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製薬業界への影響

製薬業界への影響

Brexitがおよぼす製薬業界への影響について、業界固有の検討事項や課題について事例を交えて概説しています。

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本資料は、直近2週間の検討事項としてご提案します。なお、本資料はKPMG英国の現地専門家が作成した英語資料をベースに、専門家が日本語訳をしています。

詳細(日本語資料)はPDFをご参照ください。

Brexitの決定が英国の製薬業界にとって大きな損害をもたらすという予想に対して一言:スイスを見てください

EUや欧州経済地域の圏外にありながら、スイスにはいくつもの世界有数の製薬会社の本社、地域統括会社、研究施設、製造工場があります。スイスの製薬業界は、英国企業および研究組織がEU域外でも生き残ることはもちろん、より成長することさえ可能であることを示しています。

我々はスイスのやり方を目指すべきです。KPMGスイスが行った欧州でライフサイエンス・セクターに適した国に関する調査によれば、英国には欧州で最も多くの革新的バイオ治療企業があり、ライフサイエンス事業全体でもドイツに次いで2番目に多くの企業があります。英国には欧州で最も強力な製品開発パイプラインがあり、資金調達額はトップです。また世界の大学ランキング上位100校のうち9校が英国にあり、これはフランスとドイツを合わせたものを上回る数です。

このように英国は極めて強力な基盤を持ってはいるものの、スイスの恵まれた状況にはまだ目標とすべきものがあります。EUからの離脱により、英国企業にとって医薬品の研究、製造、販売、流通が著しく複雑になる事は間違いありません。イノベーションや知識の中心地としての英国の世界に対する影響力や評判が下がり、英国での仕事や投資に影響が及ぶ可能性もあります。

これらはBrexit後の世界に向けて理想的な移行が実行できるかどうかにかかっています。英国の製薬業界では73,000人が働いており、そのうち23,000人は高度な研究開発職に従事しています。

英国事業による研究開発費のうち、20%を製薬業界が占めています。これは他の業界を大きく引き離した数値です。そして英国はこれまで多くの人々の生活の改善に役立つ新しい薬や治療法を生み出してきました。

迅速な対応

企業レベル、そして業界レベルでも迅速な対応が求められます。

まず、ライフサイエンス・セクターは政界、そして交渉の行われるブリュッセルに向けて意見を発信する必要があります。政府は、英国の銀行がEUに対する金融サービスのパスポート権を喪失した場合のシティへの影響と同様に、イノベーション向けの資金調達額や欧州の研究者との共同研究機会の減少がもたらす影響について理解する必要があります。

これまで英国はEU加盟国として資金調達面や共同研究面でかなりの便益を享受してきました。英国はホライズン2020(革新的医薬品イニシアティブ(IMI)のプロジェクトへ資金援助を行うEUの過去最大の研究・イノベーション政策)が配分する資金総額の15.4%を受け取っています。

 

“英国には欧州で最も多くの革新的バイオ治療企業があり、ライフサイエンス事業全体でもドイツに次いで2番目に多くの企業があります。”


この33億ユーロの予算枠を持つイニシアティブは、大学、製薬会社、規制当局等が連携し、ワクチンから動物の健康やバイオメディカル・イメージングに至るライフサイエンス・セクター全体のバリューチェーンに取り組むというものです。英国企業や機関はこれからも引き続きIMIのようなプロジェクトに参加するのでしょうか?

スイスの経験がとても重要な参考になります。人の移動の自由を制限するというスイスの決定を受け、EUは科学セクターの資金調達や共同研究へのスイスのアクセス権を取り消しました。その後、EUはスイスがホライズンに復帰することを認めましたが、条件は以前よりもかなり厳しいものとなりました。特に、EUとの共同研究に関する知的財産権を非EU加盟国が保有することが禁止されました。同様の条件が英国にも適用されることになった場合、大きな価値の損失につながります。

萎縮効果

今回の国民投票の結果が共同研究に萎縮効果をもたらしていることを示す事例証拠がいくつも発生しており、例えば欧州の科学者たちは新プロジェクトに英国の科学者を参加させることをためらい、また個人レベルでは今後の資金面の見通しが不透明であることから英国での就職をためらうという事例が見られます。英国の7つの科学アカデミーが7月19日に発した共同声明でも以下のように述べています。「現在の不確実性による直接的な影響を受けており、多くの問題を引き起こしている。」

政府は重要な研究分野における資金面のギャップを早急に埋める必要があります。英国の地域成長ファンドは新しいライフサイエンス事業の重要な資金源ですが、それ以外の資金源についてはまだ何も明らかになっていません。Innovate UKがライフサイエンス分野に向けて小規模な資金調達や支援を行っていますが、これだけでは不十分です。EU離脱により、これまでEU予算に充てられていた多額の金額が利用可能になると思われますが、その金額は離脱の際の条件次第です。

2つ目の懸念材料は規制面です。ライフサイエンス・セクターは厳しい規制下におかれているため、英国がその複雑に絡み合う規制の網から、たとえ部分的にであっても抜け出そうとすることで製品開発や販売コストへの影響がでるでしょう。例えば英国は臨床試験市場では人気の高い国ですが、今後EUの臨床試験指令の対象外となった場合、それが変わることになるかもしれません。

EMA(欧州医薬品庁)との別離?

英国が早々に受ける影響の1つとして、EMA(英国を拠点とするEU最大の機関で600人以上のスタッフを擁する)を失うことになる可能性があります。EMAが近くにあることはこれまで製薬会社が英国に拠点を置くメリットの1つでした。

また、薬および化学薬品に特化した「統一特許制度」を管理する知的財産裁判所が英国に設置され、2018年から運用が開始されることとなっており、英国の製薬業界にとってはさらなる追い風となることが見込まれていましたが、それも実現しなくなる可能性が高くなりました。

英国のEU離脱後は、英国の規制当局であるMHRAがより多くの申請書の処理に対応することになります。

その対応に時間を取られることで、短期的には規制面が不安定になる期間が生じる可能性もあり、その後も、新薬が英国市場に出回るまでにこれまでより長い時間を要するリスクもあります。結局はほとんどの企業が、規模の大きいより有利なEU市場を優先することになるでしょう。

タリフは廃止されるものの...

英国を拠点とする企業は、「パスポート権」を活かした欧州での薬のマーケティングやライセンシングに関する利便性を失うことになります。EU域内に拠点を置く企業であれば欧州のどこの国でも薬を販売することができます。Brexit後は、英国を拠点とする企業はEU域内に子会社を設立することになるかもしれません。

同様に、企業は欧州で薬を製造・輸入、在庫を保有するためのライセンスが必要で、そのためにはEU域内に拠点が必要です。これは単なる官僚的障壁ではなく、EU指令の解釈方法が国によって異なることから法的な障壁となる可能性もあります。もし英国がEEAに加盟すれば、これらの影響はかなり軽減されますが、いずれにしても英国の製薬会社は自社のサプライチェーンを慎重に見直す必要があります。

ほとんどの医薬品はタリフが免除されているため、表面的にはタリフは大きな問題ではありません。しかし、単一市場外ではすべての輸送品が国境での検問の対象となるため、それに伴い必要書類の準備が必要になり、プロセスに遅れが生じる可能性も出てきます。このことは、運転資金面に影響が出るというだけではありません。薬の製造業者には市場で必要とされる医薬品を供給するという倫理的義務があるため、その供給が途絶えることのないよう流通モデルや在庫量の変更が必要になる可能性もあります。

こうした課題の多くは、周到に準備を行ってきた企業にとっては取引喪失の危機というよりは頭痛の種というレベルのものです。製薬業界にとってパスポート権の喪失は、投資銀行等が被る影響と比べればそこまで深刻な問題ではありません。ただし、これらの課題を総合的に見た場合、製薬業界の英国での事業活動が難しくなる印象を与える恐れがあります。またこうした課題は、企業が研究・製造・流通センターの設置場所を英国にするか他の場所にするかという判断をする際に、英国にとって不利な要素となります。

英国固有の強み

前述したとおり、ライフサイエンス・セクターの研究開発機関やその非常に優秀なスタッフは英国にとって非常に大きな強みで、これらはこの苦境を乗り越えることでしょう。英国の税制は欧州の中でとても競争力が高く、法人税は前財務相ジョージ・オズボーンが15%未満への引き下げを提案しており、研究開発費控除や、知的財産に関する費用や収益に対する減税措置を認める「パテントボックス」なども採用しています。また政府もライフサイエンス・セクターを支援する意向を見せています。前ライフサイエンス担当大臣ジョージ・フリーマンが設立し、グラクソ・スミスクライン社とアストラゼネカ社のCEOが委員長を務めるステアリング・グループが現在、EU規則の対象外の環境における英国のライフサイエンス・セクターの可能性を検討しています。

英国がスイス方式を見習うのであれば、ライフサイエンス・インフラと政府の支援は不可欠です。ただし、まずは企業自身が行動を起こす必要があります。Brexitの影響を踏まえ、企業は積極的に事業の見直しを行い、必要に応じて事業再編を行うことが必要です。そのためにはまず取り組むべき課題の規模を認識し、その課題に正面から向き合うことが重要です。

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