仮想知的労働者(Digital Labor・RPA)が活躍する管理・運用体制のあり方

仮想知的労働者(Digital Labor・RPA)が活躍する管理・運用体制のあり方

デジタル・レイバーを最大限に活用するために必要なガバナンスや運用・管理体制の構築に関するポイントなどについて解説します。

執筆者

パートナー デジタルレイバー&トランスフォーメーション統括

KPMGコンサルティング

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これから日本市場は少子高齢化に伴う労働人口の減少ならびに働き方改革の推進による長時間労働をベースとした働き方がさらに難しくなっていくと予想されます。一方、企業が成長し続けるためには、これらの制約に対応しながら社員1人ひとりが今まで以上に生産性をあげ、付加価値の高い業務をこなしていかなければなりません。
今、多くの日本企業がRPA(Robotic Process Automation)に注目しています。RPAは人間の労働者の補完という意味で、仮想知的労働者(Digital Labor:デジタル・レイバー)とも言われます。これからは、デジタル・レイバーに任せられる仕事はデジタル・レイバーに任せ、人にしかできない仕事は人が行い、デジタル・レイバーと人が共存する働き方に変革していく必要があります。
本稿では、デジタル・レイバーを最大限に活用するために必要なガバナンスや運用・管理体制の構築に関するポイントなどについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、著者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • これからは、デジタル・レイバーが日々従業員と共に仕事をすることがあたりまえの世の中になる。
  • デジタル・レイバーと共存するために必要な管理・運用体制(ガバナンスおよび役割分担等)の構築が必要となる。
  • また、体制のみでなくデジタル・レイバーの開発や保守・運用を行うことができる人材の育成も同時に行うことが重要である。
  • 複数部門にデジタル・レイバーを展開する前に、CoE(Center of Excellence:組織横断的専門集団)を立ち上げ、デジタル・レイバーの構築や検証などで必要な最低限の管理態勢を導入することが重要である。

I.デジタル・レイバーとは?

これまでもKPMG Insightにおいて、「仮想知的労働者(Digital Labor・RPA)が変える企業オペレーションとホワイトカラーのあり方(KPMG Insight Vol.17/Mar 2016)」「仮想知的労働者(Digital Labor・RPA)の日本企業への導入による今後のホワイトカラー業務の姿(KPMG Insight Vol.19/Jul 2016)」および「RPAやAIが実現する「働き方改革」と企業の生き残り戦略(KPMG Insight Vol.22/Jan 2017)」にてデジタル・レイバーの解説をしてきました(詳細は、バックナンバーを参照ください)。
デジタル・レイバーとは、様々な技術を組み合わせたバーチャルな集合体(統合ソフトウェア)です。デジタル・レイバーはこれまで人のみが対応可能とされていた作業やより高度な作業を人に代わって実施することができます。工場で産業用ロボットが製品を組み立てるように、バックオフィスにおけるデータ入力、検証などをデジタル・レイバーによって行えるようになります。業務が複雑で難易度が高いものであっても、一連の業務全体を自動化の対象とすることが可能です。

II.なぜ管理・運用体制が必要なのか?どのように導入するのか?

今後は、デジタル・レイバーが日々従業員と共に仕事をすることがあたりまえの世の中になります。その際に、企業の仕事の仕方(オペレーション)はどのように変化していくのでしょうか?たとえば、メインフレーム(後のITシステム)が企業で活用される以前のオペレーションは、「人」による、つまり1階層のオペレーションでした。メインフレームの誕生により、「人」と「メインフレーム」による2階層のオペレーションに変化しました。デジタル・レイバーの時代においては、2階層のオペレーションに「デジタル・レイバー」という階層が追加され、3階層のオペレーションに変化します。これからの企業は、如何に経営リソースを最適に配分し、自社に相応しいターゲットオペレーティングモデル(TOM:将来像)の策定・導入することを模索する時代になります。
各企業が、デジタル・レイバーを戦略的にどのような位置付けにするのかに依存しますが、3階層のオペレーションに変革する際に、何を検討し、どの範囲まで導入していくべきなのでしょうか。たとえば、デジタル・レイバーをITシステムに近い存在と定義するのであれば、IT部門がデジタル・レイバーを管理します。また、デジタル・レイバーを派遣社員に近い存在と定義するのであれば派遣社員を活用する部門の社員がデジタル・レイバーを管理することになります。
この章では、デジタル・レイバー管理・運用体制の導入アプローチの概要を説明します。デジタル・レイバーの運用を実現するためには、デジタル・レイバー管理・運用体制(ガバナンスおよび役割分担等)の構築が必要となります。また、体制のみでなくデジタル・レイバーの開発や保守・運用を行うことができる人材の育成も同時に行うことが重要です。急な業務部門の人材不足への迅速な対応やAI/コグニティブを活用した自動化を指向する際に必要となるナレッジ/ノウハウの社内蓄積を考慮すると、デジタル・レイバーの保守や運用は可能な限り自社のメンバーにて対応することをKPMGは推奨しています。
複数部門にデジタル・レイバーを展開する前に、CoE(Centerof Excellence:組織横断的専門集団)を立ち上げてデジタル・レイバーの構築や検証、必要最低限の管理態勢を設計・導入することが重要です。デジタル・レイバーを導入する度に自社内のITシステムにおける障壁やデジタル・レイバー構築のノウハウやナレッジが蓄積します。また、デジタル・レイバーの運用を通じて、必要な運用スキルを身に着けることも可能です。運用に必要な規定なども初期は必要最低限の内容でしたが、運用により遭遇した様々な障壁を経験し、内容が更新されていきます。このように複数部門に展開する前に必要な管理体制と態勢を準備することがとても重要です。

III.デジタル・レイバー管理・運用体制導入に関する主要な論点

デジタル・レイバー管理・運用体制は体制だけではなく、管理プロセス・規約、人材の育成等を検討する必要があります。この章ではこれらのポイントを中心に管理・運用体制導入における主な論点を説明します。

1.管理プロセス・規約

主な管理プロセスはデジタル・レイバーの構築・運用、リスク対応、費用対効果の評価等多岐にわたります。そのなかで最も重要なプロセスはデジタル・レイバーの構築・運用、つまり導入業務の選定、デジタル・レイバーの設計・構築、人からデジタル・レイバーへの業務移行、デジタル・レイバーの保守運用といった一連のプロセスになります。

(1)業務の選定:導入効果と導入難易度の適正評価
デジタル・レイバーの導入業務を評価、特定する際に、図表1のように効果が高ければ高いほど望ましいですが、導入の難易度も考慮する必要があります。ルールが複雑で、かつ技術課題があるような業務を数ヵ月の期間をかけてデジタル・レイバーを構築するより、簡単に適用できる業務へ労力をシフトしたほうが早期に業務効率化の効果を実現できます。
難易度と効果をどのように評価するかについて、いくつか主要な評価ポイントの例を挙げています。実際に導入対象業務の内容、部門内の状況に合わせて評価ポイントを決める必要があります。

図表1 業務へのRPA適用優先順位

導入効果の評価ポイント例:

  • 業務ボリュームが大きいか小さいか
  • 自動化範囲が広いか狭いか
  • 作業ミスが起きやすいかどうか( 作業品質の改善余地が大きいかどうか)

導入難易度の評価ポイント例:

  • 対象業務がデジタル・レイバーに適用し易いかどうか
    • 作業が定型化され、かつルールが明確かどうか
    • 構造化された電子データを扱っているかどうか
    • RPAツールが対象ITシステムへ制約なくアクセス可能かどうか
    • 業務自体が煩雑かどうか
  • 対象業務のクリティカリティー
    • 外部規制などの影響を受ける業務かどうか
    • 対象業務が基幹業務かどうか

金融業A社の場合、デジタル・レイバーを導入した当初、自動化による改善効果が高い順に業務を選定しデジタル・レイバーを適用していました。対象業務が煩雑で、ルールが明示されていない等、業務の調査や要件の整理、デジタル・レイバーの構築、品質確認に数ヵ月の時間を要したケースがしばしばありました。その後、業務選定基準に適用の容易さという評価ポイントも取り入れ、以前と比べると業務単体の導入効果は低下したものの、デジタル・レイバーの導入までの期間が短縮され、トータルの改善効果は向上しました。

(2)設計・構築:スピードと品質のバランス
デジタル・レイバーの設計にあたって、特に例外処理のバリエーションが数多く存在する業務については、そのすべてをデジタル・レイバーの対象とすると業務設計やデジタル・レイバー構築に多くの時間と労力を費やすことになります。効果が見込め、かつ大量処理が見込める例外処理パターン、いわゆるボリュームゾーンに絞って構築を行うなど、全社としての方針を明確にする必要があります。
次に、デジタル・レイバーはシステム開発と比べると、短期間で業務の自動化を実現することができます。業務によっては数時間で自動化できるケースもあります。短期間に構築し、運用に移行可能なデジタル・レイバーの特性を最大限活かすために、従来のシステム開発で用いられてきた設計ドキュメントを作り込むのではなく、既存の業務フローや操作手順書を活用して、デジタル・レイバー構築に必要な要件のみを明確化し、クイックに開発者へ伝達するなどの工夫も必要です。
上記のように短期間でデジタル・レイバーを構築することは可能ですが、そのデジタル・レイバーが正しく動くかどうかの検証(テスト)を如何に考えるかが重要となります。デジタル・レイバーの定義(ITシステムの位置付けあるいはEUC/マクロと同じ位置付け等)や自動化対象業務(勘定系の業務あるいはレポート作成業務等)にも依存します。
この位置付けによってデジタル・レイバーの検証は、構築者による開発環境内のテスト、業務担当者による動作確認等どこまで検証すべきかが変わります。当然ですが、システム開発と同じ重厚なテストプロセスを踏んで品質を確保することも考えられますが、デジタル・レイバーの導入スピードが損なわれるので、極力避けるべきです。
検証(テスト)において必ずしも網羅的に検証を実施するのではなく、業務特性によっては並行運用(デジタル・レイバーが実施した業務を人が確認)を活用して、網羅性や品質を担保することも可能です。重要なのは業務の実行を人からデジタル・レイバーに切り替える際に、自動化対象となる業務に必要な品質基準をあらかじめ決めておくことです。
金融業B社は、管理体制パイロット検証フェーズにおいてデジタル・レイバーの構築にシステム開発と同様なプロセスを採用しましたが、テストケースの作成、テストの実施などに膨大な工数を要し、クイックにデジタル・レイバーの適用が進まず、業務改善効果が思うように実現できない事態になりました。この事態を打開するため、テストの方針転換を実施しました。デジタル・レイバーをいち早く実業務に適用させ、作業結果を業務担当者が確認し、処理ミスを検出した場合、デジタル・レイバーをクイックに修正するといった実業務で運用しながら実践的に検証・改修するやり方に変更し、業務改善効果の早期実現に繋がりました。

(3)保守運用:デジタル・レイバーとの共存
エネルギー業C社において、デジタル・レイバーのパイロット検証が実施されました。そのフェーズにて構築したデジタル・レイバーの効果が非常に評価され、そのまま本番業務に導入されることになりました。しかし、ある日デジタル・レイバーが動かない事態に陥り、業務を急遽人手で実施するように切り替えました。その原因を調査したところ、業務で扱っているシステムの画面構成が変わり、デジタル・レイバーが対応できなくなったことが判明しました。
このような事態を防ぐために、業務の変更、扱うシステムの変更を把握し、デジタル・レイバーを修正するための保守運用プロセスと体制を確立することが必要です。また、万が一デジタル・レイバーが対応できない変更に直面することを想定し、構築規約等にデジタル・レイバー内エラー検知と人へ通知する仕組みも事前に取り入れたほうがよい場合もあります。
また、デジタル・レイバーの迅速な修正に加えて、業務継続性を考慮した対応も検討する必要があります。たとえば、デジタル・レイバーが停止した場合の業務遂行手順を規定しておき、担当者を明確にしておくことも重要です。

2.専門組織の確立

管理プロセス・規程を効果的に策定し、運用し、デジタル・レイバーの効果を最大限引き出すためにはデジタル・レイバーを管理する専門組織が必要になります。専門組織の組成は会社のカルチャー、ガバナンスの強さによって、トップダウン型またはボトムアップ型で組成されるアプローチが存在します。
トップダウン型は全社あるいは企業グループレベルで整合性を持ってデジタル・レイバーの導入、普及を推進できるため、理想的なアプローチと言えます。

  • 管理プロセス・規約は全社レベルで一貫性を持って構築、運営することができる
  • 専門組織と利用者組織間の役割調整、IT部門と業務部門間の連携等スムーズに実施できる
  • 全社レベルで一元的にRPAツールを選定できる

しかし多くの日本企業は現場重視の文化が根強いため、まず1つの業務部門でデジタル・レイバーを導入し、効果が見え始めてから初めて専門組織を組成するケースが多いです。この場合、専門組織による管理体制が組成されるまでに何点か留意しながら推進していく必要があります。

(1)複数部門へスムーズな展開を意識した社内連携
先行導入する部門の責任者は導入・展開状況を適宜経営層に共有し、デジタル・レイバーの効果を幅広く他部門にも共有することが大事です。各業務部門がそれぞれ自由に様々なデジタル・レイバーを活用することによる部門のサイロ化やデジタル・レイバー導入ノウハウが各部門に分散されることは極力避けるべきです。
複数部門へデジタル・レイバーを導入するためには、経営層と連携し、社内のコンセンサスをとりながら進めることが重要です。

(2)初期に準備すべきプロセス、規約の構築
(小さく作って、大きく育てる)

専門組織が組成され、複数部門に展開するまでの間、デジタル・レイバーを保守・運用することに最低限必要な承認・管理プロセス、規約を定めます。このなかで特に重要なのはデジタル・レイバーの品質管理、変更管理および一覧管理が挙げられます。
また、将来的に全社専門組織が組成された際の運営主体を想定しながら、このようなプロセス・規約を構築、検証、修正していきます。

(3)効果の早期具現化
1つの業務部門の主導でデジタル・レイバーを導入する場合、IT部門等の他部門の協力を得るために時間がかかる場合があります。たとえば、デジタル・レイバーを構築するために、対象業務が使用しているシステムの構成や設計概要の理解が必要となる場合があります。その対象システムの仕様書の入手や、システム部門の担当者との連携に調整がかかり、思ったより時間がかかるケースがあります。このような場合は、地道に対話を行うしかありませんが、自部門のデジタル・レイバー導入効果を部門横断の会議にて共有する、あるいは場合によっては相手部門の業務をデジタル・レイバー化する等、相手部門にデジタル・レイバーによる効果を直接体感させるチェンジ・マネジメントアプローチを活用することによって、相手部門の理解を促進することができます。

3.人材の確保と育成

迅速にデジタル・レイバーを導入するために、専門組織には業務を分析する人材とデジタル・レイバーを構築する人材を配置することが望ましいです。このような人材が、利用者のニーズや業務課題を的確に把握し、デジタル・レイバーによる自動化範囲を合理的に定め、素早くデジタル・レイバーを構築することが可能になります。
通常社内でこのような人材を十分に確保することが困難であるため、外部の専門業者を活用し、一時的に社内リソースの不足を補うことが避けられません。しかし、中長期的に自社内のリソースを活用することは必須です。外部リソースを使い続ける場合、デジタル・レイバー導入の度に、コスト(キャッシュアウト)がかかります。また、企業とベンダーの関係が長期的になればなるほどデジタル・レイバーのブラックボックス化に繋がり、社内の業務に関するナレッジやデジタル・レイバー管理ノウハウが空洞化する恐れがあります。
では、社内でこのような人材をどのように確保していくべきでしょうか。まず、専門組織内の役割分担に応じて必要な人材像を定義します。たとえば業務分析とデジタル・レイバー構築の担当を分ける場合、それぞれ求める業務スキルとITスキルに強弱をつける必要があります。
次に候補となる人材が最低限保持すべきスキルの基準を定めます。通常、業務に対する理解力・分析力、ウェブページ・Excel関数などのIT知識を最低限保有する必要があります。
定められたスキル基準に基づき社内で人材を募集します。業務部門におけるITナレッジのある従業員、またはIT部門における業務知識のある従業員が有力な候補になります。多くの日本企業は既に社内公募の仕組みがありますので、その仕組みを活用すれば効率的に必要な人材を集められます。デジタル・レイバー導入初期の場合は、集めた人材に対してトレーニングを実施し、専門組織の業務を外部業者と共に保守運用(PDCAのサイクルを一緒にまわす)することによりナレッジやノウハウを少しずつ社内リソースに蓄積させ、デジタル・レイバーの保守運用を自走可能な状態にすることが可能です。
小売業D社の場合、専門組織における業務分析担当は、一定レベル以上の経験と権限のある人員を配置し、デジタル・レイバーの適用による業務プロセスの変更を迅速に意思決定できるようにしている一方、デジタル・レイバー構築担当は既存ITシステムの知識を有する者を採用し、デジタル・レイバーが扱う既存システムの仕様の把握をクイックに実施できる体制としました。KPMGが、このような素養のある人員と一緒にデジタル・レイバーを導入することによって、専門組織は自走可能な状態になり、必要な保守運用ナレッジを着実に蓄積することができました。

IV.おわりに

企業は自社の実情に合わせて導入アプローチおよびガバナンスモデルを検討、採用し、デジタル・レイバーの導入による効果を最大限に発揮し続けられます。また、デジタル・レイバーの導入が進んでいる先進的な企業では、AI/コグニティブなど高度な知的処理を自動化する領域に挑戦しています。
KPMGコンサルティングでは、国内外のRPA導入先端事例、および業務改革の圧倒的知見を基にRPAを業務に最適に導入します。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
SSOA (シェアードサービス・アウトソーシング・アドバイザリー)
パートナー 田中 淳一
ディレクター 田邊 智康
マネジャー 町田 秀樹
マネジャー 張 駿宇
マネジャー 福田 尚冬
マネジャー 森本 丈也

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RPA(Robotics Process Automation)とは、仮想知的労働者(Digital Labor)とも呼ばれ、従来人手で行っていた業務をAIや機械学習等を含む認知技術の活用により自動化するものです。本ページでは、RPAに関する情報をご紹介します。

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