ITの発展が変える金融ビジネスの競争環境 | KPMG | JP
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ITの発展が変える金融ビジネスの競争環境

ITの発展が変える金融ビジネスの競争環境

ITの発展は、金融ビジネスを取り巻く環境を大きく変化させています。1つは、FinTechと呼ばれる金融とITが融合して起こったイノベーションによって生じる変化であり、もう1つは、ITの発展が社会や経済活動を大きく変化させていくなかで金融分野において生じる変化です。

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前者のFinTechの台頭については、金融審議会が設置した2つのワーキング・グループから昨年12月22日に公表された報告書、いわゆるアクションプランに基づいて、2016年5月25日に成立した銀行および銀行持株会社による金融関連IT企業等への出資の容易化や仮想通貨と法定通貨の交換業者に対する登録制の導入といった法改正が行われたほか、ブロックチェーン技術の活用といった今後の検討課題とその実施状況をフォローアップする「決済高度化官民推進会議」等が設置されました。また、日本発の国際的FinTechベンチャーを創出するためのエコシステムの構築等について議論する「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」が新たに設置されるなど、引き続き活発な議論が続けられています。

後者のITの発展については、スマートフォンの普及による人々のライススタイルや購買行動の変化あるいは人工知能の発展に伴う競争環境の変化から、顧客が金融機関に求めるサービス内容が大きく転換すること等により金融ビジネスに大きな影響を及ぼしつつあります。

本稿では、金融分野で起こっているFinTechを中心とした環境変化とその変化に向けて実施あるいは検討されている法制度整備などの対応について、最新の動向を整理するとともに、金融分野に限定されない社会全体で起こっている環境変化にも触れながら、金融ビジネスへの影響と対応に向けた論点について考察します。

なお、本稿の内容は執筆時(2016年6月15日)における情報に基づいていること、および本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 銀行や銀行持株会社による金融関連IT企業等への出資の容易化といった銀行法等改正案が成立し、銀行にとっては経営の選択肢が増えた。
  • 仮想通貨と法定通貨の交換業者に対する登録制の導入を柱とする資金決済法の改正案が成立し、銀行にとって顧客との重要な接点となる銀行口座の代替機能を持つ仮想通貨に法的位置づけが与えられた。
  • 日本発の「国際的」FinTechベンチャーの登場・成長を促すエコシステムの構築等について議論する「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」が新たに設置されたことは、日本国内だけを見たビジネスモデルでは今後通用しないことを示唆している。
  • スマートフォンの普及や人工知能の発展といったITの発展は、社会全体にも大きな変化をもたらしながら、金融ビジネスの競争環境を大きく変化させている。

I. ITの進展等による金融ビジネスを取り巻く環境の変化への対応

近年、IT(情報技術)の発展がさまざまな角度から金融ビジネスを取り巻く環境を大きく変化させています。

金融ビジネスに直接大きな影響を及ぼすFinTech(フィンテック)※1の台頭という環境変化に対しては、金融審議会に設置された「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」(以下「決済業務高度化WG」という)および「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」(以下「金融グループ制度WG」という)の2つのワーキング・グループにおいて必要な法制度上の手当て等の提案を含む報告書、いわゆるアクションプランに基づいて様々な施策が具体化しつつあるところです。

このセクションでは、まず、こうした最近の制度整備に係る動向および現在展開されている議論について整理します。

 

※1 FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語であり、ITを活用した革新的な金融サービス事業を指す。資金移動を含めた決済分野のほかに、クラウドファンディングといった融資に係る分野、資産運用も含めた預金関連分野、及び金融サービスに付随する情報セキュリティ関連分野があると言われている。

1. 銀行(持株会社)による金融関連IT企業等への出資容易化と仮想通貨交換業者に対する登録制を導入する銀行法等の改正

2016年5月25日、銀行法や資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)を改正する「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立しました。この公布から一年以内に施行されることになり、それまでに関連の政府令が整備される予定です。

主な改正点の1つは、銀行法の改正による銀行又は銀行持株会社による金融関連IT関連企業等への出資の容易化と資金決済法の改正による仮想通貨と法定通貨の交換業者について登録制度を導入することです。

銀行法改正は、銀行持株会社が果たすべき「機能」を明確化するといった対象となる主体すべてに対して一定の対応を求める内容が含まれているものの、全体として、前述の出資の容易化やその他共通・重複業務の集約の容易化など、銀行にとっては経営の選択肢を増やす内容となっています。そうした意味では、銀行は、フィンテックの台頭に対して、こうした選択肢をどのように活用していくのかという戦略が問われていると言えます。

もう1つ注目されている改正点は、ビットコインといった仮想通貨への対応です。具体的には、仮想通貨と法定通貨の交換業者について、登録制を導入し金融庁が所管することが明確化されるとともに、利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理等のルール整備など利用者保護が図られ、国際的なマネロン・テロ資金供与対策に向けた要請も踏まえて、今後当該交換業者に対して本人確認等が義務付けられることになります。

日本において仮想通貨に初めて法的位置づけが与えられることになります。このことは法人が仮想通貨を扱いやすくなるなど普及に向けて一定の効果があるものと見込まれます。

仮想通貨は資金決済に係るパブリック型ブロックチェーンと捉えることが可能と考えられます。エンドユーザーから見ると現在盛んに研究されているプライベート型ブロックチェーンによる資金移転とそれほど大きな違いは感じられないかもしれませんが、銀行にとっては仮想通貨を使った資金決済は、銀行口座を経由しないことからビジネスモデルに深刻な影響を与えるため、大きな違いがあると考えます。※2

この顧客とのインターフェイスを引き続き維持できるかどうかというのは、金融機関、特に銀行においては、将来のビジネスモデルを考えるうえで非常に重要なポイントとなります。

 

※2 「仮想通貨とその基幹技術が起こす金融ビジネスと社会の変革(続編)」(KPMG Insight Vol.17/Mar 2016)を参照。

2. ブロックチェーン技術の活用可能性等について検討する「決済高度化官民推進会議」等の設置

前述の2つのワーキング・グループ報告書には、銀行法等の改正に繋がる提案だけでなく、ブロックチェーン技術の活用や銀行システムのAPI※3(接続口)の公開といった今後の検討課題について、業界における取組みを期待する記述が含まれています。

「決済業務高度化WG」が取りまとめた報告書において、「決済高度化に向けた取組みの進捗状況をフォローアップするとともに、海外の動向や決済高度化に関連するイノベーションの状況等を踏まえながら、継続的に課題と行動を特定し、それらを官民挙げて実行に移していくことが必要」とされたことを受けて、金融庁に「決済高度化官民推進会議」が設置されました。同会議は、6月8日に第1回会合が開催され、今後は四半期に一度のペースで会議が開催される予定です。

また、「金融グループ制度WG」が取りまとめた報告書において、金融商品取引所や清算機関についても銀行等のように柔軟な業務展開を可能にすることを検討すべきという指摘を受けて、他の課題に係る議論と併せた形ではあるものの日本の市場・取引所を巡る諸問題について幅広い検討を行う「市場ワーキング・グループ」が設置され、フィンテックの進展を受けた取引所の取組みについて検討される予定です。

こうした議論を通じて、ワーキング・グループでは結論を得なかった課題についても、単発の報告書の公表で終わることなく、継続的なフォローアップと課題解決に向けて結論を得るべく検討を重ねられることが分かります。金融機関は、フィンテックの台頭を受けた金融ビジネスを取り巻く環境変化に対する金融業界の取組みが今後も強化されていくことにも留意しながら必要な対応を検討していくことが求められます。


※3 API(Application Programming Interface)とは、オペレーティングシステム(OS)やアプリケーションの機能を利用するための接続仕様をいう。

3. グローバル展開する日本発ベンチャーの創出を目指すエコシステムの構築等を議論する「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」の設置

2つのワーキング・グループ報告書を受けた取組み以外に、フィンテック・ベンチャー企業の登場・成長が進んでいく環境(エコシステム)の整備等について議論する「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」が2016年4月27日金融庁に設置されました。

この有識者会議で注目すべき点が2つあります。1つは、国内金融市場および金融機関を監督する当局が金融機関の「監督」ではなく、フィンテック・ベンチャー企業の「登場・成長」が進んでいく環境の整備を課題として捉えていることです。これは、既存の金融機関が解決できない課題について、こうしたフィンテック・ベンチャー企業の登場・成長が解決に必要だと認識しているということが考えられます。言い換えれば、金融機関が現状に留まるだけでは十分に求められている機能を提供できていないことを示唆している可能性に留意する必要があります。

もう1つ注目すべき点は、日本発の「国際的な」フィンテック・ベンチャー企業の創出が課題とされていることです。これは、国際的な競争力を身につけないままでは、海外のフィンテック・ベンチャー企業等との競争に勝ち抜くことが難しい、言い換えれば、今後の金融ビジネスにおいては、日本に留まるようなビジネスモデルでは成長していくことが難しいと考えられているともいえます。

利用者利便の観点からは、より利便性の高いサービスが利用者に提供されることが望ましいですが、利用者保護の観点からは、国内金融市場において金融サービスを提供する者に対する十分な監督権限および法執行手段が確保されていることが望ましことがあります。かつて、外資系金融機関に対する行政処分が続いたことがありました。そうした金融機関は主としてホールセール業務中心であったのに対して、今後フィンテック・ベンチャー企業が提供する金融サービスは基本的にリテール向けになりますので、監督上の観点からはより一層注視するとともに国内フィンテック・ベンチャーおよび金融機関がこうした金融サービスを提供していくことが期待されていると考えられます。

II. ITの進展等による社会の変化が金融ビジネスに与える影響

近年のITの発展がもたらしている変化は、金融分野にのみ起こっている訳ではありません。ITの発展がライフスタイルや購買行動を大きく変化させ、結果として、金融分野にも大きな影響を与えることがあります。

このセクションでは、こうした金融ビジネスにも大きな変化をもたらし得るITの進展によって起こる社会経済活動の変化について考察します。

1. 金融機関に求めるニーズを変化させるスマートフォンの普及

世界中の人々のライフスタイルや購買行動を大きく変化させたITの進展の最たる例は、スマートフォンであると考えられます。

少し前のPC並みの処理能力を持つ端末を常時携帯可能としたことにより、金融サービスを含めた様々な経済活動の入り口がスマートフォンとなるようになりました。銀行口座はスマートフォンを通じてアクセスするようになり、振込などの為替取引は場所を選ばずできるようになったことで端末を財布として持ち歩いているかのような状況が生まれました。加えて、クレジットカードを含む電子決済の拡大から現金の利用頻度は減少し、来店しなければ得られないような情報や金融に関する相談もスマートフォン経由で得ることができるようになってくることで、銀行の店舗やATMの利用頻度が低下していくと言われています。

かつてはATMの設置台数が銀行を選ぶ基準であったこともあります。身近に、特に自身が日常的に往来するルート近辺に支店があることなどが口座を開設する銀行を選ぶ基準であったかもしれませんが、今後は銀行店舗やATMへのニーズは減少していくことが考えられます。

では、顧客は単にスマートフォンを通じて直接銀行にアクセスするようになるだけかというとそうではなく、店舗やATMと違って簡単に他社サイトにアクセスできるスマートフォンの画面上では、同業他社だけでなく、利便性の高い金融サービスを提供するフィンテック・ベンチャーも含めて金融サービスの入り口として顧客のインターフェイスをめぐる競争が待ち構えています。

たとえば、複数の金融機関から最適な金融機関を自動的に選択し資金決済するアプリなどによって機械的に資金決済サービスの提供金融機関が選択される場面が増えると、もはや支店網やATM網というのは銀行口座を開設する際の選択基準としては劣後し、手数料やその他のネット環境における利便性が選択基準として台頭してくるかもしれません。

来店やコールセンターよりも顧客とはるかに限定的なコミュニケーションしか取れないスマートフォンの普及と金融サービスへのアクセス経路の変化は、金融機関にとってアンバンドリングした金融サービス分野に進出するフィンテック・プレーヤーや仮想通貨とは異なる角度から顧客とのインターフェイスを縮小させるITの発展といえます。今後は、スマートフォンが金融サービスの主たる顧客のインターフェイスとなると考えられます。その時画面に現れるのは特定の金融機関ではなく、APIの公開によってさらなる利便性の向上が見込まれるフィンテック・ベンチャーの画面となるかも知れません。

2. デリバリーとペイメントの力関係を変化させる巨大プラットフォームの登場

日常の経済活動の大半は、財・サービスの受渡し(デリバリー)と対価の支払い(ペイメント)という2つの決済を完結させることにより成り立っています。人々が購入する財・サービスの種類は無数にあるのに対して、その対価の支払いとなる資金決済に使う通貨は、日常生活においては通常その国の法定通貨一種類です。

無数にある財・サービスの購入には、購入に至るまでのプロセスがあり、そのプロセスも個々人によって千差万別であることから、基本的に個別性の強い経済活動といえます。

購入者にとってペイメントは元来デリバリーに付随してやむを得ず行う作業でしたが、これまではデリバリー側の個別性が強いことと資金決済手段の共通性が高いことから、デリバリー側の都合に影響されることはなく、顧客から見れば、顧客の日常生活をできるだけ広くカバーできる資金決済サービスを提供できる銀行の中からメインの銀行を選ぶというインセンティブが強かったと考えられます。

ところが、ネット上のショッピングモールなどでは、物理的店舗であれば、同一店舗内で購入することがあり得ないような複数の商品でも、1つのモール内でまとめて購入することが可能です。そうして、束ねられたデリバリー決済に対して、通常ペイメントは一本で済みます。現実のショッピングモールでも、モールという1つの建物内で複数の財・サービスを購入できますが、店舗が違えば資金決済手段を変えることは可能ですし、ましてやペイメントは店舗ごとに行う必要があり一本化することは困難です。

このようにネット上のショッピングモールにおける買い物に関しては、デリバリーとペイメントの力関係は逆転し、デリバリーを提供する業者および利用者に選ばれる資金決済サービスを提供する金融機関でなければ、資金決済サービスを提供することが難しくなります。近年では、こうした商流プラットフォーム自体またはグループ企業が資金決済サービスを提供することが増えてきました。

こうしたネット上のショッピングモールのようなプラットフォーム型のビジネスは、顧客基盤の大きさがネットワーク効果となって競争力が高まるという特性から、ごく少数の巨大化したプラットフォームが勝ち残る一方、顧客基盤の弱いプラットフォームは駆逐されていくことが起こりやすくなります。これまでは、勝ち残るために支配的な顧客基盤を持つべき市場は、国といった単位で分断され、その分断された市場の中で勝者となることが重要でした。しかし、デジタルの世界では、支配的シェアを獲得すべき市場は、国境等によって隔たれることはなく、グローバルな市場となる傾向があります。そこで勝ち残る企業が提供する資金決済サービスは今後商流プラットフォームにおける膨大な顧客基盤に対して、プラットフォーム上での購入以外のデリバリー場面もカバーするような資金決済サービスを提供し既存の銀行にとって大きな脅威となることが考えられます。

元来資金決済サービスは差別化の難しい分野であり、直接の収益貢献は限定的であったものの、顧客とのインターフェイスを作る貴重な業務でした。

今後は、巨大な商流プラットフォームを通じたデリバリーの共通化の進展により、銀行を選ぶ基準が生活圏のカバー率ではなく、手数料の安さや良く使うプラットフォームにおける取引に有利かという基準で口座を開設する銀行を選択するようになることが考えられます。金融機関にとっては、こうした競争環境の変化についても留意していく必要があります。

3. 金融ビジネスの競争環境を変化させる人工知能の発展

現在、人工知能の発展がシンギュラリティ(特異点)を超えて、ディープラーニングの確立という新たな段階に入ったと言われています。人工知能といった社会全般に構造的な変化をもたらす革新的な技術は、金融ビジネス分野にも大きな影響を与えようとしています。

本稿では、人工知能自体について詳述することは行わず、人工知能が金融ビジネスに与える影響について、大きく2つの観点から考察します。

一般的に人工知能の発展によって、これまで人間が行ってきた金融ビジネスの一部を人工知能によって代替することが可能になると考えられています。たとえば、銀行が行う融資審査を人工知能が代替できるのではないかということについて盛んに議論が行われています。この点について留意すべきなのは銀行内部の融資部門の業務が縮小するのではないかということではなく、銀行の外でも融資審査が可能になるのではないかということです。クラウドファンディング等と組み合わせることにより融資機能が銀行の外で発展していく素地ができてきたとも考えられます。

このような点も含めて、多方面から銀行の融資能力を減じる環境変化が生じていると考えています。顧客とのインターフェイスの減少は新規顧客との接点の減少に繋がりますし、仮想通貨の普及による銀行口座の必要性の減少は、貸出原資となる預金の減少に繋がります。預金および為替取引のデータ不足は融資審査の能力にも影響を与える一方で、巨大商流プラットフォームはこれまで誰も手に入れることができなかったデリバリー側の膨大な決済情報を入手しより精緻な融資審査を行う能力を備えつつあります。

銀行の主要な機能は、融資の「審査」から融資案件の「発掘」となり、預金残高ではなく、預かり資産残高に重点を置く必要があるかも知れません。

上記に加えて、留意すべき点は、ディープラーニングの次に来る人工知能の発展段階として高度な翻訳機能が指摘されている点です。

これまで様々なクロスボーダー取引に係る障壁が取り除かれていくなかで、良くも悪くも日本の市場のグローバル化が一定水準までしか到達しない大きな理由が言語の問題だと考えています。仮にクロスボーダー取引において言語の障壁がなくなるのだとすると、それは、国境を跨ぐ競争が新たなステージへ移行することを意味します。

国内市場の規模がそれなりに大きいため、多くの日本発の起業は、まずは国内市場で足場を固め、それから国際展開を目指すという経営戦略が一般的になっていました。国内市場であれば競争相手も国内企業でしたし、顧客も基本的に国内で多数を占める日本人となります。リソースが限定的で目先の売り上げ確保が何よりも優先される起業初期では、いかに顧客たる日本人に売れる商品を開発するかにリソースを集中することは、むしろ当然だったかもしれません。

しかしながら、言語の壁が取り除かれ、ビジネスのプラットフォームがグローバルで単一化されると競争環境は一変します。競争相手は国内企業だけではなくなり、顧客を日本人に限定する合理性は減少します。最初から海外でも売れる商品を開発する必然性が高まり、国内市場を攻略してから海外展開という2段階方式は非効率な経営となっていると考えらえます。

III. おわりに

2016年5月25日に成立した銀行法等の改正は、フィンテックの台頭を受けた国内における法制度整備が完了することを意味するものではなく、さらなる法制度改正の可能性も含めて今後も様々な取組みが続くなかで、最初のステップを刻んだにすぎません。

金融機関はいくつもの課題を乗り越えていくことが求められます。すなわち、フィンテックの台頭や仮想通貨の普及、スマートフォンを通じた金融サービスへのアクセスの増加を通じた顧客インターフェイスの喪失、デリバリーに対するペイメントの影響力の低下から来る収益性の低下、および人工知能の進展による金融ビジネスの競争環境の変化といった課題について、金融機関は戦略的に対応していくことが求められます。

海外では既に多くの銀行支店が閉鎖されています。キャッシュレス化が進んだ国では法定通貨とは異なる疑似通貨が決済手段の中心となり、そもそも銀行口座の保有率が低い新興国では、主たる金融サービスへのアクセス手段がスマートフォンとなっている国もあります。

ありとあらゆる情報がデジタル化され、大量のデータを分析活用することが可能となった社会では、国ごとに異なるアナログ仕様という状況は減少し、データの処理能力という制約が少なくなるため、顧客基盤の大きさが最大の競争力の源泉となるプラットフォーム型のビジネスは、ますますボーダーレス化が進み、グローバルで巨大なプラットフォームが、国内市場における金融ビジネスの基盤となることが考えられます。

これまで、日本において金融ビジネスを展開するうえでの資金決済システム等のビジネス基盤は主として国内企業等によって提供されてきましたが、今後はグローバルに展開するプラットフォームが日本においてもビジネス基盤となることが増えるかも知れません。資金決済については、こうしたポジションを仮想(デジタル)通貨が奪う可能性が高いと考えます。

同一のプラットフォーム上では、そのうえで提供される財・サービスも共通化される傾向が強まります。日本国内のニーズを満たすことを念頭に作られた商品はコスト高となり、安価なグローバル商品との競争が激しくなると考えられます。人工知能が発展し、言語という障壁を取り除く時代が来ると、たとえば資産運用助言といった金融サービスはもはや国内向けに特化して開発する合理性はなくなるかも知れません。

いずれにせよ、国内の金融機関は、こうしたITの発展に伴う金融ビジネスの競争環境の変化は予想以上のスピードで進む可能性も視野に入れながら、戦略的に金融ビジネスを展開していく必要があると考えます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融事業部
シニアマネジャー 保木 健次

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