Brexitが及ぼす影響と英国の離脱シナリオとは(1) - EUの歴史と主な枠組み | KPMG | JP

Brexitが及ぼす影響と英国の離脱シナリオとは(1) - EUの歴史と主な枠組み

Brexitが及ぼす影響と英国の離脱シナリオとは(1) - EUの歴史と主な枠組み

英国のEU離脱をテーマに、「EUの歴史と主な枠組み」、「EU離脱のシナリオと特徴」、「今後検討すべき対応事項」の3つ視点から考察します。本編では、「概要およびEUの歴史と主な枠組み」について、EU創設の背景や、経済的な規模、基本理念としての「人・物・資本・サービスの移動の自由」などの基礎的な情報について解説します。

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1. はじめに

振り返ってみると、Brexitの問題は2016年6月23日に英国で行われたEU離脱を巡る国民投票の結果に端を発します。離脱派(52%)が残留派(48%)を僅差で上回り、これにより英国は1973年に加盟したEU(当時は欧州共同体(EC))から離脱することが確実となりました。しかしながら、英国のEUへの批判は近年に始まったことではありません。サッチャー元首相は、すでに1988年のブリュージュ演説で、自由市場を超えて経済への介入や関与を深め、また通貨同盟にまい進するEUへの批判を展開しています。

2016年9月、日本政府は「英国およびEUへの日本からのメッセージ※1」と題し、力強い声明を世界に発信しました。下記からも分かるように、日本政府は英国やEU域内に投資を行っている企業への悪影響を軽減する措置を、早急に実施するよう求めています。

英国を含む欧州は、日本だけでなくアジア諸国にとっても主要な貿易・投資相手先であり、英国を含めた欧州の自由な市場に引き続きアクセスできることはアジア諸国全体の関心事項でもある。英国およびEUが、市場の一体性をできる限り保ち、これら企業にとって引き続き自由な貿易・投資や円滑な金融取引を可能とする環境が保障された魅力ある地であり続けることが重要である。
特に、多くの企業が時には政府による誘致に応じる形で英国を欧州のゲートウェイとして積極的な投資を行い、EU全域にわたるバリューチェーンを構築してきた経緯に鑑み、英国に対して、こうした事実を真摯に受け止め、企業に対する悪影響を最小化するよう、責任ある対応を強くお願いしたい。

2016年10月上旬に英国のメイ首相は、EUへの離脱通知を2017年3月末までに行うと明言しました。離脱通知は、EUの基本条約「リスボン条約」第50条に基づいて、EUとの離脱交渉を正式に開始するためのものです。同条約で定められた通知後の交渉期間は原則2年で、交渉延長の場合には加盟国27ヵ国全ての合意が必要となります。EUを離脱するまでは引き続きEU法・規則が適用されます。今後、EUとの新・通商枠組み協定が原則2年の期間で交渉されることになります。

※1 内閣官房内閣広報室公式ウェブサイトより

2. EUの歴史と主な枠組み

EUの歴史

EC(欧州共同体)を経ての欧州連合(EU)の誕生は、1993年11月1日のマーストリヒト条約発効によります。第2次世界大戦後、ドイツフランス間の対立に終止符を打つために両国の石炭・鉄鋼産業を超国家機関の管理下に置き、これに他の欧州諸国も参加するという欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立に至ったのが1952年です。その後、1958年にはさらに領域を広げて、欧州経済共同体(EEC)、欧州原子力共同体(EURATOM)が創設されました。その後、1967年にこの3共同体の主要機関が統一され、ECが誕生しました。
1970年代の経済危機による「EC停滞の時代」を経て、1990年にフランスのミッテラン大統領とドイツのコール首相(いずれも当時)が、経済通貨統合(EMU)を形成し、1991年12月のEU創設のための「マーストリヒト合意」につながっていきました。
EUの経済規模は大きく、英国離脱前の加盟国数は28ヵ国、EU圏の総人口は5億1,000万人、うちユーロ圏19ヵ国の人口は約3億4,000万人を有します。EU圏と日本との関係は次のとおりです。2015年の日本貿易振興機構(JETRO)の統計※2によると、EU圏における日本企業の投資額規模は337億ドルを上回り、進出する日本企業数は6,300社を超えます。日本の対EU主要輸出品目は自動車(15.5%)、自動車部品(5.3%)であり、一方、EUから日本への主要輸入品目は医薬品(19.8%)、自動車(10.4%)となっています。

※2 EUより

EUの基本理念

EUの基本理念として重要なのは、EU域内での「人・物・資本・サービスの移動の自由」という点です。それぞれの要素について、下記に説明します。

 

  • 人の移動の自由

EU加盟国の国民は、EU域内であれば居住地、労働の場所を自由に選択することができます。労働条件などに関して、他の加盟国出身の労働者を不平等に扱うことは禁止されています。EU加盟国の国民は他の加盟国において社会保障を受けることもできます。このような事情を背景に、所得水準の高い英国などに東欧のEU加盟国などから移民の波が押し寄せました。

 

  • 物の移動の自由

EU域内はひとつの国のように扱われるため、加盟国間の貿易には関税が課されません。さらに、他の加盟国からの輸入に数量制限を設定することも禁止されています。

 

  • 資本の移動の自由

EUでは「お金」の移動の自由が保障されており、ある加盟国から他の加盟国への貨幣の持ち出しや送金、投資に制限を設けることは禁止されています。さらに、商品、労働やサービスに対する対価・報酬の支払い制限に関しても禁止されています。

 

  • サービスの移動の自由

EUには卒業証明書や職業資格の相互承認に関する指令があるため、医師、歯科医、獣医、薬剤師、建築家などの職業についてはある加盟国で免許を取得した場合、他の加盟国においてもサービスを提供することができます。また、このサービスの移動の自由は金融サービスにも適用されます。加盟国の1ヵ国で免許を取得した金融事業者は、EU全域で活動ができるという単一パスポート制度があります。

上述の4つの移動の自由のうち、人の移動の自由という点が今回のBrexitの焦点ともいえます。2004年以降、東欧諸国から英国への移民が急増するのに伴って、英国国民の反発感情が強まっていきました。

2016年6月の国民投票は人の移動の自由に「NO」を突き付けたものであり、特に労働者階級層がBrexit実行への推進力を担ったとの見方もあります。同年10月2日のメイ首相の保守党大会での演説を受けて、英国政府とEUとの離脱交渉が、経済関係より移民の制限を最優先とする「Hard Brexit」に向かうのではないかとの懸念が強まっています。一方でBrexitの決定後、英国を除くEU加盟国首脳は「欧州単一市場への参入は、人の移動の自由を認める場合に限り可能」との声明を出しています。

 

KPMGフランス パリ事務所 マネジャー 野間 愛子

本編は、三菱東京UFJ銀行国際業務部が発行した「BTMU Global Business Insight EMEA & Americas 2017年1月20日号 II.Brexitが及ぼす影響と英国の離脱シナリオとは - EUの基本理念を考察する」に掲載されたコンテンツを、一部加筆修正し、転載したものです。

Brexit(英国のEU離脱)に関する解説

Brexit(英国のEU離脱)に関する解説

Brexitの概要、企業に与える影響、今後の課題などについて、日本語による最新情報を掲載します。

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