英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)の施行と、各社が求められる自律的な対応 | KPMG | JP

英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)の施行と、各社が求められる自律的な対応

英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)の施行と、各社が求められる自律的な対応

2015年3月、英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)が正式に法律として発効されました。同法では現代における奴隷的待遇に対する厳格な取締りを規定する中で、特に英国で事業をおこなう大企業に対し、自社のサプライチェーンにおいても、これの待遇が生じていないかについて確認・開示を行うことを求める「サプライチェーンにおける透明性(TISC:Transparency in Supply Chain)条項」が含まれていることが大きな特徴とされています。

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同法の発行から1年が過ぎ、企業に対して、情報開示への対応のために設けられた猶予期間が経過しました。2016年3月末に決算を迎えるいくつかの企業は、既に当該年度におけるTISC条項に係る確認状況を自社ウェブサイト上に宣言書として公表し始めている状況です。同法ではTISC条項に係る宣言書の開示に明確な期日を定めていないものの、事業年度終了後6ヵ月以内の公表がガイダンス文書により推奨されています。

TISC条項の開示で求められているのは、自主的なコミットメント

現代奴隷法のTISC条項を特徴づけているのは、「企業毎の自主的な対応」と、それに対する「市民社会による監視」という構図です。宣誓書において、企業が開示を奨励されている項目は、以下のように公表されていますが、それぞれ項目の開示内容について、監督官庁となる英国Home Office(内務省)ではそれぞれに関する違反行為の詳細は規定していません。

  • 組織体制、ビジネス活動内容及びサプライチェーン
  • 奴隷(Slavery)と人身売買(Human Trafficking)の防止に関する方針
  • ビジネス活動及びサプライチェーン内での、SlaveryとHuman Trafficking防止体制に関する評価プロセス
  • ビジネス活動及びサプライチェーン内で、Slavery・Human Traffickingのリスクが存在する領域における、リスク評価と管理方法
  • ビジネス活動及びサプライチェーン内で、Slavery・Human Traffickingが存在しないことを担保するKPI
  • 企業のスタッフ、必要な場合はサプライヤーのスタッフに対するトレーニングとその提供体制の構築

また、非対応による罰則も、法定侮辱(Contempt of a Court)の観点から無制限の罰金を課すことは可能であるとはしているものの、実質的には「市民社会からの(企業開示への)圧力に期待し、求められる対応を行わない企業はレピュテーション上の損失を被る」ことによって、対応を促進しようとする狙いがあるようです。

つまり、開示を求められる取組みの深さが「市民社会からの期待水準によって決まる」という点において、TISC条項は、明確な罰則規定が定められている現代奴隷法のその他の条項とは、明確な違いがあることに留意する必要があります。自社において報告の範囲を自主的に設定し、必要と考えられる対応を定義・実践し、それを広く開示することで、市民社会からのチェックを受けるという構図は、このTISC条項が、まさに企業の社会的責任の枠組みを想定したものであると言え、単純な「法令遵守・コンプライアンス」的な対応をおこなおうとした場合、企業価値を大きく棄損するリスクがあると考えられます。

EUやOECDを通じて拡大する、国際ルールとしての「TISC条項」

この英国現代奴隷法は、2011年に国連で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」に基づき、英国政府が策定した2013年度版国別行動計画の中で取り組むことを明言していたものの1つです。この国別行動計画は、同原則に基づき、各国政府が定期的にその取組みの進捗状況と推進計画を開示することを目的とするものですが、英国政府が今年になって発表した2016年度版国別行動計画は、今後のTISC条項にかかる潮流を占う上で、重要な点がいくつか含まれています。

 

2016年度版「英国UNGP行動計画」からの抜粋

2015年6月の「The G7 Leaders’ Declaration」において、以下の内容を含めることとした。

  • “We strongly support the UN Guiding Principles on Business and Human Rights and welcome the efforts to set up substantive National Action Plans”
  • “To enhance supply chain transparency and accountability, we encourage enterprises active or headquartered in our countries to implement due diligence procedures regarding their supply chains”

英国政府によるコミットメントとして、以下を今後推進する。

  • Continue to support the implementation of the UNGPs in other countries, including through the development of National Action Plans. This will create certainty, a level-playing field and a positive environment for UK business. We will lobby foreign states, including through ministerial contact and our embassies and high commissions, to support widespread international implementation of the UNGPs and other relevant international instruments including the ILO’s Fundamental Principles and Rights at Work and the eight core Conventions which embody them, and the OECD Guidelines for Multinational Enterprises.
  • Ensure the provisions of an EU Directive on non-financial disclosure are transposed in the UK to enable greater consistency and comparability of public information on the human rights policies and performance of listed companies in Europe

ここで注目すべきは、英国政府が、2015年G7サミットの首脳宣言において「自国企業による、サプライチェーンの人権デューデリジェンスの実施を、各国政府は促進する」という、かなり踏み込んだ内容を盛り込んだことを、成果として挙げている点です。また、同行動計画では、今後の英国政府の取組みへのコミットメントとして、政府間対話等を通じて、これらの取組み促進についての積極的働きかけ(ロビー活動)を実施していくとしています。将来的に、これら「サプライチェーンと現代奴隷」に係るイシューが、EUやOECDを通じた国際ルールとして広がりをみせていくことを見越し、先行者として政策対話のイニシアティブを握り、自国企業にとって有利な枠組みを形成しようとする意図も伺えるところです。

「企業による自主的なコミットメントと市民社会による監視」の国際ルール化と、日本企業に求められる準備

英国現代奴隷法は、当初そのドラフト段階において、サプライチェーンの取組みは、「各社の自主的な取組みに期待する」とされていたものが、英国の市民団体であるCORE Coalitionらによる強烈な働きかけの結果、最終版において米国カリフォルニア州「サプライチェーン透明法」を参考としたTISC条項を盛り込む形となりました。
「企業による自主的なコミットメントと市民社会による監視」という枠組みは、厳格な法規制を回避したい多国籍企業側と、サプライヤーの社会課題における多国籍企業の社会的責任を明確化したい市民社会側の対立の産物であり、今後の各国における法規制の1つのモデルとなるものと考えられます。
日本企業にとっては、監督省庁等から提示される、明確な基準や罰則を含んだ法規制への対応は得意とするところですが、この枠組みはその範疇を超えるものです。英国現代奴隷法への対応は、利害関係者とのコミュニケーションを行い、自ら取組みの枠組みを規定し、開示するという、日本企業にとっての新たなアプローチへの取組みの機会を提供するものと考えられます。

ステートメントを開示している日本企業またはその英国子会社の一覧
(2016年9月12日時点)
  • Fujitsu Ltd
  • Hitachi Group
  • Kyocera Document Solutions
  • Mitsubishi Corporation
  • Mitsubishi Motors
    (Colt Car Company Ltd.)
  • Mitsubishi Rayon
  • Mizuho Intl.
  • Mizuho Securities UK Holdings
  • Nikon Corporation
  • NSG Group
  • NTT Data UK
  • NTT Europe
  • Pioneer Group
  • Seiko UK Ltd.
  • Sompo Japan Nipponkoa
    Insurance Company of Europe
  • Toyota Tsusho Metals
  • Vascutek

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