欧州法務事情シリーズ 第3回 イタリア(前編)会社法

欧州法務事情シリーズ 第3回 イタリア(前編)会社法

欧州法務事情シリーズ - 本稿はKPMGイタリアが取り纏めた「イタリア最新トピックス」において解説した中から主要なテーマを抽出し、編集を加えたものです。

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2016年は、6月に英国におけるEU離脱の是非を問う国民投票が実施され、英国のEUからの離脱が決定したほか、11月にはアメリカ合衆国大統領選挙が実施され、共和党のドナルド・トランプ氏が勝利する等、歴史的にも意味合いの大きな政治イベントがいくつかありました。イタリアにおいては、12月上旬に憲法改正の是非を問う国民投票が実施され、改正反対の支持率が6割近くと、賛成派約4割を大きく上回り、これを受けてマッテオ・レンツィ首相は辞任を表明し、新たにパオロ・ジェンティローニ氏が首相に就任しました。この流れから、イタリアにおける早期の解散総選挙実施の可能性が謳われる一方で、2017年のG7議長国である同国において選挙が前倒しで実施される可能性は低いと見る動きもある中、今後も同国の政局の行方と、金融機関の再編などの経済動向が注目されるところです。
さて、企業のグローバル化が喫緊の課題となっている昨今、2015年10月1日現在、イタリアには約300社の日系企業が事業展開しており1、13,000名強の在留邦人1が居住しています。近年では、さまざまな業種の日系企業による大規模な買収案件が増加傾向にあり、イタリアへの市場参入手段も多様化しつつあります。こうした状況も踏まえて、今回の欧州法務事情シリーズ第3回(前編)において、イタリアへの新規投資を検討する際に必要となる会社法の概要の解説に焦点を当て、会社設立における法的形態の選択肢や諸手続きについて概説いたします。また、次号(後編)では、イタリア現地法人へ日本人駐在員を派遣する際の法務上の留意点や手続きについて解説します。
本稿は、KPMGイタリアが取り纏めた「イタリア最新トピックス(英日対訳版投資ガイド本稿末尾ご参照)」において解説した中から主要なテーマを抽出し、編集を加えたものです。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • イタリアにおける拠点設立は、会社形態、パートナーシップ形態から選択することができる。
  • 会社形態は、株式会社(S.p.A.)、有限会社(S.r.l.)、株式合資会社(S.a.p.a.)の3種類から選択することができ、有限会社(S.r.l.)は、組織体としての柔軟性が高く、有限責任であることから、イタリアでもっとも広く活用されている。
  • 一般的に新会社の設立(登録)の手続きには1~3週間程度の時間を要する。

I. はじめに

イタリアは、欧州において5番目に多い約6,000万人の人口を擁し、2015年世界銀行GDPランキングにおいて世界第8位、ユーロ圏では第3位の経済力を有する大国です。日本との貿易上の関係においては、医薬品、一般機器、バッグ類、衣類などを主要輸出品目とし、一般機器、輸送用機器、電気機器などが主要輸入品目となっています(2015年財務省/貿易統計)。また、日本からの対外直接投資の観点では、2016年速報値において、イタリアは、フランス、スペインに次いで513百万ドルの規模を誇っており(2016年財務省)、今後も日本からの投資先として一層重要な地位を確立していくことが期待されます。イタリア経済財政省によれば、2017年の実質GDP成長率を0.6~1.0%と予測し、かろうじてプラス成長を維持できそうな状況が報じられています。他方、冒頭にもご紹介のとおり、英国のEU離脱問題の影響を大きく受ける可能性が予想されており、民間消費と貿易が低調となる見込みとあり、2017年の赤字予算については、EUから赤字縮小を要請されている状況です。
日系企業はイタリア北部のミラノをはじめとする大都市に事業拠点が集中していた傾向にありますが、近年の買収を通じて日系企業の事業拠点は各地に広がっています。新規投資にあたっては、イタリア南部の低開発地域は投資促進地域として位置づけられ、企業規模および投資の形態に応じた法人所得税の減免措置や補助金の交付、R&D活動に対する補助金や低利融資制度などの優遇措置が適用されています。

II. 相互主義(レシプロシティー)

イタリアへの投資には、さまざまな市場参入の選択肢がありますが、まずは外国人投資家(この場合、日系企業を含む外資系企業を指します)に対する取扱いについて理解する必要があります。
EU加盟国に所在する外国法人がイタリアで投資を行う場合、いかなる規制の対象にもならず、イタリア内国法人による投資と同様に取り扱われます。一方、EU加盟国以外に所在する外国法人(日系企業などの外国法人を指します)による投資は「相互主義(レシプロシティー)」を原則とします。つまり、外国法人は、自国の法律がイタリア内国法人に認めるものと同じ権利をイタリアにて享受することが可能ということになります。なお、一部の規制業種(通信業、銀行業などの特定の業種)については、会社設立や企業買収のいずれの場合においても、承認取得のための各種申請手続きが必要となることに注意を払う必要があります。

III. イタリア会社法

1. 拠点の設立(法的形態)

イタリアで事業展開をする日系企業などの外国人投資家は、イタリア会社法の下で設立が認められる法的形態の中から、組織モデル、事業の目的、資本水準、責任範囲、税務および会計上の影響などを考慮して選択することが可能です。主な法的形態は以下の2種類です。

  • パートナーシップ(societa di persone)
  • 会社(societa di capitali)

最も大きな違いとして、パートナーシップの資産および負債は、パートナーシップを構成する社員の資産および負債から完全に分離されていないことに対し、会社の資産および負債は完全に分離されていることです。
パートナーシップの選択肢としては、主に、すべての社員が会社の債務について無限責任を負う合名会社(societa in nomecollettivo)、会社の債務について無限責任を負う無限責任社員(soci accomandatari)と出資の範囲内で会社の債務について責任を負う有限責任社員(soci accomandanti)から構成される合資会社(societa in accomandita semplice)の2種類があります。
また、会社形態の選択肢としては、株式会社(S.p.A.)、有限会社(S.r.l.)、株式合資会社(S.a.p.a.)の3種類があり、これらすべての会社形態に共通する基本原則として、会社はその資産および負債に対して責任を負うものであり、すなわち、株主・持分保有者の責任範囲は、資本金としての払込金額に限定されることです。以降は、それぞれの形態の特徴について解説します。
なお、図表1では主要な手続きを表していますが、一般的に会社設立には1~3週間程度の時間を要するとされています。

 

図表1 会社設立に要する各種手続き

主な手続き 補足説明
基本定款の作成 会社に関する基本的な情報を記載(公正証書)
通常定款の作成 会社の業務およびガバナンスに関する
ルールを記載(公正証書)
管轄区の
VAT事務所への登録
新会社は設立後ただちにVAT番号と
税務番号の申請が必要
取締役の
税務番号の取得
取締役会のメンバーが外国人の場合は
イタリアの税務番号が必要
商業登記所への登録 会社は登記後に法人格を取得

2. 会社形態の特徴

1)株式会社(societa per azioniまたはS.p.A.)
すべての出資者が有限責任であること、資本金が株式に分割されていることが特徴です。また、株式会社の設立時に必要とされる最低資本金は50,000ユーロで、そのうち、少なくとも25%(12,500ユーロ)の払込が必要となります。また、保険業や銀行業などの一部の規制業種は、より高額の資本金が必要となります。

2)有限会社(societa a responsabilita limitataまたはS.r.l.)
組織体としての柔軟性が高く、有限責任であることから、イタリアでもっとも広く活用されている会社形態です。少数の持分保有者(1名でも可能)で、スリムなマネジメント体制の会社に適しているといえます。また、有限会社に求められる最低資本金は10,000ユーロで、そのうち、少なくとも25%(2,500ユーロ)の払込が必要となります。
また、起業を奨励する目的で、2013年に簡易有限会社(simplified S.r.l.)の形態が新たに導入されており、その設立時に必要とされる最低資本金は1ユーロで、上限金額は9,999.99ユーロとなっています。簡易有限会社の場合は、資本金の払込は現金に限られ、出資者は個人に限定されます(会社や他の組織体が出資することは認められません)。

3)株式合資会社(societa in accomandita per azioniまたはS.a.p.a.)
有限責任パートナーシップと株式会社双方の特徴を併せ持ち、少なくとも1名の無限責任社員と、責任が出資額までに限定されるその他の出資者から構成されます。この違いを除き、S.a.p.a.とS.p.A.は類似しています。

3. 支店および駐在員事務所

上述の会社形態とは異なり、日系企業などを含む外国法人はイタリアにおいて、1ヵ所またはそれ以上の、駐在員事務所および支店を設立することが可能です。
まず、駐在員事務所は、現地法人ではなく、会社や製品・サービスの宣伝や市場調査などの非営利活動を行うための現地拠点という位置づけになります。仮に、駐在員事務所が物品販売やサービス提供などの営利目的の活動を行った場合、税務上はPE(Permanent Establishment:恒久的施設)とみなされます。
次に、支店は、外国法人の一部であるため、本国の会社と同一の名称や法的形態を用い、独自のガバナンス体制を持たず、本社の直接の管理下にあります。対外的には、本社から1名またはそれ以上の常駐の代表者(preposto/preposti)を任命し、第三者に対して、支店の監督ならびに代表責任を有します。イタリアにおいて、支店は独自の資本金を持たず、年次財務報告書の作成義務はなく、本社の財務諸表のコピーを商業登記所に提出する必要があります。また、法人税申告書の作成のために、決算書が必要となることが特徴といえます。

IV. 法定監査要件

1. 株式会社(S.p.A.)

株式会社は、3名または5名の正監査役および2名の補欠監査役から構成される監査役会(collegio sindacale)の設置が義務づけられています。この監査役は法人の従業員および役員から選任することは認められず、弁護士、会計士、税理士、労務士、教授等の専門職業登録者から選任する必要があります。監査役会の主要業務は、関連法令および定款を順守した会社運営がなされているかを監督することであり、経営体制、管理体制、会計体制が適切に履行されていることを検証する義務があります。
株式会社の財務諸表は、外部監査法人等(監査法人または会計士協会に登録されている者)の監査を受けなければなりません。ただし、連結財務諸表を有さず、定款等に一切の定めがない非上場会社は、外部監査法人に代わって監査役会から財務諸表の監査を受けることが認められています。

2. 有限会社(S.r.l.)

有限会社は、以下の法令に定める要件を満たす場合は、監査役会(collegio sindacale)または独任制監査役(sindaco unico)の設置が義務づけられます。

  • 法人が、連結財務諸表の作成が義務付けられている場合
  • 法人が、法定監査が義務付けられている法人を支配している場合
  • 2期連続した事業年度において以下の2つの要件を満たす場合
    • 総資産額が4,400,000ユーロを超える
    • 売上高が8,800,000ユーロを超える
    • 従業員が年平均50名を超える

なお、上記要件を満たす場合において、監査役会または独任制監査役の設置を行わず、外部監査法人等(監査法人または会計士協会に登録されている者)の監査を受ける方法が認められています。

3. 支店

外国法人のイタリア支店は、法定監査を実施する義務はありません。

執筆者

KPMGイタリア
ミラノ事務所 グローバルジャパニーズプラクティス
日本税理士
マネジャー 金 初禧

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