第5回 タイの会計基準が大きく変わる~日系タイ子会社のTFRS for SMEs対応~ | KPMG | JP

第5回 タイの会計基準が大きく変わる~日系タイ子会社のTFRS for SMEs対応~

第5回 タイの会計基準が大きく変わる~日系タイ子会社のTFRS for SMEs対応~

本稿では、タイ会計士連盟が新たに導入しようとしている会計基準について、従来の会計基準と比較しながら解説します。

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タイ会計士連盟(Federation of Accounting Professions、以下「FAP」という)がこの度新たに導入しようとしている会計基準は、特に複雑な項目について大きな変更を要求するもので、殆どの日系タイ子会社に関係する変更です。場合によっては、現在のタイ経理担当者では対応する事が難しい可能性もあり、早めの対処が必要になるかもしれません。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

 

(2017年7月27日追記)FAPは2017年7月5日に、本稿記載のTFRS for SMEsの適用案は取り下げ、適用要件や中身を再考する旨を発表しました。従いまして、新たな発表がない限りは、従来どおり日系タイ子会社はTFRS for NPAEsを継続適用することとなります。今後は、TFRS for SMEs について、強制適用ではなく任意適用とすべきか、また、適用会社の要件の見直し等が行われることが予想されます。

ポイント

  • 2018年1月1日以降開始事業年度から、従来のTFRS for NPAEsに代わって、新たにTFRS for SMEsが導入される予定である。
  • TFRS for SMEsの元では主に、今まで必要のなかった以下の項目について会計的対応が必要となる。
    • 連結財務諸表
    • 包括利益計算書
    • キャッシュ・フロー計算書
    • 税効果会計
    • 従業員給付
    • デリバティブ
    • 機能通貨
  • 上記項目に対応が可能な人的リソースや会計システムが、タイ子会社に整備されているかどうか、確認が必要となる。

I.従来のタイ会計基準

1.PAEsとNPAEs

従来、タイにおいてはFAPが設定主体となり、公的説明責任を負うか否かによって区分された以下の2つの会計基準が設定され、企業は、その要件に照らしていずれかを適用しています。

  • Thai Financial Reporting Standards for Publicly Accountable Entities(TFRS for PAEs)⇒上場会社等、Publicly Accountable Entities(以下「PAEs」という)と呼ばれる公的説明責任を負う会社に対して適用され、ほぼ主要なIFRS基準をコンバージェンスした会計基準
  • Thai Financial Reporting Standards for Non-Publicly Accountable Entities(TFRS for NPAEs、以下「NPAE基準」という)⇒PAEsに該当しないNon-Publicly Accountable Entities(以下「NPAEs」という)と呼ばれる公的説明責任を負わない会社について適用される会計基準

2.殆どの日系タイ子会社はNPAEs

ここで、公的説明責任を負うとされるPAEsとは、以下の要件のいずれかを満たす企業とされています。

  • 負債証券、又は株式が公開市場(国内または海外の証券取引所、国内又は地域市場を含む店頭取引市場)において取引されている、もしくは、公開市場においてなんらかの金融商品を発行する目的で財務諸表を証券委員会又は、その他の規制機関に登記している、または、登記準備中である法人
  • 金融機関、保険会社、信託、投資信託等、特定の法令に従い公的資産に関する事業を行っている法人
  • 公開企業法に規定された公開企業である法人
  • その他通知された法人

したがって、公開会社ではない殆どの日系タイ子会社はこれに該当せず、公的説明責任を負わないNPAEsに区分されています。

3.NPAE基準の特徴

FAPにより作成されたNPAE基準は、全21章・計390項からなる、タイ独自の会計基準です。継続企業の前提および発生主義会計をベースにしながら、中小企業の実務的負担を配慮して、税効果会計、従業員給付やデリバティブ等の複雑な項目には言及していません(図表1参照)。

図表1 NPAE基準とSME基準の主な差異と導入スケジュール(案)

主な
差異項目
NPAE
基準
SME基準
内容
SME基準
導入予定(案)
包括利益計算書 規定なし (第5章)
開示が必要
2019年度
キャッシュ・
フロー計算書
規定なし
ただしTAS
第7号の任意適用が可能
(第7章)
開示が必要
2019年度
連結財務諸表 規定なし
ただしTAS
第27号の任意適用が可能
(第9章)
開示が必要
2019年度
関連当事者に
ついての開示
規定なし
ただしTAS
第24号の任意適用が可能
(第33章)
開示が必要
2019年度
従業員給付
(退職給引当金)
最善の見積りに
基づき計上が必要
(第28章)
原則として割引率・制度資産に係る期待収益率・昇給率・離職率及び死亡率等の基礎率を用いる予測単位積増方式に基づき認識される
2019年度
税効果会計 規定なし
ただしTAS
第12号の任意適用が可能
(第29章)
税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債の計上が必要
2019年度
デリバティブ
取引
規定なし (第11・12章)
原則として期末日における公正価値により測定し、公正価値の変動を純損益として認識する
ヘッジ目的で行われるデリバティブ取引のうち、一定の要件を満たす場合においては、ヘッジ会計を適用する
2022年度
機能通貨 規定なし (第30章)
機能通貨を識別のうえ、外貨建取引については機能通貨による計上が必要
2022年度

※:Thai Accounting Standards(TFRS for PAEsを構成する基準の1つ)

II.新しいタイ会計基準 ~TFRE for SMEs~

1.TFRS for SMEsとは

FAPは、IFRSから大きくかけ離れたNPAE基準に代えて、IFRS for SMEsをコンバージェンスしたTFRS for SMEs(以下「SME基準」という)の導入を決定しました。

IFRS for SMEsとは、International Financial Reporting Standards for Small and Medium-sized Entities の略称であり、2009年7月に国際財務報告基準(IFRS)と同じ国際会計基準審議会(IASB)により公表され、中小企業(SMEs)のニーズと能力に合わせて作られた約230ページの独立した基準で、日本では中小企業向けIFRSと呼ばれています。

2.多くの日系タイ子会社は適用対象

FAPによれば、SME基準の適用対象となる企業は、NPAEsのうちComplex NPAEsであるとされています。

 

Complex NPAEsの判定基準:
グループを構成する会社(親会社、子会社、関係会社、ジョイントベンチャー)に該当する場合はComplex NPAEsとされ、SME基準が適用される。

 

多くの日系タイ子会社はこのComplex NPAEsに該当すると思われますので、SME基準が適用されることになります。

なおNon-complex NPAEsには、SME基準のうち一部の複雑な項目が免除される方向で検討がなされています。

3.新基準概要と導入スケジュール案

FAPによれば、SME基準は2018年1月1日以降開始事業年度から導入される予定ですが、Complex NPAEsのNPAE基準からSME基準への移行にかかる実務上の負担を軽減するために、段階的に導入される方向で検討が行われています(図表1参照)。FAP公表の案では、特に複雑性が高く、対応に時間がかかる項目については、1年から5年の猶予が与えられています。

III.おわりに

NPAE基準は2011年に導入されてから6年が経過しますが、IFRSからコンバージョンされたTFRS for PAEsを適用する必要のない、あるいは適用できないタイの中小企業のための実務上の要請に応じた、簡易的な会計基準としての色が強いものでした。これに対して、SME基準も中小企業の会計能力に配慮されているとはいえ、タイ経理担当者にとっては、図表1に掲げた項目のような相当程度複雑な、新たな要求が盛り込まれていると言えます。この事から、タイ経理担当者のSME基準への対応力について確認し、必要に応じてコンサルタントの導入や新たな経理担当者の採用、新たな会計システム導入などを検討する必要があります。

また、SME基準の導入に関しては導入時期も含め未確定な部分も多いため、特に項目ごとの導入スケジュールや、会計・監査実務上の対応面では、今後の継続的な情報収集や、現地監査人との密なコミュニケーションが重要です。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
ASEAN事業室 タイデスク
パートナー 井戸 志生

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