Foresight:世界のインフラ市場に係る展望-2016年における10の新たな業界動向 | KPMG | JP

Foresight:世界のインフラ市場に係る展望-2016年における10の新たな業界動向

Foresight:世界のインフラ市場に係る展望-2016年における10の新たな業界動向

世界的な経済の崩壊か大惨事が起きない限り、2016年はインフラ業界の成長が加速する年になりつつあります。このような動きの兆候は、新たな資金源や資金調達手法の登場、抜本的な変革をもたらしているアセットマネジメントの手法、サイバーセキュリティや公的部門での調達における進化、経済的および社会的な便益の拡大を狙った政府によるより大胆な行動等、いたるところで目にすることができます。

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今後5年間でインフラ市場を変えるトレンド

世界的な経済の崩壊か大惨事が起きない限り、2016年はインフラ業界の成長が加速する年になりつつあります。

このような動きの兆候は、何兆ドルもの新規の株式・デット投資を可能にすると考えられている新たな資金源や資金調達手法の登場、オペレーターやオーナーに対してインフラ資産の管理方法に抜本的な変革をもたらしているアセットマネジメントの手法、サイバーセキュリティや公的部門での調達における進化、経済的および社会的な便益の拡大を狙った政府によるより大胆な行動、そして政府の「マクロ」視点でのニーズと消費者の「ミクロ」視点での決断の調和の進展等、いたるところで目にすることができます。

KPMGインターナショナルは、過去4年間にわたり、今後数年間でインフラ市場に影響を及ぼすであろう重要な業界の動向を追跡してきました。KPMGインターナショナルが過去に指摘してきたこれらの動きのいくつかは、現在でも引き続き確認することができます。例えば、政府は今も懸命に民営化事業を滞らせるものの一掃に尽力したり、新興市場は相変わらず資金不足に直面していたり、公的部門、民間部門および納税者の最適な関係は変わり続けていたりします。大きな問題に対して何らかの変化が起きる時、それらは一夜にして起きるのではありません。この事象は予測できるものなのです。

本年の「2016年における10の新たな業界動向」が示唆するように、インフラ業界で、より大きな変化が起きようとしています。これらのトレンドの多くが、より明確になり、相互に作用することで、政府、企業および利用者のインフラ業界への関わり方や投資方法が様変わりする可能性が、大いにあります。そして、より重要な点ですが、インフラ業界に携わる人々がこれらの動向に対して適切に対応することができれば、今日この業界が対処を迫られている、より大きな懸案事項の多くを解決することができるでしょう。

本年の洞察が、主な業界動向を浮き彫りにするだけでなく、インフラ業界に影響を及ぼしているあまり目立たない長期的な諸変化について、読者の皆様が気付くきっかけとなればと考えています。KPMGのインフラチームにコンタクトしていただき、より詳しく、これらの業界動向や、それらが及ぼす影響に関して、議論できれば幸甚です。

トレンド1:マクロ的なリスク環境の変化 - 「ノー・ノーマル」がニュー・ノーマル

不安定な政治体制や規制が原因となり、インフラ投資を検討している投資家がさまざまな難題に直面しているという現状に、昨年KPMGインターナショナルは言及した。しかし、政治や規制に係るリスクは、もはや氷山の一角でしかないことが、今日では明らかになっている。

予想外の選挙結果やそれにより引き起こされる政治的な混乱、保護主義を擁護する国民感情の高まり、既存秩序を揺るがす技術の急速な進歩や、政治体制や社会情勢の世界的な大変動など、世界中の至る所で不安定な状態が続いている。このような状況では、インフラ施設に係る計画や投資の基礎となってきた、過去から蓄積されてきた経験や知識は、もはや役に立たないように見える。

興味深いことに、新興国や発展途上国といった国々が、このような状況を上手く利用し、多くの国から注目を集めようとしている。例えば、中国による「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行の創設は、アジア地域における経済成長予測を引き上げるだけに留まらず、地域における中国の発言力を高めることにつながる。インドの製造業やインフラ業界に対する日本からの巨額投資、ASEANにおけるシンガポールのリーダーシップや、湾岸諸国による欧米の資産への継続的な投資の動きから、パワー・ポリティクスが未だに健在で、遠くない将来にさらなる変化が訪れることが予感される。

投資家は、不確実性というリスクを好まないにもかかわらず、投資の判断に際して増大しているリスクを過少評価しているケースが多いようだ。現在、市場には投資マネーが溢れており、その資金を元手に、投資家間での競争が激化していることが、この背景の一因であると思われる。しかしながら、時間とともに、投資家はこのようなリスクの測定、コントロールや評価に対して、より慎重になっていくであろうとKPMGは考えている。

長期的な視点

「ノー・ノーマル」が恐らく当分の間の「ニュー・ノーマル」になるということが現実であり、投資家はこれらの新しく直面するリスクに上手く対処できるようになるとともに、適切な評価方法を学んでいくことが必要だ。また、地政学的な抗争が、世界の秩序、貿易および投資資金の流れに根本的な変化を起こす可能性がある。

トレンド2:投資を巡る競争の激化

市場に投資マネーが溢れるにつれて、インフラプロジェクト獲得のための投資家間の競争は熾烈をきわめている。

機関投資家があり余る資金の運用先を求めて、インフラ市場への投資を増加させたことが、このような競争激化の一因だ。しかし、アフリカ開発銀行によるアフリカ50基金といった、国や国際機関による投資活動が増えたことも強い影響を与えている。このような国際機関による投資は、ROIのような収益性の投資基準以外に、インフラプロジェクトの目的を投資判断の優先項目と位置付けることが多く、そのような行為がマーケットにおけるインフラ投資の資金調達と収益性の関係性を歪めている懸念がある。

市場に投資マネーが溢れたことが投資家間での競争を激化させ、リスクが低い一般的なインフラ投資の投資利回りを押し下げるという流れになっていることが、現時点での根本的な問題だ。成熟市場において、規制下にあるインフラ資産に対するマルチプルは急上昇しており、一部の投資家は、市場シェアを獲得するだけのために、既に支払いすぎている可能性があるという懸念を高めている。

一方で、より活発な投資活動を行う、洗練された投資家の数も増加している。彼らは評価したリスクを価格へ反映することに長けており、オペレーション改善といった取組みを通じて、より高い収益率を期待できる多様なインフラ案件への投資へと動き出している。

そのような投資家の中には、高い開発リスクを伴うグリーンフィールド案件への投資を始めるものもいれば、社会インフラやヘルスケア関連資産への投資活動を始めた投資家もいる。さらには、特にアジアの洗練された投資ファンドを中心として、ミャンマーやモンゴルといった、これから開発が本格化する「フロンティア市場」で、潜在的な投資機会を探る投資家もいる。

世界中のインフラプロジェクトのオーナーにとって、このような流れは歓迎すべきことだ。インフラ市場への資金流入が加速し、投資家が投資リスクをマネージする経験を積むことで、先進国と発展途上国のいずれの市場においても、資金調達の額が増加するとともに、調達コストが低下することが予想される。しかしながら、民間の投資家は、安定的で予測しやすい投資環境を有する市場での投資だけに関心を持ち、合理的な投資価値の評価をするということを、政府やインフラプロジェクトのオーナーは理解しておくべきだ。

長期的な視点

長期的に見ればこの変化は、誰がどういうリスクを取るか、そして彼らがいつ、どのようにそのリスクを取るかというダイナミズムを、永続的に変えるだろう。しかし究極的には、これは今後50年、もしくはそれ以上の期間において、投資資金ニーズとインフラへの投資機会が合致するという転換点となり、発展途上国では経済成長が促進され、先進国では年金資金の運用先が確保されることになるだろう。

トレンド3:経済・社会的便益の拡大に向けたインフラ市場の活性化

KPMGは2年前、民営化事業を滞らせているものの一掃に向けて、政府は何らかの行動を起こすと予測した。そして昨年は、インフラ市場への政府の介入が増加傾向にあると指摘した。それらの行動は、民営化事業の進展に大きな効果を与えなかったことが判明しているが、2016年は、政府が(官民による)完璧なリスク分担の実現化よりも、民営化事業の実現化に注力することで、さらなる民営化事業に向けた一歩を踏み出す年になると、KPMGは期待をもって予想している。

リスク負担を最大限減らすことを目指し、案件のストラクチャーや契約条件を完璧にしようとするあまり、政府は本当に達成すべき目標を見失っている。その結果プロジェクトが複雑化し、投資家にとって魅力が薄れ、案件の具体化までに多大な時間が費やされることに、多くの政府関係者がようやく気付き始めた。つまり、政府は経済や社会的な便益の拡大といった大きな目標を達成するのではなく、各案件を完璧にすることに、より注力してきたといえる。

2016年は、各国政府が、民間市場を軌道に乗せるために必要な措置を講ずることで、民営化を妨げる障害を取り除くための、より強い行動を取り始める年になると、KPMGは確信している。具体的には、リスクを最大限低減させようと試みたり、プロジェクトに関連するさまざまな要素を完璧に整備したりしようとするよりも、インフラ市場を設立し、プロジェクトを具体化させることの方が、長期的な経済・社会的便益を拡大させるという意味でより重要であると、政府の指導者は認識するだろう。

先進国では、政府が市場に介入する傾向がより強く、このような動きは、調達面の改革という点である程度有効であった。しかし本年は、多くの発展途上国がこれに追随し、投資を呼び込もうとする動きが見られると予想される。この動きが期待通りに現れれば、1990年代後半から2000年代前半にチリで成功した有料道路のコンセッションのような、25年前に南米市場で起こった動きが再現されるだろう。

長期的な視点

端的にいえば、プロジェクトを活性化すべきなのはパブリックセクターであること、また、経済・社会、そして環境面での目標を達成するために、今日まであまりに民間に頼り過ぎていたことを、各国政府は認識し始めている。政府が長期的な経済的利益や、その他の国家的な目標の達成を目指すのに対して、民間企業は商業的な収益を求めるのが現実だ。このような背景もあり、政府は自国のインフラ市場を活性化させようと積極的な行動を取るようになると、KPMGは予想している。

トレンド4:より洗練されたアセットマネジメントへの転換

インフラ資産のオーナーの関心が、新たなインフラ資産への投資から、既に所有しているインフラ資産のパフォーマンスの改善を通じた収益の極大化に移行しており、より洗練されたアセットマネジメントに対する需要が高まっている。今後、官民を問わず、インフラ資産のオーナーやオペレーターは、その管理・運営手法の質を向上させていくものと予想される。

その背景として、インフラ資産のオーナーは、そのインフラ資産が期待される耐用年数の間、十分に稼働し続けることに注力するだけでなく、生産性の向上にも目を向けていることが挙げられる。運営を最大限まで効率化し、需要に対して生産能力を適切に調整し、維持管理費用を削減しながら顧客サービスを向上させることで、インフラ資産のオーナーは、その投資対象の持つポテンシャルを最大限に引き出すことができる。

データやその分析等における技術的な進歩は、アセットマネジメントの手法をより洗練されたものにしている。経験則に基づく意思決定は過去のものとなり、最新の技術を活用し、リアルタイムでの精緻なモニタリングが行えるようになったことで、アセットマネジャーの意思決定が改善され、生産能力が適切に調整されるとともに、最大限の効率化を達成できる環境となっている。長期的には、データやその分析を通じた予測結果を利用することで、インフラ資産の保全に関しても、問題が起こってから対応するのではなく、予防的な対策を講じるという仕組みに変わっていくものと予想される。

高度な技術、より洗練された管理手法、そして実際のアセットマネジメントや過去の実績に対する深い洞察を柱に、2016年はインフラ資産のオーナーにとって、アセットマネジメントが極めて重要な分野になるとKPMGは考えている。

長期的な視点

IoT(モノのインターネット化)、ロボティクスおよびデータ・アナリティクス等の分野は急速に進歩しており、これらの技術を活用することで、アセットマネジメントの効率が向上することは明らかだ。またその影響により、生産性が改善され、資産の寿命が長くなり、大規模事故が減少するとともに、安全性も高まると考えられる。インフラ資産のオーナーは、このような状況を目の当たりにしながら、アセットマネジメントに対する、より洗練された技術やデータ分析の活用方法を模索することが求められている。さらには、このような流れは、インフラ資産をより少ない人数で管理できることを意味しており、現在抱える人員への影響も検討する必要が出てくるだろう。

トレンド5:インフラ業界において急浮上する技術革命への対応

世界各地で進行している技術革新の波は、インフラ業界には未だ届かない状況にある。通信業界以外では、インフラ設備の種類は、50年前と比較して根本的な変化はなく、今も50年前と同じインフラ設備が利用されており、その前提条件も大きく変わっていない。

しかし、技術革新の波はインフラ業界にもようやく到達し、インフラ施設の計画から設計、開発、運営に至るまで、業界の慣習を根底から、しかも急速に変えようとしている。

例えば、太陽光発電は発電の方法を本質的に変えるだけでなく、先進国のエネルギー投資戦略の屋台骨となっている集中型の発送電システムを揺るがす技術となっている。自動運転車の技術は既に開発されており、既存の社会システムの中で、その技術をどのように取りこんでいくのかが現時点での課題だ。また、ハイパーループの実現に向けた開発も継続されており、これが実現すると、交通システムを考える際の既存の前提条件が根底から覆る可能性がある。

興味深いことに、このような技術革新に対する需要を牽引しているのは消費者である。例えば、発展途上国では、既存の技術を用いたサービスは金銭的な負担が大きく、そのことが、新規技術への興味を持つきっかけとなっている。先進国では消費者の、インフラ設備をより使い勝手の良いものにしたいという思いが、新規技術を活用した洗練されたサービスへのニーズを喚起している。

インフラ施設が満たすべき「マクロ」的要件(例えば排出ガスの削減等)と、消費者の「ミクロ」的なニーズ(例えばインターネットを活用した家庭用の自動温度調節機能)の高まりという両面から、技術革新への要望が増している。新しい技術に係るコストが低下し、消費者の需要が増加することで、マクロ・ミクロの双方の視点からのインフラ設備の新技術へのニーズが、今年はより密接になってくると、KPMGは予想している。

 

“新しい技術に係るコストが低下し、消費者の需要が増加することで、マクロ・ミクロの双方の視点からのインフラ設備の新技術へのニーズが、今年はより密接になってくると、KPMGは予想している。”

長期的な視点

消費者が技術開発への投資の意思決定を後押しし、その結果として技術が進歩するという流れは今後も変わらないだろう。一方で、これは最新の技術や消費者の要求を盲目的に受け入れることではない。むしろ、投資、ビジネスモデル、および顧客サービスについて、十分な情報に基づいた長期的な意思決定をするために、技術の変化の方向性、ペースや影響を理解するということである。

事実、今日の古典的なミクロ経済理論の多くは、技術は「固定」されたものと仮定しているが、明らかに、これはもはや該当していない。端的にいえば、20年後に人々が必要とし、利用するインフラ施設は、今日我々が利用し、設計しているものとは大きく異なる。

今後インフラ設備のオーナーやオペレーターは、新しい技術やその変化に、より柔軟に対応できるようになるだろう。例えば、太陽光発電を大規模に導入できると考えられている国や地域では、新しい技術を取り入れることで、エネルギー分野で先行している国々よりも、安価なサービスを享受できる体制を一気に構築できるだろう。

トレンド6:喫緊の主要課題となったセキュリティ対策

全ての政府、規制当局、オーナーおよびオペレーターは、自らが関係する施設に対するセキュリティ対策を再検証すべきである。この数年間の、重要なインフラ設備や公共施設に対する人為的で物理的な攻撃、自然災害による被害、サイバー攻撃の規模と頻度を考えると、インフラ資産の脆弱性を低減させ、国民や利用者をそれらの脅威から守ることは、関係者にとって喫緊の課題となっている。

一部の関係者にとって、これは、目前にある明白な危険への対処を意味する。テロリズムは、(物理的にも、サイバー攻撃経由でも)インフラ施設に対する非常に現実的な脅威であり、テロ行為が広範囲に破壊的な影響を与えられるという点で、人口密度が高い都市部や大規模なイベントは、特にテロ対策が必要と考えられる。それ以外の多くの関係者にとっては、市民やインフラ資産や経済活動の全般的な安全を確保するために、適切な措置や投資を行うことが必要なこととなる。

インフラ施設へのサイバー攻撃の脅威は日に日に増しており、攻撃をしかけてくるのは、テロリストだけでなく、国家的な組織、国家や民間の重要データを狙う商業的ハッカーから、単に新たなスリルや挑戦を求めてハッキングを行う者まで幅広い。

システム間での接続範囲が拡がるにつれ、この問題はより一層複雑になっている。例えば、公共部門が管理する送電網へのサイバー攻撃は、数百万人もの企業や個人に加え、電力を利用するその他のインフラ施設を混乱に陥れる。さらには、そのインフラ施設を利用する数百万人もの企業や個人へも、二次的に大きな影響を与えることとなる。

これらのリスクがビジネスにどのような影響を与え、実際に発生した場合、どのように対処すべきかを本当に理解している政府や企業の幹部は限られており、サイバー攻撃の脅威に対する理解に至ってはさらに少ない。地政学的な緊張が高まるにつれサイバー攻撃の手法が高度化し、システム間の相互接続が拡がっていることから、セキュリティへの脅威は変化し、進化し続けるだろう。

しかし、セキュリティ対策に係る費用は大きな課題の1つである。セキュリティの向上(特に既存設備に対して)には、設計・計画段階から運営、さらに原子力発電施設に関しては廃炉に至るまで、施設のライフサイクル全体に係る投資が必要とされる。当局はセキュリティ投資を優先的に考える必要性は認識するものの、目に見えず、目先の収益に寄与しないセキュリティ投資と、目に見える生産設備の拡張投資との間での、難しい選択を迫られている。

2016年は、物理的な攻撃とサイバー攻撃の双方への対策を強化するために、対応方針を設け、責任体制を明確にし、主要な取組みを整備することに、官民問わず、インフラ施設のオーナーはより注力し投資を行うと、KPMGは考えている。

長期的な視点

世界各地で政情が不安定な状態にあり、いくつもの注目を集める国際的なインフラ事業が建設中または計画段階にあるなか、インフラ施設の利用者にとって、物理的な攻撃やサイバー攻撃に対する安全性の確保は重要性を増している。サイバー攻撃に対する防御策に飛躍的な進歩があったとしても、今後、セキュリティ対策はインフラ施設の予算に対する大きな割合を占めることになる点には、留意が必要である。

トレンド7:官民ギャップの縮小

1980年代に民営化やPPP(官民パートナーシップ)といった手法が普及して以来、インフラ施設に係る調達や施工に関しては、民間の方が公的部門よりも優れているという前提のもとで、多くの政府における取組みが進められてきた。しかしながら、現状では、それを当然視することはできない。

多くの公的セクターが持つ能力や対応力は大幅に向上している。多くの行政機関が、自らの活動が民間企業の業績指標と比較分析されているという現状を認識しており、過去の事例からの貴重な教訓に学び、民間企業における事業慣行を取り入れている。公共部門が、プロジェクトマネジメントや運営に関する充分な技術や経験を持ち、それに見合った報酬を得ている人材を積極的に採用するかは、依然として大きな懸念ではあるものの、官民のギャップは縮まり始めている。

しかし、これはインフラ分野において民間企業の役割が縮小していることを意味しているのではなく、むしろ逆である。例えば、港湾、空港や交通等の主要インフラの分野において、政府は民間企業における特定の専門知識や技術を活用し、公共施設の開発や運営において、より良い成果を得ようとしてきた。その結果、世界的に活動を拡げるディベロッパーや運営事業者が、過去数年の間に台頭してきている。

官民の交流が増加し、経験の共有が広まり、改善が続くという好循環が実現することで、官民における知識のギャップは縮まり続けると、KPMGは考えている。

長期的な視点

過去数十年間の民営化やPPPといった取組みは、公的セクターが抱えていたいくつかの長年の懸念に対する回答となり、公的セクターにおける改善のきっかけともなった。長期的には、プロジェクトの手法を問わず、官民はより高いパフォーマンスの達成のために、相互に刺激しあい続けると考えている。結果として、官民が各々の立場に縛られず、より合理的な意思決定を行えるようになるとKPMGは予期している。

トレンド8:インフラ投資における革新的な資金調達手法の登場

インフラ投資に係る責任が州や市といった地方自治体に移り、中央政府や連邦政府からの資金提供が限定的になるにつれ、多くの自治体は、インフラ投資にこれまで活用されてこなかった資金調達の手法を模索し始めている。

大多数の自治体における課題は、単純にインフラ投資のニーズに行き渡る資金を獲得することである。一方で、インフラ投資に係る費用を、当該インフラから利益を最も直接的に得るものに負担させる方法を検討している自治体もある。

KPMGが言及し続けてきた、利用者によるインフラ投資の負担という流れが、2016年は拡大し続けると予想される。そして公共部門は、インフラ投資に要する資金を賄うために、現時点でインフラ施設が有する価値と、今後生み出されると思われる将来価値を活用することに、より注力すると考えられる。

一部の自治体では、実利的な考えのもと、保有するインフラ資産の民営化(あるいは、政治的に正しい呼び方として「インフラ資産の現金化」)を、より大胆に実行していくだろう。そのような自治体は、民営化がもたらす諸々の政治的影響に尻込みするのではなく、新たなサービスや資産を調達するための必要資金を賄うための賢い資本のリサイクル手法として、民営化を認識し始めている。

しかし、このような取組みの達成には、インフラ資産の民営化で獲得した資金の使い道を、誰の目にも明確かつ合理的で、納税者が納得できる形で説明できることが最低条件である。この点ではオーストラリアが最も進んでいるが、その他の多くの国々でも、小規模ではあるものの、同様の取組みが徐々に拡がりつつある。

同時に、「価値を実現する」新たな革新的方法も生み出されると予想される。また、行政機関はプロジェクト周辺に土地を所有する民間のディベロッパーに対して、より厳しくかつ賢く対応するようになるだろう。他方では、インフラの整備により、その周辺の居住者や企業が保有する資産の価値が上昇すると考えられるが、価値向上によりもたらされる利益に対して、土地や開発に係る課税によって便益を得る自治体が出てくる可能性も高い。また、将来のインフラ投資への活用にのみ使途が限定された新しい税制度が、間違いなく導入されることになるだろう。

しかし、そのような手法を地域の特性に合わせる際には、課題が発生するであろう。なぜなら、政治や、地元の習慣、要望および規範が関係してくるからである。

長期的な視点

これらの資金調達に係る新しい手法は、主に先進国に限定されており、発展途上国にはまだ浸透していない。長期的には、新興国の中でもより進歩的な国々が、地方および国家レベルでこうした手法をすぐに採用し、リスク回避的な国々は、インフラ資産からの価値創造という点においては「第2波」として追随するだろう。この手法により、発展途上国のインフラ施設の不足を解消するための新たな資金調達源の活用が可能となる。

トレンド9:機関投資家向けデット市場の本格的な稼働

機関投資家向けのデット取引件数と規模は、昨年1年間で大きく増加した。そして、2016年にこの市場が本格的に盛り上がり始めることを示す兆候が伺える。

この流れは、国際的な金融機関の投資動向に大きく依拠する。世界中で必要とされるインフラ投資に対して、国際金融機関における現行の融資モデルでは充分に対応できないことは、周知の事実である。多くの国際金融機関は、その資金をより効果的に活用するためにも、シニア・デッドの信用力を強化する金融商品を利用し、民間の資金を活用すべきと考えており、そうすることでインフラ投資に係る資金調達に際して、資本市場を充分活用できるとも考えている。

その結果として、機関投資家による巨額のデット投資が、今後数年間発生するものと考えられる。例えば、新たに創設されたアジアインフラ投資銀行は、1,000億ドルに及ぶ資本の一部を民間からの投資の呼び水とすることを明言している。また、ユンケル欧州委員長による官民投資計画では、210億ユーロの公的資金を民間からの投資の呼び水とし、3,150億ユーロにのぼる官民投資の実現を目指している。その他でも、同様のビジネスモデルへの転換が図られている。

もっとも、政策の変更が実際の行動に結び付くには時間がかかることが多いため、投資を加速させる動きが定着するまでには、ある程度時間がかかる可能性がある。また、短期的には、案件化されるプロジェクト数が限られるため、公的セクターによる資金供給が民間からの融資を締め出してしまう恐れがある。ただし、このような流れが、新たに機関投資家向けの巨大なデット市場を生み出すきっかけとなるのであれば、短期的には許容できるものだ。

長期的な視点

インフラ市場に対して民間からの投資を呼び込めるか否かは、国際的な金融機関が適切なタイミングで適切な行動を取ることができるか否かにかかっている。彼らが適切に対応することができれば、世界中のインフラ投資は、より流動性の高いデット市場から巨額の資金を比較的容易に調達できるようになる。しかし、長期的な目標は極めて明確だ。2年間で数十億ドルの投資を行うことではなく、次の30年間に約70兆ドルの投資を実現させることだ。

トレンド10:中国とインドにおけるインフラ市場の本格的な幕開け

昨年は、中国とインドが新興国から先進国への飛躍を遂げつつあることが明らかになった年だった。

中国は国内市場を海外投資家へ開放する兆しを見せており、2,000件を超えるPPP案件を公表している。国際的には、中国は政府間交渉による二国間での相対取引から、公開競争入札の参加へと転換を図っている。グローバルな競争に参加するなかで、中国企業による投資は貪欲さを増しており、中国企業の技術水準が向上するとともに、必要とされる品質基準を満たすようにもなってきている。アジアインフラ投資銀行と「一帯一路」構想は、グローバル・インフラ市場の状況を大きく変える可能性を秘めている。

モディ首相の選出を経て、インドも世界のインフラ市場で一目置かれるべき存在となりつつある。他方、インドは世界で最も急速に成長している経済大国でありながら、ビジネス環境ランキングでは142位に沈んでいる。しかし、2025年には世界の労働人口の4分の1がインドに住むことが予測され、彼らの教育水準は高く、多言語を話し、高度な技術を有しているにもかかわらず、彼らの労働コストは安価のままであることが想定されることから、ビジネス環境の改善が、今までの状況を一変させるほどの影響力を持つと考えられる。インドは既に世界規模でのイノベーションを牽引している。

興味深いことに、中国は企業部門が牽引役となり、先進国入りを果たした。中国では、国営・民間企業の両方が、自社の能力を向上させるために、他社の技術や取組みを急速に取り入れてきた。一方、インドは起業家が先進国入りを果たす役割の一端を担ってきた。インドはもはや欧米のサービス企業の単なる下請けではなく、国内の起業家自身が事業の主体となることが多くなっている。特に、低コストで熟練した労働力を確保できる利点を活かして、専門的なサービスの提供において、インドの影響力は今後も大きくなると予想される。

長期的な視点

上記は、KPMGの考察を整理しただけにすぎないが、世界のインフラ市場の中心がアジアへ大きくシフトしているのは明白である。現在、インドや中国の企業は、欧米の競合相手と互角に競争できるまでになっており、どちらの国も新しいアイディア、製品や価値を、かつてないペースで生み出している。長期的には、これらの市場から、より多くの競争が、より洗練された提案とともにもたらされることが予期される。

執筆者

KPMG in the UK
Global Infrastructure Chairman
Partner James Stewart

KPMG in Canada
Americas and India Head of Global Infrastructure
Partner Stephen Beatty

KPMG in China
Asia Pacific Head of Global Infrastructure
Partner Julian Vella

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