進化する管理会計 - ITを使いこなして競争優位を築く

進化する管理会計 - ITを使いこなして競争優位を築く

本稿では、将来にわたって管理会計を進化させるために経営者および財務経理部門がなすべきことを解説します。

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管理会計の重要性を十分に認識していても、実際に経営環境の変化に合わせて常に自社の管理会計制度を見直している企業は少ないのではないでしょうか。見たい情報、見るべき情報を必要な時に見ることができ、意思決定に役立てられる仕組みを常に整備しておくことはマネジメントの責任です。近年、新しいIT技術が多く開発され、導入を検討する企業も増えていますが、特に管理会計の領域においてIT技術を導入して期待通りの効果を得るためには、経営者の強いリーダーシップと、管理会計制度の基礎となるグループとしてのルールの整備が必要です。ITに使われるのではなく、ITを使いこなし、競争優位性を高めるための起点にすることが、これからの管理会計の課題と言えます。

本稿では、管理会計が変革を求められる背景、IT技術の進化が管理会計に及ぼす影響、ITを利用した管理会計制度を機能させるために具備しなければならない重要な事項を明らかにし、将来にわたって管理会計を進化させるために経営者および財務経理部門がなすべきことを解説します。

ポイント

  • IFRS導入企業の増加、ビジネスのグローバル化が進む中、企業の管理会計の見直しが遅れている。管理会計を進化させることは、管理会計の所有者である経営者の責任である。
  • 近年のIT技術の進化は管理会計の領域にも大きな効果をもたらすが、その効果を最大限に発揮するためには導入の前に、1.処理の方法、2.情報の区分、3.情報の期間の観点から管理会計制度のルールを整備しておくことが重要である。
  • 経営判断を誤らないような管理会計の仕組みを構築するには、自社のビジネスを管理するために、「何をいつ見たい」という経営者の明確なニーズと強いリーダーシップが必要となる。これこそが、IT技術がどんなに進歩しても持ち続けなければいけない、成長のための動力源なのである。

I.管理会計の進化を放棄してはいないか

1.昔ながらの管理会計への不満

先日、ある会社の管理会計制度の構築に携わっている方との懇談のなかで、先代社長の時代に苦労して作った経営管理レポートを、社長が交代した途端に全面的に見直すよう言われて弱っている、という相談がありました。多くの時間と労力を費やして開発したレポートを否定されることは気分の良い話ではないと思いますが、そもそも管理会計は経営者の意思決定を支援するために行われる会計の仕組みであり、その意味で管理会計は経営者のものです。経営者が、自身の意思決定をより適切に行えるように管理会計を見直し、見たい情報をきちんと見ることができるようにすることは、むしろ企業が健全な状態にあると言えます。しかし、この会社のように、経営者が管理会計の仕組みの見直しに積極的に取り組む企業よりも、昔ながらの管理会計の仕組みを、不満を感じながら使い続けている企業の方が圧倒的に多いと言えます。


事例(1)昔ながらの管理会計のやり方が変えられない

  • 単体評価の仕組みしかなく、連結評価ができない
    ある垂直統合型の企業グループでは、連結ベースでグループ経営管理を行う仕組みがないため、各社単体ベースでの経営管理しか行えていない。親会社の社長は、ある事業セグメントについて単体ベースでは利益が出ているが、連結ベースでは赤字ではないかという感覚を持っているにもかかわらず、具体的な計数として見ることができないため、その事業の継続可否について判断できないでいる。
  • 形式的で膨大な原価報告資料
    ある製造業では、原価計算基準に基づく精緻な配賦計算を行っている。その配賦計算結果を示すレポートが、毎月大量に出力されるが、経営者はもとより、担当者であってもほとんど見ることがない。
  • 1円単位の管理会計レポート
    別のある製造業では、管理会計に力を入れている。ところがその力の入れ方というのが、1円単位まで細かく数値を合わせることに注力することであって、月次の決算作業のほとんどが、その数値の整合性の確認に費やされている。


事例(2)経営管理に活かせていないIFRSの適用

日本取引所グループによれば、平成29年6月の時点でIFRSを適用済または適用することを決定している上場企業は150社にのぼる。「IFRS適用レポート」(平成27年4月 金融庁公表)によれば、IFRS導入の目的は経営管理に役立てるためとの回答が多いが、IFRSベースの連結財務諸表は、各国ローカル基準の単体財務諸表を連結修正仕訳により組み替えて作成する、いわゆる連結修正方式が多数を占めている。これでは、グループ経営管理において、本来同じ“モノサシ”で数値を共有すべき親会社とグループ会社とが、親会社ではIFRSベース、グループ会社では各国ローカル基準ベース、というように異なる“モノサシ”で数値を管理するということが生じてしまう。その意味で、企業のIFRS対応はもっぱら財務会計目的に終始しているのが現状である。


事例(3)会計基準の変更の影響を管理会計に反映できていない

会計方針または表示方法(以下「会計方針等」という)の変更が生じた際に、前年度以前に遡って修正する、過年度遡及修正に関する会計基準が適用されたものの、管理会計に与える影響について体系的に問題点を整理し、対応のための準備を着実に行い、実務への定着化を図っている企業は少ないといえる。

会計方針等の変更は、単なる開示の問題ではなく、企業の戦略、業績評価等にも影響を与える経営管理上の大きな問題であり、管理会計への影響を軽視することはできない。

たとえば、KPIとして売上高成長率を掲げている場合、売上の会計方針等が大きく変更されたにもかかわらず、成長率を測る「当年度見込み」と「翌年度予算」とで、会計方針等がそろっていなければ、適切に売上高成長率を測定することができなくなる。

2.新しい収益認識 - 企業への影響

管理会計は、組織あるいは個人の業績評価にも繋がるため、事業部などの評価される側も実は問題意識を持っていても変更を簡単に受け入れることができない場合があります。このような現場の意識に注意しないと、激しい抵抗に直面することになります。特に、現在ASBJ(企業会計基準委員会)において新しい収益認識に関する会計基準の開発に向けた検討を行っていますが、これにより日本において、将来、収益に関する会計基準が大きく変わる可能性があります。企業は以下のような大きな影響を受けるかもしれません。


(1)会計ルール

新しい会計基準において特に影響が大きいと考えられるのは、1つの契約の中に顧客に対する複数の約束事がある場合、その約束事の単位に分けて、それぞれ収益を計上する必要が生じることです(たとえば、機器の販売と保守サービスが一体となった契約を締結している場合、今後は、売上高を機器の販売分と保守サービス分に分け、前者は納品時に、後者はサービス提供期間にわたって計上することが求められる可能性があります)。


(2)会計処理の業務プロセス・会計システム

新たに求められる金額とタイミングで会計処理を行うため、売上高を計上する業務プロセスやシステムも、見直しが必要となる可能性があります。


(3)契約管理、債権管理

売上高および会計上の債権の計上時期が分かれると、契約に基づく請求管理とは必ずしも連動しなくなるため、それぞれ分けて管理する必要が生じます。


(4)経営管理(管理会計)

会計上の収益の認識時期、金額が変われば、対応すべき原価も変わります。財務諸表への影響が大きい場合、企業は自社の予算管理や業績管理のあり方についても、その影響の程度を検討しなければなりません。予算策定や予実分析の方法、業績評価のルール、KPIの見直しなどが必要となる可能性があります。

 

売上高という損益計算書のトップラインの認識時期や金額を決める会計基準が変わってもなお、制度会計への対応だけでとどめ、従来通りの管理会計制度に頼り経営の舵取りを続けていくことができるのでしょうか。

II.ITの進化は管理会計を変えるか

経営環境が激しく変化する昨今、経営者には、厳しい状況を打破すべく新たな成長機会を見極め、自社の進むべき方向へ舵を切るという重要な役割が求められています。たとえば計画策定・予算編成サイクルは、月次や週次ではなく日次でのスケジュール管理が必要となっており、編成期間の短縮、機動的な計画・予算の見直しは企業の大きな課題と言えます。また、マネジメントへの報告も、多くの意味の無い数値をただ並べ立てるのではなく、定量的な根拠に基づく意思決定を可能とし、将来の見通しや戦略・アクションを検討するうえで一定の示唆を与えるものでなければなりません。

近年、多くの経営者が、さまざまな視点で市場環境を分析し機動的に対応することを可能とするデータ分析ソリューションに注目しています(図表1参照)。

図表1 今後3年間の主要投資分野

出所:2016 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

図表6 経営目標としている収益性指標

テクノロジーの進化により、リアルタイムレポートの高速処理、作成に欠かせないインメモリコンピューティングや、携帯デバイスを活用した経営者や管理職に将来予測に役立つ情報をプロアクティブに提供する新しい技術が急速に普及し始めています。一部の企業では、高品質なデータの整備や、効果的・効率的なプロセスによる運用といった業務面での取組みだけでなく、業績管理能力のさらなる強化に向け、他社に対する競争優位性の確立に繋がるような価値ある情報を提供する業績管理システム(BI:Business Intelligence)の導入も盛んに行われています。

1.ビッグデータのマイニング

従来、顧客、チャネル、SKU(商品等の最小管理単位)、期間、製品のバージョンなど、複数の切り口による採算性の分析は、その膨大な情報量により、計算に多大な時間を要していました。しかし現在では、インメモリコンピューティングの出現により、採算管理に関する情報処理のスピードは格段に上がり、これまで数時間かけていた処理も、わずか数秒間で完了できるようになりました。そのため経営者や管理職は、複雑な製造プロセス、サプライチェーンを経て特定の小売店に供給している個別の製品種類単位であっても、それらの採算性に関するレポートをタイムリーに入手することができます。激しい経営環境下においては、バリューチェーンを通じた小さな利益改善の積み重ねが収益性向上のカギとなります。ビッグデータのマイニングは、他社に対する絶対的な競争優位性を築くために必要不可欠なソリューションになっています。

2.ドライバーベースの計画策定・予算編成モデル

(1)ITの進化が変革を後押し

原材料コストや生産性に関する情報、販売パイプライン、為替相場など、キーとなるインプット情報とKPIを恒常的にモニタリングすることにより、財務諸表ベースの定期的な予算見直しを待たなくても即時に対策が打てるような、ドライバーベースの計画策定・予算編成の導入を検討する企業が増えています。ドライバーベースの計画策定・予算編成モデルは、非財務指標の管理を通じて財務経理部門と事業部門との連携を加速し、問題に即応できる組織への変革を推進します。このような考え方は以前からありましたが、システムの技術的問題、製造等の現場で情報入力することの業務負荷の問題などにより、導入を試みても大幅な改善には至りませんでした。しかし近年、今まで手入力していたインプット情報は、ワークフローにより自動化されたプロセスのなかで瞬時に収集することができるようになり、重要なドライバー情報は日々モニタリングされ、数秒で情報配信することも可能となりました。また、インメモリコンピューティングを活用することにより、非常に大規模なドライバーベースの計画・予算編成モデルも、リアルタイムで稼働させることができます。


(2)品質と効率性の両立を後押し

こうした仕組みが企業のシステムに実装されると、経営者から実務担当者までの誰もが、実績値や目標値とのギャップなどの有用な情報を瞬時に参照できるようになります。また、予算がドライバーベースで編成されているため、目標の実現に向けて改善が必要な問題の所在も自動化された分析処理により即時に明らかになります。また、複数シナリオのシミュレーション機能を備えている場合には、問題に対する対応策の実行や、市場環境の変化といったドライバー変更による影響を把握することも可能です。財務・経理領域における新技術の出現は、従来反比例の関係にあった業務品質と業務効率性の両立も可能とするでしょう。


(3)導入効果を発揮するための留意点

しかし、このような財務・経理領域における新技術も使いこなせなければ宝の持ち腐れとなってしまいます。新技術により可視化できる情報の種類、提供されるスピードは格段に上がりますが、意思決定に必要な情報を選択し、得た情報をもとに意思決定することは管理会計の所有者である経営者の役割です。新技術を導入すれば、あとは情報が出てくるのをただ待てばよいということではありません。何のために(管理会計の目的)、どのような情報を(情報の種類)、どのようなタイミングで(レポートするタイミング)見るかについてリーダーシップを発揮することは、決して変わることのない経営者の役割といえます。

さらに、グローバルベース、連結ベースの経営管理においてIT技術導入の効果を最大限に発揮するためには、1.処理の方法、2.情報の区分、3.情報の期間という3つの観点から業務を統一し、ルール化しておくことが重要です。

III.管理会計を機能させるための3つの統一

1.処理の方法の統一

情報作成のためのルールには、グループ全体で統一すべきものと、グループ会社ごとに設定すべきものがありますが、たとえば収益の認識基準のように重要な会計方針については、親会社およびグループ会社に統一して適用します。

また、勘定科目の名称と使用方法を定義し、勘定科目の入力の正確性とグループ内の整合性を高めておくことも重要です。勘定科目の使用方法が曖昧だと、勘定科目の名称が統一されていても、グループ会社ごとにバラバラの入力がなされる可能性があります。

グループ内での勘定科目統一は、グループ内の全員でゴールを共有し、同じ物差しを使い成果を評価することを通じて、ガバナンス強化にも貢献します。

2.情報の区分の統一

(1)入力項目の統一

会計システムで保持する情報の最小単位は、会計伝票から入力される情報(以下「入力項目」という)です。入力項目には、1.転記日付、伝票番号、換算通貨、換算レート、消費税区分、交際費判定、借方・貸方、金額など、財務諸表の作成や税務申告のために最低限必要な入力項目と、2.事業種別、物件名、店舗名、プロジェクト名、製品種別、商品種別、品目名、増減事由、取引先、従業員種別など経営管理のニーズに応じて集計するために必要な入力項目があります。

これらは、同じ意味の項目であっても、親会社やグループ会社間で異なる名称や体系で設定していることが多いため、グループの経営管理で使用する部分と各社固有の管理で使用する部分とに分けたうえで、統一をしておくことが有用です。


(2)表示項目の統一

親会社がグループ会社から会計情報を集めるために作成を求める管理資料は、グループ会社自身が普段から利用しているものと少し異なります。こうした違いが、管理資料の作成の手間、管理資料を読まされる側の手間となって現れます。親会社がグループ会社を見る視点とグループ会社が自身を見る視点は同じではありませんが、まったく異なるものでもありません。

そこで、グループ全体で、経営管理を行ううえでの枠組みとなるルールを作成する必要があります。グループで共通して管理すべきものは何か、これを受けて、グループ会社は何を管理すべきか。管理資料の様式を検討する際には、この考え方にしたがって、グループ全体で共通の表示項目とグループ会社で固有の表示項目に分けます。グループ共通の表示項目を管理資料に設定すれば、グループ会社間での会計情報の比較可能性も飛躍的に向上します。

グループ会社にとっても、親会社がどのような情報をもとに管理をしているかがわかるため、親会社とグループ会社間での情報連携がスムーズに行われ、両者ともに作業負荷の軽減が図れるという副次的な効果も期待できます。

3.情報の期間の統一

情報の期間の統一に関しては、決算期を統一するだけでなく、情報の収集期間、計算期間についても統一を検討しておく必要があります。たとえば、基幹系システムによってデータの収集期間が異なるため、会計情報の比較が難しくなっている場合があります。また、グループ会社によっては、原価計算を月次で行っている会社もあれば、四半期で行っている会社もあります。このような場合は、計算期間に関しても統一し、月次での比較可能性を高めておく必要があるでしょう。

IV.これからの財務・経理部門のあり方と経営者に求められること

財務・経理機能は、成長機会やリスクの分析・定量化・比較検討の支援を通じて、事業部門と肩を並べる、ビジネスにおいて中心的な役割として見られるようになってきました。今後、財務・経理機能が、限られたリソースのなかで最高のパフォーマンスを発揮していくためには、既存の業務を棚卸して、定型的な業務の効率化を徹底的に進めるとともに、そこで空いたリソースをより付加価値の高い業務に振り分けるという、財務・経理機能の構造改革を推し進めていくことがさらに重要になります。近年、RPA(Robotic Process Automation)の導入を検討する企業が増えてきています。RPAにより業務が自動化されれば、現在手作業で労力をかけて作成しているさまざまな管理レポートが、即座に出力されるようになるでしょう。しかし、この領域は決してITによりすべてが賄われることはありません。

経営判断を誤らないような管理会計の仕組みを構築するには、自社のビジネスを管理するために、何をいつ見る必要がある、という経営者の明確なニーズと強いリーダーシップが必要です。これがなければ、ITにより容易に集積されるようになった膨大な情報にただ飲み込まれてしまいます。ITを管理会計に役立てるために、経営者は土台をつくり、目的を持ち、常に最新技術にアンテナを張っておくことが重要で、見える管理会計を追い求め続けることは、IT技術がどんなに進歩しようが企業が持ち続けなければいけない成長のための動力源と言えます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
ディレクター 嘉鳥 昇
ディレクター 伊藤 久明

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