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BEPS - Action 15 多数国間協定の策定

BEPS - Action 15 多数国間協定の策定

2016年11月24日、経済協力開発機構(OECD)は、多数国間協定(MLI: Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion and Profit Shifting)及びその解説書(Explanatory Statement to the MLI)を公表しました。

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多数国間協定とは、既存の租税条約を税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトの勧告に沿ったものに迅速に変更するための仕組です。BEPSプロジェクトにおける勧告を実施するためには、租税条約の改正が求められるものがありますが、二国間の租税条約の改正には多くの時間を要することが考えられることから、Action 15(多数国間協定の策定)におけるマンデート(Mandate)に基づき設けられたアドホック・グループ(99ヵ国が参加)及び仲裁に関するサブグループ(27ヵ国が参加)により、検討が重ねられていました。

このニューズレターでは、多数国間協定の概要をご紹介いたします。

I. 多数国間協定の特徴

多数国間協定の特徴としては、以下の点が挙げられます。

  • 多数国間協定は、BEPSプロジェクトの2015年最終報告書で示された勧告のうち租税条約に関連するものを、迅速に実施するために策定されました。
  • 多数国間協定は、既存の租税条約のように単独で適用されるものではなく、既存の租税条約とともに適用されるもので、既存の租税条約の規定を置き換えたり、一部変更する機能を有しています。
  • 多数国間協定の規定に反映されたBEPSプロジェクトの勧告のなかにはミニマム・スタンダード(各国が最低限実施すべき措置)が含まれていますが、ミニマム・スタンダードはさまざまな方法により満たすことが可能であることから、これらに柔軟に対処できる規定が用意されています。多数国間協定の第6条(租税条約の目的)、第7条(租税条約の濫用防止)及び第16条(相互協議手続)の規定が、ミニマム・スタンダードとされる勧告に対応するものです。
  • ミニマム・スタンダードとされない勧告に係る多数国間協定の規定については、規定の一部のみを適用することや一定の規定を有する租税条約にのみ適用すること等を選択できるほか、その規定全体を適用しないことを選択することが認められています。
  • 第1章(範囲及び用語の意義)及び第7章(最終条項)以外の規定には、おおむね、Compatibility clause(多数国間協定の規定がどのように租税条約の規定を変更することになるか等、両者の関係を定めたもの)、Reservation clause(各国が選択できる留保について定めたもの)及びNotification clause(寄託者(Depositary)であるOECDに各国の選択した留保並びに留保の対象となる租税条約及びその条番号等を通知することを定めたもの)が含まれています。

II. 各章の概要

このセクションでは、多数国間協定の各章の概要をご紹介します。第2章から第5章では、BEPSプロジェクトにおける勧告と多数国間協定の規定の対応関係をお示ししています。なお、勧告のなかには代替案が用意されているものがあり、多数国間協定の規定もそれに対応するものとなっていますが、ここでは勧告のうち主なもののみを取り上げています。

第1章 範囲及び用語の意義(第1条・第2条)

第1章では、多数国間協定が適用される範囲及び用語の意義が規定されています。たとえば、「対象租税条約」(Covered Tax Agreement)とは、租税条約のうち、各締約国が多数国間協定の適用を望むことを寄託者であるOECDに通知したものとされています。

第2章 ハイブリッド・ミスマッチ(第3条~第5条)

第2章の規定は、Action 2(ハイブリッド・ミスマッチの無効化)及びAction 6(租税条約の濫用防止)の2015年最終報告書で示された以下の勧告を反映したものとなっています。

Action 2又はAction 6における勧告(概要) 多数国間協定

両国で課税上の取扱いが異なる団体(ハイブリッド・エンティティ)の取扱い

ハイブリッド・エンティティを通じて取得される所得については、源泉地国側が相手国での取扱いに合わせて、相手国で居住者とされる者の所得として取り扱われる部分に対して租税条約の特典を与えることとする規定を、OECDモデル租税条約第1条(人的範囲)に第2項として追加する。

第3条
(構成員課税の事業体)

双方居住者(個人以外)の振分け

OECDモデル租税条約第4条(居住者)第3項(双方居住者(個人以外)の居住地の振分けルール)を以下のように変更する。

  • 現行:その者の実質的管理の場所が所在する締約国の居住者とみなす。
  • 改正案:相互協議により居住地国を決定する。
第4条
(双方居住者(個人以外))

ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントから生ずる二重非課税等

ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントから生ずる二重非課税等の問題を回避するため、二重課税の排除規定として免除方式を採用している租税条約においても、損金算入配当については外国税額控除方式を適用する等の措置を講ずる。

第5条
(二重課税排除の方法の適用)

第3章 租税条約の濫用防止(第6条~第11条)

第3章の規定は、Action 6(租税条約の濫用防止)の2015年最終報告書で示された以下の勧告を反映したものとなっています。

Action 6における勧告(概要) 多数国間協定

租税条約の目的の明確化

《ミニマム・スタンダード》
OECDモデル租税条約の前文において、租税条約の目的(脱税又は租税回避を通じた非課税又は課税の軽減の機会を生じさせることなく、二重課税を排除すること)を明確化する。

第6条
(租税条約の目的)

租税条約の濫用防止

《ミニマム・スタンダード》
租税条約に以下のいずれかの規定を設ける。

  1. 主要目的テスト(PPT: Principal Purpose Test)のみ
  2. PPT+特典制限規定(LOB: Limitation on Benefits)
  3. 詳細版LOB+導管取引防止規定
第7条
(租税条約の濫用防止)

配当の譲渡取引

OECDモデル租税条約第10条(配当)第2項a)を改正し、法人が受ける配当に係る源泉地国課税の軽減規定の適用要件である保有割合に、保有期間要件(365日間)を追加する。

第8条
(配当の譲渡取引)

不動産関連法人株式の譲渡所得

OECDモデル租税条約第13条(譲渡所得)第4項(不動産の保有割合が50%超である法人の株式の譲渡所得について、不動産所在地国に課税権を与える規定)を改正し、譲渡前365日間のいずれかの時において不動産の保有割合が50%超である法人の株式の譲渡所得について、この規定が適用されるようにする。

第9条
(不動産関連法人株式の譲渡所得)

第三国に所在する恒久的施設(PE: Permanent Establishment)を利用した租税回避の防止

国外所得免除方式を採用している国の企業が第三国に所在するPEを通じて所得を稼得することにより租税を回避するケースに対処する規定を設ける。

第10条
(第三国PEを利用した租税回避の防止)

セービング・クローズ

セービング・クローズ(租税条約の規定が締約国による自国の居住者に対する課税を制限しないことを確認する規定)を、OECDモデル租税条約第1条(人的範囲)に第3項として追加する。

第11条
(自国の居住者に対する租税条約の適用)


第7条には、簡易版LOBの規定が含まれており、採用を希望する国は寄託者であるOECDに通知をすることとされています。詳細版LOBの規定は、二国間におけるカスタマイズが必要となることから多数国間協定に盛り込むことは困難であると判断されたため含まれていませんが、詳細版LOBの採用を希望する国は、ミニマム・スタンダードを満たすための努力をすることを前提として、第7条第1項に規定するPPTを適用しないとする留保を付すこと等が認められます。

第4章 PE認定の回避(第12条~第15条)

第4章の規定は、Action 7(PE認定の人為的回避の防止)の2015年最終報告書で示された、以下の勧告を反映したものとなっています。

Action 7における勧告(概要) 多数国間協定

代理人PEの定義の拡張

OECDモデル租税条約第5条(PE)第5項(代理人PE)を改正し、コミッショネア取引における受託者(独立代理人に該当するものを除く。)を委託者である企業の代理人PEとする。
OECDモデル租税条約第5条第6項(独立代理人)を改正し、専ら関連企業のためにのみ代理人業を行う者は独立代理人とされないこととする。

第12条
(コミッショネアを利用したPE認定の人為的回避)

PE認定除外活動

OECDモデル租税条約第5条第4項(PEに該当しない活動の列記規定)を改正し、列記された活動の全てについて、準備的・補助的な性格であることを要求するものとする。
関連企業を利用した細分化否認規定を、第5条第4.1項として追加する。

第13条
(PE認定除外活動を利用したPE認定の人為的回避)

契約の分割

契約を分割することにより12ヵ月要件に抵触することを回避するケースに対処するため、OECDモデル租税条約第5条第3項(建築工事現場等)に係るコメンタリーを改正する。

第14条
(契約の分割)

関連企業

OECDモデル租税条約第5条の規定における関連企業の定義(50%超の支配関係がある企業)を、第5条第6項に追加する。

第15条
(関連企業の定義)

 

第5章 紛争解決の向上(第16条~第17条)

第5章の規定は、Action 14(相互協議の効果的実施)の2015年最終報告書で示された、以下の勧告を反映したものとなっています。

Action 14における勧告(概要) 多数国間協定

相互協議手続規定

《ミニマム・スタンダード》
租税条約に、OECDモデル租税条約第25条(相互協議手続)第1項~第3項の規定を設ける。
また、いずれの締約国の権限のある当局に対しても相互協議の申立てをすることができるように、OECDモデル租税条約第25条第1項の規定を改正する。

第16条
(相互協議手続)

対応的調整

《ベスト・プラクティス》
租税条約に、OECDモデル租税条約第9条(特殊関連企業)第2項(対応的調整)の規定を設ける。

第17条
(対応的調整)

第6章 仲裁(第18条~第26条)

Action 14(相互協議の効果的実施)の2015年最終報告書においては、相互協議事案の解決を確保するメカニズムとして強制的拘束的仲裁制度の採用について、日本を含む20ヵ国がコミットしたこと及び強制的拘束的仲裁制度の規定を多数国間協定の交渉の過程で策定されることが確認されていました。そうした背景から、多数国間協定の第6章では、仲裁制度に係る規定が整備されています。この章は、租税条約の両締約国がこの章を適用することを寄託者に通知した場合に適用されることになります。

第7章 最終条項(第27条~第39条)

第7章には、署名・批准、留保・通知の手続及び発効・適用開始時期等に関する規定が含まれています。

多数国間協定が最初に発効するのは、5ヵ国目の批准書等が寄託された日から3ヵ月を経過する月の翌月1日とされています。たとえば、2018年3月1日に5ヵ国目の批准書等が寄託された場合には、多数国間協定はその5ヵ国について2018年7月1日に発効します。それ以降は、各国により批准書等が寄託された日から3ヵ月を経過する月の翌月1日に、その国について多数国間協定が発効することになります。

III. その他

現在のところ、多数国間協定に対する日本政府の具体的なポリシーは示されていません。今後、日本を含む各国がどのオプションや留保等を選択するのか、注目されるところです。なお、OECDは今年6月5日に始まる週に最初の署名式を行うとしています。

参考

日本は、2003年に署名された日米租税条約を皮切りに、ハイブリッド事業体に係る規定(BEPSプロジェクトの勧告に基づく規定より詳細な規定ぶりのもの)及びLOBの規定を複数の租税条約に取り入れてきました。また、2006年の日英租税条約の署名後、規定ぶりにさまざまな違いはありますが、PPTに類似する規定を複数の租税条約に盛り込んでいます。

BEPSプロジェクトの2015年最終報告書が公表された2015年10月5日以降に日本が締結した租税条約(チリ、ドイツ、ベルギー、オーストリア等との租税条約)には、BEPSプロジェクトの勧告を反映した内容が含まれています。

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