保険規制の進化2016 - 第2章:コンダクトリスク | KPMG | JP

保険規制の進化2016 - 第2章:コンダクトリスク - 商品、顧客、価値のバランスを確保するための規制の強化

保険規制の進化2016 - 第2章:コンダクトリスク

2016年版「保険規制の進化」の第2章では、コンダクトリスクが保険会社に与える影響について考察します。ソルベンシーや健全性に関するさまざまな基準が導入された今、規制当局は、顧客に不利益をもたらす根本原因への対応に焦点を移し、コンダクトと呼ばれる行為規制や顧客保護規制に力を入れるようになっています。

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金融危機の直後、世界各地の規制当局は保険会社のリスク管理能力向上に重点を置き、より厳しいソルベンシー基準の適用や、リスク管理機能による監視の強化を求めました。しかし、顧客は相変わらず保険会社の対応に不信感を抱いており、顧客に不利益が生じる事例も後を絶ちません。さらに、デジタル上のやり取りの増加に伴い、保険会社と顧客のかかわり方にも進化が見られます。例えば、デジタルソリューションを活用して新たな顧客のニーズに対応することで新たなマーケットが開拓され、その中で保険事業が成長しています。

未成熟な業務行為の原因および規制当局の対応

未成熟な業務行為の原因はさまざまですが、その多くは組織の文化や手続に深く根差しており、販売やコミュニケーションにおける情報の非対称性、顧客理解の不足、商品設計の不備による場合がほとんどです。保険監督者国際機構(IAIS)を始めとする規制当局は、多くの領域で対策に取り組んでいます。

ソルベンシーや健全性に関するさまざまな基準が導入された今、規制当局は、顧客に不利益をもたらす根本原因への対応に焦点を移し、行為規制や顧客保護規制に力を入れるようになりました。

グローバルレベルでは、IAISが最初に策定した26項目の保険基本原則(ICPs)のうち、業務行為要件を対象としているのは1項目のみ(ICP19)であり、他の項目はすべて健全性要件を対象としています。

しかしIAISは最近、ICPを補完するためコンダクトリスクに関する2つのイシューペーパーを公表しました。1つはすべての保険会社に適用され※1、もう1つは特に包括的保険に関連するコンダクトリスク問題を対象としています※2


「IAISは、国際基準の調和を推進するため、英国、オーストラリア、南アフリカなどの国々から得た、未成熟な業務行為に関する現地の知見や事例を活用しています。」

 

※1 業務行為リスクとその管理に関するIAISのイシューペーパー、2015年11月
※2 包括的保険の業務行為リスクに関するIAISのイシューペーパー、2015年8月

規制当局が対応を目指す、顧客の不利益の主因とは?

  • 販売やコミュニケーションにおける情報の非対称性
  • 商品設計の不備
  • 未成熟な文化

 

コンダクトリスクの潜在的要因
IAISはコンダクトリスクの要因を以下のようにまとめています。

  • 内在的要因
    保険商品の無形性や、顧客の金融に関する知識の低さ(金融商品を選択する際の顧客の行動様式を含む)などの側面
  • ガバナンスや手続に関する要因
    コンダクトリスクに対する組織全体のアプローチ(取締役会によるオーナーシップ、利益相反とインセンティブ、商品設計や商品ガバナンスに対する企業のアプローチなど)
  • 経済的・環境的要因
    テクノロジーや市場全体の慣行、および新規参入企業や革新的企業との競争

未成熟な業務行為の原因:情報の非対称性

情報の非対称性は保険商品の販売時に顕在化します。これは一般に、商品の提供者側が商品の詳細を深く理解している一方、消費者側は相対的に十分な情報を持ちえないことによるものです。顧客は通常、販売担当者に一定の信頼を置き、彼らが顧客の最大利益に基づいて個別的なアドバイスを提供し、商品やサービスについて適切かつ明確な情報を開示してくれるものと期待しています。これは、例えばアドバイスの提供者に信頼が置かれるアフリカのマイクロインシュアランス販売など、特定のチャネルや商品において特に顕著に見られる傾向です。

規制当局者は、世界的に、販売プロセスや顧客コミュニケーションの不明確さを批判し、これは顧客が期待したようなパフォーマンスが得られない商品を購入させ、不利益をもたらす要因になっていると指摘しています。先進経済圏の市場参加者は顧客の理解を確実なものとするため情報開示を過剰に行い、新興経済圏の市場参加者は書面でのコミュニケーションをほとんど行わないという興味深い傾向が現れています。また、金融イノベーションの活用に伴い、これまで予想していなかった個々の顧客への働きかけ(例えばソーシャルメディアを利用した商品宣伝)が可能になった一方、新たなリスクも台頭しています。

英国では、退職年金市場の構造改革により、提供される商品の市場シフトが起きています(ドローダウン商品への需要増等)。

企業は、潜在リスクと投資プロファイルを説明する、手数料体系の根拠を示す、混乱を招かずに顧客が意思決定できるよう適切なバランスで情報を提供する、といった課題に直面しています。

保険販売業務指令(以下「各地の動向」参照)に起因する将来的な規制変更により、商品設計や継続したガバナンスがさらに重視されることが予想されます。これも、世界の規制当局が商品販売業者や商品開発業者の役割の明確化を求める傾向にあることを示す一例です。

未成熟な業務行為の原因:商品設計および商品ガバナンスの不備

金融危機から得た主な成果の1つは、多くの規制当局が規制構造や規制ツール、それに監督機関が企業に対して実行できる具体的な措置(情報収集、検査、行政措置など)を大幅に見直したことでした。複数の国/地域で商品設計とガバナンスが企業の重要な弱点であると指摘され、いくつかの国/地域では、行為規制監督機関の介入権限や特定の商品を禁止する権限までもが強化されました。

コンダクトリスク管理を十分にビジネスに組み込むには、企業自身が潜在的な規制強化の先を見据える以外に方法はありません。良い業務行為とは、単に顧客満足度を確保することではなく、顧客利益をもたらすことです。これはプロセスや手続にとどまるものではありません。良い業務行為は、顧客利益と企業利益のバランスを取りながら、顧客と株主の双方に価値をもたらすものでなければなりません。例えば、取締役会は特定の商品普及戦略から生じ得る潜在的なコンダクトリスクを具体的に検討することにより、その商品を発売すべきか否かをより的確に判断したり、保険契約者にリスクや除外事項に関する十分な透明性を提供したり、商品の不適正販売を懸念する規制当局から、将来的にコスト負担が重くなる可能性のある改善措置を要求されるリスクを低減したりすることができます。

一部の市場では、商品や販売チャネルのイノベーションが業務行為に関する新たな課題を生んでいます。新興経済圏においては、マイクロインシュアランスやロボット・アドバイスなどの発展に伴い、チャネル・イノベーションが新規顧客に保険を提供する主要な手段となっている地域で課題が生じています。そうした地域では、規制当局がコンダクトリスクに対するアプローチを進化させる必要があるでしょう。既にこうしたアプローチの例はあり、例えば、タンザニアはマイクロインシュアランス契約の販売を取り締まる、マイクロインシュアランス法を策定しました※3

※3 保険法、2013年マイクロインシュアランス規制、タンザニア。包括的保険の業務行為リスクに関するIAISのイシューペーパー、2015年8月

各地の動向 - 保険販売業務指令:EUの動向

保険販売業務指令(IDD)は、仲介者(保険会社であるかどうかは問わない)に公平な競争の場を提供するために、保険仲介業務指令(IMD)に代わるものとして策定されました。この指令は、価格比較サイトを含め、消費者への直販を行うすべての保険仲介者に適用されます。この改革の目的は、伝統的な開発業者/販売業者モデルで顕在化したコンダクトリスクに対応すること、および両者に商品設計とガバナンスにおいて明確な役割を持たせることにあります。IDDの主な側面は以下のとおりです。

  • 登録
    企業は自国の管轄当局に登録を行うとともに、サービス提供を予定する他の国/地域をすべて申告する必要があります。EIOPAは、各社がサービス提供を予定する国/地域の電子リストを保管します。
  • 専門家の育成と研修
    専門家は年間最低15時間の研修を完了しなければなりません。商品の性質、販売業者の種類、および個人の役割に応じ、比例性原則が適用されます。
  • 利益相反と開示
    企業は保険会社と仲介者の関係および設定された報酬の種類を示すことが求められます。報酬および手数料の実際の水準を開示する必要はありません。顧客が手数料を直接支払う場合は、これを開示する必要があります。
  • 商品ガバナンス
    商品をターゲット市場のニーズに確実に適合させるため、保険商品を開発する保険会社と仲介者は、各保険商品の承認に関するプロセスを維持、運用、およびレビューする必要があります。これには、商品がターゲット市場で販売されていることを合理的に評価する継続的な要件も含まれます。
  • アドバイス
    企業は、商品が顧客ニーズに適合している理由を説明した個人別の推奨要件を提供する必要があります。

この欧州指令は、2018年までに国内法化が求められています。当該指令は「最低限の調和」とされているため、各国は全般的な消費者保護の強化に必要であると判断する場合、より厳格な基準を適用することが認められています。

未成熟な業務行為の原因:文化

業務行為を考える上では、企業全体の文化についても検討する必要があります。KPMGの刊行物「Financial services cultural assessment and transformation」に記載されているように、企業は往々にして「文化」と「行為」という言葉を区別なく用います。文化はしばしば「当該地域で物事が行われる様式」と表現されます。文化とはさまざまな要素が複雑に絡み合い、社員、業績、個々の信条、リーダーシップをすべて包含する概念です。未成熟な文化しかない環境で良い事業行為を実践することはできません。

消費者保護はグローバルな課題であると同時に、依然として各地における問題としても扱われ、そのアプローチも国/地域によって大きく異なります。そのため保険会社はさまざまな方法でコンダクトリスクに対応しており、唯一の正解は存在しません。コンダクトリスクの評価をリスクフレームワークに完全に組み込んでいる企業もあれば、コンダクトリスクをオペレーショナルリスクの一部とみなしている企業もあります。各国監督機関からの注目が高まる中、何の手も打たないという選択肢がないことは明白です。

 

「コンダクトリスク管理を十分にビジネスに組み込むには、企業自身が潜在的な規制強化の先を見据える以外に方法はありません。」

各地の動向 - マイクロインシュアランス:タンザニアの動向

マイクロインシュアランスは、アフリカを中心とする新興市場で急速に成長しています。こうした地域では、これまで保険に加入していなかった顧客を獲得しようと、保険会社がテクノロジーと商品の両方のイノベーションを活用しています。マイクロインシュアランスを提供する保険会社は、このユニークなビジネスモデルに起因するさまざまな業務行為に関する課題に直面しています。ユニークなコンダクトリスクの例を以下に挙げます。

  • スマートフォンで提供される認証について、不正/悪用の可能性がある
  • 販売時の情報開示不足により、顧客が十分な理解を得られない可能性がある
  • 販売員が感情や人間関係を利用して不適正販売を行う可能性があるため、顧客が商品を購入するまでにしばしば多くのやり取りが必要となる

タンザニア※4では、上記のような問題が生じる可能性を低減するための基本法が策定されました。この法は、以下を含むマイクロインシュアランス法のフレームワークを定めています。

  • マイクロインシュアランス代理店の登録
  • マイクロインシュアランスの契約および商品に関する要件
  • 研修要件および手数料体系
  • 苦情処理に関する要件

※4 保険法、2013年マイクロインシュアランス規制、タンザニア。包括的保険の業務行為リスクに関するIAISのイシューペーパー、2015年8月

各地の動向 - 退職年金:米国の動向

消費者保護に関しては、米国における退職後所得保障、および主に年金商品を通じた保証退職年金の重要な提供者としての生命保険会社の役割が、大きな注目を集めています。米国労働省(DOL)は、1974年従業員退職所得保障法(ERISA)の受託者保護で網羅されている退職投資アドバイスの種類を拡大する規則案を公表しました。最終的な規則では、退職後一生涯所得を提供するよう設計された商品の、アクセスと利用について改定がなされています。

DOLは、アドバイザーに顧客の最大利益のために行動することを求める、法的強制力のある基準の策定を目指しています。これは「受託者」の意味を再定義し、プランやその参加者または受益者に退職投資アドバイスを提供して報酬を得る者を含むとするもので、以下を行うアドバイザーに影響します。

  • 投資アドバイスを定期的にではなく、一度限りの契約として提供する。
  • 401kプランまたは個人退職口座(IRA)からロールオーバーもしくは分配される、証券またはその他の資産の投資に関する分配を受け取ることを推奨する。
  • 変額年金をIRAに販売する。この場合は最善の利益契約の免除規定(BICE)に従うことが要求される。

 

保険業界から提起された問題
保険業界は、以下に対する免除規定の改定による影響を含め、依然としていくつかの問題を懸念しています。

  1. 記録管理および開示に関する報告コスト
  2. 独占商品の販売
  3. 合理的な報酬
  4. 投資教育
  5. 変額年金の販売
  6. インデックス連動型年金の販売
  7. 手数料の定義および手数料体系

 

ブローカー、ディーラーおよびアドバイザーに関する問題
多くの金融サービス企業は、この規制が、以下に起因する重要な影響を、既存のIT、コンプライアンス、オペレーション機能に及ぼすと予想しています。

  1. システムや会計のアーキテクチャの分断
  2. 代理店取引におけるコンプライアンス関連コストおよび責任の増大
  3. 開示要件
  4. 特定の顧客サービス・モデルおよびマーケティング・モデルの刷新
  5. 報酬体系の変更
  6. 遵守期間

規制の先へ:規制要件の先を行くアプローチの策定

コンダクトリスクの要因は、企業のビジネスモデルの中に複数存在します。企業はコンダクトリスク・フレームワークの策定および組込みにおいて、未成熟な業務行為をもたらす各要因(図1参照)に対応しなければなりません。

図1:コンダクトリスクの要因

出典:KPMGインターナショナル、2016年

商品設計/戦略/開発
組織/部門レベルの戦略におけるドライバーは何か?

収益目標と、ビジネスモデルの長期的な持続可能性、顧客ニーズとのバランスはどうか?

組織の価値観は何か、またそうした価値観を方針やプロセスを通じてどのように推進し、顧客中心の文化を生み出しているか?

商品設計は顧客ニーズの実現に重点を置いているか?

 

コミュニケーションとマーケティング
明確かつ公正で誤解を与えない顧客コミュニケーションを行うために、どのようなプロセスを設けているか?それらは効果的か?

企業のブランドおよび価値観は、誠実でオープンな顧客コミュニケーションを推進しているか?

 

販売の質と助言
スタッフは、「規制を遵守した」販売方法について研修を受けているか?
販売インセンティブはどのような仕組みか?それは販売文化にどう影響しているか?

ビジネスモデルにおける相互補助の度合いはどのくらいか?

インセンティブ構造と組織の価値観はどの程度整合しているか?

顧客に利益をもたらすための、一貫した明確なコントロールを設けているか?

 

販売の質の保証
販売の質と顧客の利益を保証するために、どのようなプロセスを設けているか?

それらはどの程度効果的か?それらはコンダクトリスクの物差しとなるか?

第一線による監督体制は適切かつ効果的か?

 

継続的な商品ガバナンス
発生しているリスクおよび発現したリスクをどのように計量化、モニタリング、特定しているか?

商品設計や販売プロセスにおける顧客リスクをどのように軽減しているか?

商品強化のドライバーは何か?

 

アフターサービス
販売後にどのようにして顧客の利益を確保しているか?

顧客のニーズと期待を、未払保険料管理、保険金請求およびアフターサービスに関する方針とプロセスの中心に据えているか?

コンダクトリスク・フレームワークを策定するための重要な検討事項

環境的側面
規制の影響や競争など、戦略に影響を及ぼす基本的な外部環境

 

戦略の立案
顧客ニーズと商業的ターゲットは、戦略策定と商品開発にどのような影響を及ぼすか?

 

戦略の実施
戦略を実現し、支援するための方針、プロセス、コントロールの適切性

 

市場ポジショニング
戦略または商品の価格設定および宣伝のためのアプローチ

 

戦略の実施を支援するためのインフラ
戦略を支援するためのリソースとシステム

 

リスク文化
意思決定における正しい態度および行動規範の確立

各地の動向 - 保険の追加:英国の動向

英国の規制当局とオーストラリア証券投資委員会(ASIC)の双方は、住宅保険に係るレビューを通して、既存の保険補償範囲に高額な保険料で追加保険オプションを付けることに対する関心を強めています。英金融行為監督機構(FCA)は、こうした手法を不適切に利用したいくつかの保険会社に重い罰金を科しました。

FCAはレビューを実施し、保険の追加は顧客の意思決定に不利な影響を及ぼすと結論付けました。FCAは、保険提供者側には選択や競争などの面で販売時の優位性があるため、その特性を悪用することを懸念しました。

このレビューでは5つの商品(担保資産保証(GAP)保険、ホーム・エマージェンシー保険、旅行保険、ガジェット保険、および個人傷害保険)に焦点を当て、顧客が支払金額に対して十分な価値を得ていない場合が多いと結論付けています。

こうした問題に対応するため、FCAは以下の4点からなるアプローチを提案しました。

  • GAP保険販売におけるオプトイン期間の延長を義務付けるとともに、保険会社に対し、他社との比較を支援する追加情報の提供を求める。
  • オプトアウト販売の禁止を導入する。
  • 保険会社に対し、損害保険に係る追加商品に関して顧客に提供する情報の改善を求める。
  • 損害保険に係る追加商品の適正価格を測定する正式な指標を導入するかどうかを検討するため、試験的な取組みを実施する。これは、クレーム率、クレーム頻度、クレーム受入率、平均保険金支払額などのファクターに基づくものとなる。将来的には、こうしたファクターは規制当局に報告する要件に含まれる可能性がある。

「保険規制の進化2016」について

「保険規制の進化」はKPMGインターナショナルが発行する年次レポートであり、保険業界が直面する規制関連の主要なトピックを取り上げています。第6版となる今年のレポートは各章を順次発行する方式とし、今回、第2章をリリースしました。

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