不祥事対応における再発防止策の策定 | KPMG | JP

不祥事対応における再発防止策の策定

不祥事対応における再発防止策の策定

社会のコンプライアンス意識や企業に対するコンプライアンスの要請の高まりを背景に、企業において不正や不祥事が発生した際に社内調査委員会や第三者委員会(以下「第三者委員会等」という)を組成し、事実解明の調査を行うことが一般的になってきています。

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事件が起きてしまった後は、同じようなことが二度と起こらないようにすることが何よりも重要となります。そのためには、十分に事実を把握して原因分析を行い、その上で再発防止策を講じることが必要となります。

不祥事を起こした企業が公表する第三者委員会等の調査報告書を見ると、事実関係や原因の究明、再発防止策の提言が行われているものの、原因究明が不十分なケースや、有効な再発防止策が検討されていないようなケース等が多いと言われています。こうした背景※1から、日本取引所自主規制法人は2016年2月24日に『上場会社における不祥事対応のプリンシプル』(以下「プリンシプル」という)を公表し、「プリンシプル1:不祥事の根本的な原因の解明」および「プリンシプル3:実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行」を挙げています。

本稿では、実際の事例に触れながら、有効な再発防止策の策定・遂行のポイントを整理していきます。

 

※1 2016年2月24日付「「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の策定について」

ポイント

  • 不祥事対応においては、同様の事象を再発させないようにするために事実の把握が重要である。
  • 再発防止策の策定においては、調査において把握した事実を分析し、根本的な原因を特定し、根本的な原因に基づいた予防策を検討する必要がある。
  • 再発防止策を導入し、第三者委員会等の提言を踏まえて、自社にあった施策について、優先順位をつけて取り組んでいく。
  • 再発防止策の導入後は、継続的にその有効性の検証を行い、改善を行っていく必要がある。

I. 事例に見る再発防止策の検討のポイント

まず、本項では公表されている第三者委員会等の報告書から、実際に不祥事案において行われている原因分析や再発防止策の策定の状況を分析し、ポイントを整理します。なお、本稿で触れる事例は有効な再発防止策の策定のためのポイントを説明する目的で、第三者委員会等の報告書から、読み手として理解できた事項、またはそれらの事項に仮定を加えて考察したものであり、事実認定の誤り等を指摘するものではありません。また、当然のことながら、調査に携わった方々が膨大な時間をかけて調査した結果や、調査報告書には現れない事項も踏まえた第三者委員会等の調査結果・提言を否定や批判するものではない点をご留意いただければと思います。

1. 不祥事対応における原因解明

序文で触れましたが、プリンシプルでは「不祥事の根本的な原因の解明」が、四つある基本原則の最初にきています。当該原則では、「表面的な現象や因果関係の列挙にとどまることなく、(中略)根本的な原因を解明するよう努める」ことが求められています。これは三つ目の基本原則「実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行」とも相互に関連しており、有効な再発防止策の大前提となる深度のある原因分析が重要であることは容易に理解ができます。

しかしながら、開示された第三者委員会等の報告書を見ると、その開示文書の分量や報告書自体の添付の有無等、開示された情報の範囲にばらつきがあるものの、原因分析が抽象的過ぎ、「根本的な原因」が特定されていないと思われるものも中にはあります。例えば、子会社において、担当者自身が行った取引による損失を隠ぺいするため、架空在庫を計上し、さらにそれを隠ぺいするために循環取引や他の在庫への簿価の振替処理等を行った不正会計の事例では、「担当者等の隠ぺい工作」「在庫管理手法の厳密さの欠如」「人事ローテーションの未実施」「監督部署のモニタリング不足」等が発見を遅らせた原因と分析されています。しかしさらに踏み込んで、隠ぺい工作を行うことを許した状況や、取引の損失を隠ぺいせざるを得なかった状況といった点についてはあまり触れられていません。

また、新たなシステム導入時に例外的にシステム外で管理する対象となった棚卸在庫の実地棚卸を実施していなかったことから棚卸在庫の過大計上が発生したという別の企業の事例でも、なぜ実地棚卸がルールに反して実施されていなかったのか、実施されていなかったことがなぜわからなかったのか、といった点の検討がないばかりか、明示的な原因分析としての記載がない中、突然「実地棚卸の徹底」「社内規程の周知及び再教育による徹底」「コンプライアンス教育の充実」「組織管理体制の強化」といった施策が提言されているだけで、唐突感があります。

冒頭にも記載しましたが、原因分析は有効な再発防止策の前提となるものであり、「なぜ事象が発生したのか?」「なぜ、当該事象の誘因が起こったのか?」「なぜ、それらを防止できなかったのか?」「なぜ、発見できなかったのか?」と根本の原因と思しきものに行きつくまで「なぜ」を繰り返して分析を深化させていくことが有用です。

この点、第三者委員会報告書格付け委員会※2で「優れた調査報告書」に選定された交通基盤の基本設計等を担う企業の外国公務員への贈賄事案では、発生の原因として、海外案件の受注拡大の実現に対するプレッシャー、外国公務員からのリベート要求に対する被害者意識や、国税調査後の使途秘匿金としての処理の妥当化等を挙げ、「動機」「機会」「正当化」という不正のトライアングルと言われるフレームワーク等を使用し、さまざまな観点から分析をしており、その原因分析の深度やアプローチにおいて非常に参考になります。


※2 「第三者委員会等の調査報告書を「格付け」して公表することにより、調査に規律をもたらし、第三者委員会及びその報告書に対する社会的信用を高めることを目的」とする組織

2. 原因に基づく対応策の策定

再発防止策の提言に、「内部通報制度の周知・徹底」「内部監査の強化」「意識醸成のためのコンプライアンス研修の実施」といった記載が多く見られます。これらの再発防止策は第三者委員会等の調査報告書で半ば決まり文句のようになっている印象さえ受けます。内部通報が活用されなかったことや、内部監査で発見されなかったこと等が遠因となった部分は当然あると思われますが、これらが確認された事実から導き出された防止策なのかというと疑問が残ります。調査において事実を解明し、確認した事実から原因を特定し、原因を踏まえて検討した再発防止策でなくては、真に有効な策とはなり得ません。この点、プリンシプルでは「再発防止策は、根本的な原因に即した実効性の高い方策」とすることを原則の三番目に謳っています。原因に沿った対応を行うことの重要性を以下の事例で説明したいと思います。

ある流通企業(以下「買収企業」という)は、特定地域の輸送ネットワークを重要な経営戦略として掲げ、当該地域において顧客基盤を持つ同業者(以下「ターゲット」という)を買収しますが、買収後、ターゲットの役員等によって横領等の不正が行われていることが判明します。結果として不正に関与した役員を解任しますが、この前後にターゲットの従業員が一斉に辞職する事態となり、さらに、ターゲットのもともとの顧客も去っていきます。ターゲットは当該顧客との協業によって高効率な業務運営を行っており、これが買収時の多額ののれん計上の根拠となっていました。当該顧客の喪失は、事業上の強みを失い、のれんの減損処理の圧力を強めるものでした。減損処理を回避するために買収企業は、グループ企業からの人材の派遣やオフィスの移転、倉庫の転貸等によりターゲット企業の事業の建て直しを図ります。本事例の不正は、減損回避の取組みに伴い買収企業で発生したものでした。具体的には、これらの取組みの中で発生した派遣された社員の費用等をある時期まではターゲットの負担としていたものの、グループ全体の取組みであるとの理由から、買収企業の負担にするように会計処理を変更したことによる費用の付け替えでした。調査報告書では、経営陣の適正な財務諸表の作成および表示に関する認識が希薄であったことを原因と分析し、再発防止策として適正な財務諸表の作成の重要性を再認識するための意識改革、財務状態や経営成績を適正に表示するために必要な知識を有するCFOの新たな任命を提言しています。かかる調査報告書では、財務状況をよく見せるために経営陣が意図的に会計処理の変更を行ったかを検討し、結果としてそのような事実はなかったと認定しています。この点、部外者として異論を挟む余地はありませんが、仮に経営陣に財務諸表をよく見せようとする意図があったと仮定するとどうでしょうか。当然、意識改革やCFOの任命だけでは足らず、社外取締役や社外監査役といった社外からの監視も必要となるはずです。また、再発防止策のみならず、役員たちの責任についても異なる結果になったことは想像に難くありません。

また、売掛金および棚卸資産の過大計上の事案では、不正を起こした課長が、自らの事務処理能力の低さという直接的な原因に加えて、当時の上司からパワハラに近い精神的な圧力を受けていたことが遠因となっていたものがあります。このケースでも、パワハラを原因とするか否かで、当然、再発防止策は変わってくるはずです。このように発生した事象の直接的な原因のみならず、その背景にある根本的な原因を究明することが真に有効な再発防止策の策定の第一歩となるのです。

3. リスク管理の所管部門の明確化

経営陣の暴走(統制の無視等)による不祥事の場合等、組織変更等を再発防止策として提言しているケースもよく見られます。

例えば、業務上の必要性があると考えた経営陣が旗を振ってインサイダー情報を得意先や取引先に周知していた事例では、インサイダー取引にかかるコンプライアンス意識の醸成が徹底されていなかったため、社長直轄のコンプライアンス担当部門を設置することを再発防止策のひとつとして提言しています。確かに経営陣がコンプライアンスを軽視し、企業の(見せかけの)利益のために統制をオーバーライドするケース等、社外取締役や社外監査役といった独立役員を設置することが有用となりますが、通常の業務において相互牽制を効かせることを目的とする場合、単にコンプライアンス室や内部統制室といった部門を新設すれば解決するというようなものでもありません。多くの場合、本来行われるべき役割が、適切に部門や個人の役割として定義されておらず、なんとなく誰かがこなしているという状況が、不祥事等が発生するのを防止できなかった原因となっているのではないかと思います。そのため、たとえ、部門を新設したとしても、役割が適切に定義され、業務分掌や職務分掌の反映、必要な権限の付与等がなければ、機能するのは難しいと思われます。

II. 再発防止策の導入・遂行のポイント

前項では、根本原因の分析、原因に基づく対応策の検討が重要であることを説明しました。繰り返しになりますが、原因の究明を行うことが再発防止策を策定するうえで、最も大切な事項となります。ただし、原因に基づいた立派な対応策を策定しても、実際にそれらが導入・遂行されないとまったく意味がありません。不祥事に限った話ではありませんが、実際に再発防止策を策定したにもかかわらず、同じようなミスや事故が繰り返し発生してしまうケースを目にすることがあります。ここでは、原因に基づいた再発防止策の策定後に、それらを導入する際のポイントを整理します。

1. 再発防止策の提言を踏まえた自社に合った取組みの検討

まず、第三者委員会の場合、再発防止策の提言は、外部の弁護士や専門家等が調査手続において理解した調査対象企業の現状を踏まえて策定しているものであり、再発防止策の前提となる企業内部の状況の詳細な把握には限界があることを理解する必要があります。つまり、第三者委員会から調査報告書の提示を受け、再発防止策の提言を受けた企業は、提言された再発防止策を社内に導入するため、社内の状況を踏まえた現実的な方法を検討する必要があるということです。検討にあたっては、自社の既存の管理体制や取組みを活用することが効率的です。

例えば、「モニタリング機能の強化」といった再発防止策を提言された場合、自社でどのようなモニタリング活動が行われていて、どの活動を強化すべきなのかを検討し、具体化していくこととなります。モニタリング活動の代表は内部監査であったり内部通報であったりしますが、その他にもコンプライアンス部門のモニタリングや日常の承認行為におけるチェック、定期的な部門内の自己点検、定型的な経営や管理部門への報告等があげられます。これらの既存の取組みの中で、再発防止策の趣旨等を踏まえて、適切なモニタリングを検討することが効率的で、かつ実効性の高い対応策につながります。もちろん、第三者委員会の提言は、より具体的に記載されている方が多いと思いますが、その場合でも、それらが提言された背景や目的を咀嚼し、実務的な観点で、より自社に合った実効的なやり方がないかを検討することが重要です。

2. 優先順位付けと現実的な導入スケジュールの策定

上記1で検討した、具体化された再発防止策を着実に導入するために、複数ある再発防止策の優先順位付けを行い、そのうえで導入のために必要となるタスクを細分化・スケジュール化を行うことが二点目のポイントとなります。第三者委員会等の報告書ではあまり見ることはありませんが、この実施時期について線表化して示しているような事例もあります。優先順位付け・スケジュール化にあたっては、重要・即効性の高い施策の優先度を高くし、それ以外の施策については後順位とすることが一般的ですが、そのほかにもシステム開発等が必要なものや、人の手当てが必要なもの等は中長期的に取り組まざるを得なくなります。また、その他のプロジェクトで類似した対応策を導入しているものであれば、当該プロジェクトの中で対応を図っていくという選択肢も考え得ます。

そして、こうして整理したスケジュールに沿って再発防止策の導入を行っていくこととなるのですが、経営陣を含めて多くのステークホルダーの注目が集まり、集中して進められる報告書の開示までの調査等の過程と違い、ステークホルダーの興味が薄れていき、また現実的な困難に直面する等で、途端に再発防止策の導入を推進する力を失ってしまうような事態が発生することもあります。このような事態に陥らないよう、経営陣は、スケジュール化した再発防止策の導入計画の進捗状況を定期的に報告させ、必要に応じて優先的に対応することやリソースの追加等の指示を行い、確実に再発防止策の導入が進められるようにしなくてはなりません。

3. 現場における理解とコンプライアンス意識の醸成

どんなに有効な再発防止策を策定したとしても、実際に当該防止策を担う担当者の理解や意識次第で、「絵に描いた餅」となりかねません。そのため、再発防止策の導入時に、直接関係する担当者に関与してもらい、当該施策の背景や意義を十分に理解してもらう必要があります。例えば、業務処理において、これまでのチェックに加えて、もう一段高い承認レベルでのチェックを導入するような再発防止策の場合、新たに承認者となる管理職には、どのような観点でチェックを行うのか、どういったケースだとリスクが高いのか、といったポイントを理解してもらう必要があります。また、承認者の異動等を勘案すれば、チェックシートのようなツールを策定することも考えられます。

ただし、単なる形式的なチェック項目のひとつに埋没しないよう、継続的な研修等の取組みの中で、当該チェックがどのような背景で導入されたのか等についての意識付けを行っていくことも重要となります。このような意識の醸成は一回きりの研修で成し得るものではなく、継続的に取り組んでいく必要があります。そうした取組がないと、せっかく導入した再発防止策も、形骸化してしまいかねません。

4. 継続的なモニタリングの実施

適切に統制を効かせるためには、定期的にその有効性を確認し、必要に応じて改善を図っていくことがリスク管理の基本姿勢となります。特に不祥事対応で、再発事案や類似事案が発生した場合、企業が受けるダメージは最初の事案よりも大きくなりがちです。そのため、再発防止策が有効に機能しているかどうか、継続的なモニタリングを行うことが大切となります。

また、業務報告や経営報告の中に、リスクを把握するための指標(Key Risk Indicator、以下「KRI」という)を設定し、危険な兆候が見られないかといった目でのモニタリングも必要です。KRIはどういったリスクをモニタリングするかによって、当然異なりますが、たとえば、在庫管理にかかるリスクであれば、滞留在庫の残高、低価法評価損、原因別の在庫廃却金額、件数等が考えられますし、債権管理にかかるリスクであれば、滞留債権の残高、入金遅延先の債権残高、債券格付けの低い先の債権残高等が考えられます。こうしたKRIのモニタリングによって早期に異常を発見し、不具合等が発生していないか常にチェックすることも重要となります。

III. おわりに

リスク管理は、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)で改善を図っていく継続的な取組と言えます。不祥事対応においては、事実究明のための調査から始まり、根本的な原因分析、原因に根差した再発防止策の策定が最初のPlanのステップとなります。しかし、それだけでは終わらず、再発防止策を着実に遂行し、現場に浸透させるために導入をしていく二番目のDoのステップ、次に常に問題が起こっていないか、再発防止策が有効に機能しているのかをモニターするCheckのステップ、そしてモニターの結果発見された不備等を改善するActionのステップへと延々とつながっていくことになります。総じて日本企業は規程等を策定することに長けていますが、それらを隅々まで浸透させ、継続的にモニタリングすることには不得手な印象を受けます。特に不祥事の場合は、高い代償を支払って、再発防止策を策定しているわけですから、いつまでも風化しないよう、状況を見守り続けることが重要ではないかと思います。本稿では、不祥事の事例を交えながら、有効な再発防止の策定・導入のポイントを解説しましたが、通常のリスクマネジメントにおいても共通する事項は多く、リスク管理等を担当されている方々の一助になれば幸甚です。

執筆者

株式会社KPMG FAS
フォレンジックサービス部門
シニアマネジャー
萩原 卓見

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