未知の領域へ:LNGの需給を巡る業界変貌(Part II) | KPMG | JP

未知の領域へ:LNGの需給を巡る業界変貌(Part II)

未知の領域へ:LNGの需給を巡る業界変貌(Part II)

世界のLNG市場は変貌を遂げつつあります。米国は2016年初頭までにメキシコ湾岸からLNGの輸出を開始すると予想されていますが、これはわずか10年前でさえも予想できなかった展開です。また、豪州は間もなくカタールに匹敵する規模のLNG輸出国になります。LNG輸入国が輸出国に転じる現象や、またその逆の現象が起こりつつある中、LNG価格の低下によって、新規プロジェクトの開発および既存プロジェクトの収益性は脅威に晒されています。

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LNG業界は景気循環的であり、多くの商品相場と比べてもその振幅は大きくなっています。たとえ業界の柔軟性が増しても、LNGプロジェクトは原油・ガス価格の急激な変化に簡単には適応できないような、非常に長期的な事業であり続けます。

2015年11月に発行された「Uncharted waters:LNG demand in a transforming industry(日本語版「未知の領域へ:LNGの需給を巡る業界変貌」(2016年2月発行))」に次ぐこのレポートは、LNG市場を取り上げた一連のレポートの第2弾であり、市場がどのように、またなぜ変化しているのか、そして市場参加者はそれにどう反応すべきかを考察しています。

イントロダクション

世界のLNG市場は変貌を遂げつつあります。米国は2016年初頭までにメキシコ湾岸からLNGの輸出を開始すると予想されていますが、これはわずか10年前でさえも予想できなかった展開です。また、豪州は間もなくカタールに匹敵する規模のLNG輸出国になります。LNG輸入国が輸出国に転じる現象や、またその逆の現象が起こりつつある中、LNG価格の低下によって、新規プロジェクトの開発および既存プロジェクトの収益性は脅威に晒されています。LNG市場に変貌をもたらす主な要因は以下の3つがあります。

  • LNG市場のグローバル化:
    売手や買手の数やタイプの増加により、LNG市場はグローバル化しています。
  • 価格モデルの変化:
    供給増とエネルギー価格の低下を受け、価格モデルは変化しつつあります。価格の低下は供給にダメージを与えますが、需要を創出するには競争力のある価格である必要があります。価格は主要市場間で収斂するようになりますが、新たな価格形成の場が出現する可能性もあります。
  • 供給におけるさまざまな不確定要素:
    数々の新しいプロジェクト候補が存在しますが、それらの進捗は、需要予測と価格水準、およびスポンサーがプロジェクト完成までサポートできるかにかかっています。


LNG供給に関する不確定要素
短期:プロジェクトの完成と生産開始、石炭に対するキャッシュコストの競争力

中期:現状の供給過剰の吸収、資本コストの削減、価格見通し、新規の投資意思決定、非在来型ガスの供給コスト、フローティングLNG(FLNG)の成否

長期:需要見通し、新たな価格モデル、イランおよびロシアの戦略、新たな種類の資源の可能性

 

2015年11月に発行された「Uncharted waters: LNG demand in a transforming industry(日本語版「未知の領域へ:LNGの需給を巡る業界変貌」(2016年2月発行))」に次ぐこのレポートは、LNG市場を取り上げた一連のレポートの第2弾であり、市場がどのように、またなぜ変化しているのか、そして市場参加者はそれにどう反応すべきかを考察しています。LNG市場の各参加者が検討すべき主な戦略的課題は、以下の通りです。

LNG生産者:
プロジェクト開発者は、新規の投資を再開するタイミングを見極める必要があります。また同時に、LNGプロジェクトの成功確率を最大限高めるべく、資本コストの削減、プロジェクト遂行能力の強化およびシナジーの追求に注力しなければなりません。未開発資源のポートフォリオをスリム化し、最適な成長見通しを維持することが求められます。

LNGトレーダー:
新たな供給源が出現することで、新たな輸送ルートや価格設定基準が生まれます。LNGトレーダーがプロジェクト権益に出資する場合、情報等の真の付加価値が得られるのか、コモディティの価格リスクに対する過剰なエクスポージャーに晒されないのか、といった点に留意する必要があります。

政府:
LNG価格の下落や法域間の競争の激化によって、資源保有国の政府は、地域社会や国家財政、環境といった全ての面での利益を実現しつつ、LNGプロジェクトの進展を促進するよう、より強い圧力に晒されます。高いガス価格に基づいて設計された規制や課税の枠組みは、再考を要するかもしれません。

LNG需要家:
LNG価格の下落は、需要家に最終消費者市場を再構築するチャンスをもたらします。彼らは、欧州やアジアの石炭や、パイプラインガスに対抗する競争力を付ける必要があります。アジアや一部のアフリカの国々においては、産業や発電における石油からガスへの転換や、ガスを使うインフラの建設など、新たな需要が産まれる機会があります。また、適正価格で、既存あるいは今後開発されるプロジェクトにマイノリティ出資し、垂直統合を図り、ポートフォリオヘッジを実現するチャンスもあります。しかし、LNG需要家が将来の供給源を選択する際は、確実に最終投資決定に至るため、スケジュール通りに生産開始できる見込が高いプロジェクトの中から、慎重に選ぶ必要があります。

LNG供給の見通し

将来的な供給には大きな不確定要素が存在する。検討されているプロジェクトの数は、短期的な需要を賄うために必要な数を遥かに上回っている。需要見通しにもよるが(これについては、前回のレポートを参照されたい)、一部は政治的な理由で、また多くは競争が激化している市場において経済性がないという理由で、検討中のプロジェクトの多くは中断を余儀なくされるだろう。

グローバル化によって、米国のシェール由来のLNGや、フローティングLNG、トレーディング・アグリゲーターといった、これまでとは異なるビジネスモデルを有する新たな供給者も出現している。技術革新により、非在来型資源やフローティングLNGの利用が可能となった。より柔軟なLNG取引の台頭は、事業面での革新、より多様化し流動性の高い市場、および浮体式貯蔵再ガス化という新技術の融合の表れである。

各国のLNG供給量2014年・2015年(百万トン/年)※5

短期・中期

アジアの旺盛な需要と高値を期待して、近年着工したプロジェクトの相次ぐ完成で、短期的には非常に高水準のLNG生産が見込まれる。2000年以降、LNGの供給は平均で年率7%増加しており、どのガス源よりも高い伸び率を示している※1。現状の生産能力は年間2億5000万トン前後だが、年間1億4000万トン分の建設が進行中である。2015年の世界のLNG生産量は、オーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランドおよびその周辺諸島)を中心に2.7%(年間680万トン)増加したが、今後は、大規模かつ低コストのシェールガスを武器に、初めてLNG輸出国となる米国※2も供給増に貢献する。米国産LNGの市場参入は、わずか10年前でさえ予想されなかった出来事である。

この供給ラッシュは、日本の原子力発電所の再稼働と中国経済の減速を背景に、目先の需要が比較的弱い時期と重なっている。これを受けて、売手は、仕向地制限を撤廃し、スポット再販を認めるなど、より柔軟性の高い契約条件を提示するようになっている。

石油・ガスの上流プロジェクトが45件延期された※3のとは対照的に、2016年中に最終投資決定を予定しているLNGプロジェクトの数はこれまでのところ大きな減少はない。7件のプロジェクトが2016年中に最終投資決定を行う可能性があり、このうちの2件はモザンビーク、1件はカナダ、4件は米国のプロジェクトである。商品価格の低迷や中国需要に関する懸念にもかかわらず、変動運転コストが低いプロジェクトは、最大生産能力に近い水準で稼働する可能性が高い。しかし、石炭価格下落の結果、米国産ガスの一部は欧州やアジアに流入し、百万Btu当り4ドル前後のガス価格ではキャッシュコスト(ヘンリーハブ価格と輸送費の合計)※4をカバーできない可能性がある。一方、昨年パリで開催されたCOP21気候変動会議後の気候・環境政策が、特に欧州における石炭使用の抑制に重要な役割を果たし、ガス需要を伸ばす可能性がある。

LNG船市場も目下供給過剰状態にある。2015年の傭船料は2012年の4分の1の水準に下落し※6、45隻のLNG船が遊休状態にある。2015年の年初時点で、世界全体のLNG船数247隻に対して、発注残は152隻であった。

 

※1 International Gas Union
※2 アラスカのKenaiプラントを除く。
※3 Wood Mackenzie, “Global gas prices-what will set the floor?”
※4 Wood Mackenzie, “Global gas prices-what will set the floor?”
※5 Poten & Partners (2015)
※6 RS Platou monthly, April 2015

表1 主要LNG生産者の供給に関するヘッドライン

豪州
  • 豪州の供給量は、年間3000万トン弱から2020年には同7500万トンに増加する見込みである※7
  • 豪州のLNGにとって2016年は重要な年になる。BGのQueensland Curtis LNGの操業開始と、Australia-Pacific LNGおよびGladstone LNGへのガス供給開始により、供給期待が加速している。
米国
  • 現在年間6500万トン分のLNG輸出設備を建設中である。
  • Cheniere Energyは、2016年2月または3月の出荷開始を予定している。
  • 2014年7月現在、エネルギー省は、検討中の34件のLNGターミナルプロジェクトから43件のLNG輸出許可申請を受領した。
  • 上記の申請は、18ヵ国のFTA締結国向けに全て許可された。このうち6ヵ国が現在LNGを輸入している(韓国、シンガポール、メキシコ、カナダ、チリ、ドミニカ共和国)。
  • 米国連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission、FERC)は、7件のプロジェクトに対し非FTA締結国向けの輸出を許可した。
  • EU(環大西洋貿易投資パートナーシップ、TTIP)や一部のアジア諸国(環太平洋パートナーシップ、TPP)との貿易自由化交渉により、LNGを輸入するFTA締結国が増える可能性がある。
カタール
  • 世界最大のLNG供給国である(年間生産能力7700万トン)。
  • ボトルネックの解消により、カタールの生産量は2018年までに年間8000万トンへ増加する可能性がある。
その他
  • アルジェリア:不安定な国内情勢や国内ガス需要の増加等により、国内生産の不足に見舞われた※8。アルジェリア国内の総供給量は年間350万トン以上減少し、2017年の年間生産は1900万トンとなる見込みである。
  • インドネシア:上流の開発は失速し、Bontang LNGへの投資不足により、2015年のインドネシアのLNG供給量は1750万トンに減少した。
  • ナイジェリア、トリニダード、マレーシア:安定的なLNG生産が見込まれる。
  • アンゴラ(年間520万トン):修繕のため休止中である。

 

※7 Poten & Partners, “Global LNG Outlook, Key Insights on Current & Future Trends,” June 2015
※8 Lidia Puka, “Pushing the Limits of Algeria’s Gas Exports to the European Union,” The Polish Institute of International Affairs, No.72 (804), 13 July 2015

世界のLNG供給量(百万トン/年)

長期:2025年以降

長期的にはLNG需要の増加に対応すべく、新規プロジェクトを立ち上げる必要がある。

オーストラレーシア:
現在の新規プロジェクト開発ラッシュの終息後、さらにLNG輸出を拡大するには、パプアニューギニアにおけるグリーンフィールドプロジェクトや、ボトルネックの解消、ブラウンフィールドの拡張などの選択肢がある。豪州のスキルセットや、政治的安定性、企業が活動しやすい事業環境を考えれば、多くの世界的LNGプレーヤーにとって、これらは将来的なポートフォリオの核となるプロジェクトである。だが、新規の投資決定は、コスト競争力の向上、環境的・地域的要求事項の充足、および現在のメガプロジェクトブームで直面した諸問題への解決策を見つけ出せるかにかかっている。

東南アジア:
LNG輸出の歴史的中心地であったが、埋蔵量の減少と生産量の先細りにより、既存プラントの生産量維持という課題に直面する。Petronasがマレーシアに保有する2つのフローティングLNGプラントや、インドネシアのSulawesiにあるDonggi-Senoroプロジェクト等、比較的小規模な複数の新規プロジェクトが開始されつつある。また非在来型資源(シェールおよび炭層メタン)も関心を集めつつある。マレー半島およびマレー諸島の需要に対応するため、次第に東南アジア域内はもとより、国内におけるLNG取引の重要性も高まると考えられる。

米国:
輸入設備の転換を含む多くのシェールガス輸出プロジェクトが、現在認可のさまざまな段階にある。現在の価格環境を考えれば、短期的には全てのプロジェクトが進展するわけではないだろうが、今後の市場動向次第で再開することも可能であろう。KPMG米国のOil & Gas担当マネジングディレクターBrian O’Nealが指摘するように、「この市場では、新規のガス生産とLNG輸出設備が共に直面する共通課題がある。それは利用可能な資本である。経営難のE&P資産を買収すべく、何百億ドルもの資金がプライベートエクイティや商業銀行から提供されたが、まだ大規模な買収は起きていない。同様に、LNG輸出設備の開発にも何百億ドルもの資金が必要だが、投資家はやみくもに市場に殺到するのではなく、投資先を選別中である」。継続的な投資案件または潜在的な再開案件を魅力的なものとする要素の1つに、素早いスタートが可能かどうか、という点がある。建設資材や建設に必要な人材がすぐに入手可能であることが、プロジェクトの優位性を高め、バランスの取れたポートフォリオとしての重要な構成要素となる。

米国のビジネスモデルは、トーリング設備、ヘンリーハブ価格、およびマーケティングや引き渡しに柔軟性をもたらす仕向地制限の緩和といったビジネス要件から多大な影響を受けている。O’Nealは、米国のLNG開発者が「集ガスビジネスやマーケティング等の他の収入源に着目している」と述べている。「M&Aやさらなる資本調達も重要である。LNGは、多くの点で原油取引の発達における初期段階に似ている。同業者間の市場として始まったものが、指数ベースの価格設定、仕向地の柔軟性、および航路の選択性に向かいつつある。市場の発達が続けば、トレーダーは、資産の最適化や、仲介業者や小規模LNGプレーヤーに代わって、直接積荷を差し向ける能力を活用して、利益を上げられるようになるだろう。」

カナダおよびアラスカ:
ブリティッシュコロンビアやアラスカのグリーンフィルードプロジェクトも、豊富なガス埋蔵量、政治的安定性およびアジア市場への近さに恵まれているが、コスト、環境問題、先住民族グループ(ファースト・ネーション)との関係および政策面の障害を克服しなければならない。カナダのLNG輸出は2023年に開始し、2025年までに年間1200万トンに達すると予想されている※9

東アフリカ:
モザンビークやタンザニアの深海で発見された巨大なガス田が、LNGとして開発される予定である。これらのガス田は極めてコスト競争力が高く、アジアへの供給にも有利な立地にある。ENIは、Coral LNGプロジェクトでモザンビークの国営石油会社ENH、ペトロチャイナ、韓国ガス公社およびGalp Energiaと提携した。一方、75兆立方フィートのガス埋蔵量があると言われるMozambique LNGプロジェクトにはAnadarko、ENH、三井物産、PTTおよびONGC Videsh、Bharat PetroResources、Oil Indiaのインド系3社が参加している。どちらのコンソーシアムも、国際石油会社1社、国営石油会社1社、主要LNG輸入国から数社という典型的な組合せである。

だが、彼らは、現地の適切なインフラの整備、労働者の能力開発、国内および新たな産業向けガス需要への対応、政府や制度面の能力向上といった課題に直面している。ガス探査の成果次第では、他のアフリカ諸国もLNG輸出国になる可能性がある一方、発電用の原油を代替すべく少量のLNG輸入に動く国もある。

原油とLNGの価格低迷により、グリーンフィールドのLNGプロジェクトの経済性が脅かされている。KPMG Africa International Development Advisory ServicesのアソシエイトディレクターであるMark Essexは、「インフラに加え、モザンビーク北部の遠隔地で必要とされる膨大な量の機材が不足している。道路などの建設支援に関心を示す民間企業や援助団体がいるかもしれない。政府も各種の障害の存在を否定している訳ではない。世界のLNG供給に係る展望の中で、これらのプロジェクトがどういう位置付けにあるのか、政府は理解している」と指摘している。政治的な問題もプロジェクトを遅延させることがある。Energy and Natural ResourcesのシニアマネジャーであるJean Githinjiは、「関連法案も成立し、今やモザンビークは本格的に動き出そうとしている。タンザニアは選挙を控えていることもあり、やや緩やかなペースで進んでいる。今は東アフリカの選挙シーズンに当り、石油・ガスプロジェクトの優先順位は変化しているが、政府が柔軟に対応すれば、プロジェクトを前に進めることは可能である」と述べている。

中東:
この地域には大規模で低コストの資源が存在し、現在世界最大のLNG供給国であるカタールを擁する。カタールのノースフィールドガス田では新規開発の凍結が続いているため、現時点では、同国のLNG生産量がさらに増加する可能性は低いとみられる。ノースフィールドガス田はカタールからイランにまたがっているが(South Parsガス田)、イランは広範な経済制裁の解除を経て、野心的なLNG計画を有する。しかしイランのLNGプロジェクトは、外国からの投資を呼び込む必要があり、また国内需要やパイプラインによる輸出プロジェクトと競合することになる。内戦の影響によるイエメンからのLNG輸出の停止が示すように、この地域では地政学的懸念が続いている。また、地中海東部を見ると、イスラエル沖で発見されたガス田にとって、LNGは依然として選択肢の1つではあるが、コスト面や政治面での障害が残っている。

ロシア:
ロシアは、主としてパイプラインガスの輸出国だが、膨大かつ低コストのガス資源と、欧州以外への顧客基盤の拡大という望みを有する同国にとって、LNGは実現性のある選択肢の1つである。LNGは、Gazpromの東アジア戦略の中心的要素のようだが、中国向けパイプライン計画との調和は図れていない。さらなる進展の可否は、近隣諸国との政治的な関係や、現在経済制裁によって制約されている資金や技術の入手にかかっている。

不確定要素:
10年前には、非在来型資源はおろか、東アフリカや地中海東部でLNGとして開発可能な巨大ガス田が出現することさえ予測する人はほとんどいなかっただろう。アフリカ北西部沖で最近発見されたガス田や、新興の非在来型ガス田が、2025年以降LNGに貢献するかもしれない。初期段階にあるPetronasやShellのプロジェクトの成否次第では、フローティングLNGがオーストラレーシアやアフリカ、ラテンアメリカの小規模ガス田にとって実行可能な選択肢となるかもしれない(2014年11月発行のレポート「Floating LNG: Revolution and evolution for the global industry(日本語版「フローティングLNG:世界のLNG業界にとっての革新と進化になり得るか」(2015年2月発行)」を参照されたい)。

下の表※10は、将来大きなLNG供給源となる主要地域における課題を評価したものである。問題の深刻度を赤(最も深刻)、オレンジ、緑(軽微)でランク付けしている。

※9 Poten & Partners
※10 特定のプロジェクトまたは企業への言及を意図したものではない。

表2 将来的なLNG供給大国が直面する課題

LNG事業を成功に導く戦略

 

"我々にはこれまでコスト削減の経験はない。だが、やらなければ、我々の将来はあるべき姿より暗いものになるだろう"

Andrew Walker氏
Cheniere Marketing
マーケティング担当
ヴァイスプレジデント
European Gas Conferenceにて


LNGの売手
今日のプロジェクトは皆、コストという課題に直面している。それが既存プロジェクトのリターンの最大化であれ(たとえ総コストに占める営業費用の割合が比較的小さくても)、あるいは、より重要性が高いが、新規プロジェクトの実現可能性を維持するための資本的支出の削減であれ、例外ではない。KPMGのEnergy & Natural Resources Oil & GasセクターのリーダーであるパートナーのJonathan Smithは、「現在の事業モデルは原油価格が高騰していた時期に構築されたものであり、企業はコアコンピタンスに立ち返って、事業モデルを再考する必要がある。豪州のプロジェクトは、キャッシュフローと運転資本の管理、および坑井以降のプロセス全体に係る総合的な事業計画にフォーカスしている」とコメントしている。

遠隔地での新規大型プロジェクトの開始には固有の課題がある。「現状においてこれらのプロジェクトを最終投資決定まで持っていくには、インフラの共同利用や有利な資金調達条件、規模の経済、そして場合によってはフローティングLNGの採用などを通じた経済性の改善が必要だ。資金調達にもより多くの時間がかかるだろう。グリーンフィールドプロジェクトには巨額のコストがかかるため、まずはプロジェクトを1件軌道に乗せ、そこから物事を進めていくことが重要だ」とMark Essexは述べている。

大手国際石油会社は、大型LNG供給地のほとんどの地域に進出しているか、または望めば参入することができる。選択肢を有することがカギとなる。LNGプロジェクトは長期間にわたるが、市場環境が見合う場合には、先発者となることで、建設コスト上昇の抑制や顧客獲得を巡る競争の緩和という利点を享受できる。だが、直ぐに立ち上がる見込みがないプロジェクトについては、プロジェクトの進展を望む政府の期待をコントロールしつつも、多額の継続的支出は避けなければならない。企業は、市場環境や政府の政策、新たなインフラ計画といった、棚上げされたプロジェクトの再開が可能となるような変化に、常に目を光らせておく必要がある。あるいは、近隣ガス田の探査や近隣の資源保有者との連携を通じて、プロジェクトの立上げに最低限必要な条件を自ら創り出すことができるかもしれない。フローティングLNG等の新技術の活用により、それまで取り出す術のなかった資源が利用可能になることもあり得る。

 

Jonathan Smithは次のように指摘する。「企業はポートフォリオを見直している。資産を処分するか、踏みとどまるか、それともシナジーが見込める新たなパートナーを迎えるか。」資産の交換も、最も価値を付加できる所有者に資産を移転するための選択肢となり得るだろう。

Brian O’Nealが指摘するように、大手国際石油会社は長い時間軸に耐え得る余裕があり、景気循環の波を乗り越えられるかもしれない。「BG買収に動いたShellは、歴史的な安値相場においてガスの持ち高を大幅に増やした企業の好例だ。別の大手LNG開発者は、20~30年の時間軸で設備の実現可能性を検討している。」 Jonathan Smithは、「2000年代の初期に、原油価格が1バレル100ドルになる可能性を考慮したプロジェクト評価がなかったのと同様、現在のLNGプロジェクトは1バレル35ドルという原油価格を想定していなかった。LNGは長期間にわたる循環的ビジネスであり、プロジェクトの最終投資決定に至るまでに長時間を要する」と指摘する。

小規模な企業は、オーストラレーシアや米国のシェール由来LNGといった、地理的または技術的な特定領域に特化するようになるかもしれない。彼らが多国籍企業に対抗するためには、自国市場で専門技術を培い、地元での知識と関係に頼る必要がある。また、アフリカの一部でみられるように、遠隔地で取得または発見したガスを市場に届けるための唯一可能な手段として、必要に迫られてLNG事業に参入した企業もあるだろう。彼らは、大型プロジェクトを遂行し、完成させるために、スキルを身に付け、資金面およびマーケティング面での協力関係を構築する必要がある。事業パートナーの候補としては以下のような例が考えられる。

  • 大手のLNG開発者。ただし、小規模企業は、自社のプロジェクトが大企業のポートフォリオの中で優先度を維持し続けられるように留意する必要がある。
  • エンジニアリング会社またはサービス会社。例えば、Schlumbergerは2016年1月に、Ophirが赤道ギニアに有するFortunaフローティングLNGプロジェクトの40%の持分を取得する仮契約に署名した。
  • プロジェクト権益の持分を取得する可能性のあるLNG購入者(ポートフォリオトレーダー、ないしアジアの輸入国の企業)。

 

金融環境の逼迫に鑑み、「小規模企業は、長期契約価格や資産の特性を資本市場に理解してもらうよう努める必要がある」とO’Nealは指摘する。

国営石油会社は、スーパーメジャーと同等の規模と財源を有するが、自国市場にとどまっていることが多い。Petronasのような一部の企業は、LNGのエキスパートとして認知されているが、多くの国営石油会社は、必要とされるスキルを自社内で磨くか、提携関係を通じて獲得しなければならない。Qatar Petroleum等の一部の国営石油会社は、より多様性のあるマーケティングポートフォリオを構築すべく、世界のLNGプロジェクトに参入している。一部の国々におけるLNG産業のさらなる発展は、国内ガス需要と輸出により得られる収入のバランスを、いかに保つかにかかっているかもしれない。国際的なプロジェクトに関しては、国際石油会社と同様に自らの能力を向上させる必要がある一方、国内のLNG生産との重複を最小化する必要がある。


政府
有望なLNG資源を有する政府は、それらを開発段階へ進めようとする企業の努力をどのように支援できるかを検討すべきである。州レベル(ブリティッシュコロンビア、西オーストラリア、クイーンズランド等)から国家レベルまで、さまざまな政府が現在LNG開発に関わっている。この中には、LNGビジネスに精通している政府もあれば、モザンビークやタンザニアのように、初めてLNGに取り組む政府もある。中・低所得国は、新興のLNG産業を規制・支援するための組織能力の整備に際して課題に直面するかもしれないが、一部の高所得国の中にも、メガプロジェクトが提起する複雑な問題に直面している例もある。

政府は、環境や地域社会の利害関係者の要求と、プロジェクトの提唱者や地元企業の要求を両立させなければならない。LNG開発は、社会的費用やインフラ建設コストの負担を強いる可能性がある一方、直接的・間接的な雇用や、新たなスキルセット、地元産業向けのガス供給および税収入を創出する。政府は、特にコモディティ価格の低迷期においては、プロジェクトが収益性を維持できるような財政制度を整備する必要がある一方で、自国の資源に対する正当な見返りを国民のために確保しなければならない。規制は堅固なものでなければならないが、過度に負担の重いものであってはならない。また、政府には、無駄な重複を避け、共通のインフラを提供するために、複数の開発プロジェクトを調整する役割も求められるだろう。

タンザニアとモザンビークの政府は、新規LNGプロジェクトが国内で生み出す価値を最大化すべく、ガス会社や国際機関と協力している。Jean Githinjiが指摘するように、「モザンビークは、世界銀行の支援を受けてガス契約をベストプラクティスに合致するものに修正した。また、Anadarkoは能力開発の支援に多くの経営資源を投入した。Skills for Oil & Gas Africa(SOGA)は、タンザニアの地元労働力を育成すべく、英国のDFIDやドイツのGIZといった開発機関と提携し、BGはその取組みを支援した。」


LNG輸送業者
Jonathan Smithは、LNG生産者が業務のうち輸送に関する部分を見直していると指摘する。「他のやり方があるだろうか、と彼らは自問している。数年前には、人々は海上輸送能力を確保できるか心配していた。今では輸送能力は潤沢にあり、2017年には上昇する可能性が高いものの、傭船料も安い。輸送能力(およびシンガポールの貯蔵能力)の増加により、スポット取引が可能となるだろう。」


LNG需要家
LNGの需要家は、いくつかの矛盾する優先事項のバランスを取らねばならない。どの供給源が適切であるかは、需要家の固有のニーズによる。価格競争力とは、必ずしも最低価格であるとは限らず、買手の最終市場と整合する価格のことである。供給源の多様化と柔軟性は、単一プロジェクトではなく、アグリゲーターかトレーダーと契約することで達成できるかもしれないが、コストは高くなるかもしれない。需要家は、各プロジェクトの強みと弱みを慎重に検討することで、どのプロジェクトが最終投資決定へ進み、スケジュール通りに完成し、稼働後は安定的に操業する可能性が最も高いかを見極めることができるだろう。


"我々はリンボーダンスの一大ゲームに突入しようとしている。世界のLNG市場が設定するハードルの下で、誰もが踊らねばならなくなる"

Andy Williamson氏
EconGas
LNG供給責任者
European Gas Conferenceにて

結論

LNG業界は景気循環的であり、多くの商品相場と比べてもその振幅が大きい。たとえ業界の柔軟性が増しても、LNGプロジェクトは原油・ガス価格の急激な変化に簡単には適応できないような非常に長期的な事業であり続ける。LNGプロジェクトは一件当たりの生産量がかなり大きく、原油と異なり、一件の大型プロジェクトによって世界の供給量が3%以上増加する場合がある。下のグラフが示すように、世界最大である日本のLNG市場では、価格がピークから底に達するまでに15年、そして再びピークに戻るまでに14年かかった。LNG市場は、需要や供給の自然な変化に加えて、地政学、規制、景気後退、経済的競争力、技術、自然災害、代替的エネルギー源の発達といった、広範かつ急激な変化に晒されている。

日本のLNG価格(CIF価格、インフレ調整済み)※11

※11 BP Statistical Review of World Energy 2015のデータ。2014年を基準とする実質価格ベース。

LNGの需給や価格が今後どのように推移するかを予測することは極めて困難な作業であるが、短期、中期および長期における重要なトレンドは以下の通りである。


短期
中国の国内エネルギー政策と同国経済の減速を背景に、LNGセクターは、世界的な供給過剰と相対的な需要の弱さに見舞われている。

さらに、LNGの75%が依然として原油価格連動であるため、基準となるコモディティ(原油)が反発しない限り、LNG価格の下落圧力は強まるだろう。また、欧州でもアジアでも、LNGは石炭に対する競争力をつけなければならない。


中期
より流動性が高く活発なスポット市場に加えて、需要の高まり(2015年のパリでの気候変動会議を受けた世界的な脱炭素化運動等)を受けて、LNG価格はいずれ上昇するだろう。

今後数年間は価格の低迷により、新規のLNGプロジェクトは延期される可能性が高く、潜在的な供給能力が失われるだろうが、これが需給再調整のきっかけとなるだろう。


長期
世界のガス資源は、在来型、非在来型とも、依然として巨大である。イランおよびロシアがLNGとパイプラインのどちらを選択するかは、大きな影響を及ぼすだろう。革新的な価格決定モデルやビジネスモデルを有する米国からのガス供給は、業界に新たな柔軟性をもたらす可能性がある。一方、フローティングLNGの採用により、スピードと柔軟性が高まると期待される。カナダや東アフリカからは、政治やインフラ絡みの課題はあるものの、巨大で低コストの資源を有するグリーンフィールドプロジェクトが登場する。

これらのガスはいずれ市場に出てくるが、そのためには価格の改善に加え、技術、プロジェクト管理および事業的な仕組みのさらなる改善が必要である。

この長期の循環性を前にして、既存および新規の供給者は、困難な時期を確実に乗り切れるよう対応を図ると共に、上昇局面に備えて準備しておく必要がある。この点において重要なアプローチは以下のとおりである。

  • コストに関する規律
  • ポートフォリオの柔軟性
  • 戦略的な忍耐力
  • 成功をもたらす提携関係

執筆者

KPMGカナダ
LNG, Power & Utilities
ナショナルセクターリーダー パートナー Mary Hammingsen, CA

KPMG米国
Oil & Gas
マネジングディレクター Brian O'Neal

KPMG豪州
Energy & Natural Resources
Oil & Gasセクターリーダー パートナー Janathan Smith  他

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