設立形態

ベルギー会社法では10以上の法人形態が選択可能で、現地法人設立の検討にあたっては、事業目的、法人としてのガバナンス構造、資本構造等を踏まえて最適な形態を選択する必要があります。代表的な法人形態は、株式会社(SA/NV)と、有限会社(SPRL/BVBA)です。
一般的に有限会社は、事業活動の規模が小さい場合に採用されることが多く、事業規模や事業領域の幅広い多国籍企業は、株式会社を選択することが多い傾向にあります。それぞれの形態の主な違いは図表2のとおりです。
なお、ベルギーにおける会社設立には、通常2週間~4週間程度の期間を要します。また、設立する会社の本店所在地によって使用する公用語が異なるため、(フランス語、オランダ語、ドイツ語)注意が必要です。

図表2 株式会社と有限会社の比較

  株式会社(SA/NV) 有限会社(SPRL/BVBA)
株主

2人以上の株主(個人、法人)が必要。

1人でも設立可能。

払込資本

最低資本金 61,500ユーロ。

※各株式に対して最低25%の払込が必要。

最低資本金 18,550ユーロ。

※設立時の要払込金額は出資者数により異なる。

株式と譲渡制限

記名式株式および電子式株式(無記名)。

譲渡は原則自由だが、定款で一定の制限を加えることも可能。

記名式株式。

譲渡は、譲渡対象の株式を除く、3/4以上の株式を保有する株主の半数以上の同意が必要。

取締役

取締役会の設置義務があり、最低3名以上の取締役から構成。

取締役会の設置義務はない。

1名あるいは複数の経営者による経営。

※経営者は出資者でなくてもよい。

代表権

原則として取締役会自体が代表権を有する。

定款で規定することで、1人または複数の取締役に、個別または共同の代表権を付与できる。

経営者が代表権を有する。複数の経営者がいる場合、それぞれ単独で代表権を行使できる。

定款で、複数の経営者の署名が必要となるよう規定することも可能。

III.決算、法定監査要件に関する留意点

1.非上場企業であっても要求される財務諸表の開示

ベルギーでは非上場企業であっても、株式会社、有限会社共に、年次財務諸表の開示が求められます。開示はベルギー国立銀行への提出を通じて行なわれ、提出期限は期末日から7ヵ月以内かつ株主総会での年次財務諸表の承認から1ヵ月以内です。

2.上場企業(多国籍企業)に要求される法定監査

株式会社、有限会社共に、連続する2会計年度にわたり、以下の基準の2つ以上に該当する会社は法定監査人を任命する必要があります。

  • 年間平均従業員数50人以上
  • 年間売上高900万ユーロ以上
  • 総資産450万ユーロ以上

なお、連結財務諸表を作成・開示するグループ企業に属している場合、親会社を含めたグループ企業としてこの条件が適用される規定があるため、上場している多国籍企業のベルギー現地法人は殆どの場合、法定監査が要求されます。
また、労働協議会を設置する会社(すなわち、年間の平均従業員が100人以上の会社)は、ベルギー会社法に定める特定の責務を担う監査人の設置が義務付けられています。

3.IFRS適用会社では決算早期化が課題

上記のとおり、上場企業のベルギー現地法人は、非上場かつ規模が小さい場合でも、年次財務諸表の開示および法定監査が義務づけられていることに留意が必要です。
また、ベルギー特有の論点ではありませんが、親会社がIFRSを適用する場合、決算早期化が課題になるケースがあります。財務諸表開示までの期限が最長7ヵ月と長いことから、ベルギー企業では日本での実務と比べ、決算のタイミングが遅い傾向がみられます。日系企業の現地法人でも、日本の連結財務諸表に関する会計基準で親会社と子会社の3ヵ月以内の決算日の違いが許容されているため、たとえば、親会社が3月末決算、ベルギー子会社が12月末決算の場合、1.5ヵ月程度掛けて決算を行う例も珍しくありません。
IFRSでは決算日の統一が求められるため、親会社が新たにIFRSを適用する場合や既にIFRSを適用している会社がベルギー企業を買収する場合に、ベルギー子会社側での決算早期化が課題になることがよくみられます。

IV.終わりに

本稿では、ベルギーの投資環境と事業展開上の留意点として、ベルギーが有する投資環境上の優れた特徴および税制や雇用コストなどの課題のほか、新規にベルギーに子会社を設立する際の会社法上の留意点に加えて、日系企業の親会社のIFRS適用に伴う決算上の影響などについて解説しました。上述のとおり、政治環境が流動的な欧州ではありますが、欧州における地政学的な優位性から、ベルギーに欧州統括会社を設置する、あるいは、業容拡大施策として大型買収を実行する日系企業の事例もあります。本稿が、日系企業の皆様にとって、今後の欧州事業戦略を検討するうえでの一助となれば幸いです。

執筆者

KPMG ベルギー
ブリュッセル事務所
シニアマネジャー 西村 睦

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