2017年度インド予算案における税制改正の概要 | KPMG | JP

2017年度インド予算案における税制改正の概要

2017年度インド予算案における税制改正の概要

本稿では、インド予算案における税制改正について、日系企業への影響を中心に解説します。

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2017年2月1日、アルン・ジャイトリー財務大臣より、2017年度インド連邦予算案(以下「2017年度予算案」もしくは「予算案」)が公表されました。これは前年まで別々に公表されていた鉄道予算と統合された初めての予算案で、1ヵ月前倒して発表することで新年度まで十分な時間を確保し、各省庁において新年度の初めから十分な施策が実行されるよう意図されたものです。

ポイント

「日系企業に直接的なメリットのある税制改正は少ない」

  • 公表を1ヵ月前倒し、鉄道予算と統合
  • 3つの指針と10の重点施策
  • インフラ投資と、農村支援
  • 直接税は基本的に減税
  • 間接税はGST導入待ちで、変化なし

今年の予算は、前年までの“Make in India”や“Ease of doingbusiness”といった企業活動の促進を継続しつつ、3つの指針と10の重点施策に整理されています。

  • 3つの指針=TEC India
    Transform:ガバナンスの質、生活の質を変革
    Energize:若年層および弱者を活性化、本来の力を発揮さ
    せる
    Clean:不正、ブラックマネー、不透明な政治資金への対応

 

10の重点施策

重点施策 内容
農家(Farmers) 2022年までに所得倍増
僻地(Rural Population) 2018年5月までに電力普及率100%
若年層(Youth) モノづくり教育
貧困層(The Poor and the Underprivileged) 就業機会、低価格住宅の提供
インフラストラクチャ(Infrastructure) 鉄道、道路、空港等の輸送関係
過去最高額を計上
金融セクター(Financial Sector)
金融インフラの発展と強化
サイバーセキュリティ
デジタル・エコノミー(Digital Economy) 現金取引を制限、電子決済を促進
公共サービス
(Public Services)
各地の中央郵便局をパスポート窓口に活用裁判所の統廃合による合理化
財政規律(Prudent Fiscal Management) インフラ投資等で景気を刺激しつつも財政赤字を抑制
税制(Tax Administration) 減税、手続きの簡素化


本稿では、予算案の方向性とその背景、インド経済の特質とその概況、企業運営に直接関連する法改正について、日系企業への影響を中心に解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見である点をあらかじめお断りいたします。

I. インド経済概況

インド経済を取り巻くグローバル経済では、米国の保護主義化、Brexitと独仏の保護主義化リスク、アジアにおける中国主導のRCEP(東アジア地域 包括的経済連携)の実現など、インドが世界の生産拠点となるための障害となりうる状況です。また、生産拠点としての輸出だけでなく、中低所得者層の底上げによるインド国内景気の向上が課題となっています。このようなグローバル経済の影響を受けながらもインドのGDP 成長率は2015年度7.6%、2016年度6.5%(直近見込7.1%)を見込んでいます。2017年度においても6.75%から7.5%程度の引き続き高い成長率が見込まれています。
経済環境は概ね良好に推移していることから、世界経済における高い評価と期待を受けています。このような中、継続的な外国投資の拡大のために下記の方針が示されています。

  • 外国投資促進委員会(FIPB:Foreign Investment Promotion Board)の廃止
  • 世界銀行の「Ease of Doing Business」ランキングにおいて130位から50位を目指す

II.具体的な施策

以下、デジタル・エコノミー、直接税(法人税、移転価格税制、個人所得税)、間接税について、解説します。

1. デジタルエコノミー

デジタル・エコノミーは、現金取引を制限し、電子決済を促進することで、資金の流れの透明化、顕在化と、取引の効率化を図っていくものです。

 

1)高額紙幣の廃止
予算案に先んじて、2016年11月9日に突如、1,000インドルピー、500インドルピー札の流通が禁止されました。これは、短期的には、小売りや不動産等の現金決済比率が高い業種に影響を与えGDPの引き下げ要因となりましたが、中長期的にはブラックマネー、脱税を抑制して、地下経済を顕在化させるものと期待されています。

 

2)現金取引を制限、電子決済を促進
現金取引を制限する施策としては、寄付支払額が2,000インドルピーを超える場合、損金算入が認められるためには、現金以外の手段による決済が必要となります。また、現金決済は300,000インドルピーまでとされ、これを超過する場合、取引額と同額のペナルティが課されます。
電子決済を促進するため、一定要件を満たすPOS、ATM、指紋・虹彩認証機器の輸入および製造、また、当該機器製造部品にかかる輸入に課される税金(基本関税、相殺関税、特別追加関税、物品税)が免除になります(即日適用)。

 

3)政治団体に対しても厳格化
政治資金の透明化も課題の一つであり、個人献金が2,000インドルピーを超える場合の超過額や期日内に税務申告書が提出されない場合には損金算入が認められなくなります。

2. 直接税

1)法人税
1. 法人税率の引き下げ
外資誘致のための施策とし東南アジア諸国の競合国並みの法人税率を目指し、2015年度の予算案の中で、将来4年間かけて基本税率を30%から25%に5%引き下げることとされていましたが、税収確保のための施策との調整の中で、一定の税率引下げに留まっています。
2017年度は、売上500百万インドルピー以下の中小企業(MSME:Micro Small Medium Enterprise)の税率については30%から25%に引下げられています。

2. スタートアップ企業への優遇措置
世界の注目を集めるスタートアップの中心地となるべく、2016年4月1日以降2019年3月31日までに設立された企業で、売上250百万インドルピー以下の高度技術を有するスタートアップ企業には、設立後7年間(従前は設立後5年間)のうち、いずれかの連続する3年間については、納税義務が免除とされます。まだまだ実例は多くはないものの日本企業がスタートアップ企業を設立したり、投資を検討するときには優遇税制のメリットを考慮することも増えてくると思います。スタートアップ企業への優遇は、投資からの撤退時にも配慮されており、株式の売却時に株主構成の変化が51%を超えた場合でも、税務上の欠損金の繰越が可能となっています。(ただし、設立時株主は残存する必要あり)

3. 株式へのキャピタルゲイン課税
キャピタルゲインに関しては、2014年10月1日以降の投資で有価証券取引税(STT: Securities transaction tax)を支払っている場合の、長期のキャピタルゲインの免税措置がなくなります。また、非居住者が長期保有していた株式を居住者・非居住者に譲渡する場合のキャピタルゲイン10%課税のルールが明確化されました。

 

2)移転価格税制
1. 過少資本税制の導入
OECD BEPSプロジェクトの要請により、BEPS行動計画4の法制化として、過少資本税制が導入されました。
過少資本税制は、国外支配株主等から過大な借入を行うことによる租税回避行為を防止するためのものですが、インドにはこれまで導入されていませんでした。インドでは損金算入できる支払利息の範囲がEBITDAをベースとしています。このため、継続してEBITDAがマイナスで、親会社等の関連会社からの借入が増加している場合には、多額の支払利息の損金算入が認められなくなる可能性もありますので、資金調達スキームの見直し等の対応が必要になってくる場合もあります。

  • 対象取引:インド非居住者である親会社等の関連会社に対する支払利息
  • 基準固定率:30%(純支払利子/EBITDA)
  • 対象金額:1千万インドルピー超
  • 超過利子の繰越:8年
  • 対象外業種:銀行、保険

2. Form3CEBに署名するCAへのペナルティ
また、移転価格税制の強化の一環で、移転価格証明(Form3CEB)に署名するインド勅許会計士(CA: Chartered Accountants)にペナルティが課されることになりました。証明書類の不備についてのペナルティであって、マークアップ率等の妥当性までは責任を負わないと考えられていますが、年度末の3CEBの署名、提出に向けて、いつも以上に担当会計士と移転価格の協議を早目に十分な時間をかけて行う必要があると考えられます。

 

3)その他
最低代替税(MAT:Minimum Alternative Tax)の税額控除期間が現在の10年から15年に延長されます。また、ECB(対外商業借入:External Commercial Borrowing)に対する利払い時の優遇源泉税率5%の2020年までの延長等の施策が発表されています。
その他の施策についは、税務の手続き面に関する簡素化、早期化等により、企業を後押しするものとなっています。

  • 法人税還付ステイタスの場合、税務調査終了前でも、一旦還付
  • 法人税の修正申告期限は申告年度の翌年度末、もしくは税務調査終了までのいずれか早い時期
  • 税務調査の終了期限が短縮(2017年度は賦課年度終了の日から18ヵ月後まで、2018年度以降は賦課年度終了の日から12ヵ月後まで)

4)個人所得税
個人所得税については、予算案の基本的な方針を反映し、年間所得金額25万超~50万インドルピーの中所得者層の減税を行う一方、500万超から1,000万インドルピーの高所得者に課される税額に対して10%のサーチャージが導入されています。この“500万超から1,000万インドルピー”は、グロスアップされていることが多い日本人駐在員の給与が該当することが多く、企業側では追加の給与負担が発生することになります。

 

個人所得税率

所得金額 現行税率 新税率
25万インドルピー以下 - -
25万超~50万インドルピー 10% 5%
50万超~100万インドルピー 20% 20%
100万インドルピー超 30% 30%


1. 税額控除

  • 税額控除対象額が年間所得50万インドルピーから35万インドルピーに減額
  • 税額控除額が5,000インドルピーから2,500インドルピーに減額

2. サーチャージ

  • 500万超から1,000万インドルピーの所得に課される税額に対して10%のサーチャージの導入
  • サーチャージ導入によって不利益を被る場合には救済措置あり
  • 1,000万インドルピー超の所得に課される税額の15%サーチャージに変更はなし

3. 教育目的税

  • 変更なし。税額とサーチャージの合計に対し3%相当を課税

3. 間接税

間接税は、予算案の中でも言及されているGSTが導入されるため、各税制に大きな変更はなく、税率の変更もありませんでした。ただし、Make in Indiaを促進するための特定製品への関税の減税と、前述のデジタル・エコノミー推進のため、一定要件を満たすPOS、ATM、指紋・虹彩認証機器の輸入および製造、また、当該機器製造部品にかかる輸入に課される税金(基本関税、相殺関税、特別追加関税、物品税)が免除されます。

1)関税
昨年に引き続き、Make in India促進のため、また環境対応を促進するための、政策的な減税が継続しています。

以下は関税引下げの一例となります。

  現在 今後
LNG 5% 2.5%
再生可能エネルギー 10%/7.5% 5%
一定のPOS、ATM関連機器 10% 0


2)物品税

物品税についても基本税率(12.5%)に変更はありませんでした。デジタル・エコノミー推進のための製品、部品の製造については物品税が免除されています。工場の移転、売却、合併等に際して、仕入控除の引継ぎ申請に対する税務当局の承認期間が3ヵ月以内と明確化されたことにより、仕入控除の引継ぎの可否が明確にならないまま手続きを進めた結果、あとになって結局仕入控除が引き継げないというような事態は避けられるようになります。

3)サービス税
サービス税についても基本税率(15%)に変更はありませんでした。2007年6月1日から2016年9月21日までに州政府産業開発公社に支払った長期リース料はサービス税の課税対象外とされています。また、R&D Cess は廃止され、サービス税に一本化されました。この結果、サービス税は仕入控除が取れるため、仕入控除可能額の増加が見込まれます。


ここまで、2017年度インド予算案における施策について、日系企業に与える影響を中心に解説してきましたが、各社での検討に当たっては、特に影響が大きい施策について、自社への適用があるのか、ある場合はどのくらいの影響があるのかを検討する必要があります。

執筆者

KPMG インド
チェンナイ事務所
アソシエイト・ディレクター 合田 潤

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