銀行は住宅ローン顧客獲得競争に勝利できるか | KPMG | JP

銀行は住宅ローン顧客獲得競争に勝利できるか

銀行は住宅ローン顧客獲得競争に勝利できるか

銀行の住宅ローンの将来性についてご説明します。

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1.住宅ローン顧客を巡る状況

住宅ローン顧客をめぐる激しい競争は価格戦争を引き起こし、収益性に影響が出ています。この消耗戦を回避するため、リテール銀行はカスタマー・エクスペリエンス(満足体験)を高めることによりサービスを差別化する革新的な方法を模索しています。この成功のためには、絶え間なく変化する顧客ニーズと膨らみ続ける顧客の期待を理解するシステム、そして革新的で付加価値が高いソリューションを迅速に市場に投入する能力が必要です。困難なこの課題をさらに複雑にするのが変化する規制要件遵守の必要性です。

居住用不動産の価格は多くの国で大都市圏を中心に急速に上昇を続けています。2006年から2016年の間にオーストラリア主要都市の住宅価格中央値は22万米ドルから54万米ドルへと年率10%超の勢いで上昇しました。同期間にロンドンの平均住宅価格は33万5,000米ドルから59万米ドルに上昇し、カナダのグレータートロントエリアでは家族向け2階建住宅の価格が年平均7.7%上昇しました。世界金融危機後にサブプライム市場が見事に崩壊した米国においてさえ、ロサンゼルスのような都市では住宅価格が年率二桁で上昇しています。

この状況は既に住宅を所有している人や投資家にはメリットになりますが、これから住宅を買おうとする次世代の人にとっては、求められる頭金がより多額になっていることもあり、購入に踏み切りにくくなっています。一方で過去10年間の平均所得伸び率は住宅価格の上昇に追いついておらず、オーストラリアでは年平均ちょうど3%、カナダ、英国、米国では3%未満であり、結果として返済負担率(DTI)は過去の水準を大きく上回っています。このような状況の中では、英国で一次取得者(初めて住宅を購入する人)に適した住宅の販売件数がその他タイプの住宅より大きく減少していることは驚きではありません。ベビーブーム世代が歴史的低金利に乗じて住宅を購入し、いわゆる「賃貸世代(generation rent)」(購入資金を十分貯めることができず賃貸住宅に住まざるを得ない40歳代未満の若い世代)に賃貸しているのです。英国の住宅供給不足がこの状況をさらに悪化させています。2011年から2014年までの新築住宅戸数はわずか46万戸であり、推計需要97万5,000戸の半分以下となっています。

世界の多くの都市で需要が供給を上回りかつ金融危機の記憶がまだ鮮明に残っている状況の中で、各国政府は、一次取得者の条件を緩和したり賃貸目的の住宅購入(投資不動産)を抑制したりする策をとる一方で、責任ある貸出を奨励しています。

具体例としては、賃貸目的住宅購入者のローン資産価値(LTV)比率の制限強化や、借り手のデフォルトリスク軽減のための審査の厳格化が挙げられます。不動産賃貸の魅力を低減させるさまざまな制度変更も導入されています。英国ではまもなくコスト控除前の家賃収入全額が課税対象となります。またカナダのバンクーバーでは非居住者またはカナダ国籍を持たない個人が居住用不動産を購入する場合、15%の譲渡税が課される旨が発表されました。

図1 居住用資産価格の伸び:3年間の年平均成長率 2013-2016年

出所:KPMG Analysis

2.ローン収益消耗戦を回避

居住用不動産への需要が高止まりする中で、リテール銀行間の住宅ローン貸出競争が激化しています。インターネット上のまとめサイト(顧客が住宅ローン各社の商品特性やプライシングを容易に比較できるサイト)の存在も住宅ローンの利ざや縮小に拍車を掛けています。英国のインターネット専業銀行であるAtom Bankは、一次取得者や自営業者を含むさまざまな顧客に住宅ローンを提供しています。また英国の住宅ローン仲介業者であるTrussle社とHabito社のインターネット専用住宅ローン借り換えサービスでは100社以上の住宅ローンを提供しています。
市場シェアを維持するため、住宅ローンの貸し手は新規貸出の金利を標準変動金利を下回って大幅にディスカウントしています。この傾向は、顧客をさまざまな銀行に自由に誘導できる仲介業者経由の住宅ローンの場合に特に顕著となっているようです。この結果、新規ローンの利ざやが0.2%~0.25%まで縮小してしまった銀行もあります。

住宅ローン収益性の消耗戦を回避するため、リテール銀行各行はカスタマー・エクスペリエンスを高めることによるサービスの差別化(理想的には低い提供コストで)に力を入れています。顧客が住宅ローンを借りる手順を見直し、顧客データや最新の分析手法を駆使してよりパーソナライズされたサービスを提供し、電子不動産譲渡や決済にはスマートフォンアプリやデジタルプラットフォームを使用しています。

3.住宅ローン顧客のエクスペリエンスを高める効果的投資

世界的に見ると、リテール銀行は今後2年間で毎年50億米ドルを住宅ローンカスタマー・エクスペリエンス向上に投資するとKPMGは予測しています。しかしこの投資を最大限に活用するためには顧客が本当に求めているものは何か、そしてそれは年齢層、性別、パートナーの有無によってどう異なるかを把握する必要があります。

2016年初めにKPMGが行った調査では、優れたカスタマー・エクスペリエンスをもたらし、成長と株主価値向上に必要な長期的顧客リレーションシップを支える6つの「柱」(パーソナライゼーション、誠実さ、時間と労力、期待、解決力、共感力)が特定されました。
またマス・アフルエント(大衆富裕)層に属する住宅ローン顧客(定義:年収6万米ドルから20万米ドルの顧客)を対象としたKPMGの最近の調査で、顧客が実際に住宅ローンを借りた際の体験について聞きました。その回答からわかったことは以下の通りです。

  1. 優れたカスタマー・エクスペリエンスを得るためには全ての柱が等しく重要というわけではない。
    回答者は、誠実さ(信頼でき信頼感を醸成)、簡便さ(顧客の手間を最小化しスムーズに事が運ぶ)、解決力(不快な体験を素晴らしい体験に転換する)が最も重要と回答しました。
  2. 顧客の期待と実際の体験のギャップが最も大きかったのは、このセグメントの顧客が最も重要視したカスタマー・エクスペリエンスに関する柱である。
    図2にあるように誠実さ、簡便さ(時間と労力)、解決力の3つの柱で顧客の期待に応えることができていませんでした。住宅ローン申請者は公正で契約条件の透明性が高い取引を期待します。また顧客に関する情報が一度で把握・処理され何度も同じことを聞かれない迅速で簡単な手続きを期待しています。もし問題が発生した場合には少なくとも迅速で公正な解決を期待しています。
    住宅ローン申請手続きに時間がかかること(膨大な書類、複数の担当者や第三者との接点等)は長く申請者の頭痛の種でした。英国のあるリテール銀行は審査プロセスに機械学習を導入中で、所要時間と審査担当者への照会の大幅削減を目指しています。別の英国大手リテール銀行は住宅ローン申請から実行までの全体所要日数を14日からわずか3日に短縮することを目標としています。英国の住宅ローン貸し手の中には顧客と不動産業者をスマートフォンを通じてビデオでつなぎ、直接取引ができるようにするテクノロジーに投資をしているところもあります。
  3. 住宅ローン顧客のエクスペリエンスの質はローンを申請したチャネルによって異なる。
    住宅ローンを申請する3つのチャネル(既存取引銀行、既存取引がない新たな金融機関、仲介業者)の中では、仲介業者の評価が6つの柱全てにおいて最低でした。このことはオーストラリア、カナダ、英国、米国などの国で仲介業者ネットワークに対する住宅ローン貸し手の依存度が高まっていることを考えると大きな懸念事項です。

図2 住宅ローン申請時の顧客の期待と実際のエクスペリエンスの比較

さらに、仲介業者経由で住宅ローンを申し込む顧客は金利にこだわりが強く、ローンのディールが完了してから2年以内に、条件を再交渉するか他の貸し手に乗り換える傾向が強くあります。例えばカナダの統計では、条件再交渉または借換えを行う場合、銀行経由で住宅ローンを借りた顧客の67%は元の銀行に相談しますが、仲介業者経由で借りた顧客で元の仲介業者に相談する顧客は33%しかいません。したがって仲介業者経由で住宅ローンを提供する銀行は、顧客とのつながりが弱体化しないように仲介業者との緊密な関係をどう構築するかを検討する必要があります。

4.未来の住宅ローン顧客獲得競争に向けて踏み出す

銀行は顧客が住宅ローンを借りるプロセスを、ローンの申請から、実行、決済に至るまでの一連のステップであると考えがちです。そうではなく家を換えようとする個人、カップルあるいは家族を軸として展開するバリューチェーンであると考え直すことにより、初めて顧客の心をつかむことができます。社内的には部門の垣根を越えた顧客エクスペリエンス向上チームを発足させ、潜在顧客の思考過程に影響を与える要因の分析と、どうすれば早い段階で銀行が相談先の選択肢に上がるかを検討する必要があります。

顧客の住宅ローンエクスペリエンス見直しの次のステップは、延伸されたバリューチェーン(家を買うことを夢見る段階(リサーチやその前段階を含みます)から住宅ローン申請、購入完了まで)の各ステージにおけるさまざまな顧客ニーズの明確化です。それができれば、そのニーズを最も満たし6つの顧客エクスペリエンスの柱全てを満足させるために銀行(あるいはその戦略的パートナー)は何をすべきか、というアイディアをチーム内で生み出すことができます。具体例としては、顧客の本人確認への顔認識テクノロジー(現在#ashchingと言う企業が実証試験中)などのイノベーションや、引越業者の優遇レート適用(米国ではUSAA(軍人、軍属およびその家族を対象とした金融保険会社)が住宅ローン顧客へのサービスの一環として提供中)などの付加価値サービスの提供が挙げられます。

家を換えるあるいは新たに不動産を購入することを検討中の顧客に対して、より大きな価値を提供する革新的なアイディアを銀行が多数考え出すことは、難しいことではありません。しかし同時に必要なのは、そのリストを体系的に絞り込むプロセス(どれを選びどれを捨てるかの決断)と、アイディアを迅速に発展させテストする能力です。

素晴らしい顧客エクスペリエンスを創り出すのは1回限りの作業ではありません。最終的な目標は、何度も利用が可能なシステム(未充足の顧客ニーズを特定し、そのニーズを満たすエキサイティングで特徴的な方法を考え、顧客体験を促すとともに実行可能なソリューションを迅速に市場にもたらすための機動的な環境を創り出すシステム)の構築です。こうした体制を整えた銀行だけが住宅ローン顧客獲得競争に最終的に勝利することができます。加えて、責任ある貸出が求められていることから、優れた顧客満足体験を提供するいかなる試みも、変化する規制要件を遵守することが必要です。

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