日中新移転価格文書化義務規定について~日系企業の観点から~ | KPMG | JP

日中新移転価格文書化義務規定について~日系企業の観点から~

日中新移転価格文書化義務規定について~日系企業の観点から~

OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの勧告を踏まえ、日中両国において、BEPSプロジェクトで勧告された三種類の文書(国別報告書、マスターファイル、ローカルファイル)から成る移転価格文書化制度が整備されました。

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日中の新文書化制度はいずれもBEPSプロジェクトの勧告をベースにしていますが、その詳細において相違していることから、日系企業の関心は、その相違を適切に把握し、具体的に、どのタイミングで、どのようにそれらに対応していくべきかに移っています。

本稿では、日中の重要な文書化要件を確認した上で、日中の三種類の移転価格文書である国別報告書、マスターファイル、ローカルファイルごとにどのような疑問が生じるかを分析し、また、それら移転価格文書の適法・適時作成のために、日系企業が留意すべき重要事項を洗い出します※1

 

※1 本稿は、紙面の関係上、日中改正条文そのものの解説は必要部分に留めている。日本の税制改正の概説については、KPMG税理士法人 鈴木彩子、細水兼二郎「BEPS新移転価格文書化規定~平成28年度税制改正の内容と解説~」KPMG Insight Vol. 19(2016年7月)。(2016年9月25日確認。なお、以下で引用しているウェブサイトの確認日も同様)を参照。また、中国の税制改正の概説については、KPMG中国「中国国家税務総局(SAT)が関連取引申告および移転価格同時文書化の管理に関する公告を公布」チャイナタックスアラート第23回(2016年7月)(PDF:741kb)を参照。

ポイント

  • BEPS行動計画13「多国籍企業情報の文書化」による勧告を踏まえ、日中両国において、BEPSプロジェクトで勧告された三種類の文書(国別報告書、マスターファイル、ローカルファイル)から成る移転価格文書化制度が整備された。
  • 日中移転価格文書化規定への対応にあたり、両国間の規定の相違により次の重要な実務的問題が生じる:(1)中国当局が、中国納税者に対して、日本の親会社に作成義務のない年度の国別報告書の提出を求める可能性が否定できない(例えば、12月末日決算の日本の親会社の2016年12月期国別報告書):(2)限定的な関連取引にのみ従事する中国子会社のためにマスターファイルを準備せねばならない場合がある:(3)また、日本の親会社に作成義務がないにもかかわらず、中国子会社の法令遵守のためだけにマスターファイルを準備せねばならない場合がある:(4)中国ローカルファイル中、その作成に日本の親会社の主体的関与を必要とし、かつマスターファイルによる関連開示との必要な整合性を確保すべき重要な開示項目がある(例えばバリューチェーン分析)。
  • 企業は、今後の関連実務の蓄積などに注視しつつ、日中の新しい移転価格文書化ルールに適宜対応して行くべきである。

I. 日中の新しい移転価格文書化制度

BEPSプロジェクトの勧告(行動計画13「多国籍企業情報の文書化」)を踏まえ※2、日本においては、平成28年度税制改正により、租税特別措置法の一部が改正され、移転価格税制に係る文書化制度が整備されました※3。BEPS行動計画13で勧告された三種類の文書(国別報告書、マスターファイル、ローカルファイル)のうち、国別報告書及びマスターファイルについては、2016年4月1日以後に開始する最終親会計年度から、直前会計年度の連結総収入金額1,000億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人等は国税当局に提出しなければならないこととされました。また、ローカルファイルについては、本改正で、2017年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について、一定の要件を満たす取引については確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存しなければならないとする「同時文書化義務」が導入されました。

一方、中国においても上記勧告を受け、国家税務総局は、2016年7月13日、「関連取引申告および移転価格同時文書化の管理に関する公告(以下「42号公告」という)」を公布しました。42号公告は、従来の同時文書化規定を置き換えるもので、2016年1月1日に開始する事業年度以降適用されます。42号公告により、日本と同様、中国でも、一定の要件を満たす納税者に対して、国別報告書、マスターファイル、ローカルファイルを通じた関連取引の開示が義務付けられました。

 

※2 OECD, OECD/G20 Base Erosion and Profit Shifting Project, Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting, Action 13 - 2015 Final Report(2015)

※3 国税庁「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし」(2016年6月)等を参照。

II. 国別報告書

日本においては、2016年4月1日以後に開始する最終親会計年度に係る国別報告書を、当該会計年度の終了の日の翌日から1年以内に、e-Taxにより、国税当局に提出することになります(租税特別措置法66条の4の4第1項)。従って、3月末日決算※4の会社は2017年3月期(2016年度)の国別報告書を2018年3月までに国税当局に提出することになります。その後、国別報告書は租税条約等に基づく情報交換制度により、構成会社等の居住地国の税務当局へ提供されることになります。すなわち、中国に子会社がある場合は自動的情報交換により日本の国税当局から中国の国税当局へ提供されることになります(いわゆる条約方式)。OECDでは2016年1月1日以後に開始する会計年度から国別報告書の提出が義務付けられることが推奨されるとしており、2016年1月1日より前に開始する会計年度については提出を求めないことについてOECD/G20参加国は同意しているとしている一方で、税制改正の手続に時間を要するケースがあるとの認識も示しています※5

日本は2016年4月1日以後に開始する最終親会計年度からの適用となることから、OECD及び後述する中国の基準と3ヵ月のずれが生じることになります。すなわち、12月末日決算の会社については、2017年1月1日開始事業年度、すなわち、2017年12月期(2017年度)を対象初年度として、国別報告書を2018年12月までに国税当局に提出することになるため、2016年12月期(2016年度)の国別報告書の日本の国税当局への提出義務はありません※6

一方、中国の42号公告は、国別報告書の作成及び提出義務を次の通り規定しています。

  • 作成:(一)中国企業が多国籍企業グループの最終持株企業であり、かつその前会計年度の連結財務諸表における各種の収入金額の合計が55億元を超える場合、又は、(二)当該中国企業が多国籍企業グループにより国別報告書の提出企業に指定されている場合(42号公告第5条)。
  • 提出:中国企業が42号公告第5条に規定する国別報告書の作成範囲に属さず、その中国企業の属する多国籍企業グループがその他の国の関連規定に従って国別報告書を準備すべき場合(下線筆者)で、以下のいずれかの条件に該当する場合、税務機関は特別納税調査(筆者注:移転価格調査を含む)を実施する際、国別報告書を提出するよう企業に求めることができる:(一)多国籍企業グループがいずれの国にも国別報告書を提出していない:(二)多国籍企業グループは既にその他の国に国別報告書を提出しているが、中国と当該国が国別報告書の情報交換体制を確立していない:(三)多国籍企業グループは既にその他の国に国別報告書を提出しており、中国と当該国も国別報告書の情報交換体制を確立しているが、国別報告書が実際に中国と共有されていない(42号公告第8条)。

よって、典型的な日系中国企業は、中国当局に対して国別報告書の作成義務はなく、また、自ら作成した国別報告書を納税申告書添付資料として中国当局に提出する義務もありません。

一方、中国子会社による国外親会社の国別報告書の提出(いわゆる「子会社方式」による国別報告書の提出)義務について、中国で国別報告書は2016年1月1日に開始する事業年度以降に適用されるため、中国当局が、例えば12月末日決算の日本親会社の中国子会社に対して、当該親会社の2016年度/2016年12月期の国別報告書を要求することが懸念されます。繰り返しになりますが、日本のルール上、当該親会社に2016年度の国別報告書を作成する義務はありません。

この問題について、42号公告は必ずしも明確に規定していません。また、現時点で、中国政府は、公式にも非公式にも関連の実務ガイドラインを出しておらず、かつ関連実務の蓄積もないため、同程度に2つの見解が成り立ち得ます。以下、12月末日決算の日本本社を例に議論を進めます。

まず、42号公告の関連規定を文理上合理的に解釈すれば以下の通りになります。42号公告第8条の前半部分を別言すれば、国別報告書作成義務のない日系企業に対して中国当局が国別報告書の提出を求めることができるのは、その日系企業が移転価格調査を受けている場合ですが、その場合であっても、中国当局は、当該日系企業の本社が日本の規定に従って国別報告書を準備「すべき」場合にしか、国別報告書の提出を求めることはできないといえます。よって、日本本社が12月末日決算の場合、日本の法令上、2016年度(2016年1月~12月)の国別報告書の作成義務はないので、その中国子会社が中国当局から当該2016年度の国別報告書の提出を要求されることはないと考えるのが素直な解釈といえます。

一方、42号公告が依拠すべき、BEPS行動計画13が2016年1月1日からの適用を推奨していることを鑑みれば、予断を許せません。BEPS行動計画13に含まれる国別報告書に係るモデル国内法令によれば、「多国籍企業グループの究極の親会社がその税務上の所在地において、国別報告書を提出する義務がない」などの場合、当該親会社ではない多国籍企業グループの構成会社が国別報告書を提出(いわゆる「子会社方式」による国別報告書の提出)すべき旨規定しており※7、42号公告第8条のように「多国籍企業グループがその他の国の関連規定に従って国別報告書を準備すべき」、あるいは「多国籍企業グループがいずれの国にも国別報告書を提出していない」ことを要件とはしていません。このように、BEPS行動計画13の規定からすれば、日本の法令上、12月末日決算の2016年度(2016年1月~12月)の国別報告書の提出義務はなくても、子会社方式の対象となるとも考えられます。国別報告書のフレームワークについては、各国が足並みを揃える必要があるところ、中国の規定である「多国籍企業グループがその他の国の関連規定に従って国別報告書を準備すべき場合」とは、本来は、単に、中国以外の国で最終親会社が国別報告書を準備すべき場合を想定するものであり、必ずしも、法令によってどの期間の国別報告書が作成されているかが問題ではなく、よって、中国は、例えば12月末日決算の日本の親会社の2016年度/2016年12月期の国別報告書の提出を求めることができる、との解釈も成り立ちうるかもしれません。

いずれにせよ、12月末日決算の多国籍企業グループは、この点についての今後の中国当局の見解を注視しつつ、2016年度から国別報告書を中国当局が提出の要求をしてくる可能性も踏まえて準備しておく必要があるでしょう。

なお、OECDにおいては、日本のように適用開始時期が2016年1月1日より遅く、一方、子会社所在地国で子会社方式により2016年1月1日以降開始事業年度で国別報告書の提出が求められる場合には、最終親会社が適用開始事業年度以前の国別報告書を任意に提出できるよう、最終親会社所在地国の法令の改正によってこのずれを解消することを公表しています(親会社による代理提出“parent surrogate filing”)※8。すなわち、12月末日決算の会社が2017年度からの提出義務がある場合、2016年度の国別報告書を日本税務当局に最終親会社から任意に提出し、子会社方式で国別報告書の提出を義務付けている国との情報交換を行うことによって、子会社方式での国別報告書の提出を納税者に求めないことを求めることになります※9。この点、日本の国税庁は10月17日「国別報告事項を自主的に提供した場合の取扱いについて」※10を公表し、2016年1月1日から2016年3月31日までの間に開始する会計年度の国別報告書を自主的に提供した場合には、情報交換を通じて外国税務当局に国別報告書が提供されることになります※11。特に国別報告書の子会社への開示に懸念を持つ日系企業は当該手続の利用も視野に入れることになるものと考えられます。

 

※4 日本企業中3月末日決算会社に次いで12月末日決算会社が多いとの筆者想定により、本稿においては、3月末日及び12月末日決算会社を例にとって、議論を続ける。

※5 OECD, supra note 2, Para 50 at 2021.

※6 より正確には2016年1月1日から3月31日に開始する最終親会社会計年度(一般的には12月期決算、1月期決算、2月期決算)の会社について、OECD基準とのずれが生じる。

※7 OECD, supra note 2, at 40-41 and see also Para 60 at 23.

※8 OECD, Guidance on the Implementation of Country-by-Country Reporting: BEPS Action 13 at 3-5(August 2016). 

※9 Ibid at 5. 日本の他に、ロシア、スイス、米国が挙げられている。なお、米国においては、2016年6月30日以後に開始する事業年度の国別報告書が提出義務になるが、それ以前に開始した事業年度の国別報告書を米国当局に提出した場合には、米国当局から情報交換が行われ、その企業に対しては子会社方式による国別報告書の提出を納税者に求めないよう相手国に働きかけることになっている。Internal Revenue Service, Country-by-Country Reporting - Final regulations,Federal Register, Vol. 81, No. 126 at 42485, June 30, 2016.(PDF:250kb)

※10 国税庁「国別報告事項を自主的に提供した場合の取扱いについて」(PDF:163kb)

※11 この場合、最終親会社等届出事項は2017年3月31日まで、国別報告事項は2018年3月31日までに提出することになる。

III. マスターファイル

1. 作成義務と作成・提出期限

日本においては、2016年4月1日以後に開始する最終親会計年度に係るマスターファイルについて、当該会計年度の終了の日の翌日から1年以内に、e-Taxにより、国税当局に提出することになります(租税特別措置法66条の4の5第1項)。提供義務の免除は、直前の最終親会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループとされているので、国別報告書の要件と同じです。従って、連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループはマスターファイルの提出義務があります。

ここで留意しなければならないのは、この1,000億円以上という基準、及び提出義務は、双方ともにOECDが示したものではなく日本独自の基準であることです。OECDは、国別報告書については、750百万ユーロ(約1,000億円)の売上高基準でもって提出義務を定めていますが、マスターファイルについては、金額基準を設けるか、提供義務なのか、作成義務なのか等の実施については、各国の国内法に委ねています。

日本が1,000億円基準を用い、提出義務にした背景は必ずしも明らかではありませんが、マスターファイル導入にあたり、国別報告書と同様に要件を設定することによって、広くマスターファイルの提供を求めると共に、連結総収入金額が1,000億円未満の企業にはそれを免除するという一種の割り切りをしたものと考えられます。

ここで、上記を踏まえ日系企業が留意すべきもうひとつの点は、必ずしも1,000億円未満であるからといって、マスターファイルを作成しなくてもいいということではなく、各国がどのようなマスターファイルの作成又は提出義務があるかについて、各国の制度の動向を精査しておく必要があるということです。日本でマスターファイルの提出義務がなくとも、海外でマスターファイルを作成、保存、提出義務が生ずる可能性があるからです。本稿においては中国の要件を検討します。

中国において、次のいずれかの条件に該当する企業はマスターファイルを準備しなければならないと定めています:(一)年度において国際関連取引が発生し、かつ当該企業の財務諸表を連結する最終持株企業の属する企業グループが既にマスターファイルを準備している:(二)年間の関連者取引総額が10億元を超える(42号公告第11条)。

一方、昨年9月に出された中国改定移転価格税制通達の討論用公開草案では、日本本社の連結総収入金額如何にかかわらず、中国企業の関連取引の金額が以下の場合において、マスターファイルを作成すべきとされていました:(一)年度において発生した関連者との売買の金額(来料加工業務については年度における輸出入の通関価格により計算)が2億元を超える:(二)年度において発生した関連者との売買以外のその他の関連者取引の金額(関連者との資金融通については利息の受払金額により計算)が4,000万元を超える:(三)限定的な機能とリスクを担うが、欠損が生じている。

中国当局が日本の税制改正の動きに鑑みて、マスターファイルの要件に「準備している企業」を採用したかどうか明らかではありませんが(中国の公開草案発表後、2016年度の税制改正大綱において、日本で1,000億円以上、提出義務という日本の税制改正の内容が示された)、結果的に、中国子会社の関連取引金額は非常に少ないですが、連結総収入金額が1,000億円を超える日本の本社、あるいは、連結総収入金額が1,000億円未満であっても、中国子会社の関連取引の金額が10億元(15.5円/元換算で155億円)を超える日本の本社は、中国子会社の中国当局向け義務を果たすために、あまねく中国語でマスターファイルを準備せねばならないことになりました。従って、日系企業がマスターファイルを作成する際には、日本当局のみではなく、中国当局に提出することも考慮して作成することが極めて重要になります。

日本が1,000億円の基準を入れ、提出義務を課している以上、中国当局は、「連結総収入金額1,000億円以上の日系企業はマスターファイルを当然に持っている」ものとして、移転価格調査の際に提出を要求してくるであろうことは想像に難くありません。中国において将来ありうる移転価格調査への対応としての位置づけを含め、連結総収入金額1,000億円以上の日系企業は、日本の親会社がマスターファイルを作成し、それを中国語に翻訳し、中国子会社に具備しておくことが必要であり、当局から提出を求められた場合、それ(及びローカルファイル、作成義務要件については後述)を適時当局に提出できなければなりません。

なお、中国におけるマスターファイルの作成準備期限は、企業グループの最終持株会社の事業年度終了の日から12ヵ月以内です。これは、日本の税制改正におけるマスターファイルの提出期限とほぼ同じであり、日本の税制改正を考慮したものと考えることもできます。

2. 作成初年度

日本においては、2016年4月1日以後に開始する事業年度を対象としてマスターファイルの作成義務が生じます。一方、中国では、2016年1月1日以後に開始する事業年度を対象として当該義務が生じます。そこで、上述した国別報告書と同じく、例えば12月末日決算の日本親会社の2016年12月期について、日本でマスターファイルの提出義務がないにもかかわらず、中国子会社のためだけにマスターファイルを作成する義務が生じるかどうかについて疑問が生じます。

この点、上述の通り、42号公告11条は、マスターファイルを準備すべき要件として、その年度に「取引が発生し、かつ当該企業の財務諸表を連結する最終親会社の属する企業グループが既にマスターファイルを準備していること」と定めており、2016年12月末日決算の会社が2016年度について、年間の関連者取引総額が10億元を超えていなければ、中国での準備をする必要はないと考えるのが妥当でしょう。従って、12月末日決算の日系企業は、日本と中国の制度のみを考えれば、2016年度についてマスターファイルを準備する必要はないと考えてよいと思われます。

3. 記載内容

日本において、マスターファイルの記載内容はOECDが示した記載内容と同等のものとなっていますが、中国のマスターファイルの記載内容については、OECDが示した記載内容に加えて、以下の通り追加の情報を要求しています。

  • 事業年度中に行われた重要な事業再編取引、企業買収、企業分割について、「産業構造調整、グループ内での企業の機能、リスク又は資産の移転、企業の法的形態の変更、債務再編、持分買収、資産買収、合併」。
  • 無形資産について、「主な研究開発機構の主な機能、リスク、資産と人員の状況」、及び「無形資産所有権と使用権の譲渡」。
  • 財務と税務の状況について、「二国間事前確認」、及び「国別報告書を提出する企業の名称及びその所在地」。

日系企業においては、OECD/日本基準に基づきマスターファイルが作成されるため、中国の規定が要求する追加項目については、(別紙にするかどうかはともかく)別途中国当局用にマスターファイルに追記する必要が出てくるものと考えられます。例えば、中国以外の国との二国間事前確認を行っている事実などについては、中国当局の関心を引く可能性が高いと思われ、マスターファイルが中国当局に提出された場合に、日系企業にとって、どのような影響をもたらすのかについて事前に検討しておくべきでしょう。

また、以下は日中間連規定の相違のみに起因する問題ではありませんが、日中マスターファイルでも求められる開示項目中、「主要製品・サービス毎のサプライチェーン」、及び「グループ内の各事業体による価値創造への主な貢献」の説明について、中国のローカルファイル中、グローバルバリューチェーン分析として、さらに詳細な同様の開示が求められます(「IV.ローカルファイル」の項で後述)。日中両国とも、ローカルファイルの作成期限は、マスターファイルのそれより早いため、両者開示の間で整合性を確保することが必要となります。特に、この種開示情報に対する中国当局の関心は極めて高く、そのような整合性確保の重要性も高くなります。

IV. ローカルファイル

1. 作成義務と作成・提出期限

日本においては、2017年4月1日以後に開始する事業年度より、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」(ローカルファイル)を確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存することが法人に義務付けられました(同時文書化義務)(租税特別措置法66条の4第6項)。なお、一の国外関連者との取引金額(受払合計)が50億円未満、かつ、無形資産取引金額(受払合計)が3億円未満である場合には、確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存する義務は免除されます(同時文書化義務の免除)。なお、使用言語は指定されていませんが、日本語以外の言語で記載されている場合は、日本語による翻訳が求められる場合もあるとされています。

同時文書化対象取引の場合には、当該ローカルファイルは税務当局から提示又は提出を求められた日から45日以内の指定された日までに提出しなければならず、また、独立企業間価格の算定に重要と認められる書類は60日以内の指定された日までとされています。また、同時文書化免除国外関連取引の場合には、上記に相当する書類は60日以内の指定された日までとなります。なお、当該期日までに提示又は提出がない場合、推定課税及び同種の事業を営む者に対して質問検査を行うことができることとされています。

例えば、12月末日決算の会社であれば、3月末(連結納税を行っている場合は4月末)までに同時文書化を行っておく必要があります。また、3月末日決算の会社であれば、6月末(連結納税を行っている会社は7月末)までに作成する義務があります。実務的には、事業年度が終わり、決算作業等で非常に多忙な時期にローカルファイルを作成しなければならないということになります。これは企業にとって、かなりの作業負荷がかかるものと思われますので、例えば3月末日決算の会社であれば、文書化を事業年度内に比較対象会社の選定を終わらせ、文書化自体をほぼ完成させておき、3月期の決算作業が終わり、数字が確定した時点で文書化における実績を反映させ、文書化を完成させるという方法も検討すべきでしょう。

一方、中国では、原則として※12、年間の関連者取引金額が以下のいずれかの条件に該当する企業はローカルファイルを準備しなければなりません:(一)有形資産の所有権の譲渡金額(来料加工業務は年間輸出入の通関価格に基づいて計算する)が2億元を超える:(二)金融資産の譲渡金額が1億元を超える:(三)無形資産の所有権の譲渡金額が1億元を超える:(四)その他の関連者取引の金額が合計4,000万元を超える(42号公告第13条)。

また、ローカルファイルの作成期限は、対象年度翌年の6月末となり、また、税務当局の要求があった日から30日以内にそれを提出しなければなりません(42号公告第19条)。これらは、いずれも、旧ルール(対象年度翌年の5月末までに作成、税務当局の要求後20日以内の提出)の緩和となります。

 

※12 厳密には、企業が関連取引を国内関連者とのみ行う場合、ローカルファイルを準備する必要がない。また、企業が事前確認を実施している場合、事前確認対象の関連取引に対してローカルファイルを準備する必要がなく、また、ローカルファイル作成義務判定のための関連取引金額に事前確認対象取引の金額は算入しない。

2. 記載内容

日本におけるローカルファイルの記載内容はOECDが定める記載内容と基本的に同じであると考えてよいでしょう。

42号公告によるローカルファイルを通じた開示項目は多岐にわたりますが、本稿の主旨に鑑み、それら項目の内、中国特有であり、かつ、日本本社と中国子会社の双方が作成に特に留意すべきグローバルバリューチェーン分析に限って以下説明します。

42号公告は、グローバルバリューチェーン分析として、具体的に次の事項の開示を求めます:(一)企業グループ内の業務フロー、物流及び資金フロー。商品、役務又はその他の取引の目的物の設計、開発、生産製造、マーケティング、販売、引渡、決済、消費、アフターサービス、循環利用等の各段階及びその関与者を含む:(二)上述した各段階における関与者の直近会計年度の財務諸表:(三)地域性特殊要因の企業の価値創造に対する貢献の測定及びその帰属:(四)グローバルバリューチェーンにおける企業グループの利益の配分原則と配分結果(42号公告第14条)。

中国当局は、移転価格税制執行の現場において、長らく、企業活動のグローバルな全体像(利益配分状況を含む)についての情報を渇望してきました。42号公告によるグローバルバリューチェーン分析の要請は、その意向を明確に規範化したものと位置づけることができます。一方、事実認定において主観が入らざるを得ないこの種の開示を行うにあたり、中国当局の誤解を呼ぶ記述を避けるなどの工夫が特に必要となります。

また、上記から明らかな通り、中国ローカルファイル目的で必要十分なグローバルバリューチェーン分析を行うためには、日本の本社が持つ情報を活用する必要があります。というより、マスターファイルの開示と同様、中国子会社が持つ情報のみに基づいてグローバルバリューチェーン分析を行うことは、通常の場合、実務的に極めて困難です。従って、日系企業は、グローバルバリューチェーン分析に必要な情報を日中で共有し、また協働する体制を新たに作ることが重要となります。

さらに、「III.マスターファイル」の項で述べた通り、日中マスターファイルで開示する「主要製品・サービス毎のサプライチェーン」、及び「グループ内の各事業体による価値創造への主な貢献」の情報は、ここで言うグローバルバリューチェーン分析と密接不可分の関係にあるといってよく、双方開示の間で必要な整合性を確保することが重要です。すなわち、端的には、将来のマスターファイルでの開示を見越して、ローカルファイルによる関連開示を準備することが必要となります。

執筆者

KPMG税理士法人
国際事業アドバイザリー
パートナー/税理士 水野 正夫

KPMGアドバイザリー(中国)
グローバル移転価格サービス
パートナー 大谷 泰彦

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