「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」の概要

「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」の概要

「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」の概要

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)より、平成29年1月27日に、実務対応報告公開草案第51号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」(以下「本公開草案」という)が公表されました。
本公開草案は、退職給付債務、勤務費用及び利息費用(以下合わせて「退職給付債務等」という)の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の割引率に関する当面の取扱いを示すことを目的としており、本公開草案に対するコメント期限は、平成29年3月3日までとなっています。本稿では、本公開草案の具体的な内容について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれも認めることが当面の取扱いとして提案されている。
  • 上記の取扱いは、当面、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限って適用することが提案されている。

I. 本公開草案の概要

1. 経緯

日本銀行が平成28年1月29日に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定したことを受けて、同年2月16日から、金融機関が保有する日本銀行当座預金のうち一定の部分に0.1%のマイナス金利が適用されており、残存期間が短期の国公債(以下「国債等」という)のみならず、長期の国債等についてもマイナスの利回りが見受けられます。これに関連してASBJは、退職給付債務の計算における割引率に関する議論を行い、当該議論の内容を周知徹底するため、平成28年3月に議事概要を公表しました。また、ASBJは、平成28年7月に公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議よりマイナス金利に係る種々の会計上の論点への対応について、必要に応じて適時に対応を図ることの依頼を受けました。
ASBJは、退職給付債務等の計算は一般的に財務諸表に与える影響が大きく、早急に取扱いを示すべきであるという実務上の要請と、現時点での国債等の各残存期間におけるマイナスの利回りの幅が大きくないことを踏まえ、本公開草案において当面の取扱いを提案しています。

2. 本公開草案で提案されている処理

本公開草案では、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、1.利回りの下限としてゼロを利用する方法と2.マイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれも認めています。

3. 提案の背景

退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、1.利回りの下限としてゼロを利用するか、2.マイナスの利回りをそのまま利用するか、いずれが適切か論点となります。これは、マイナス金利の経済的な性質が必ずしも明確ではない中、図表1に記載されているマイナス金利の状況下における様々な論点をどのように考えるかにより、結論が変わり得るためです。
なお、これらの論点の解決を図るには、国際的な動向も踏まえる必要があると考えられるものの、欧州での議論でも、現時点では統一的な見解は定まっていません。

 

図表1 それぞれの方法を支持する主な考え方

(1)利回りの下限として
ゼロを利用する方法を
支持する主な考え方
(2)マイナスの利回りを
そのまま利用する方法を
支持する主な考え方
現金の保有で現在の価値を維持できることから、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少することはない(信用リスクフリーレートの下限はゼロ) 金銭的時間価値は時の経過に応じて減少し、将来価値が現在価値よりも低くなると市場は評価していることを踏まえると、信用リスクフリーレートはマイナスとなり得る
退職給付会計基準上で、年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させることは求められていない マイナス金利の影響が年金資産の評価に反映されるときには、退職給付債務の評価にも反映させて、両者の評価を整合させるべき

II. 適用時期

本公開草案で示された当面の取扱いは、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限って適用することが提案されています。
なお、平成30年3月31日以後に終了する事業年度の取扱いについては、1.利回りの下限としてゼロを利用する方法と、2.マイナスの利回りをそのまま利用する方法の、いずれかの方法によることとするガイダンスの公表に向けて、引き続き検討を行う方針とされています。ただし、進捗状況次第では、今回提案された当面の取扱いを継続する可能性もあるとされています。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
マネジャー 沼田 慶輔

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