FinTechの進展への対応 - 銀行法等改正案と今後の動向について - | KPMG | JP

FinTechの進展への対応 - 銀行法等改正案と今後の動向について -

FinTechの進展への対応 - 銀行法等改正案と今後の動向について -

本稿では、決済分野を中心とした環境変化と規制の動向を整理するとともに金融ビジネスを展開するうえでの論点について考察していきます。

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2017年3月、電子決済等代行業者に対する制度整備を含む銀行法その他の関係法律の改正案が、国会に提出されました。また、金融庁の金融審議会の議論では、今後決済サービス分野でのアクティビティベースでの横断的法制の整備や政策アプローチの見直しが示唆されています。

昨年成立した改正銀行法においても仮想通貨交換業者に対する制度整備が行われており、今後、これらの金融ビジネスへの新規参入者とあわせて横断的法制が検討されていくと考えられます。

本稿では、こうした決済分野を中心に起こっている環境変化と規制の動向を整理するとともに、金融ビジネスを展開するうえでの論点について考察していきます。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 2017年3月銀行法改正案が国会に提出され、電子決済等代行業者が新たに金融規制に服する業者として加わることになった。昨年の資金決済法改正によって仮想通貨交換業者が新たに金融規制に服することとなったことに続く決済分野における金融サービス提供者に対する金融規制の導入となる。
  • 金融審議会が今後の取組みとして決済分野におけるアクティビティベースの横断的法制について問題意識を有していることが示された。今後は銀行の為替取引業務を含めた決済分野における大きな法制度枠組みの転換が起こる可能性がある。
  • 資金決済における顧客とのインターフェイスとなる決済サービスの分野で急速に構造的転換が進んでいる。既存の金融機関は、単にビジネスの一部が新規参入者によってシェアを奪われるという理解ではなく、競争力の源泉となる顧客ニーズを把握する能力、すなわち決済サービスを顧客に提供することから顧客の「ニーズ」を把握するために有用な情報の収集能力が毀損しつつあるという理解の下で今後のビジネス戦略を検討していく必要がある。

I. 2017年の銀行法等改正案

1. 金融制度ワーキング・グループ報告書

2016年12月、金融庁の金融審議会より「金融制度ワーキング・グループ報告 - オープン・イノベーションに向けた制度整備について - 」(以下「金融WG報告書」という)が公表されました。

FinTech(フィンテック)と呼ばれるIT(情報技術)の発展を活用した革新的な金融サービスの台頭を受けた金融を巡る環境変化への対応として取りまとめられた報告書としては、2015年12月に公表された金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ報告」および「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告」の2つの報告書に続く2年連続の報告書ということになります。

前回2015年12月公表の2つの報告書において取り上げられた具体的な施策については、銀行によるフィンテック企業への出資規制の緩和や仮想通貨交換業者に対する登録制の導入といった法制度整備を含む2016年の銀行法等改正に繋がるとともに、民間におけるオープンAPI※1の推進やブロックチェーン技術の活用等に関する検討が進められる端緒となりました。

2016年銀行法等改正の主要な部分については本年4月から施行され、後者の民間における取組みについては全国銀行協会において検討部会が設置されるとともに、2017年3月にはブロックチェーン技術の活用に関して取りまとめた報告書が公表され、オープンAPIの推進についても同協会において検討が進められているところです。

今般の金融WG報告においては、オープンAPIを含むオープン・イノベーションを進めるうえで銀行の相手方の1つとして想定されている電子決済等代行業者に対する登録制といった金融規制を導入することが主要な論点となっています。今後は、図表1のように前述の2015年の公表された2つのワーキング・グループ報告書が2016年の銀行法等改正に繋がったように、2017年の銀行法改正という形で金融WG報告の提言に基づく制度整備が進んでいくと考えられます。

なお、金融WG報告書を取りまとめた金融制度ワーキング・グループにおける議論で中心的な論点とされていたのは、規制領域をまたがるサービス等に係る環境整備と中間的業者に係る環境整備の2点でした。

このうち金融WG報告書において具体的な施策として取りまとめられたのは、後者の中間的業者(電子決済等代行業者)に係る環境整備のみであり、もう一方の規制領域をまたがるサービス等に係る環境整備については、結局金融制度ワーキング・グループで深掘りされることはありませんでした。

この規制領域をまたがる金融サービス等に係る横断的法制度の整備については、後半において詳しく取り上げます。

※1 API(Application Programming Interface)とは、他のシステムの機能やデータを安全に利用するための接続方式。オープンAPIとはこの接続方式をフィンテック企業等の外部事業者が利用できるように開放すること。

図表1 銀行法等改正の背景と今後の動向

2. 電子決済等代行業者

2017年の銀行法等改正によって銀行法上の登録が求められることになる電子決済等代行業者(中間的業者)とは、金融機関と顧客との間に立って、「顧客」からの委託を受けて、ITを活用した決済指図等の伝達や金融機関における口座情報の取得・顧客への提供を行う業者とされています。なお、金融機関と顧客との間に立って金融サービスを提供する中間的業者のうち、「銀行」からの委託を受けて、預金・融資・為替に関する契約の締結の代理・媒介を行う者については、現行の銀行法の下で銀行代理業の対象とされています。

電子決済等代行業者としては、家計簿アプリといったフィンテック企業が想定されています。図表2のように銀行法等改正案では、この電子決済等代行業者に登録制を導入し、一定の要件の下※2、適正な人的構成の確保や財務要件の充足、適切な情報管理、業務管理態勢の整備等を求めています。

また、電子決済等代行業者は、電子決済等代行業務を提供するに当たって、顧客が口座等を開設している銀行と、利用者の損害に係る賠償責任の分担や利用者に関する情報の安全管理に関する事項を含む契約を締結することを求めています。

他方で、金融機関に対してもオープン・イノベーションを推進する観点から、電子決済代行業者との連携・協働に係る方針および電子決済等代行業者との接続に係る基準の策定・公表が求められるほか、オープンAPI導入に向けた努力義務が求められています。

※2 顧客から資金を預かることがないことが前提とされています。

図表2 電子決済等代行業に関する法制度の整備の概要

3. 2016年の銀行法改正と併せた考察

2016年の銀行法等改正における主要な制度整備は、銀行法等改正によって銀行等がフィンテック企業への買収を含めた出資が可能になったことおよび資金決済法の改正によって仮想通貨交換業者に対する登録制が導入され新たに金融規制に服する業者となったことが挙げられます。

2017年の銀行法等改正における電子決済等代行業者に対する登録制の導入は、仮想通貨交換業者と同様にこれまで金融規制に服していなかったビジネスが新たに金融規制の枠組みに組み込まれるという点で共通しています。

もう1つ共通しているのは、仮想通貨交換業も電子決済等代行業もともに決済分野におけるビジネスであるという点です。このことは、フィンテックの進展によって最も変化が生じている金融ビジネスは、決済分野であることを示唆しています。

II. 決済サービス分野における横断的法制度の検討

1. 金融審議会における論点

2017年3月の金融審議会の会合において用いられたフィンテックや決済高度化を巡る動向と今後の課題に関する事務局説明資料(PDF)によると、フィンテックに係る今後の取組みとして、足下の問題への対応だけでなく、あるべき法制度の全体像を踏まえた対応に関する問題意識が示されています。

具体的には、諸外国における動向としてEUにおける決済サービスに係る横断的法制やシンガポールにおけるアクティビティベースの決済サービスに係る規制フレームワークが取り上げられており、前述のように当初金融制度ワーキング・グループで横断的法制度の整備が論点として取り上げられていたこと等と併せて考えると、今後、既に新たに金融規制に服することになった仮想通貨交換業および電子決済等代行業ならびに既にアンバンドリング※3され銀行法に基づく免許制よりも緩い登録制の下で非金融機関による業務提供が可能な決済サービスである前払式支払手段(いわゆるプリペイドカード)と資金移動業、さらに銀行による為替取引をも含めて、業態横断的な決済サービスに係る法制度整備が検討される可能性が考えられます。

為替取引は金融サービスのなかでも非常に広範に利用され、かつ、利用者の日常生活に深く根ざしている金融ビジネスです。こうした金融ビジネスの根幹的なサービスに係る規制水準が見直されるということは、金融機関にとっても非常に重要な議論だと言えます。この観点から、銀行等の金融機関をはじめとする金融ビジネスを展開する企業は、今後の金融審議会あるいは新たに設けられるかもしれないワーキング・グループにおける論点整理について留意していく必要があると考えます。

※3 アンバンドリングとは、一般的には、複数の要素や機能が束ねられることによって構成されている商品やサービスを個々の要素や機能に分解することをいう。

2. 為替取引を巡る考察

2016年9月、日本銀行から「銀行業と『為替取引』:銀行規制の適用範囲のあり方」と題するレポートが公表されました。このレポートでは、現在の銀行法が、預金、貸付け、為替取引については銀行のみが行える業務であるとともに、2009年の資金決済法改正によって100万円以下の為替取引であれば資金移動業として銀行の免許制よりも緩い登録制の下で業務を展開できるようになったことについて言及したうえで、金額の多寡による規制水準に差異を設けることの合理性について研究し、以下のような結論を導き出しています。

  • 「為替取引については、システミック・リスクを根拠とした銀行業としての厳しい規制に服せしめているという現状を再検討する余地がありうる。すなわち、預金を受け入れず為替取引を行う業者に対しては、1件あたりの取引金額の大きさにかかわらず、立法的な措置を講じて、銀行規制を適用しないとすることが整合的であると思われる」
  • 「そのうえで、預金を受け入れず為替取引を行う業者については、小口債権者によるモニタリングの不全への対応として別途、小口債権者を保護するために必要な範囲において、適切な規制を設けることが考えられる」

この理論に基づくと、決済サービス、特に為替取引に係る横断的な法制度整備においては、預金を受け入れつつ為替取引を行う銀行については引き続き免許制を維持するとともに、預金の受入れを伴わない為替取引については、金額の上限規制が撤廃され、為替取引の金額にかかわらず、免許制よりも緩い規制、たとえば、登録制の下で業務を展開できるようにするという論点整理が行われる可能性があると考えられます。

III. 金融機関への影響

1. 決済サービスと顧客とのインターフェイス

金融機関にとって顧客とのインターフェイスをどのように構築・維持していくかというのは、金融ビジネスを展開するうえでますます重要な課題となっています。なぜなら、顧客との接点を持つことは、金融商品やサービスを購入してもらうための第一歩であり、実際に商品やサービスを開発する際に最も重要な顧客ニーズを把握するために必要な情報を収集できるかどうかに直結するからです。

顧客の決済行動に関する情報は、顧客ニーズを把握するうえで非常に有用な情報源ですが、現在銀行は、次のような様々な側面からこの決済サービスを通じた顧客とのインターフェイスの構築・維持の困難に直面しています。

決済ビジネスをアンバンドリングするフィンテックビジネス、決済機能そのものを代替する仮想通貨、および銀行と顧客との間に入ってインターフェイスを奪う電子決済等代行業などが台頭することの真の脅威は単に新規参入者によって顧客とのビジネス機会を失うことではなく、競争力の源泉たる顧客ニーズを把握するための情報源を失うことを意味します。

銀行をはじめとする金融機関は、フィンテックの進展が自らのビジネスに与える影響を適切に理解するとともに、環境変化に応じた的確なビジネス展開を模索していく必要があると考えます。

執筆者

KPMG ジャパン
フィンテック推進支援室
副室長 シニアマネジャー 保木 健次

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