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コーポレート部門主導型ターンアラウンド

コーポレート部門主導型ターンアラウンド

企業内のある事業、拠点、子会社等が不振に陥り、その状態が深刻な場合、ターンアラウンドを当事者任せにせず、コーポレート部門が主導することが有意義です。最近では、外部のステークホルダーとの対話というコーポレート部門の役割がより求められており、この点からも、コーポレート部門が積極的に関与し自身で腹落ちしたうえで、ターンアラウンドを進める必要があります。

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このようなコーポレート部門主導型ターンアラウンドにあたっては、当事者任せのターンアラウンドに内在する限界やリスクを理解し、適切な視点やアプローチを用いて、これに臨むことが肝要です。

本稿では、コーポレート部門主導型ターンアラウンドの意義を検討したうえで、コーポレート部門がターンアラウンドを主導する際のポイントや留意点などを、「全社的視点」、「将来予測・事業計画」、「戦略オプションの比較検討」に整理して、見ていきます。

ポイント

  • 全社的な視点を付加する。
  • 実現可能な将来予測・事業計画を見極める。
  • 継続以外の戦略オプションも比較検討する。

I.「コーポレート部門主導型ターンアラウンド」とは

1. コーポレート部門主導型ターンアラウンドが必要とされる局面

事業、拠点、子会社等の不振の兆候は、計画未達、2期連続の損失・キャッシュフローの赤字、債務超過、減損などとして現れ、最近注目されているROE、ROA、ROICなどの指標悪化も伴います。不振が続けば、さらに状態が悪化し価値が下がり続ける負のスパイラルに陥り、企業全体の価値も押し下げます。

対象事業等の事業性が損なわれ、自力でのターンアラウンドが困難となれば、売却や清算を選択せざるを得なくなります。対象事業等が、既に負のスパイラルに陥り始めている、あるいは、不振が深刻な状態では、コーポレート部門が主導してターンアラウンドを進めることが有意義です。

2. 当事者だけで検討することの限界

事業に直接携わっている当事者だけでターンアラウンドを検討すると、どうしても「できる計画」ではなく、「やりたい計画」となってしまいます。日系企業では、雇用維持、リストラ回避を重視する傾向が強く、抜本的な施策や、リストラに繋がる厳しい将来予測を避けて、トップラインや利益率をストレッチした計画となりがちです。

そして、売却や清算といった、「継続以外の戦略オプション」は検討されません。当たり前ですが、自己否定に繋がる検討・判断は当事者ではできません。

さらに、「全社的視点」がどうしても欠如します。株主や銀行との関係、株価や格付け、事業ポートフォリオの最適化・企業の全体戦略などを考慮することは、その役割や責任を直接担っていない当事者では難しいのが一般的です。

3. コーポレート部門主導型ターンアラウンドの意義

上述の3つの限界・課題を払拭する、すなわち、「全社的視点」を付加しつつ、実現可能な「将来予測・事業計画」を見極め、「継続以外の戦略オプション」も含めて検討することが、「コーポレート部門主導型ターンアラウンド」の意義と考えられます。コーポレート部門と当事者は、適切かつ建設的な牽制・協力関係であるべきです。当事者にとって当たり前のことを、コーポレート部門の側から客観的に見直すことの意義は非常に大きいと考えます。外部のステークホルダーとの対話、というコーポレート部門の重要な役割を考えても、まずは自身で腹落ちする必要があります(図表1参照)。

図表1 コーポレート部門と当事者との関係

II. 全社的視点

ターンアラウンドにあたっては、コーポレート部門の立場から、以下の全社的視点を付加する必要があります。

  • キャッシュフローベース
  • 財務影響(損益、純資産、株価、格付け)
  • 先延ばしをしない
  • グループ内シナジー
  • グループ外シナジー・外部リソース(M&A、JV、提携)
  • コア・ノンコア(選択と集中)
  • リソースの配分(ヒト、モノ、カネ)
  • 全社目標との整合
  • 外部のステークホルダー(株主、銀行、社債権者等)への説明(質・スピードの高度化)
  • 定量情報に基づく合理的判断

基本的な検討の視点は、常に「キャッシュフローベース」であるべきです。財務影響も考慮しますが、原則、これを理由に抜本的施策の実行を先延ばしすべきではありません。他力を活用しシナジー効果を創出するという視点では、グループ内にとどまらず、グループ外のリソースにも目を向ける必要があります。

また、改善できる事業といえども企業の全体戦略からはノンコアであれば、売却などの戦略オプションの検討も必要です。限られたリソースを最適に配分する観点から、コア事業での投資資金捻出や財務健全性向上のために、儲かるノンコア事業を売却することもあります。GEの金融事業、パナソニックのヘルスケア事業、ワタミの介護事業などの売却がその例です。

その他、全社目標や戦略との整合性、外部ステークホルダーへの説明を考慮した検討も必要です。たとえば、ある会社の海外子会社で、大口顧客との取引がなくなり、毎月赤字が発生することとなりました。四半期開示では、この状況が連結損益数値、計画かい離要因として公表されるため、少なくとも年度末の決算発表までに、明確な対応策が必要との機運が醸成されました。対応策を打ち出せないマネジメントは失格の烙印を投資家から押されかねません。そのため、この会社では、継続するか、撤退するかの見極め、必要な施策の検討、それらに基づく意思決定を年度末までに実施し、年度決算数値に影響額を反映することとなりました。このように、適時開示や投資家との対話が進んだことで、経営意思決定の質とスピードの高度化が求められています。そして、何より定量情報に基づく合理的判断をぶれずに実施することが必要です。

III. 将来予測・事業計画

1. ターンアラウンドを成功に導くために

自社の業績は、外部環境、内部環境、自社の行動の変数によってもたらされます。ターンアラウンドは、現状の業績の延長線上にある成り行き・ベースラインと、あるべき将来の目標とのギャップを埋めていくための、戦略・施策を検討し実行すること、と言えます。そしてその検討結果を取りまとめたものが、「事業再生計画」、「ターンアラウンド・プラン」となります。ターンアラウンドを成功に導くためには、作成すべき事業再生計画について関与するメンバーで共通認識を持ち、適切なアプローチを採用することが最低限必要です。コーポレート部門が指導・先導し、当事者と協働して、事業再生計画に纏め上げるのが望ましいと考えます(図表2参照)。

図表2 ターンアラウンド(改善諸施策の導入)のイメージ

2. 将来予測・事業再生計画策定のアプローチ

課題の特定に関して、まず、外部・内部環境、業績を、様々な手法をもとにあらゆる角度から分析します。これと平行して、統合財務予測モデルを作成し、このまま事業を継続した場合の成り行き将来予測・ベースラインを検討・設定します。そして、将来の目標とのギャップを埋めるべく、改善機会を検討・数値化し、事業計画に纏め上げます。その後に、運営体制を構築し、計画を実行・モニターします。このうち「統合財務予測モデルの作成」、「ベースラインの検討」、「改善機会の検討・数値化」におけるポイントを以下で見ていきます(図表3参照)。

図表3 将来予測・事業計画の策定アプローチ

(1)統合財務予測モデル
統合財務予測モデルは、財務3表の将来予測モデルに、事業・拠点・管理単位や商品別等に要素分解されたドライバー、KPIを組み込み、KPIを動かすことで一連の数値、管理単位の将来予測を可能とする、統合された財務予測モデルです。いわゆる、財務シミュレーションモデルですが、これにより、過去の業績分析と、将来予測、感応度分析などが一連の枠組みでできるようになります。また、バリュードライバーをこの概念図のように要素分解することで、影響の大きな領域や、戦略上の重要課題が見えてきますし、当事者とコーポレート部門との間の議論が同じ土俵・言語・枠組みでできることとなります。

 

(2)ベースライン
統合財務予測モデルが作成されると、KPIを設定・入力し、このまま事業が継続した場合の成り行き将来予測・ベースラインを検討・設定します。外部環境・内部環境を想定し、現状の戦略を踏襲し抜本的な追加施策を講じなかったら、という前提で検討します。その結果、3年後に赤字に転落する、2年後に資金繰りに窮する、といった課題が見えてきますが、この「現状を直視する」ことを曖昧にし、少しでも楽観的な予測をすれば、将来目標とのギャップが過小に評価され、結果として必要十分な施策が講じられず、ターンアラウンドは失敗に終わります。ベースラインの設定は、ターンアラウンドの出発点であり、コーポレート部門と当事者が「同じ舟に乗る」ためにも極めて重要です。計画ができ上がってから検討を始めるのではなく、是非、このベースラインの設定段階で議論を十分に交わしてください。

 

(3)改善機会
ベースラインと将来目標とのギャップを埋めるために、戦略を立案・見直し、施策を検討します。戦略は、「財務上の成果」を、「持続可能性」をもってもたらすために、「顧客提供価値」をどのように創造し、「内部プロセス」をどのように設計するか、という観点で検討します。その戦略を実現するための「改善機会・諸施策」は、「事業領域の検討」、「競争戦略の方向性」、「顧客・製品・サービス」、「バリューチェーン」、「組織・制度」など、多方面にわたって検討します。数値的な効果からは、売上高、およびコストの最適化、拠点閉鎖、業務効率向上などに係る検討がなされます。

コストは究極的には人件費:Peopleと、その他のコスト:Spendに分かれ、売上高が決まった後にコスト削減をしようとすれば、この2つのコストを最適化することが課題となります。人件費は、人員数、利用可能性、効率性、単価がドライバーとなり、その他のコストは、消費量、仕様、価格、準拠がドライバーとなります。さらに、自前か、調達・外注か、という選択も合わせて検討し、合理化・最適化が図られます(図表4参照)。

図表4 人件費およびその他コストに係るドライバーと合理化例

なお、改善機会の取り纏めにあたっては、以下の点を考慮する必要があります。

  • 施策の実現方法(アクションプラン)
  • 施策がもたらす財務上の成果
  • 影響するバリュードライバー、その構成要素、KPI
  • 成果をもたらすタイミング
  • 必要な資金(費用・投資)
  • 施策に係るリスクや実現可能性に係る感応度
  • 戦略や他の施策との相互依存・トレードオフ関係
  • 上記の検討結果の元データ、根拠

IV. 戦略オプションの比較検討

「将来予測・事業計画の検討」は、「問題が自力で克服できる」ことを前提に、「改善策の導入」を検討するものでした。その際、グループ内の重複事業・機能の効率化等を目的とした、グループ内再編も一案です。自力での改善がなかなか難しい場合、他力を活用した改善として、水平・垂直統合型のM&Aや、JVの活用を検討します。さらに、自社内・自社グループ傘下での改善が難しい場合、売却、清算を検討します。このような既存の事業や会社の枠組みを超えた、改善、再編、撤退は、当事者ではなかなか検討しにくく、コーポレート部門が関与し推進することが必要となります(図表5参照)。

図表5 戦略オプションの比較検討

戦略オプションの比較検討に際しては、各オプションの定量・定性面を整理し比較します。定量面の検討にあたっては、それぞれの戦略オプション、すなわち改善ケース、M&Aケース、売却ケース、清算ケースなどについて、将来損益およびCFを予測し、これらに基づき比較分析することとなります。その際、時間軸の異なる事象・数値を比較する1つの手法として、将来CFを一定の割引率で現在価値に割戻し、DCF価値・割引現在価値ベースで比較することが有効です。

また、定性面の検討にあたっては、次頁の点なども考慮します。

  • 競争優位性への影響(ノウハウの流出)
  • ステークホルダー(株主、金融機関、取引先等)との関係への影響
  • 従業員、労働組合問題
  • 当事者の納得感・協力
  • 地域やマーケットにおけるレピュテーション

たとえば、「競争優位性への影響(ノウハウの流出)」に関して、ある会社で東欧の生産拠点を中国に移管する際に、東欧の子会社を売却するか清算するかが議論となりました。対象事業はグローバルで継続展開されることから、生産技術やノウハウの競合他社への流出を回避するために、同子会社を他社に売却せず、清算することが選択されました。

また、「当事者の納得感・協力」に関して、ある会社で赤字子会社の売却をコーポレート部門主導で進めた際に問題となりました。同業の買手候補企業のマネジメントの一団が、工場視察や今後のビジネスの方向性確認のために来日し、対象子会社のマネジメントとの協議の場が持たれました。売却プロセスはコーポレート部門主導で進められ、当事者との協議が不足していました。実際、買手候補企業と対象子会社の戦略の相違、重複機能の多さ(大規模なリストラが予想されること)なども懸念としてありました。その結果、当事者同士の対話は、建設的・友好的なものとならず、買手候補企業が買収意思を撤回し、この買手候補企業への売却は断念されました。その後、この子会社は投資ファンドに売却されることになりましたが、当事者の関与、納得感がないままに、売却話しをすすめても、よほど魅力的でない限り、有意義な結末になりません。このような撤退に係る話は当事者と共有しにくく、また話すタイミングや対象者の範囲にも留意が必要です。グループのなかでの対象事業等の位置付けや今後について、適切なタイミングで適当な当事者と誠実に協議し、当事者の納得感をもって売却・エクジットを図ることが重要となります。

執筆者

株式会社 KPMG FAS
リストラクチャリング部門統括
パートナー 中村 吉伸

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