欧州法務事情シリーズ 第3回 イタリア(後編)イミグレーション | KPMG | JP

欧州法務事情シリーズ 第3回 イタリア(後編)イミグレーション

欧州法務事情シリーズ 第3回 イタリア(後編)イミグレーション

欧州法務事情シリーズ - 本稿は、「イタリア最新トピックス」において解説した中から主要なテーマを抽出し、一部編集を加えたものです。

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前号の「KPMG Insight Vol.23(2017年3月号)欧州法務事情シリーズ第3回イタリア(前編)会社法」においては、増え続ける日系企業の海外投資を背景に、イタリアにおいて現地法人を設立し事業展開を検討するケースを想定し、その際留意すべき会社形態の選択肢やそれぞれの特徴、設立に関する諸手続きなどイタリアにおける会社法に焦点を当て解説しました。

今号の(後編)では、イタリア現地法人に日本より従業員を短期間または長期間派遣するケースを想定し、その際に留意すべきシェンゲン国境規則などの基本的な事項や、ビザ(査証)の要否、イミグレーションにおける各種手続きについて解説します。

本稿は、KPMGイタリアが取り纏めた「イタリア最新トピックス(英日対訳版投資ガイド 本稿末尾ご参照)」において解説した中から主要なテーマを抽出し、一部編集を加えたものです。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • イタリアは、多くのEU加盟国同様シェンゲン協定加盟国の1つであり、日本は短期滞在が認められる期間においてビザ免除対象国である。
  • シェンゲン国境規則においてビザ免除で短期滞在が認められる期間は「あらゆる180日の期間内で最大90日間」とされている一方で、パスポートの有効期間に係る条件や出張を目的とした短期滞在における渡航条件(報酬を得る活動か否かなど)がある。
  • 就労を目的とする場合や90日を超えてイタリアに滞在する場合、イタリアの外国人就業規制においては、正規に労働許可証、労働目的の入国ビザ、滞在許可証を取得し、住民登録を完了する必要がある。

I. はじめに

イタリアにおいては、近年、グリーンフィールド型投資(外国に投資をする際に、新しく現地法人を設立して、設備や従業員の確保、チャネルの構築や顧客の確保を一から行う投資方式のこと)の他にも、ブラウンフィールド型投資(外国に投資をする際に、現地の企業を買収することで、被買収企業の既存の設備や従業員、チャネルや顧客を活用する投資方式のこと)も増加傾向にあり、2015年以降、鉄道事業、アパレル、自動車部品、冷蔵・冷凍事業などさまざまな業種の日系企業によるイタリア現地企業の買収が紙面で報じられています。こうした投資活動の過程においては、プロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討するフィージビリティスタディを実施するためにプロジェクト担当者が短期出張ベースでイタリアを訪問することや、イタリア現地法人を設立した場合やイタリア現地企業の買収を完了した場合に、統合作業など管理業務の目的で統括責任者が長期間現地法人に派遣されることなどが想定されます。

こうした日系企業のイタリアにおける事業展開に際して、就労を目的として従業員がイタリアに滞在する場合の出入国上の取扱いについて、どの程度の期間が法的に短期/長期に区分され、それに基づいてどのような手続きが必要になるのでしょうか。

II. シェンゲン協定加盟国における入国審査

1. シェンゲン協定とシェンゲン圏について

欧州には、1985年に署名されたシェンゲン協定が適用される欧州26ヵ国から構成される枠組み(シェンゲン圏)があり、多くのEU加盟国同様イタリアもシェンゲン協定加盟国の1つです。シェンゲン圏は、単一国家のような枠組みになっており、現在、4億人を超える人口を擁し、400万平方キロ以上に及ぶ広大な面積を有しています。シェンゲン圏では、渡航者がシェンゲン圏に入国、または圏外へ出国する場合には国境検査を受けるものの、圏内で国境を越える場合の出入国審査は廃止されており、フリーパスとなります。加盟国などの詳細は図表1において示していますが、シェンゲン圏には、スイスやノルウェーなどEUに加盟していない国が含まれている一方で、英国やルーマニアのようにEU加盟国であるもののシェンゲン協定に加盟していない国もあります。

2. ビザ(査証)が必要な条件

さて、ビザ(査証)とは、その人物のもつパスポートが有効であり、当該国への入国を許可できるという証書のことを指しますが、ビザが必要なケースと不要なケースは、その人物がどの国籍を有しているのかによって判断されます(図表1参照)。

日本人従業員が本社の指示で一定期間イタリアに入国することを例に挙げます。会社の業務上の短期出張でイタリアに入国する場合、90日以内の滞在であればビザは不要、90日を超える滞在の場合は特定のビザが必要となります。また、イタリアに就労を目的として入国する場合は労働ビザが必要となります。関連して、当人に帯同する家族について、家族の国籍が日本の場合、ビザは不要となりますが、日本国籍以外の場合は特定のビザが必要となる場合があります。

図表1 シェンゲン協定加盟国およびビザ免除国/地域

シェンゲン協定加盟国 全26ヶ国:

オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス

ビザ免除対象国/地域
アルバニア、アンドラ、アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、オーストラリア、バハマ、バルバドス、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル、ブルネイ、カナダ、チリ、コスタリカ、クロアチア、ドメニカ、エルサルバドル、アラブ首長国連邦、マケドニア、グアテマラ、グレナダ、ホンジュラス、香港、イスラエル、日本、マレーシア、マカオ、モーリシャス、メキシコ、モナコ、モンテネグロ、ニュージーランド、ニカラグア、北マリアナ諸島、パナマ、パラグアイ、セントクリストファー・ネイビス、サモア、セントルシア、セルビア、セーシェル共和国、シンガポール、韓国、セントビンセントおよびグレナティーン諸島、台湾、東ティモール、トリニダード・トバゴ、米国、ウルグアイ、バヌアツ、ベネズエラ

3. 短期滞在とは?

短期滞在とは、観光や出張、知人・親族訪問等を目的とした90日以内の滞在で報酬を得る活動をしない滞在を指します。イタリアを含むシェンゲン圏への出入国に関連するシェンゲン国境規則に基づき、短期滞在を目的とした渡航者は、シェンゲン圏内において、あらゆる180日間のうち最大で90日以内の滞在が可能です。滞在日数が90日に達した時点で、仮にシェンゲン圏外に数日間出国したとしても、再入国の際に新たに90日の滞在は認められません。この場合、シェンゲン圏外に90日以上出国した後、シェンゲン圏への再入国が可能となります。日本は、各シェンゲン加盟国との間で二国間のビザ免除措置に関する枠組みを有していますが、シェンゲン圏に長期間滞在する予定のある方は十分な注意が必要です。

なお、出張を目的とした短期滞在についても活動制限がありますので注意が必要です。シェンゲン協定において、出張目的の渡航は、以下のように定義されています。

  • 科学、教育、ビジネスまたは専門分野などがテーマとなる国際会議やセミナーへの参加
  • トレーニングプログラムへの参加(会社の社員研修など)
  • 商談
  • 顧客訪問
  • 展示会、商材の受発注、交渉および契約の締結
  • 研究活動

渡航条件として、イタリア現地企業または関連団体から給与・報酬を受けないこと、渡航目的が現地雇用または雇用を目的とした労働を伴うものではないこと、イタリア国外に住居を構えていることなどを証明できる必要があります。

シェンゲン圏への入国における必要条件および留意事項として、有効期間がシェンゲン圏からの出国予定日から3ヵ月以上残っており、かつ、10年以内に発効されたパスポートを保有していること、シェンゲン圏の入国スタンプを保有していることなどが挙げられます。特に、スタンプの有無については、現地の警察などの司法当局にパスポートの確認を受けた際にスタンプが無い場合は滞在期間を問われ、その滞在自体が問題となる可能性があるので注意が必要です。また、シェンゲン圏への入国に際して、入国審査官から帰国便の航空券の有無や滞在費用など資力を示す書類の提示を求められる場合もあります。

4. 就労・長期滞在とは?

就労・長期滞在とは、就労を目的とする場合やイタリアにおいてあらゆる180日間のうち90日を超えて滞在する場合など、短期滞在の要件に該当しない滞在を指します。たとえば、日系企業に所属する日本人従業員が本社の指示でイタリアに駐在するといったケースが該当すると思われます。

就労・長期滞在の場合は、イタリアにおける外国人就業規制として、正規に労働許可証、労働目的の入国ビザ、滞在許可証を取得し、住民登録を完了する必要があります。就労・長期滞在に関連してどのような手続きが必要で、どの程度の時間を要するかについては図表2において紹介していますが、以降は、労働許可証、ビザ、滞在許可証、融和協定、住民登録についてそれぞれ概説します。

図表2 労働許可証の申請、ビザの取得、イタリア入国、住民登録の流れ

III. イミグレーション手続および融和協定

1. 労働許可証の取得手続き

労働許可証(Nulla Osta)は、移民統合事務局(Sportello Unico per l’immigrazione)や警察署(Questura)により発行されます。イタリアの移民法は頻繁に改正・変更があり煩雑な手続きを伴うため、個別に手続きを確認する必要があります。労働許可証の発行に際しては、イタリア政府による年間発行件数の定員数が設定されています。基本的に割当数は年に一度設定され、定員数が埋まるまで申請が可能ですが、仮に割当定員内で申請できない場合においても、移民法27条のもと、割当定員外で常に申請が可能です。定員外で申請可能な対象者として、たとえば、マネジャー、高度な技能・資格を持つ者などが該当します。これらの対象者は、申請者が出向先法人の業務内容または業種に関する最低6ヵ月の経験を有することや、出向元法人と出向先法人が同一企業グループまたは資本関係に属すること、原則的に出向者の給与は出向先法人から直接支払われるのではなく日本の出向元法人から支給されること、などの条件が必要となります。また、2017年1月に新たに制定されたIntra-corporate transfer(ICT)労働許可に関する法令のもと、研修員や専門的訓練を目的とした出向者の労働許可についても、常に申請が可能となっています。

2. イタリア入国におけるビザの取得手続き

ビザは労働許可証が発行されてはじめて申請が可能であり、手続きとして、申請者本人がイタリア大使館または領事館にて必要書類を提出する必要があります。また、ビザには、労働許可証の種類に紐付き、被雇用者用の労働ビザ=被雇用者ビザ(Subordinato)と個人事業主などの自営業用の労働ビザ=自営業ビザ(Autonomo)などの種類があり、その種類によって申請手続きも大きく異なります。なお、以下は、被雇用者用の労働ビザ申請時の必要書類となりますが、大使館または領事館によりビザの申請に予約が必要になる場合や、ビザ発行までの所要時間が異なることがあるため注意が必要です。

  • パスポートサイズの写真を貼付したビザ申請用紙
  • パスポート(帰国予定日より数えて90日以上の有効期間と未使用のページが2ページ以上残っていることが必要)とそのコピー
  • 住民票(日本での申請の場合)
  • ビザ申請料
  • 労働許可証(労働許可は発行と同時にデータによって直接管轄の大使館または領事館に送信されるため、ビザ申請の前にあらかじめ確認しておくとよい)

詳細は駐日イタリア大使館のウェブサイトをご参照ください。

3. 滞在許可証の取得手続き

滞在許可証(Permesso di Soggiorno)は、イタリアに90日を超えて滞在する外国人が合法的に滞在していることを証明する許可証であり、申請にあたっては、イタリア入国から8日以内に手続きをする必要があります。滞在許可証はビザの種類、入国目的に準じて警察署が発行するものですが、パスポートや身分証明書の代わりにはならないため注意が必要です。滞在許可の有効期間は労働許可の種類によって異なり、最大5年まで更新可能となります。取得のための申請手続きは図表3において示していますが、昨年末にイタリア内務省が2016年中にイタリアに到着した移民が過去最高となったことを公表したように、イタリアに入国する移民は近年増加傾向にあり、その影響はイタリアに駐在する外国人労働者にも及んでおり、滞在許可証の取得期間も長期化する傾向にあります。2016年10月末にイタリアに入国した筆者が滞在許可証を取得したのは入国から5ヵ月が過ぎた3月末であり、今後も同様に、取得申請書の送付から取得完了まで数ヵ月程度要する可能性が高くなるものと考えられ
ます。

なお、滞在許可証の取得/更新申請中における他のシェンゲン圏への渡航の可否ついてよく質問が寄せられることがありますが、取得申請中においてパスポートに有効な(当初の)入国ビザが貼付されている場合は渡航可能です。一方で、ビザなしで入国し既に90日以上シェンゲン圏内に滞在している場合や、ビザおよび滞在許可ともに有効期間が切れて滞在許可証の更新中にある場合おいては、他のシェンゲン圏への渡航はできま
せん。

また、これまで概説した入国に係る手続き上、ホテルやレジデンス(短期居住先)を滞在先として申告することが一般的ですが、滞在許可申請中は、リスクを回避するため、警察での指紋採取が完了するまではアパート等へは引っ越さず、ホテル等に滞在し続けることを推奨します。

図表3 滞在許可証の取得手続き

 

手続概要 手続期間
滞在許可証の取得申請書は指定郵便局より送付する必要がある。
取得申請書(KIT)は指定郵便局にて入手可能であり、2種類のフォームに必要事項を記入し申請時に必要な書類を同封し、指定郵便局より送付する必要がある。
入国から
8日以内

申請者は以下の書類を指定郵便局にて受領する:

  • 取得申請の受領書:滞在許可証が発行されるまでの一時的な滞在許可証となり、イタリアでの一時的な滞在が許可される。
  • 指紋採取の予約通知書:取得手続きを行う管轄警察署(Questura)でのアポイントメントの日時が記載されている。
指紋採取時には必要書類の原本および身分証明書写真(複数枚)を提示・提出する必要がある。 3~5ヵ月
滞在許可証の引取日時がSMS(ショートメッセージサービス)を通じて申請者に警察より通知される。
滞在許可証の取得完了。

4. 融和協定

融和協定(Accordo di Integrazione)は、言語や市民文化の習得を通じて外国人がイタリア社会へ融合することを奨励する目的で導入された制度です。協定に署名をする対象者は、2012年3月10日以降はじめて入国し、1年以上の滞在許可の適用を受ける16歳以上の外国人とされており、協定の対象者がイタリアに滞在するためには、活動内容(イタリア語の習得、イタリア市民文化および市民生活の知識習得など)によって個別に定められた単位を30単位以上取得する必要があります。30単位のうち16単位は協定に署名した時点で自動的に付与されますが、その他の単位は主にイタリア語の習得を通じて取得することになります。単位の取得状況は、原則として、融和協定の有効期間(2年)が切れる1ヵ月前に当局によって確認され、30単位に達していない場合は、1年に限り有効期間の延長が認められるものの、規定のうえでは、当局が滞在許可証の更新に応じない可能性もあるとされているため注意が必要です。融和協定に関して注目すべきは、制度導入から数年が経ち、近年、当局が協定署名者の単位取得状況の確認手続きを推し進めている点であり、これまでに実際に滞在許可証の更新手続きに影響があった例は耳にしないものの、今後日本から新たに派遣される従業員にとっては以前にも増してイタリア語習得の必要性が高まる可能性があると言えます。

5. 住民登録の申請手続き

住民登録は、実際にイタリアにおいて滞在許可証を有し、1年以上イタリアに滞在する予定のある外国人が、管轄の市役所(comune)に登録するものです。イタリアでの生活における様々な手続き、たとえば、ASL(地域保健所)の登録、ホームドクターの登録、運転免許の書換えなどをするうえで必要となります。上述のとおり、住民登録の申請は、滞在許可証の発行後に可能となりますが、実務的な申請方法としては、電子メール、ファクシミリ、申請者自らが市役所にて申請する等の選択肢があります。その際、提出する必要書類は市役所によって異なるため注意が必要です。また、管轄の市役所によって取扱が異なるものの、滞在許可証やパスポート、税務番号などの必要資料の提出が求められます。滞在許可証を取得後、住民登録は、申請から最長で45日以内に登録が完了します。

執筆者

KPMGイタリア
ミラノ事務所 グローバルジャパニーズプラクティス
日本税理士
マネジャー 金 初禧

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