デジタル時代の戦略リーダー像 | KPMG | JP
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デジタル時代の戦略リーダー像

デジタル時代の戦略リーダー像

ICTの加速度的な進化によるデジタル化の波は、あらゆる産業に対してこれまでにない短い時間軸で抜本的な変革を迫っています。一定の原理原則に基づいた予測・管理を行う経営手法は限界を迎えており、経営リーダーシップもまた変革の必要性に迫れています。本稿では、デジタルの時代観と経営観を考察したうえで、求められるリーダーシップ像について述べていきます。

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今、我々が直面し始めている「デジタル化」とは何なのか。これまでのビジネスでは既存モデルの改善による効率性向上や価値向上に焦点があてられてきましたが、Digital Disruptionと形容されるデジタル化の波が加速することで、企業は提供価値の概念から問いただす必要性に迫られている。

顧客ニーズの変化の時間軸も従来とは比較にならないほど短縮され、また規制緩和も後押しすることで寡占市場においても新規参入障壁が低くなり、デジタル化による企業活動全体の変革を起こしていくことは急務であるという危機感が醸成されつつある。

本稿では、このようなデジタル時代への転換期において、企業が直面しているデジタル時代を俯瞰し、その中で経営に求められること、そして企業が持続的な成長を続けるために求められるリーダーシップとは何か、に主眼をおき考察を進める。

ソーシャル、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、認知技術などデジタル時代を象徴する言葉が我々の身の回りにあふれている。これまでもICTの技術革新は様々な産業の生産性やプロセスの高度化に貢献してきたが、今我々が直面し始めている「デジタル化」は、いわゆる既存モデルの改善による効率向上や価値向上だけでなく提供価値の概念から問い直し、深さや幅を劇的に拡げていくものである、という理解がまず必要となる。

大量生産型の時代においては、Factory Automationやプロセス・生産性の効率に焦点が当てられてきたのに対して、デジタル時代においてはICTの加速度的な進化により多くの産業に変革を迫っている。この変革を換言すれば、顧客ニーズの変化の時間軸も従来とは比較にならないほど短縮され、規制緩和も後押しすることで寡占市場においても新規参入障壁が低くなり、企業は生き残りをかけてこれら変化への対応に迫られている、ということになる。この変化は業種限定的なものではないことに注意が必要である。流通業やサービス業などの消費者から近い業種に限らず、製造業、医療、農業など、1次~3次等の産業分類の枠を超えて様々な産業においてICTの利活用が進み新たなビジネスモデルが生み出され、またICTを媒体として産業間連携により既存の産業の枠組みを超えた新産業の登場やビジネス・エコシステムの形成が進んでいる。

近年のICTの進化により加速度的に変化している外部環境変化(ビジネスのパラダイムシフト)のスピードは、ある程度の確実性を持って将来を予測することを不可能としており、従来型の「予測と管理」の経営手法の限界にきている。工業化という時代背景における一定の原理原則や既成概念に当てはめた思考が通用しなくなるデジタル時代において、経営に強く求められるリーダーシップも変わりつつある。リーダーシップを構成する要素は複数あるが、中でもかじ取り・方向付けの肝となるのは「大局観を持ち、環境変化に柔軟に対応する力」、企業を取り巻くあらゆるステークホルダー(顧客・従業員・株主・取引先・競合先・新規参入者)と全方位的に対話し、社外の技術・知見を最大限活用し「オープンイノベーションを実現する力」、スピード感を持って組織的に機敏に動くために「不完全な情報でも迅速に意思決定をする力」が、デジタルが加速する過渡期の時代の中において特に重要であると考える。

本稿ではこのようなデジタル時代への転換期において企業が直面しているデジタル時代を俯瞰し、その中で経営に求められること、そして企業が持続的な成長を続けるために求められるリーダーシップとは何か、に主眼をおく。

ビジネスの構成要素であるヒト・モノ・コト・カネのデジタル化が加速する

デジタルが我々のビジネスの構成要素に対してどのような影響を与え始めているのか、断片的にはなるがデジタルの大きな流れを捉えるきっかけとして、「ヒト・モノ・コト・カネ」の視点をまずは出発地点としたい。

「ヒト」:ソーシャルテクノロジーの進化により企業・マスメディアと消費者の間にあった「情報格差」社会は終焉を迎え、情報の非対称性を利用した企業側・マスメディア側の一方通行的な情報伝達の流れは過去のものとなりつつある。消費者はスマート・モバイル機器の活用により自身の日常体感したものを含めてソーシャルメディアを介して積極的な情報発信を行うように変化してきた。このような背景もあり、商品・サービスの最終消費者のみならず、一般の消費者を起点にしたバリューチェーンの再構築の必要性が認知されるようになり、この流れが多方面で加速している。

「モノ」:ICTとモノの融合によるIoTの取組みとしてドイツ主導のIndustrie 4.0や米国主導のIndustrial Internet Consortiumなどが、工場やフィールドでの検証からコンプライアンス・法整備の段階まで進むことで、製造工場・物流・医療・エネルギー・建物・モビリティなどのスマート化が現実的なものとなり、センサーなどから取得された大量データの解析により生産性効率の著しい向上のみならず、あらゆる個別要求に対する対応を可能としたマス・カスタマイゼーションを可能にしていく。

「コト」:ビッグデータ解析や予測技術の進化により、言葉や画像、事象や現象などの規則性がない非構造化データを集計・分析が可能な状態にし、規則性を見つけることで重要な洞察を得られるようになってきた。また、認知技術としてディープ・ラーニング(所与のビッグデータの中からアルゴリズムに基づき機械・システムが主体的に解析を進める)や、機械学習(人間が規則性などのルールを与え、機械・システムはそれに基づきビッグデータの解析を進める)なども大手企業が積極的に活用し始めており、ビッグデータの解析結果であるフィードバックの精度も高まりつつある。

「カネ」:ビットコインなどの仮想通貨の根幹となるブロックチェーンテクノロジーを利活用したスタートアップ系ICT企業の参入により、これまでの金融トランザクションの既成概念を覆し既存の金融機関の規制を揺るがしている。国内においては大手銀行が内部トランザクション(自行の国内から海外支店への移動など)にてこのテクノロジーの活用が開始された段階であり、本格的な普及段階に至ってはいない。国外においては、銀行口座の開設に伴う与信審査が存在する一方、ブロックチェーンはこの仮想空間の参加者全体が監視者の役目を担っており、トランザクションごとの監視・相互けん制が働く仕組みを活用しているため、国外においては加速度的なスピードで普及が進んでいる。

加速するデジタルテクノロジーの進化がもたらす既存産業へのインパクト

これまでもいわゆる情報化の波はあった。しかし情報化と進化するICTのデジタル化は上述してきたように、全く別次元のものであると考えねばならない。20世紀後半から本格的にアナログだったものがデジタル化されていき、フィルムカメラはデジタルカメラに、公衆電話は携帯電話、そしてスマートフォンに代替されてきた。このような背景を踏まえ、ICTが進化していくことで既存産業にどのようなインパクトをもたらすのかを次に考察していきたい。

デジタル化がこれまでの情報化と根本的に異なるのは、大きな流れの中で連関しながら進化を遂げているところにある。デジタルの進化の流れは大きく3つに峻別され、顧客関係のデジタル化、産業のデジタル化、組織のデジタル化となる。これら3つの流れは相互に連関しあいながらもICTの加速を強めている。

これらICTの進化がなぜ既存産業のビジネスの在り方を根幹から揺るがしているのか。突然変異的にこのような流れが生まれたわけではないということ、その前提理解をまずは深める必要がある。デジタル化の流れを生み出すためのICTの進化の過程で忘れてはならないのが、ハードウェア・半導体の低廉化と、大多数の消費者がスマートデバイスを手に入れたことであり、それらがビジネスのパラダイムシフトを起こす基盤となっている。

ハードウェア・半導体の低廉化の例として、現実世界のものをデジタル化するための媒体となるセンサーが挙げられる。テクノロジー進化の文脈でたびたび引用される「ムーアの法則」があるが、進化のスピードは幾何級数的となっており、その進化の恩恵により全てのモノに対してRFIDのようなセンサーを付けることが現実的となってきた。いわゆるトリリオンセンサーの到来が間近に迫っている。全てのモノに対してセンサーを取り付けることでこれまで取得することができなかったデータを含め、現実世界にあるあらゆるものをデジタル化することが可能になってきている。

2つ目は、ICTの進化により非常に高度なコンピューティング機能を備えたスマートデバイスが消費者の間に急速に普及してきたことである。少し古い言葉になってしまうが、ICT産業がこれまで推進してきた「いつでもどこでも情報へアクセス可能なユビキタス社会」が現実のものとなってきたのである。モバイル型のスマートデバイスが普及することで、消費者のインターネット空間へのアクセスの制約を取り除き、利便性を高めるだけでなく日常動線に関わる消費者の情報をプッシュ型・プル型でデジタル化することも可能になってきた。また、消費者はスマートデバイスに対してサービス提供者が活用するクラウドの裏にあるスパコンレベルの高度な量子コンピューティングのようなものを意識することなく、日常的に新しいテクノロジーに触れながらデジタルに対するリテラシーを急速に高めている。

近年のデジタル化の基盤となるテクノロジーの進化は、90年代以降の時間軸の中で段階的に起こってきた。その過程で消費者のデジタルに対する固定観念に近いアレルギーは、リスクと利便性の視点で葛藤しながらも少しずつ新しいテクノロジーを日々の生活の中に取り込んでいき、少しずつアレルギーは取り除かれていった。今ではインターネット上での取引に対しても違和感を覚えることなく、日常的にeコマースなどに接触する機会が増えている。

このような背景を踏まえ、デジタルによるビジネスのパラダイムシフトにまず直面したのがB2Cなどの消費者ビジネスであり、これが顧客関係のデジタル化の大きな流れの1つでもある。消費者と距離感の近いB2Cではソーシャルメディアの台頭により消費者同士の口コミなどの評価に関するコミュニケーションが加速し、購買行動に変化をもたらしてきた。これまで以上にB2C企業はマーケットインの実践を行わないと幅広い消費者のニーズや、求められる短い時間軸に即応することは難しくなるため、サービスの開発からアフターフォローを含む全ライフサイクルの中で継続的に消費者の声を反映させる仕掛けを構築しなければならない。第三者機関による消費者調査レポートなどは陳腐化するスピードも早いため、自社もしくは他社が提供するソーシャルテクノロジーを活用しながらリアルタイムにフィードバックを拾い、分析をして現場に反映させる必要性に迫られている。

先端テクノロジーによりもたらされるビジネスのパラダイムシフト

一方で、既存のB2B産業はデジタル化の流れにおいてどのようなシフトが起きようとしているのか。産業のデジタル化を象徴する言葉としてIoTがたびたび引用されるが、IoTとはつまりICTとネットワーク化の技術を進化させることで、既存の製造業のビジネスモデルを大きく変化させる取組みである。工場の設備・製品・人にセンサーを取り付け、常時インターネットに接続することでセンサーから得られるビッグデータの分析を行い、生産性の効率を上げることをターゲットにしているが、これらの取組みが目指している先は大量生産によるコスト効率改善ではなく、マス・カスタマイゼーションである。メーカーが消費者の望む製品を推し測ってマーケットを作ってきたB2B産業においても、消費者をバリューチェーンの中心に置き、求められているものを素早く具現化し、商品を売り切るモデルからサービスとして提供するモデルへ変換し、消費者からの継続的なフィードバックに基づき提供価値を変えていく必要性に迫られているのである。

新たなプラットフォーマーの登場が既存産業のルールを変える

デジタルテクノロジーが既存産業に与えている影響の具体例として、旧来のビジネス・プラットフォームを新興企業がリプレースし始めている現状を振り返る。すぐに思い浮かぶのは、小売・物流のAmazon、DVDレンタルのNetflix、そして最近では新たな消費の形としてのシェアリングエコノミー(オンデマンドエコノミーとも言う)の流れを受けた宿泊サービスのAirbnb、配車サービスのUberが挙げられる。前述のような新興企業の大きな共通点としては、既存産業のルールや制約に縛られていないことである。また、AirbnbやUberについて共通する点は、自社で宿泊施設や配車用の車などの資産を一切保有せずビジネス・プラットフォームである仕組みづくりに特化していることである。注意しておきたいのが、これらは技術革新の積み上げた先に起こったものではないということだ。

これまでの考え方がハードや箱を伴ってICTを活用することで、消費者のニーズを満たすことや社会課題の解決を目指してきたものとすれば、前述のような企業群は発想の仕方が異なっている。進化し続けるICTを駆使しつつも、ニーズや課題の全体像をシステム思考的に捉えて全体を客観的に俯瞰し解決策を考えることで新たな機会を見つけ出し、結果として既存産業のプラットフォームのリプレースや、新たなビジネス・エコシステムを生み出すことに繋がってきている。

このような状況下では従来のゼロサムゲームは存在せず、絶対にこうすべきだ、という確たる正解も存在しない。そのような環境に置かれ、新興企業に淘汰されて撤退するか、はたまた新興企業の下請けになるのか、アライアンスを組むのか。または、セキュリティなどの安全性を論点として取り上げ新興企業の打ちだす利便性に対抗するのか。デジタル化全体の潮流が止まることは決してない中でどう生き抜くかというより明確な意思表示が必要となるだろう。

加速するデジタルテクノロジーの進化と既存産業にどのようなインパクトをもたらし、どのような変革が求められているのかを、ここまでにB2CとB2Bという大きな産業のくくりで整理してきた。加えて、既存産業のプラットフォームが新たなプラットフォーマーの出現により置き換えられはじめており、これまでのゲームルールが通用しない時代に突入していることを考察してきた。次に、このデジタルの時代観を踏まえて、どのような経営観が求められるのかを具体的な事例を交えて考察する。

デジタル時代に求められる経営観(勘)

デジタル化の大きな潮流として、「ヒト」のソーシャル化や「モノ」のIoT化が加速する時代で、どのような経営観が求められるのか。

ソーシャルメディアの普及やオープン化の波による情報格差の終焉が何を意味するのか。これまでは情報の非対称性を利用した経営が通用してきた。企業は株主の利益を最大化することに努め、金融資本をベースとする資本主義経済は短期的な利益志向のマネーゲームを助長し、消費者はないがしろにされてきたのが実態である。しかし、SNSなどのソーシャルテクノロジーは消費者同士のコミュニケーションの場を自然発生的に作り出し、そのコミュニティは拡大していくことでバーチャルな共同体を形成し、企業が提供するサービスや商品のみならず、企業の透明性や誠実性に対しても審判をくだせるほどの力を備えつつある。従来の受け身の「消費者」は既になくなりつつある、という認識を改めず、情報統制をはかりながら対症療法的な対策などを講じることは確実にマイナスに作用する。企業が有事に直面した際の釈明会見などは近年になりこれまで以上に頻繁に目にするところだが、消費者からの共感を得られないようなメッセージングにより炎上を誘発し、企業のブランディングの毀損に至るケースが後を絶たない。

ソーシャルテクノロジーによるデジタル化の波に対して経営が重視すべきことは、ステークホルダーとの「対話能力」を上げることである。消費者のデジタルリテラシー向上は企業の想像を遥かに超えるスピードで進んでおり、デジタル空間での消費者との関係構築が企業の持続的な成長を左右すると言っても過言ではない。透明性をもって、誠実かつ共感を呼ぶような対話は不可欠であり、またオープンイノベーションを推進することにより消費者を自社のバリューチェーンに組み込むことで、デジタル空間での消費者との接点を積極的に増やしていくことも重要となる。

ICTと「モノ」の融合を加速させるIoT化の推進は、制御系システム等の要素技術の度重なる改善の延長線上にある「技術革新」から、要素や方法を組み合わせる「新結合」へとシフトしてきている。具体的な事例としてドイツにおけるIndustrie 4.0を引用し、そのイノベーション創発の「仕掛け」を読み解いてみる。

Industrie 4.0とは、国家的な戦略としてドイツ製造業の建て直しを国家元首が統率する形で、イノベーション集団のフラウンホーファー研究機構がビジネスとアカデミアの橋渡し役になることで産学連携を加速させ、実フィールド試験の場として地域クラスターを選定し、製造工場から物流、医療、建物、電力などのネットワーク化を行う取組みである。この取組みの仕組み全体を俯瞰すると、リーダーとなる国家元首が2025年の次世代製造業のあり姿を描き、橋渡し役の機関が産学連携により創出されたアイデアに目的を付加し、先端技術を現場にどのように適用するかをスピーディに実証試験を繰り返すことが可能な複数産業のクラスターが存在することである。

IoT化におけるイノベーション創発の仕掛けのエッセンスを抽出すると、リーダーが明確な大局観を示し、目的を付加し、目的達成に向けた現場でのスピーディな実証試験を実現できる素地を作っていることである。ここで言う明確な大局観とは、IoTの概念の元、センシング・ロボティクス・AI(人工知能)・クラウド・ビッグデータ解析などをフル活用したスマート工場の実現に留まらず、周辺産業を巻き込む巨大なネットワーク化であり、必要なものを必要なだけ製造するためのスマート物流、工場の操業に必要な電源をコントロールするためのスマートグリッド、製造ラインに配置するデジタルレイバーの活用である。この方向付けに対して進化し続けるICTを媒介にして実地での検証サイクルをスピーディに行い、イノベーション創発の確度を高めているのである。

IoTの取組みを推進する足がかりを掴めず、競合他社のベンチマークに終始しながら、他社が取り組み始めていないからと安堵している国内企業が多く見受けられる。ICTの進化が自産業に及ぼす影響を経営層も常に高いアンテナをはり、いつ自産業のプラットフォームが新興勢力によりリプレースされてしまうのか、という危機感を持ちアクションに移すことが重要である。そのためにはデジタルに対する目利き人材を有し、自社のポジションや方向付けを明確にし、素早く現場で検証を繰り返すことができる意思決定の迅速さや、走りながら考えることを実践していくことを重視していくべきである。

IoTと近しい文脈にはなるが、増加し続けるビッグデータに対する解析技術が急速に進化しており、ロボティクスによるプロセス自動化技術や認知技術が高度なナレッジを必要とするホワイトカラーの仕事をも含めて既存業務をリプレースしていくことが考えられる。つまり、自動化やロボット化の進展により、定型的作業が喪失していき、知的作業の業務へシフトすることで雇用や働き方が変わることが予見されている。

ドイツの連邦労働・社会省(BMAS)が2015年6月に「Work 4.0」というGreen Paperを発刊したことは記憶に新しい。このペーパーの冒頭部分によると「自動車などの移動体がドライバーなしに自走し、外科医に変わって医療ロボットが手術を担い、建設業者に変わって3Dプリンタが住宅を作るような時代がくるかもしれない」というような現時点では想像し難いものの、将来起こり得る環境変化を示唆し未来の雇用や働き方に対する課題について言及している。

  • ビジネスと雇用の在り方をどのように変えるのか。
  • 労働に対する概念をどのように変えるのか。
  • 知的作業に求められるスキルは何か。
  • クラウドワーキングが標準的な働き方となるのか。

AIの進化が経営の概念を変容させていくことも忘れてはならない。人間と機械が生み出す提供価値の違いを判断し、人間が行うべき仕事内容を再定義する必要がある。今後もAIが代替することが難しいものとして考えられるのは、経営層においては現状に対する課題設定やあるべき姿の設定などの問い掛け、オペレーション層においては分析の域を超えて物語性を付加してデータ解釈を行うことや異常値対応などが該当するだろう。

このように未来の仕事を再定義する過程において、自動化・機械処理の範囲の拡大を活用して、いかに人間の作業を深められるか、そして洗練された人間の強みを生かせることができるのか、という視点も重要になる。

機械やロボティクスによるプロセスの自動化は確実に起こると予見されているが、人間の仕事を全て代替するわけではない。このような未来を悲観せず、経営が重視すべきは組織全体がヒューリスティックな知的作業を行えるよう、不完全な情報の中でもある程度の妥当解に短時間で辿り着けるようなスキルを身に着けられる下地を整えていくことである。とは言え一足飛びにそのようなことを行うのが難しい場合は、まずは組織ヒエラルキーに沿って考え、作業者は管理者に、管理者は全体統合責任者に、全体統合責任者は新たなビジネスの創発者に、と職掌を上にシフトさせるアプローチが考えられる。一方で、大きなテクノロジートレンドを抑えて大枠での行動指針や軸を持った上で自社業務を再定義し、その上で人間と機械の業務の棲み分けをすることは、客観的な自社の状況や保有しているスキルセットの洗い出しを行うことに繋がり、時間や苦労を要するが健全なアプローチとも言える。

デジタル時代における人の動かし方

ここまで、デジタルの時代観、そしてこの時代に求められる経営観(勘)について事例を交えながら考察を行ってきた。それらを踏まえた上で最後に、デジタル時代の転換期における人の動かし方について示唆出しを試みる。

我々が直面しているデジタル時代は、大きな3つのうねり(産業のデジタル化・顧客関係のデジタル化・組織のデジタル化)が連関しており、企業を取り巻く外部環境の変化に対する見通しは非常に不確実性の高いものとなっている。

このような時代において、人を動かすリーダーの資質とは何だろうか。

デジタル化の潮流を捉えたリーダーシップ

最も重要なものは「大局観を持ち、環境変化に柔軟に対応する力」である。未来予測が困難なデジタル時代において、自社の属する産業の未来を憂うのではなく、外部環境がどう変化し、変化の原因は何なのか、今後更にどのような変化が起きるのかに考えを巡らせ、未来のイメージを具体的に持つことが重要となる。より注力すべきは競合や第三者の言動への反応ではなく、散りばめられている情報を意味のある大きなトレンドとして捉え、大枠の行動指針を持つことで組織としての方向性を定めることである。そこから目的や意味づけを与えて実行ベクトルを明確にする。この実行ベクトルは何度でも変えて良いし、固定する必要はない。予測困難な時代にあってもこの大枠の行動指針は組織全体の方向性を決めるものであり、この指針に緩やかに基づき組織における実行主体メンバーが柔軟に実行ベクトルを変えられるようになることが望ましい。

次に重要なのは「不完全な情報でも迅速に意思決定をする力」であり、スピードが競争力の源である。同時多発的に起こるICTの進化や錯綜する情報に対して、手をこまねいて見ているだけでは取り残されていくだけとなり、自分が体感するためにもまずはトライすることが必須条件である。このような意思決定をする場面はこれまでにもあったことで、一見すると平凡な言葉のような響きすらある。しかし決定的に異なるのは、組織の規模を問わず経営から現場までの人間が“ある程度”の失敗と投資を許容するという前提が必要となることである。長い時間軸での研究開発や事業運営の先に対して、つまり、積み上げてきた先に対しての“きっとこうなるだろう”という確度の高い予測に対して行う投資とは全く意味合いが異なる。完全で網羅性のある情報の収集に長い時間を要し、それに基づいた意思決定をすることはこの対極にあるものだ。非常に短い時間軸で市場からの要求が変化しているデジタル時代において、スピード感を持った機敏な経営基盤を作るには、断片的で不十分な情報においても取組みを進められるような意思決定力が間違いなく必要となる。

最後に上げるのは、企業を取り巻くあらゆるステークホルダーと全方位的に対話し、社外の技術・知見を最大限活用した「オープンイノベーションを実現する力」である。まず、メッセージングである。SNS、オウンドメディア、アーンドメディアなどのあらゆるメディアを通して、リーダー自身が「自社がどういう背景でどのような行動をとっているのか」ということをシンプルかつ明快なストーリーとして一貫性をもって伝えることが鍵となる。その土台の上で、消費者や競合先、そして新規参入者を巻き込んだ新たな取組み(オープンイノベーション)を実現していくことで、未来に向けた発想の幅を拡げ(発散)、同時に実現性の検証(収束)を進めることを可能とする。また、全方位的な社内コミュニケーションを実現し、迅速な意思決定を可能とする為には従来とは異なる組織体系が必要となってくる。ヒエラルキー型の組織は市場環境が安定している際に効率の良い組織運営を実現するが、新しいアイデアを産み出す風通しの良い組織にはなりえない。タスクフォース型のように目的を明確にしつつ、可能であれば評価や給与体系もその目的達成度合いに応じて連動するような仕組みを作ればチームとしての一体感、情報連携、スピード感は著しく向上する(ハイパーテキスト型組織の志向)。

おわりに

デジタルの時代観と経営観を踏まえ、最後にリーダーシップの観点から人の動かし方として3つの視点で改めて整理を行った。デジタル時代における取組みは得てしてパイオニアになることもあり、前例のないチャレンジングな取組みになることは間違いない。そして今後はこういった取組みを推進する機会がますます増えていくことが考えられる。これまで以上に客観的にそして大局的に自社の立ち位置を理解し、今後どのようにこのデジタル化を経営に取り込んでいくのかを思考する際、本稿が読者諸氏に少しでもお役にたてば幸いである。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
マネジメントコンサルティング
シニアマネジャー 高木 康信

デジタル経営改革の最前線

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