2016年度 シンガポール予算案 | KPMG | JP
close
Share with your friends

2016年度 シンガポール予算案

2016年度 シンガポール予算案

2016年3月24日に2016年度シンガポール予算案が発表されました。シンガポールの2015年度の成長率は2.0%で48.8億シンガポールドル(以下S$)(S$1は約80円)の財政赤字(内税収はS$641億)となり、当初予想の財政赤字67億S$を下回りました。2016年度の成長率は1~3%と予想され、S$34.5億の財政黒字(内税収はS$684億)と予想されています。

関連するコンテンツ

予算案では今後のシンガポールの方向性や当年度の税制改正案も提唱されています。シンガポールは昨年度に建国50周年を迎えていますが、当年度の予算案および税制改正案は、過去の成功を基礎として、より明るい未来を築くための施策を継続していると言えるかもしれません。過去の成功を支えてきた中小企業と国民という2つのグループにフォーカスし、生産性を向上させるというキーワードを継続し、国民のニーズに沿い、ローカルビジネスの成長を支えるものとなっています。具体的には、技術革新を超えるイノベーション、デジタル社会に対応するためのビジネス方法、価値観の変革および海外市場への参入を推奨していく一方で、それを促すための複雑なスキームは制定することなく、既存のスキームを拡充するということでこれをなし遂げ、国際競争力を引き上げようとしています。小さなステップの積み重ねにより、経済環境の変化に対応し、将来に備える、それが当年度の予算案で打ち出された特色かもしれません。

なお、一方で、シンガポールは、当年初に、政労使代表からなる未来経済委員会を組成し、新しい経済成長戦略についても協議を進めています。現状のイノベーションや価値創造に対するサポート体制、戦略に、今後歩むべきシンガポールの姿との間に関するギャップがあれば、将来の大胆な変革も辞さないその覚悟が見て取れます。

本稿では、当年度予算案の中から、打ち出された税制改正案を予算案の3つのテーマである、短期的な課題への対処、事業革新による経済基盤への変革、思いやりと活力のある社会の構築、に沿ってご紹介します。既存のスキームの拡充が多く、新規スキームは見当たりませんが、小さなステップの積み重ねにより将来に備える特色が見えてきます。

ポイント

  • 当年度の税制改正案では、イノベーションを進め、従来のビジネスに対する方法、価値観を変えていくことを継続して推奨している。一方、それを促すための複雑なスキームを制定することなく、既存のスキームを拡充しており、小さなステップの積み重ねにより、経済環境の変化に対応し、将来に備える特色が垣間見える。

I. 短期的な課題への対処

景気の低迷に対処する企業をサポートし、今後の成長機会の創出を促すために、以下の改正および支援策が導入されます。

1. 法人税リベート

ビジネス関連コストの上昇に対処するため、現行制度では、2016および2017年賦課年度(注)において、年度毎にS$20千を上限として、法人税額の30%の減額を認めていました。しかし、最近の経済動向を反映し、改正案では、2016および2017年賦課年度において、年度毎にS$20千を上限として、法人税額の50%の減額が適用されます。

(注)賦課年度
賦課年度とは所得税が課せられる年度のことをいい、会計年度が属する暦年の翌暦年度に設定されています。たとえば、2016年1月1日から2016年12月31日の期間に会計年度末をむかえる場合(たとえば2016年3月期、2016年12月期)、当該会計年度の所得に対する課税は2017年に行われ、2017賦課年度と呼ばれることになります。

2. 特別雇用クレジット

将来の被雇用者の年金受給等に備えるため、雇用主および被雇用者は月額給与に応じて、CPF(中央年金基金)に一定金額の拠出をすることが求められています。雇用主が負担するCPF負担の軽減を目的として、現行制度では、50歳超のシンガポール国民を雇用する場合、雇用主には、月額賃金S$4千を上限として、下表の割合の補助が2016年12月31日まで与えられていました(特別雇用クレジット)。

年度 補助の割合(月額賃金S$4千を上限)
2015年1月1日~
2015年12月31日
65歳未満 賃金の8.5%まで
65歳以上 賃金の11.5%まで
2016年1月1日~
2016年12月31日
賃金の8%まで

 

改正案では、雇用主の負担を考慮し、特別雇用クレジットの適用期間を2019年12月31日まで延長しています。ただし、年齢別の補助の割合については、下表のように65歳未満の雇用者に対して、引き下げがみられます。

年度 補助の割合(月額賃金S$4千を上限)
2017年1月1日~
2019年12月31日
55歳から59歳まで 賃金の3%まで
60歳から64歳まで 賃金の5%まで
65歳以上 賃金の8%まで

3. 中小企業向け運転資金ローン

中小企業の成長を促すため、運転資金および設備投資のための1社あたりS$300千までのローンを対象として、政府が融資金額の50%を保証する制度が導入されます。適用期間は2016年から3年間とされています。

4. 外国人労働者賦課金

シンガポールでは、外国人労働者への依存を管理するため、産業分野別に外国人労働力への依存率を把握するとともに、外国人労働者の雇用主に対して一定の賦課金(Levy)を課しています。賦課金はWork permit、Special passを保持する外国人労働者の雇用に応じて課せられますが、最近では、外国人労働者を制限する傾向が強く、この賦課金は引き上げ傾向にありました。この傾向のなかで、海運業およびプロセス業(注)に関しても2016年7月1日から賦課金は引き上げられる予定でしたが、改正案では、最近の景気動向を反映し、両業種のWork permit保持者に対する賦課金の引き上げを1年間先送りすることになっています。また、建設業については、外国人採用枠が免除される労働者の就業年数要件が2017年7月1日より、2年から3年に引き上げられています。

(注)プロセス業
設備を有し製造を行うセクター。
例えば石油化学、特殊化学のセクターが含まれる。

II. 事業革新による経済基盤の変革

シンガポール政府は2015年8月に建国50年を迎えました。産業転換、技術革新によるシンガポール経済の長期的発展を目的として、主に中小企業を対象としたオートメーション化、国際化支援策等が導入されます。

1. オートメーション・サポート・パッケージ

オートメーション・サポート・パッケージと呼ばれる企業のオートメーション化、生産性向上および拡大を支援するための新制度が導入されます。

  • オートメーション化に係る適格支出の50%までの補助金が支給されます(上限S$1百万)。
  • オートメーション化に係る設備投資額につき100%相当額のインベストメント・アローワンス(所得控除)が認められます。上限は1プロジェクト毎に上限S$10百万とされます(補助金控除後)。
  • 中小企業に対して適格プロジェクトに係る設備投資ローンに対する政府保証が50%から70%に引き上げられます。また、中小企業以外の場合には50%の政府保証が提供されます。
  • 国際企業庁(IE Singapore)とSPRINGが事業者の海外進出のために協力して支援します。

上記については、MTI(通商産業省)から詳細が公表されるとされていますが、補助金やインベストメントアローワンスが中小企業に限定されるかどうかが注目されるところです。

2. 普通株式譲渡益の非課税制度の延長

現行制度では、2012年6月1日から2017年5月31日までに行われる普通株式の譲渡から稼得される譲渡益は、譲渡対象株式の20%以上、かつ、譲渡日以前24か月以上継続保有している場合に非課税とされています。

改正案では、当該制度を5年間延長し、適用期限が2022年5月31日までとされます。

シンガポールではキャピタルゲインは非課税という大原則があります。しかしながら何がキャピタルゲインかということに関しては売却目的等からの総合判断とされ、明確な基準が設けられていませんでした。そのなかで普通株式の譲渡については20%以上かつ24か月以上保有している場合には、原則キャピタルゲインとみなすという制度が2012年から導入され、事業者にとっては無用な論議をさけることができるという点で大変有用な制度であると思われます。なお、要件を満たさない場合でも即課税というわけではなく、総合判断により非課税となる可能性もあります。

3. M&Aスキームの拡充

現行制度では、適格M&Aについては下記の税務恩典が与えられています。

  • 買収金額の25%相当額の損金算入(上限:買収金額のうち年S$20百万)
  • 取得関連費用の200%損金算入(上限:年S$100千)
  • 非上場株式に係る印紙税免除(上限:年S$40千)

改正案では、上記の買収金額に係る上限がS$20百万からS$40百万に引き上げられます。また、非上場株式に係る印紙税免除の上限が、S$40千からS$80千に引き上げられます。

上限の引き上げという点では喜ばしい改正ではありますが、現行制度は最終親会社がシンガポール企業もしくはIHQ・RHQといったヘッドクオータープログラムの認可を受けている企業のみしか適用できません。適用企業の拡大を期待したいところです。

4. 国際化の推進

(1)200%損金算入スキーム(DTDスキーム)
企業の海外市場参入に係る2016年3月31日以前に発生した適格支出について、年間S$1百万を上限として200%損金算入を認める措置(DTDスキーム)が適用されていました。

改正案では、当該制度が4年間延長され、適用期限が2020年3月31日までとされます。なお、S$1百万を超える適格支出について恩典を受ける場合には、事前にIE Singaporeに承認を得る必要があります。


(2)市場開拓準備支援制度
海外市場開拓のための一定の活動(規制および税制のフィージビリティスタディー、クロスボーダーの税務ストラクチャー、M&A関連、ブランド化、知的財産等)に関して当該活動の70%の資金支援を申請できます。

当該制度はIE Singaporeの所管であり、申請は2018年3月31日まで可能です。


(3)国際的成長スキーム
2015年度の予算案にて導入された新たなスキームであり、本スキームの認定を受けた企業は、10%の優遇税率が増加所得分に対して5年間適用されます。

当該制度はIE Singaporeの所管であり、申請期間は2015年4月1日から2020年3月31日までです。

5. 土地有効活用に関する優遇措置の拡充

建物、構築物の建設や拡張工事等に係る資本的支出につき一定の所得控除を認める制度であり、一定の適格要件(事業内容、建物の構造、利用状況)を満たす場合に適用されます。

改正案では、2016年3月25日後に発生した支出に対しては適格要件が拡充され、1つあるいは(条件により)複数の適格商取引を営む複数の関連事業者により利用されている建物も対象に含まれます。また、2016年3月25日以降に当該申請を行う申請者は、建物の使用者と関連者であることが求められます。

6. 知的財産権についての税務上の損金算入

適格知的財産権の取得については、5年の償却期間にわたり税務上の損金に算入されます。

改正案では、2017賦課年度より従来の5年間の償却期間のほか、10年および15年も認められるようになります。

なお、2016年3月25日以降に行われる知的財産権の取得および処分の際には、市場価格(OMV)が税務上の知的財産権の算定およびバランシングチャージの算定において用いることとされています。

7. PIC(生産性・技術革新クレジット)優遇措置の縮小

現行のPIC優遇措置では、以下の6つの適格活動に係る適格支出について、支出額の400%損金算入または60%の現金付与の選択適用をすることができます。

  • ITおよびオートメーション化への投資
  • 研修
  • 知的財産権の登記
  • 知的財産権の獲得および使用許諾の取得
  • デザインへの投資
  • 研究開発

改正案では、2018賦課年度を最終適用年度として廃止されます。また、2016年8月1日以降に発生する適格支出について、現金付与の料率が60%から40%に縮小されます。

PICスキームは2011賦課年度に導入された制度で、一定の要件を満たせば400%の損金算入を認めるという大変メリットの大きい制度でした。当該制度が2018賦課年度を最終適用年度として廃止されるというのは日系企業にとっても大きなインパクトがあるものと思われます。今回の廃止は、幅広く多くの企業に適用するよりもよりターゲットを絞った施策に転換するためとされています。今後どのような施策が公表されるか注目したいところです。

III. 思いやりと活力のある社会の構築

予算案では子供を持つ世帯の支援強化を行うと共に、生活保護世帯や高齢者への交付金の増額といった措置が採られています。税制に関しては、所得税の課税適正化やボランティア支援を主眼として、以下の項目が設けられています。

1. 所得控除額の上限

個人所得税の累進率を強化するため、2018賦課年度より居住者に適用される各種所得控除額の合計の上限が1賦課年度あたりS$80千とされます。

2. 事業者・公的機関のパートナーシップ

2016年7月1日から2018年12月31日まで、事業者には、公的機関に対するボランティア活動・サービスに要した賃金や費用等の適格支出の250%相当額の損金算入を認める制度が導入されます。当該制度は公的機関の承認制となり、適格支出は年間S$250千、1公的機関あたりS$50千が上限とされています。

IV. タックスインセンティブ

タックスインセンティブに関して、広範囲ベースの優遇措置から特定セクターベースのアプローチへシフトすることにより事業を支援し経済を改革するために以下の項目が設けられています。

1. FTCスキームの延長・拡充

現行制度において、シンガポールでは金融財務センター(Financial and Treasury Center 以下「FTC」という)にインセンティブが与えられています。同センターとして認定されると、適格活動およびサービスから生じる所得に対して10%の優遇税率が適用され、非居住者である認定関連会社・支店および所定の支払いについて、源泉税の免除が2016年3月31日まで認められていました。

改正案では、当該制度が5年間延長され、適用期限は2021年3月31日までとされています。また、これまで適格活動およびサービスから生じる所得に対しては10%の優遇税率が適用されていましたが、優遇税率も8%まで引き下げられています。さらに、優遇税率が適用される認定関連会社・支店等とFTC企業間との資金提供については、直接的な資金提供に限定されていましたが、間接的に行われる資金提供についても優遇税率の対象となるとされています。加えて、非居住者である認定関連会社・支店等からFTC企業に対して預け金がある場合の支払利息についても源泉税免除の対象となるとされています。

2. 海運セクター・インセンティブ

現行制度では、MSI-SRSおよびMSI-AISの免税対象所得の範囲に、国外のエネルギー・鉱物の探査・開拓およびこれらに付随する活動のために使用される船舶から生じる所得、ならびにこれらの活動のために使用される船舶のリース所得は免税対象所得に含まれていませんでした。

改正案では、上記の所得が免税対象所得に追加されます。さらに、MSI-ML(Ship)の免税要件のうち借手に係る制限(シンガポール居住者でないこと等)が廃止されます。

シンガポールはその地理的利便性から従来より国際的な海運ハブであり、適格活動については免税インセンティブの付与を行うなど、海運事業を強化してきています。また、その利便性を向上するため毎年のように拡充、拡張施策が盛り込まれています。今回の改正もその方向に沿ったものであり、今後も国際海運ハブとしての地位を高めるための施策が考えられていくものと思われます。

3. 保険会社に対する優遇措置

保険会社に対しては、保険の種類によりそれぞれ下記の優遇措置が認められています。

  • Insurance Business Development(IBD)
    オフショア事業からの適格所得に対して10%の優遇税率が適用されます。(2020年3月31日以後廃止予定)
  • Marine Hull and Liability Insurance
    適格所得に対して免税あるいは5%の優遇税率が適用されます。(2016年3月31日以後廃止)
  • Captive Insurance
    オフショア事業からの適格所得に対して免税措置が適用されます。(2018年3月31日以後廃止予定)
  • Specialised Insurance Business
    オフショア事業からの適格所得に対して免税措置が適用されます。(2016年8月31日以後廃止予定)


改正案では、それぞれ以下のように変更されます。

  • Insurance Business Development(IBD)
    IBDのスキームの適用範囲がMarine Hull and Liability Insurance, Captive InsuranceおよびSpecialised Insurance Businessに拡大されます。
  • Marine Hull and Liability Insurance
    2016年4月1日以後IBDスキームに包括され、10%の優遇税率が適用されます。
  • Captive Insurance
    2018年4月1日以後IBDに包括され、10%の優遇税率が適用されます。
  • Specialised Insurance Business
    2016年9月1日以後2021年8月31日まで、IBDに包括されます。2016年9月1日以後2019年8月31日までの新規適用については5%の優遇税率、2019年9月1日以降の新規適用については8%の優遇税率、2016年9月1日以降の更新については10%の優遇税率が適用されます。

    また、適格活動の範囲が拡大され、オンショアおよびオフショアの両方の事業が対象となります。

4. 信託事業者に対する優遇措置

認定信託管理事業者は一定の信託管理業務による適格所得に対して、2016年3月31日まで10%の優遇税率を享受していました。

改正案では、適格活動の範囲が拡大され、FSI-スタンダードティア・スキームにおける活動と整合的に扱われることとなりました。

また、2016年4月1日より新規の認定事業者に対しては12%、既存の認定事業者に対しては10%の優遇税率が適用されます。

5. グローバル・トレーダー・プログラム

シンガポールを拠点として国際的なトレーディングを展開する企業に対して、グローバル・トレーダー・プログラムによる優遇税制が認められています。このインセンティブの適用はストラクチャード・コモディティー・ファイナンシング(以下SCF)の活動に対しても認められ、グローバル・トレーダー・プログラム(SCF)の認定を受けた企業は、適格活動から生じた所得について5%または10%の軽減税率が適用されています。改正案では、グローバル・トレーダー・プログラム(SCF)における適格活動に以下が追加されています。
 

  • 指定された投資に係る資金の集約、管理、分配
  • M&Aアドバイザリーサービス
  • ストリーミング契約

V. その他

その他必要な整備として以下の改正項目が設けられています。

1. 事業開始日以前に発生した費用

優遇税制の適用を受けている事業者が事業開始日以前に生じた費用を損金算入するにあたり、優遇税制の適格所得と非適格所得に按分する際の基準が設けられます。具体的には事業開始日以前に発生した費用のうち、適格所得と非適格所得に直接的に関連するものは、その関連する所得から控除し、直接的な関連性がない費用については、所得基準(例:売上高、売上総利益)により配分・控除します。

2. 法人税申告およびPICスキームの現金付与申請に係る電子申告の強制適用

法人税申告について、以下のとおり段階的に電子申告が強制適用されます。
 

  • 2018賦課年度:2017賦課年度の売上高がS$10百万超の法人
  • 2019賦課年度:2018賦課年度の売上高がS$1百万超の法人
  • 2020賦課年度:全法人

またPIC優遇措置にかかる現金付与申請については、2016年8月1日より電子申告が強制適用されます。

3. 廃止項目

駐在員(同家族を含む)に対する会社負担の一時帰国費用に関しては、その全額は課税対象ではなく、うち20%部分のみが課税所得とされていました。この軽減措置が2018賦課年度より廃止され、会社負担の一時帰国費用の全額が課税所得として扱われることになります。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
ASEAN事業室 シンガポールデスク
パートナー 西田 直弘
パートナー 神山 卓樹

お問合せ

 

RFP(提案書依頼)

 

送信