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保険規制の進化2016 - 第4章:会計基準の変更が規制にもたらす影響

保険規制の進化2016 - 第4章:会計基準の変更が規制にもたらす影響

2016年版「保険規制の進化」の第4章をお届けします。近年、IAISが直面する重要な課題の一つに、規制上及び財務報告上、全ての国・地域に適用される一貫した会計基準がないことが挙げられます。しかしながら、2016年、保険契約に係る国際財務報告基準(IFRS)は最終化に向けて大きく前進しました。

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会計基準の変更が規制にもたらす影響

保険監督者国際機構(IAIS)は、グループ資本およびソルベンシーの評価に必要な規制上の資本の算定基礎となる資産・負債について、市場整合的な評価を目指し、前進を続けています。IAISが直面する最も大きな課題の1つは、規制目的であれ、財務報告目的であれ、国/地域を越えて適用される一貫した会計の基礎がないということです。調和のとれた財務報告のフレームワークが適用されれば、IAISの作業にとっても、最終的な要件の実務への適用においても、大きな利益が得られます。

本章では、新たな保険契約に関する国際財務報告基準(IFRS)の概要と主な要点について解説します。また、国際的に一貫した保険契約に関する会計フレームワークの策定のための取組みについて、KPMGの専門家の見解を示すとともに、それがIAISの作業とどのように相互作用する可能性があるかを論じます。


現行のIFRS第4号「保険契約」では、現地の会計制度を踏襲した会計方針に従って保険契約負債を測定することが認められているため、保険業界における企業間の比較可能性は限定的なものにとどまっています。IFRSの連結財務諸表では、例えば欧州連合(EU)指令に従って作成された財務諸表などにおいて、以前からグループ会計方針で認められていれば、会計方針の統一は必ずしも必要ではありません。

国際会計基準審議会(IASB)は2015年、保険業界における比較可能性の実現に必要な基準書を策定する保険契約プロジェクトで重要な進展を遂げました。IASBは計画されていた専門的審議を完了し、新たな保険契約に関する基準書の草案の作成を始めました。IASBは最終基準書を2016年末頃に公表する予定であることから、強制適用日は2020年または2021年の1月1日(早期適用可能)になると予想されます。適用日については、IASBが年内に最終決定する予定です。

この基準書の実際の適用時期にかかわらず、明らかなことは、IAISが保険資本基準(ICS)の完成に向けた意欲的なスケジュールに間に合わせるためには、この基準書の公表を待ってはいられないということです。ただし、専門的な意思決定が既に完了していることから、将来的に会計上と規制上の評価基準をいっそう調和させる上で意味がある場合には、IAISが自らの提案を修正し、この基準書の重要な要件をある程度組み入れることも考えられます。そのため、IFRSに加えられる変更は規制にも影響を与える可能性があるということを認識することが重要です。以降のページで、会計上の主な視点について論じます。

 

米国で一般に公正妥当と認められた会計原則を策定する米国財務会計基準審議会も、短期保険契約に関する開示の変更、および長期契約の会計処理に的を絞った変更を提案していますが、これらについてはこの章では扱いません。

測定基礎

新たな保険契約に関する基準書には、企業が発行するあらゆる種類の保険契約に関する包括的な測定モデルが盛り込まれます。しかし、一部の短期契約に関しては簡便的な形式のモデル、つまり保険料配分アプローチを使用することができ、直接連動の有配当契約に関してはモデルが修正されます。

測定モデルは、一般に保険金の支払期限の到来に従って、徐々に自社の債務を履行していくと想定しているという事実を反映した、現在の「履行」目的に基づいています。したがって、保険契約負債の測定の出発点は、契約を履行するための予想将来キャッシュフローとなるでしょう。義務の履行は、企業の視点(出口価値や公正価値ではない)に基づいて決められます。

保険契約負債の測定においては、予想将来キャッシュアウトフローからインフローを引いた額(ビルディング・ブロック1)を割り引いて、貨幣の時間的価値(ビルディング・ブロック2)を反映させます。予想割引将来キャッシュフローに、保険契約者への義務を履行する際のキャッシュフローの金額とタイミングに関する不確実性を反映するためのリスク調整(ビルディング・ブロック3)を加算します。各報告日に最新情報を用いて、これら3つの「ビルディング・ブロック」を再測定します。3つのビルディング・ブロックの合計が契約の開始時にマイナスである場合(すなわち、キャッシュアウトフローの現在価値にリスク調整を足した額が、キャッシュインフローの予想現在価値を下回る場合)、契約時の利得を排除するために、契約上のサービス・マージン(CSM)を加算します(図1を参照)。

図1 一般的な測定モデル

出典:KPMGインターナショナル、2016年

CSMは、契約開始時における未稼得の利益を表します。これは保険カバー期間にわたり、均等に認識されます。その後の保険金の支払までに要する期間は含まれません。

事後測定では、CSMは、将来キャッシュフローの変更と、将来の保険カバーとその他のサービスに関連するリスク調整の変更について調整されます。ただし、CSMがマイナスにならないことを条件とします。その結果、純損益や資本にはこうした変更は影響しません。

将来キャッシュフローを割り引くことにより、貨幣の時間的価値を反映させます。一部の保険契約は期間が長いため、割引率の決定および割引率の変更が資本と純利益に重大な影響を及ぼす可能性があります。

新たな保険契約に関する基準書は、割引率の決定方法は規定せず、むしろ幅広い原則を定めるものとなります。つまり、割引率は、タイミング、通貨、流動性の面で保険契約と同様の特徴を持つキャッシュフローを伴う金融商品の観察可能な現在の市場価格と整合的でなければならないということです。
したがって、割引率は概念上、リスクフリーかつ非流動的となります。発行する保険契約の通貨と種類によって、また適切な割引率を決定する際に採用する方法論によって、いくつかの異なる割引率が適用される可能性があります。割引率またはそのレンジに関する開示要件は、比較可能性、透明性、および市場規律の実現を意図しています。


「割引率またはそのレンジに関する開示要件は、比較可能性、透明性、および市場規律の実現を意図しています。」

簡便的アプローチ

前述のように、この基準書では、特にカバー期間が1年以内の一部の短期契約に関し、残存カバーの負債を測定する際に簡便的な「保険料配分」アプローチを適用することが認められます。このアプローチは、大半の国/地域で短期の損害保険契約に適用されている現行の未経過保険料方式と概ね整合的です。

発生保険金負債はビルディング・ブロック・アプローチを用いて測定されます。つまり、(一部の例外はありますが)キャッシュフローは割り引かれます。利益は、ほとんどの現行の会計モデルに基づく場合より早期に認識されます。これは、現行では通常、発生保険金負債は割り引かれないためです。
ただし、リスク調整が割引計算の影響を超える場合、特に賠償責任保険の場合には、利益は後に認識されることになります。

有配当契約

直接連動の有配当契約は、以下の全ての要件を満たす契約と定義されます。

  • 保険契約者は、基礎となる項目の明確に特定されたプールにおける確定された割合に関与している。
  • 企業は、そうした基礎となる項目からのリターンの重要な割合を保険契約者に支払うことを見込んでいる。
  • 企業が保険契約者に支払うと見込んでいるキャッシュフローは、基礎となる項目のパフォーマンスによって大きく変動することが予想される。

直接連動の有配当契約に関しては、当期における基礎となる項目からのリターンの株主持分の変動に応じてCSMが調整されます(変動手数料アプローチ)。表1に示すとおり、一般的な測定モデルは直接連動の有配当契約に対応するために、2つの主要領域において修正されます。

表1:有配当契約におけるビルディング・ブロック・アプローチへの修正

領域 一般的な
測定モデル
変動手数料
アプローチ
保険契約に組み込まれている保証に係る市場変数の変動による影響の認識 包括利益計算書上で認識

将来のサービスに対する手数料の変動の一部とみなし、以下のいずれかで認識:

  • CSM
  • 純損益(企業が純損益を通じて公正価値で測定する(FVTPL)デリバティブを使用して保証の金融市場リスクを低減している場合)
CSMに適用する金利 ロック・インされた
割引率
CSMの再測定を通じた現在の割引率

 

「この基準では、特にカバー期間が1年以内の一部の短期契約に関し、残存カバーの負債を測定する際に簡便的な「保険料配分」アプローチを適用することが認められます。」

新たな保険契約に関する基準書の主な要点

割引率の影響の表示

新たな基準書は、全ての保険契約を対象に、割引率およびその他の市場変数の変動に起因する保険負債の変動を、その他の包括的利益(OCI)または純損益のどちらかで表示するオプションを提供します。経済的ミスマッチのない契約(下記参照)を除き、OCIで表示する会計方針を採用する場合、契約開始時のロック・イン割引率を用いて、割引計算の巻戻しの効果を純損益に「保険金融収益または費用」として表示することになるでしょう(原価測定ベース)。これにより、原価測定ベースを用いた場合と、現在測定ベースを用いた場合の保険金融収益または費用の差がOCIで認識されることになります。

保険会社が保有する多くの投資は、その他の包括利益を通じて公正価値測定(FVOCI)する分類の基準を満たさないでしょう(例えば、持分証券、デリバティブ、仕組商品、配当受給権を伴う商品など)。仮に全ての金融商品をFVOCIに分類することが可能であっても、会計上のミスマッチに起因するボラティリティの全ての根源を除去することは、やはり不可能であると思われます。

依然として会計上のミスマッチが生じる可能性があることから、経済的ミスマッチがない直接連動の有配当契約に関し、市場変数の変動を純損益とOCIに分解する目的が修正されました。こうした契約に関しては、純損益における保険金融収益または費用は、保有される基礎となる項目について純損益に表示される利得または損失と同額かつプラスマイナスの符号が反対になります。純損益に表示される保険金融収益または費用と、市場変数に起因する契約における変動(対応する基礎となる項目の公正価値の変動)との差異は、OCIに表示されることになります。

このアプローチにより、当期純利益における会計上のミスマッチは有効に排除されます。IASBは、金利変動に起因するボラティリティをOCIに表示するというオプションを提供することにより、企業が保険事業の長期的性質に見合った原理に基づいて当期純利益を表示できるようにします。

集約のレベル

IASBは、不利な契約に係る損失を契約開始時に純損益で認識する必要があるかどうかを判断する目的で、および当初認識後にCSMを測定するために、集約することのできる契約の特性を規定しています。こうした特性の1つは、ある契約が同じ契約グループに含まれるためには、開始時点で類似の予想される収益性を有していなければならない(すなわち、予想収益合計に対するCSMの割合が類似していなければならない)ということです。もう1つは、予想キャッシュフローが主要な仮定の金額およびタイミングの変化に対して同様に反応することです。これらの原則を解釈し、適用するには判断力が求められます。

IFRS第9号「金融商品」と新たな保険契約に関する基準書の発効日の相違

発効日が相違している(IFRS第9号は2018年、新たな保険契約に関する基準書はおそらく2020年か2021年)ということは、短期間に大規模な会計変更が2度連続して行われ、保険会社は新たな保険契約に関する基準書を適用する前にIFRS第9号の分類および測定要件を適用しなければならないことを意味します。金融資産の分類の変更が必要になれば、一時的に会計上のミスマッチが増大し、純損益とOCIのボラティリティが生じる可能性がありました。その結果、保険会社の財務諸表の作成者と利用者の双方に、いっそうのコストと複雑性がもたらされることが予想されました。

IASBは2015年12月、こうした潜在的な問題に応えるため、現行のIFRS第4号の修正を提案しました。公開草案(ED/2015/11)「IFRS第9号『金融商品』のIFRS第4号『保険契約』との適用」で、以下の提案がなされました。

  • IFRS第4号の適用範囲に含まれる契約を発行する特定の企業に対し、IFRS第9号の適用を一時的に免除する(延期アプローチ)。
  • 保険活動に関連する特定の資産に関し、IFRS第9号とIAS第39号「金融商品:認識及び測定」の下で認識される金額の差異を純損益から除外する(上書きアプローチ)。

上書きアプローチは、一時的な会計上のミスマッチと純損益のボラティリティに対する保険会社の懸念に対応することを目的としていますが、短期間に2度の大規模な会計変更を実施することへの懸念には対応しません。延期アプローチは、一部の適格企業を対象に、この懸念に対応します。

企業は、その主な活動が保険関連の活動であり、かつ過去にIFRS第9号を適用したことがない場合には、2021年1月1日(または新たな保険契約に関する基準書の適用日のいずれか早い方)より前に開始する年次報告期間について、IFRS第9号の適用の延期を認められます。保険関連の活動には、IAS
第39号に基づきFVTPLで測定する投資契約の発行、およびIFRS第4号の適用範囲に含まれる契約の発行が含まれます。
企業は、保険関連の活動から生じる負債とそうした活動に付随する「その他」の負債とを足した額の、企業の負債総額に対する比率に基づき、適格要件を評価する必要があります。この比率が次のいずれかを満たす場合にのみ、企業の主な活動は保険関連の活動であるとみなされます。すなわち、比率が90%を超える場合、あるいは、比率が80%超90%以下で、かつ企業が保険に関連のない重要な活動を有していない証拠を提示できる場合です。

これらの修正は現在、起草段階にあります。IASBは、修正の最終版を2016年9月に公表する見込みです。

KPMGの見解

新たな保険契約に関する基準書により、初めて、保険契約に関する一貫した会計処理が要求されることになり、企業間および国/地域間で業績をより有意義に比較分析することが可能になります。この基準書はIASBが発行する最も複雑な基準書の1つとなるでしょう。適用される際には、特に長期保険契約を発行する保険会社において、その複雑さが顕著に表れると思われます。

関連する影響を以下にいくつか挙げます。

  • 測定モデルにより、保険負債の測定方法と表示方法が変わる。
    • CSMを均等に解放するため、特に長期契約において利益パターンが変わる可能性がある。多くの契約について、利益(すなわち資本の創出)は、ソルベンシーIIおよび市場整合的エンベディッド・バリューの両者に比べ遅れて発生することになる。一方で、有配当性を有する平準払保険契約のようなその他の契約については、利益の認識が早まる可能性がある。
    • CSMを測定する際、および契約が不利となる時点を判断する際に使用する集約のレベルは、企業の収益構造(すなわち資本の創出)に影響を及ぼす可能性がある。
    • 移行時およびその後の期間に資本の減少が生じ、報告する資本に影響を及ぼす可能性がある。
  • これまで最新の情報と仮定を用いて保険契約を測定したことのない企業で、ボラティリティが増大する可能性がある。新たな保険契約に関する基準書ではさまざまな会計オプションが用意される見込みだが、こうしたオプションが純損益におけるボラティリティの低減に具体的にどのような効果をもたらすかはいまだ不透明である。
  • 移行時とその後のCSMの算定と解放は、新たなオペレーション上の課題をもたらす可能性がある。
  • 保険契約収益の新たな測定指標とOCIの表示は、アナリストや、規制当局・監督機関といったその他の財務諸表利用者が現在使用している実務や指標の大幅な変更を意味する可能性がある。
  • 新たな保険契約に関する基準書を適用するには、新たなプロセスと統制の開発、テスト、運用に多大な労力と投資が必要になる可能性がある。例えば、データの収集・保存およびCSMの追跡に係る新たな要件に確実に対応するために、システム更新が必要になる可能性がある。

新たな基準書は、保険会社の財務諸表の作成者と利用者の双方に大きな変化を求めるものとなる見込みです。

 

「この基準書はIASBが発行する最も複雑な基準書の1つとなるでしょう。適用される際には、特に長期保険契約を発行する保険会社において、その複雑さが顕著に表れると思われます。」

「保険規制の進化2016」について

「保険規制の進化」はKPMGインターナショナルが発行する年次レポートであり、保険業界が直面する規制関連の主要なトピックを取り上げています。第6版となる今年のレポートは各章を順次発行する方式とし、今回、第4章をリリースしました。

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