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インドの投資・会計・税務ガイドブック第3版の出版にあたって

インドの投資・会計・税務ガイドブック第3版の出版にあたって

2014年夏にモディ首相による新政権が発足して以来、モディ氏のグジャラート州知事時代の経済政策の実績への期待からインド投資に弾みがつくと期待されています。期せずしてモディ政権発足前後から数々の新たな規制改革が行われております。

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KPMGジャパンではこれを機会に2008年8月に出版した「インドの投資・会計・税務ガイドブック第2版」(中央経済社)の内容を更新するとともにその他の南アジア諸国の情報を入れて第3版を出版することとなりました。

本稿では、そのうち主なものについて解説し、読者の方のインドおよび南アジアでのビジネス遂行における参考にしていただければと思います。

ポイント

  • 会社法が約50年ぶりに改正されたことにより、日本企業のインド子会社に様々な影響が及ぶことが考えられるので適切な対応が必要である(インド版SOX法の導入、取締役に対する規制の強化、会計および監査制度の変更)。
  • 現在の複雑な間接税制度を簡素化するために新たなGoods & Service Taxの導入が予定されている。この新制度は従来の間接税に比べて簡素化されたとは言うものの依然として複雑な計算が残されており、また、製品価格設定やサプライチェーン、キャッシュ・フロー、ITシステムなど企業運営に様々な影響が及ぶと考えられることから正確な情報に基づく対策が必要である。
  • 相変わらずインドでの税務トラブルが絶えない。日印間での支払にかかわる源泉税の税務トラブルや日本人駐在員の給料負担に関する税務トラブルには引き続き留意が必要である。
  • 外資規制や外国為替管理法については規制緩和が進んでいる。最新動向に留意されたい。

I. 新会社法

1. 概要

インドの旧会社法は1956年に制定されていましたが、今回約50年ぶりに全面改正されました。1956年の制定以来部分的な改正を行ってきました結果、条文の重複や不整合など問題が多く、また、現在のビジネス環境にそぐわないなどの面がありましたので、新会社法ではそれらの修正と新たな制度の導入が含められています。

新会社法は2013年に承認されましたが、大部分の条文の施行は2014年4月1日からとなっています。その後、いまだに一部の条文が未施行であったり、条文に関する通達が少しずつ公表されたりなどしており、新会社法の適用にあたっては最新の通達等に留意する必要があります。

2. インド版SOX法(内部統制監査制度)

(1)概要
取締役は「取締役責任宣誓書」において内部統制が適切に整備・運用されているか否かについて言及することが求められています。これに加えて、2015年4月1日から始まる事業年度以降では、法定監査人は会社の内部統制の整備・運用状況をチェックし、それについて監査報告書上言及することが求められるようになりました。


(2)現状
日本でも2009年3月期より内部統制監査制度が始まりましたが、事前に企業会計審議会から「内部統制に係る内部統制基準・実施基準」が公表され、さらに日本公認会計士協会からも「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」が公表され、これらをもとに会社での内部統制の整備・運用を進め、監査人も監査を進めてきました。

インドでも当然このようなよりどころとなる基準やガイダンスが求められたことから一旦インド勅許会計士協会から通達が公表されました。しかし、手続き上の不備が判明したことから一旦当該通達が引込められています。

その後、ようやく2015年9月にインド勅許会計士協会からガイダンスノート(会計士が監査を行う際の指針)が公表されました。当該制度は日本のように上場会社だけに適用されるのではなく、すべての会社に適用されます。適用しなかった場合、取締役に対して最大5年間の禁固刑や罰金といった罰則が定められています。

3. 取締役

(1)取締役の居住要件
新会社法では、公開会社、非公開会社の区分を問わず、取締役のうち最低1名は前年暦年ベースで合計182日以上インド国内に滞在していなければならないと定められました。旧会社法ではこのような規定がなかったため、日本企業がインドに会社を設立する場合には日本の親会社の方だけが非常勤で取締役を務めたりできました。こういったことができなくなったうえ、新会社を設立した場合に日本の親会社だけから新たに取締役を送り込むこともできなくなりました。前年にインドに滞在していた日本人を他社から探してくるかあるいはインドで取締役に選任できる人材を探す必要が出てきました。


(2)取締役との取引の規制
旧会社法では、非公開会社については会社と取締役との取引について制限はありませんでした。

しかし、新会社法では、一定の例外を除き、会社が取締役に金銭を貸し付けることが禁止されました。この規制には取締役が一定の利害関係を持っている会社も含まれますので、その規制の範囲および一定の例外の要件に注意する必要があります。


(3)CSR(企業の社会的責任)
新会社法では、一定の規模を超える会社はCSR委員会を設置しなければならなくなりました。一定の規模とは、過去3事業年度のいずれかにおいて純資産額が50億ルピーか売上高が100億ルピー、純利益が5千万ルピー以上をいいます。

また、該当企業は直前3事業年度における平均純利益の2%以上の金額を毎年CSR活動に費やさなければならなくなりました。各会社が上記の要件を満たすのかどうか、満たした場合誰をCSR委員会のメンバーに任命するのか、どのようなCSR活動を行うのか等の検討が必要となります。

4. 会計・監査

(1)決算期
旧会社法では、各会社で決算期を自由に決めることができましたので、インドの子会社の決算期を12月にして日本の3月での連結決算に間に合わせるなどの対応が可能でした。

しかし、新会社法では決算期を3月にしなければならないことが明確にされました。2年間の猶予期間は既に過ぎており2016年3月期からは3月決算が原則強制されます。日本の親会社での連結決算を考えるとインドの子会社の3月決算数値を間に合わせるよう決算早期化を図るか、あるいは12月などで仮決算を組んでそれを日本の連結決算に取り込むようにするなど検討が必要です。その場合会社法上は3月の本決算が求められますので、二度の決算作業が必要になります。また、インドの子会社に重要性があり、インドの会計監査人に決算数値を監査やレビューなどしてもらっている場合にはその監査やレビューのスケジュールにも配慮しなければならなくなるでしょう。


(2)監査人の強制ローテーション制度
従前より、インドではすべての会社がインドの勅許会計士による会計監査を受けなければならないとされています。このため、日本企業がインドに子会社を設立した場合、例外なく会計監査を受けています。

新会社法では、その会計監査人の強制ローテーション制度が設けられ、法人である監査法人は最大10年、個人の会計士は最大5年しか同一会社の会計監査を担当できなくなりました。日本では、監査報告書に署名する業務執行社員の関与年数は定められていますが、監査法人自体を変更する必要はありません。

しかし、インドでは監査法人自体を変更しなければならなくなりました。一度監査の担当を外れた場合にはすぐに復帰することはできず、5年間のクーリングオフ期間も設けなければなりません。


(3)連結財務諸表
旧会社法では連結財務諸表の作成は義務付けられていなかったため、上場会社以外は連結財務諸表を作成する必要はありませんでした。

新会社法では、子会社を有するすべての会社が連結財務諸表を作成し、会計監査を受けなければならなくなりました。連結財務諸表の作成には一定レベルの会計の知識が必要となることから、経理スタッフの教育研修や採用、あるいは日本の親会社からの支援などが必要になる場面もあると思います。

II. 新間接税

1. 現在の間接税

インドの間接税の仕組みは非常に複雑です。日本では国内取引に課せられる主な間接税は消費税一本です。しかし、インドでは同様の税金が州付加価値税、中央販売税、物品税、サービス税などに分けられ、しかもそのうち1つだけしか課せられないこともあれば複数課せられることもあります。また、州付加価値税は州税ですので、各州によって詳細は異なります。このため、インド国内でビジネスを行うにあたってはどのようなビジネスをどこで行うか、工場はどこに設けるか、倉庫や支店をどこに設けるか、製造するのかしないのか等詳細に検討しないと正確な税コストを把握することはできません。

2. GST(Goods & Service Tax)への動き

現在の複雑な間接税体系が外国企業のインド進出を阻害したり、インド国内企業の事業活動を阻害したりしているとの反省から、複数の間接税の一本化が新たに検討され、これがGSTです。GSTは10年ほど前から検討されてきた間接税ですが、州によっては税収が減るということで反対意見が多く、今まで導入が見送られてきました。GST法案は下院で承認され、上院で議論されるなど、2015年になって導入に現実味が帯びてきました。

しかし2016年2月29日発表の新予算案では導入に言及されず、当初予定の2016年4月1日からの導入は実現しませんでした。

3. GSTの概要

複数の間接税を一本化すると述べましたが、実は現在提案されているGSTは、中央レベルでのCentral GST(CGST)、州レベルでのState GST(SGST)、州間取引に課せられるInterstateGST(IGST)の3つに分けられ、さらにIGSTに1%の追加GST(Additional GST)が課せられるという仕組みになっています。従来の間接税に比べて簡素化されたとは言え、追加GSTには仕入税額控除が適用できず、企業のコストになったり、CGST、SGST、IGSTの仕入税額控除の順番が決まっていたりなど、日本の消費税に比べると依然として仕組みは複雑なままです。

現在の間接税が廃止され、GSTに一本化された場合、税務および会計のみならず、製品価格設定やサプライチェーン、キャッシュ・フロー、ITシステムなど企業運営に様々な影響が及ぶと考えられます。GSTについては常に最新動向に注意し、適切な対応を図る必要があります。

III. 税務トラブル

1. インドへの支払に関する源泉税

日本からインドへの支払い、たとえばインドのコンサルタントへ支払う報酬について昨今日本での源泉税の徴収漏れの指摘がされ、トラブルとなっている会社が数多くあります。日本と外国との二国間での租税条約において多くの場合、コンサルタント報酬などについて双方の国で源泉徴収が不要となっています。

しかし、日印租税条約では源泉徴収が必要となっていることに気付かず、後日の税務調査で源泉税の徴収漏れが指摘されることがありますので注意が必要です。

2. インドからの支払に関する源泉税

インドからロイヤリティなどを受け取る際、日印租税条約がありますので、その軽減税率を使ってインドで源泉税を徴収してもらうことになります。

しかし、軽減税率を適用するためには受取人である日本企業側がインドの税務番号を取らなければなりません。税務番号の取得を怠ると、インドではインド国内税法における通常の税率で源泉徴収が行われ、手取り金額が減ることになってしまいます。また、インドで余分に源泉徴収された金額を日本側で外国税額控除しようとしても日本で認められない可能性が大きいので留意が必要です。

3. 日本人駐在員のコスト負担

日本の親会社からインドの子会社に駐在員を派遣する多くの企業では、駐在員の人件費の一部を親会社負担としていることがあります。駐在員は一旦インドに赴任した場合にはその子会社のためにほとんどの時間を使い、その子会社のために勤務していますので、全額インド子会社が負担することが原則だと思われます。インド子会社の財力不足が理由だったり、インド企業との合弁なので合弁パートナーが全額負担を認めなかったりなど理由は様々ですが、このようなコスト負担についてはインドの税務上トラブルとなることがあります。インドの税務当局としてはなぜ日本の親会社が一部コストを負担するかと言えば、それはその駐在員が日本の親会社のために働いているとみなし、当該駐在員は日本の親会社のインドにおける恒久的施設(いわゆるPE)とみなす傾向があります。インドの子会社とは別に親会社のPE、すなわち支店があると税務上みなしますので、そのPEもインドで法人税を支払わなければならないと主張してくるのです。このように余計な税負担が生じる可能性がありますので、駐在員の人件費の負担については慎重な対応が必要です。

IV. その他の主な規制緩和

2008年以降現在までインド国内で様々な規制緩和が行われています。その1つが外資規制の緩和です。もともとインドではほとんどの業種で外資規制が撤廃されていますが、金融や放送、通信、小売などにおいて一部外資規制が残っています。2008年以降の規制緩和で目玉とも言えるのが小売業に対する規制緩和です。以前は単一小売業にしか外資の参入が認められていませんでしたが、現在では一定の要件の下に複数ブランド小売業、いわゆるスーパー、デパート、コンビニ等についても外資の参入が認められています。

また、中小企業保護のため、2008年当時は35品目につき大企業が生産するためには事前にライセンスが必要で輸出も義務付けられるなどの規制がありました。しかし、2015年に当該規制は撤廃されております。

さらに、外国為替管理法においても規制緩和が行われています。2008年当時は海外からの借入金は設備投資にしか利用できないという規制があったため、日本の親会社がインドの子会社に対して通常の事業目的での金銭の貸し付けはできませんでした。しかし、この規制も徐々に緩和され、現在では一定の条件のもとにこれらの貸し付けも可能となっています。

その他、付加給付税の撤廃などの制度変更もありました。

V. 南アジア諸国の各種規制

1. パキスタン

パキスタンは1.8億人の人口を抱える世界で6番目に人口の多い国です。平均年齢も22歳であり、インドよりもさらに若い国です。パキスタンはインドと比べても遜色がないほど外資規制が緩和されています。インドと似通っている制度が多く、たとえばすべての会社が会計士の会計監査を受けなければならない、会社秘書役制度がある、労働関連法律が多いといった共通点があります。課税年度は7月1日から6月30日となっていて、法人税申告書の提出期限は9月30日です。法人税率は30%強であり、個人所得税の最高税率は35%となっています。小規模企業については法人税率が25%の軽減税率が適用され、会計基準に一部免除規定もあります。

2. バングラデシュ

バングラデシュは1.5億人の人口を抱え、ここ10年間のGDP成長率が6%以上であるなど安定成長をしている国です。縫製産業に依存しており、縫製品の年間輸出額は240億ドルを超え、中国に次ぐ世界第2位のアパレル輸出国です。インドおよびパキスタンと同様、多くの外資規制が既に撤廃されています。法人税率は30%前後ですが、金融機関や携帯電話会社等一部の業種につきましては40%前後の高税率が課されます。個人所得税率の最高税率は30%となっています。

3. スリランカ

スリランカの人口はわずか2千万人であり、その他の南アジア諸国に比べると小国と言えます。しかし、GDP成長率は6%台から8%台と安定しており、一人当たりGDPは3千ドルを超えており、南アジア諸国の中では比較的裕福な国です。金融業や小売業の一部に外資規制はありますが、概ね規制は撤廃されています。税務の課税年度はインドと同じ4月1日から3月31日となっています。法人税率は主に28%、給与所得に対する個人所得税の最高税率は16%と他の南アジア諸国に比べて若干税率は低くなっています。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
インド事業室
パートナー 笠間 智樹

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