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既存ジョイントベンチャー(JV)見直しのポイント

既存ジョイントベンチャー(JV)見直しのポイント

ジョイント・ベンチャー(JV)は以前からある事業戦略形態の一つですが、昨今その意義が急速に見直されています。経営者は、限りある経営資源を有効に活用して企業価値の最大化を図ることをステークホールダーから求められています。

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国内では少子高齢化によって国内消費市場の縮小が見込まれるため、業界再編の動きが進む中でJVを設立する動きが活発になっています。また、経済のグローバル化が進み、ASEANを始めとした新興国市場の消費を取り込むため、ローカル企業と組んでJVを設立することは、大企業に限らず、中小企業にとっても有力な選択肢の一つです。このように最近注目を浴びているJVですが、すべてが順風満帆でうまくいっているかというと決してそうではなく、JVの経営・運営に苦しんでいる会社は少なくありません。

そこで本稿では、既存のJVについて見直しをする際のプロセス及びポイントについて考察してみたいと思います。

ポイント

  • 既存JV見直しのプロセスは、以下の順番で進める。
    1.現状分析(チェック)
    2.オプション分析
    3.改善計画策定
    4.実行

1~3については自社のみで行なって4の実行フェーズの前にJVパートナーと交渉するケースもあれば、JVパートナーとすべてのプロセスを共同で進めることもある。

  • 上記1の現状分析(チェック)におけるポイントとして、以下の5つの視点が考えられる。
    • アライアンス戦略
    • ビジネスプラン
    • オペレーティングモデル
    • ガバナンス
    • 企業文化・評価体系
  • トップの強いコミットメント、現場の円滑なコミュニケーション、そしてJVにおける問題点をJVパートナーと共有することが、その後のJV戦略の見直しに向けた協議・交渉を円滑に進めることの一助となる。

I. はじめに

1. JVの活用意義

経営者は、企業価値を向上させることを株主や従業員、そして取引先などのステークホールダーから求められていますが、それを効果的に達成するためにも限りある経営資源を有効に活用することが必要となります。

経営者を取り巻く環境に目を向けてみますと、日本は今、いわゆる「団塊世代の大量定年退職」の時代に突入しています。
少子高齢化の動きが加速して国内消費市場の縮小が見込まれており、運営効率を高めるため規模の経済を追求した業界再編の動きが進む中でJVを設立する動きが活発になっています。また、E-commerceの発達や多国間での経済連携協定締結によって経済のグローバル化がより一層進み、ASEANを始めとした新興国市場の消費を取り込むため、現地のローカル企業と組んでJVを設立することは大企業に限らず、中小企業にとっても取りうる有力な選択肢の一つです。新興国の中には自国産業保護を目的とした外資規制を敷いている国も多くみられるため、日本企業単独での進出は認められず、現地企業と共同で業務運営することが求められている場合には、JVを軸とした事業展開を検討しなければいけません。

なお、昨年寄稿させて頂いたニューズレター「ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点」(KPMG FAS Newsletter~特別編集号~2015年1月)と同様に、本稿におけるJVの定義は「2社以上の相互に独立した会社(パートナー)が、共同してある一定の事業を営むために、共同で物的資本(現金、土地・建物、生産設備等)及び人的資本(経営者、技術者等)を拠出し、パートナーから独立した法人格を有する組織」とします。

2. JVの課題

前述の通り、これまでに多くのJVが設立されてきたものの、それらのJVの経営・運営に苦しんでいる会社は少なくありません。それは、日頃我々がクライアントと議論している中で頻繁に相談を受ける事項であることから感じられるところでもありますが、ある調査によると、40~60%の会社が「他社とパートナーシップを組んで展開している事業の業績が低迷している、もしくは明らかに失敗の結果となっている。」(McKinsey, Quarterly, January 2014)と回答していることから、グローバル共通の悩みであることがわかります。

成否の判断は別として形を変えてきた一例として、ソニーとエリクソンの携帯電話事業に関するJVを見てみましょう。2001年10月、ソニーは、携帯電話事業に関して後発で市場シェアが低かったこともあり、競争力向上を図るためにスウェーデンのエリクソンと出資比率50%:50%のJV、ソニー・エリクソンを設立しました。当時の携帯電話市場はノキアやモトローラーなどがメインプレーヤーでしたが、ソニー・エリクソンは苦境脱出のために、エリクソンの持つ高い通信技術とソニーの持つブランド力及び高いデザイン性などのお互いの強みを組み合わせることにより、携帯電話の高機能化を進めました。その結果、「Walkman Phone」などの新端末を投入して、ソニー・エリクソンとしてのブランドを確立することに成功したのです。しかしながら、その後携帯電話の低価格化が進み、他社が低価格帯の携帯電話ラインアップを拡充する中、ソニー・エリクソンは高機能携帯電話に注力していたことが裏目となり、業績は赤字を計上するなど順風満帆とは言えない時期を経験しています。更にマーケット環境はめまぐるしく移り変わり、スマートフォンの市場が急速に拡大したことに伴い、ソニー・エリクソンも従来の携帯電話事業を縮小してスマートフォン事業にシフトします。この時、ソニー自体が「グーグルのAndroidをプラットフォームとした家電やオーディオ機器に注力する」事業方針を採用したことから、ソニーとソニー・エリクソンのスマートフォンとの親和性が非常に高まりました。一方で、エリクソンは先進的な通信インフラ技術に特化する経営方針を打ち出していたため、携帯電話事業をエリクソングループとして保有することのシナジーは低下していたのです。両社協議の結果、2012年2月にソニーはエリクソンの保有するソニー・エリクソン株式50%を取得し、ソニー・エリクソンを100%子会社化した上でソニーモバイルコミュニケーションズに名称変更しています。このように、携帯電話の低価格化や単機能電話(フィーチャーフォン)からスマートフォンにシフトした事業環境の変化に加え、両者の経営方針の新機軸設定に伴い、JVの経営・運営の見直し、更には必要に応じて出資比率の見直しまで行なうことは、厳しい競争環境の中で効率的なグループ経営を行うために不可欠と言えるでしょう。

そこで本稿では、常に意識をもって取り組むべき「既存のJVについて見直しをする際のプロセス」にフォーカスして考察してみたいと思います。

II. JV見直しのプロセス

不振事業の見直しをする際には、問題の発生要因、すなわち窮境原因を特定することが重要です。その場合、JVを取り巻く環境及びJVのオペレーション等に関する現状分析を行ないますが、「客観的な分析を実施して本質的な問題を特定すること」が出来るかどうかが、その後のプロセスの成否を握ることになります。そして、現状分析を行なった後には、その結果を基に採りうる選択肢(オプション)を検討し、改善計画を策定して実行に移します(図表1)。

図表1 JVの見直しプロセスの一例

なお、現状分析から改善計画策定までは自社のみで行なって、計画実行フェーズの前にそれらを踏まえてJVパートナーと交渉するケースもあれば、最初からJVパートナーを巻き込んで、すべてのプロセスを共同で進めることもあります。JVの置かれている状況やJVパートナーとの関係を考慮して、自社のみで進めるプロセスと共同で進めるプロセスのバランスを検討する必要があります。

最初のプロセスである現状分析が特に重要となるため、以下では、その点に着目しつつ、その他のフェーズについても簡単に解説します。

1. 現状分析

JVの現状分析の範囲は、JV及びJVパートナーの置かれている状況によって異なりますが、以下の5つの視点でチェック作業を進めるケースがあります。その際、自社及びJVパートナーの経営状況、JV契約書、JVの中期経営計画・予算及び過去の決算書、外部環境に関する情報・データなどをベースとする他、JVの経営陣に加え、自社及びJVパートナーに所属してJVを主管している経営者や担当者に対してもインタビューを実施することで、分析作業を効率的に進めることが可能となります。

JVの現状分析をする際の5つの視点
(1)アライアンス戦略
(2)ビジネスプラン
(3)オペレーティングモデル
(4)ガバナンス
(5)企業文化・評価体系

なお、これらは完全に独立したものではなく、実際には相互に関係していることも多いため、常に全体を俯瞰した視点を意識した分析が求められる点に留意が必要です。

 

(1)アライアンス戦略

キーポイント

  • 自社及びJVパートナーの経営戦略に沿ってアライアンス戦略も見直されているか?
  • アライアンス戦略は自社とJVパートナーの間で共有されているか?

まずJV設立当時のアライアンス戦略(ここでは「JVの経営戦略」とします。)を確認する必要があります。当時の自社及びJVパートナーの経営戦略に即した形でアライアンスが組まれているはずであり、それはJV設立時にその意義や目的等を記載した当時の取締役会資料等により確認できます。しかしながら、JV設立後の外部環境の変化に伴い、自社及びJVパートナーの経営戦略も見直されているケースがほとんどだと思われます(図表2)。

図表2 JV設立時と現在の環境等の変化を踏まえたJV経営戦略

例えば自社において「中期経営計画(2012~2015年度)」を策定している場合には、2016年前半に「当該中期経営計画の振り返り」をするとともに「新中期経営計画(2016~2018年度)」を発表します。JVパートナーも同様に数年ごとに経営戦略の見直しを行なっているとすると、そのような変化がある中で、アライアンス戦略の見直しは行なわれているか、そしてそのJVの経営戦略は自社とJVパートナーの間でしっかりと共有されているか、という点が重要になります。どの程度戦略が共有されているかということについては、関連する文書・データの分析に加え、経営陣や関係者に対するインタビューで一層明確になります。

前述のソニー・エリクソンの例であれば、マーケット環境がスマートフォンの登場によって劇的に変わり、ソニーがAndroidをプラットフォームとした家電等の事業展開を行なう経営方針を標榜した一方で、エリクソンは最終製品を扱うよりも通信インフラに特化した経営方針を打ち出しました。これらの変化に伴い、ソニーとエリクソンがJVに期待する役割や重要度も変わっていったのです。

 

(2)ビジネスプラン

キーポイント

  • ビジネスプランは適切なプロセスを経て策定されたもので、その実現可能性は高いか?
  • 計画値と実績値の差異に関する分析がなされており、その改善策が講じられているか?

ビジネスプランに関しては、策定プロセス、モニタリングプロセス、そして計画値と実績値の乖離状況とその改善策をチェックしていきます。策定プロセスは客観的な外部環境分析を基に、アライアンス戦略に沿った形で実現可能性の高い計画が策定されているかどうか、そしてその計画が自社及びJVパートナーの適切なプロセスを経て承認されているかどうかに着目します。また、モニタリングプロセスは、対応しているチーム、頻度、そして自社及びJVパートナーに対してどのような報告がなされているかを確認します。その上で、計画と実績に乖離がある場合、その理由を分析して適切な改善策が講じられているかについてもチェックして、その妥当性を評価するべきでしょう。

 

(3)オペレーティングモデル

キーポイント

  • 販売拡大サイクルや事業開発サイクルはスムーズかつ効果的に進んでいるか?
  • JVパートナーはJVの経営及び運営に必要な役割をしっかりと提供しているか?

オペレーティングモデルについては、JV設立当初に合意した自社とJVパートナーの役割、そしてJV自体に求めている機能を分析していきます。一般的な企業活動をバリューチェーン(価値連鎖)の考えに基づき分解したものが図表3ですが、通常であればJVを設立する際に、自社・JVパートナー、そしてJVにそれぞれどの活動にコミットさせるかを決めているはずです。それぞれ別の機能にコミットする場合もあれば、一つの活動を共同で進めることもあります。例えば、製造は自社が中心になってサポートをするが、マーケティング・販売のサポートをJVパートナーが担う場合、JV設立後、数年経過した状況でも同じような役割をしっかりと果たしているかが重要です。よくあるケースとして、元々現地の販売ネットワークを期待してJVを設立したものの、実際にオペレーションを開始した後の売上が伸びていないことがあります。JVパートナーの販売ネットワークが十分に活用されているかどうか、トップダウンでの営業が行なわれているか、といった点を再確認した上で、JVパートナーのコミットメントを引き出す交渉、もしくは場合によっては新たな施策の検討が必要となります。

図表3 バリューチェーンの考え方に基づいた企業活動

(4)ガバナンス

キーポイント

  • JVの運営状況はKPIを用いて適切に説明することが可能か?
  • 自社及びJVパートナーはJVの重要な意思決定に関与できる体制になっているか?

JVを経営・運営する上で、有効なガバナンス体制の構築は最重要課題の一つと言えます。特にマイノリティ出資の場合、或いはオペレーションの中心をJVパートナーに任せてしまっている場合には、少数株主として効果的にJVの経営に関与し、適切に運営状況をモニタリングできるようになっていなければいけません。もし、そのような体制が構築されていなければ、知らない間にJVパートナーに都合の良いようにJVを利用される可能性もありますし、JVの業績悪化の兆候にタイムリーに気づかないことにもつながりかねないからです。

JVの株主として、まずは重要なKPIが適切に報告される体制となっているかについて確認します。もし必要な情報が届いていない場合には、JVパートナーとよく話し合って、報告プロセス及び報告内容について見直しをすることが必要となります。その際、JVに出向させている役職員は重要な位置づけを占めることになるため、日頃から当該役職員はJVパートナー及びJVパートナーから出向している役職員と密接にコミュニケーションをとり、建設的な議論をすることができる関係を構築しておくことが肝要です。

また、JVの重要な意思決定に関与できる体制構築という点では、マイノリティ出資の場合に一定の事由に関する拒否権を保持しておくことが不可欠です。本来であればJV設立当初に検討しておくべきポイントでありますが、不十分な状況であれば「なぜこのままではお互いにとって望ましくない結果につながりかねないか」といった説明をして、トップ同士で再交渉すべき重要な事項と言えるでしょう。ただし、相手にメリットが感じられなければ、非常に難しい交渉にならざるを得ないので、相手にもメリットを感じてもらえるような別の論点を見つけて、合わせて交渉をしていく、等の工夫が必要となります。

また、JVの意思決定のほとんどに株主の意向をストレートに関与させてしまうと、迅速な意思決定を妨げることにつながり、それはJVの事業機会を奪って競争力を低下させてしまうため、JVの株主が直接関与する事項の内容や金額にメリハリをつけることで、バランスをうまく取ることが求められます。

 

(5)企業文化・評価体系

キーポイント

  • JVに所属する役職員は、JVの株主の企業文化を理解しているか?
  • 出向社員は、JVにおける貢献度を出向元においても適切に評価される体系となっているか?

JVは、自社及びJVパートナーが融合して設立される法人なので、通常は2つの異なる企業文化が併存しています。企業文化というものは長年培われてきたものであるため、すぐに変えることは難しく、いかに相手の企業文化を深く理解しているか、という点が重要になります。これらはJV経営陣、JVへの出向者、そして自社及びJVパートナーに所属するJV担当の経営者や担当者に個別インタビューを実施することによって顕著に浮かび上がってくるところですが、当事者同士がインタビューをしても直接相手には言いにくいところもあるため、第三者によるインタビュー実施が有効です。

また、JVにはそれぞれの株主からの出向者が多く在籍していますが、JVにおける貢献及び成果が正当に出向元で評価される体系になっていなければ、モチベーションが上がらずにJV業績の低迷につながりかねません。したがって、仕事自体のやりがいに加えて、人事考課・人事評価制度についても確認をし、改善が必要であればJVパートナーと話し合って、それぞれ必要な見直しを進めます。見直しをすることによってJVのパフォーマンス向上につながり、その恩恵がJVの株主に還元される、という点をお互い理解することが重要です。

2. オプション分析・改善計画策定・実行フェーズ

現状分析を実施した後は、その分析結果を踏まえて、採りうる選択肢について検討します。出資比率の増加や減少に加え、JVのオペレーティングモデルやガバナンス体制の見直しなども組み合わせた選択肢が候補となります。

JVでは、常にJVパートナーと協力することが大事ですが、あらゆることを決める際に交渉が必要となってしまうことも事実です。したがって、どこまでの分析を自社で行うか、戦略オプションについても自社のオプションとJVのオプションを分けて考える必要がある点に留意が必要です。

これらの点について上手くバランスをとりながら、JVパートナーのコミットメントを引き出して、改善計画策定及び実行フェーズを協力して進めていくことができれば、不振に陥っているJVの立て直しも建設的かつ効果的に取り組むことが可能となるでしょう。

III. 最後に

既存のJVを立て直すことは、すでにJV設立時に枠組みを一度決めしまっていることもあり、一朝一夕にはできない難易度の高いプロジェクトの一つであることは間違いありません。しかしながら、本稿で示したような取り組みを客観的な視点を忘れずに進めることで、成功に導く可能性を高めることは可能だと思います。現場の感覚が非常に大切なことは言うまでもありませんが、現場だけに任せにしてしまうと全体感に欠けた戦略もしくは計画が出来上がってしまう可能性が高くなるため、JV経営陣に加えて、自社及びJVパートナーの経営陣や担当者もしっかりとコミットして、問題点を共有しながら取り組むことが重要なポイントと言えるでしょう。

執筆者

KPMG FAS
リストラクチャリング部門
ディレクター 舟橋 宏和

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