いまや常套句の「崖っぷち」 | KPMG | JP

いまや常套句の「崖っぷち」

いまや常套句の「崖っぷち」

The Brexit Column - KPMG英国のMark Essex(パブリック・ポリシー部門担当ディレクター)は、Brexit(英国のEU離脱)に関する警告が過度になされインパクトを失ってしまったものの、根底にある危険性は依然としてある、と異議を唱えています。

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EUとの離脱交渉で難航する英国は、「崖っぷちに立っている」と広く知られています。総選挙以来、日曜のテレビ番組で取り上げられる政治家のインタビューから新聞紙面にいたるまで、1日に何度かはこのフレーズを見聞きするようになりました。当初は人々の感情に訴えていたこの「崖っぷち」というイメージも、頻繁に使われすぎて、いまや死喩、つまり、常套句となり果てた感があります。

Brexitは前例のない大きな出来事ではありますが、Brexitがもたらすものと同様の混乱を体験するのは、私たちにとって初めてではありません。2000年の燃料価格高騰に対する抗議運動や、2010年にアイスランドで起こった火山噴火は、私たちが対応すべき課題について有益な教訓となります。

離脱交渉の合意が期待される一方で、もしも、すべての事項が合意に至らなければ合意と見なされないということなら、経済状況が落ち着くまで相当な時間がかかるのは必至です。英国とEUの2つの交渉チームは、スタート地点では距離をおいていました。一方で、軌道修正し、崖から離れ、合意に近づいて経済の安定をめざすには、何かを変えていかねばなりません。

急停止

Brexitにかかる通商と関税に関する交渉期限は、2019年3月29日に設定されています。万一交渉が決裂し、暫定措置もとられなかったとすると、例えばパリでレンタカーを利用しようとした英国人観光客は、英国の運転免許証が3月30日の時点で認識されなくなったことを知るでしょう。英国所有の大多数の航空会社は航空機登録が無効になったことを知り、離着陸させることができなくなるでしょう。

欧州で最も混雑するドーバー港には、30分ごとにフェリーが到着し、年間260万台の貨物自動車が出入りしています。オペレーションが滞ることによって、ケントの高速道路が貨物自動車の駐車場のようになるのは日常茶飯事です。しかし、この崖っぷち体制が原因となって港湾周辺で混乱が起こったとしたら、M25高速道路を埋め尽くす交通渋滞は一体どれくらいの距離に及ぶでしょうか。十分な知識を持った税関職員を雇うこと、新しい規則や停泊できない船舶に関する理解の乏しいドライバーを教育することが懸念事項として挙げられます。Brexitの今後が話題にのぼる際、「ありえない」という言葉がよく使われます。ドーバー港に貨物自動車があふれかえったとしたら、道路が足りないのは自然地理学的に見ても明白です。

さらに、その先には何が待ち受けているでしょうか。工場や小売店において、予測できない品切れが発生するでしょう。予測できないのはなぜか。それは、サプライチェーンが複雑で、構造的に長く、数多くの会社の業務が連携し、依存し合うことによって成り立っているからです。今日の業界では、もはや原料を探して調達してくる原料供給担当のチームというようなものは存在しません。その代わり、ジャスト・イン・タイム・システムに依存し、在庫状況は週単位ではなく時間単位で測定されます。こうしたシステムは、崖っぷち体制のBrexitに適した仕組みではないのです。

これは大げさでしょうか?いくつかの先例について考えてみましょう。

過去の教訓

ガソリン価格高騰への抗議運動から発生した2000年の燃料不足問題は、人々の出勤を妨げ、さまざまな学校の閉鎖や、病院におけるそれほど重要でないオペレーションの中止といった事態を招きました。スーパーマーケットでは食品が品切れに近い状態となり、郵便の配達業務には支障が出ました。英国の管理者協会(Institute of Directors)は、この経済損失額は10億ポンドにのぼると計算しました。

アイスランドで発生した火山噴火によって、最も深刻な時期には、世界中の3分の1近くの航空便がキャンセルになりました。1000万人の人々が搭乗できず、推定17億ドルの被害を航空業界にもたらしました。英国商工会議所(British Chambers of Commerce)は、この噴火による損失額は1日あたり1億英ポンドにのぼると発表しました。

Brexitの「交渉不成立」は、こうした出来事すべてを合わせた被害額よりも大きなものとなるのです。在庫の少なくなったサプライチェーンが行き詰まり、製造業における部品調達が英国外で足止めされたら、経済状況は直ちにダメージを受けます。もし企業の意思決定者が海外渡航の中断により本社への出張もままならないといった状況が重なれば、こうした事態はさらに深刻になります。このような混乱は、少なくとも政治家同士が打開策について合意し、物事を進展させようとしない限り、ずっと続くでしょう。もう既に何日間も、私たちはこのことについて話し合ってきています。

 

Brexitは、予測不可能なことではありません。顧客を含め、誰もが予測しています。もし経営者が可能な限りの策を講じてネガティブな影響力を抑えようとするならば、それは顧客にも伝わります。しかし、例えば最近の航空業界で発生したように、不適切な対応によって生じた混乱による打撃は、ずっと続くことになるでしょう。

KPMGが開発したBrexit Navigator(英語PDF:589kb)    
は、EU離脱交渉期限までに残された今後20ヵ月間に企業経営者たちが決断すべき事項を示しています。

世の中が良識に満ちているのならば、このような計画の良し悪しを吟味する必要はありません。しかし、果報は寝て待て、という選択肢は残されていません。どの事業においても、「崖っぷち」が単なる常套句から現実へと変わりうることを考えれば、それぞれの優先事項が見えてくるはずです。私自身が着手するとすれば、まずはサプライチェーン、従業員、そして意思決定者を確保することから始めます。

本稿は英語版(原文)のコンテンツを和訳したものです。日本語版と英語版との内容に相違がある場合は英語版が優先されます。

The Brexit Column: Cliff edge - dead metaphor, live danger

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