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独占禁止法コンプライアンスに関する潮流 有効なコンプライアンス体制に関する米国司法省の1つの回答および日本当局の動き

有効なコンプライアンス体制に関する米国司法省の1つの回答および日本当局の動き

海外での贈収賄行為や国際カルテル事件に関連して、米国等で巨額の罰金・制裁金や実刑判決を受ける事例が頻発しており、企業ではコンプライアンス体制の整備・運用あるいは見直しの検討が進められている。

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その際、多くの企業において、米国連邦量刑ガイドライン※1の「有効なコンプライアンス・倫理プログラム」が参照されているが、当該プログラムの各基準に関して、実施すべき具体的な施策については、各企業の自主性に委ねられており、どこまで対応すれば十分といえるかが不明確であった。

昨年、この悩みに対する1つの回答・ヒントになり得ると考えられる、「罰金の減額に値する、有効なコンプライアンスに関する取組み」であると米国司法省が認めた事例が2例、初めて示された。

また、日本の公正取引委員会においても、企業のコンプライアンス体制の整備・運用において留意すべき点を含む、独占禁止法に違反した企業への課徴金制度の見直しの動きがある。

本稿では、米国の2つの事例および日本の独占禁止法の見直しの概要について紹介するとともに、企業において採るべき対応について解説する。

なお、本文中における見解は筆者の私見であることを予めお断りしておく。

 

※1(参考)KPMGビジネスキーワード「連邦量刑ガイドライン」

1. 事例1:評価の対象とするコンプライアンス・プログラムについて

課徴金の減額に値すると認められた事例のうち、1例目では、当該コンプライアンス・プログラムの具体的な特徴については示されていない。一方、本事例が公表された1ヵ月後、司法省司法副次官補であるBrent Snyder氏は公の場でのスピーチにて、有効なコンプライアンス・プログラムについて触れている。そこでSnyder氏は、「後ろ向きなコンプライアンスに関する努力ではなく、違法行為発生後、将来に向けて、企業文化を変えていこうとする真摯な試みのみが罰金額の算定において考慮される」と述べている※2

 

※2 米国司法省 JUSTICE NEWS(2015年6月8日)

2. 事例2:有効なコンプライアンス・プログラムの具体的な特徴について

2例目となったカルテル規制違反の事案(No.1:15-CR-00098)では、網羅的なものではないとの説明を付した上で、有効なコンプライアンス・プログラムの特徴として以下の事項が挙げられている(以下筆者要約)。

 

(1)すべての営業部員と経営上層部に対する研修の実施
集団研修に加え、特に法令違反リスクが高い営業部員などに対し、1対1の個別研修を実施している。また、研修の前後に理解度テストを実施することで、その効果について確認している。

 

(2)競合他社との接触における手続
競合他社との接触において、事前承認および結果報告手続を設けている。当該結果報告については、社内弁護士が監査している。

 

(3)価格決定における保証
営業部員は、競合他社と情報交換や共謀を行うことなく、独立的に価格を決定したことを保証する必要がある。

 

(4)匿名通報ホットライン
独占禁止法違反のおそれがある行為に係る、匿名での通報ホットラインを設置している。

 

(5)トップコミットメント
経営上層部は自ら法令遵守の姿勢を示すよう努め、独占禁止法の遵守を企業の最優先事項としている。

 

(6)違反者の懲戒
独占禁止法違反に関与、あるいは指揮した社員を降格処分に処し、営業部門の責任ある立場から除外している。その他の社員についても、懲戒処分とする可能性がある。

3. 日本公正取引委員会における独占禁止法違反にかかる課徴金制度の見直し

日本の公正取引委員会では、課徴金制度について、現在の定額型から、主要国にて採用されている裁量型とするよう検討を進めており、最短で2017年の通常国会に独占禁止法の改正案が提出される見通しとなっている※3

現在の制度下では、課徴金の減額は、公正取引委員会の調査開始前に企業が申し出た場合に原則として限られているところ、新たな制度では、調査の開始後でも、有力な証拠の提出、積極的な社内調査等の調査協力により課徴金の減額を受けられることとなる。反対に証拠を隠滅したり、従業員同士で口裏を合わせたりする悪質な行為が明らかになれば課徴金は増額される。

 

※3 日本経済新聞「独禁法違反、調査協力で課徴金軽く 裁量制に転換」(2016年1月6日)

4. 企業において採るべき対応

コンプライアンス体制に係る具体的な要件の明示、あるいは将来の制度変更といった情勢変化を踏まえ、企業においては、これにかかる対応に不足・漏れがないか等の再点検を検討する必要がある。その際、法令違反発生後の有事対応について、社内での決定権限者や審議方法、外部専門家に委託すべきこと等の棚卸・峻別を予め行っておかねば、混乱のなかでの有事対応という困難な局面に陥ることとなりかねない。

米国司法省による罰金額の算定において考慮要素とされるのは、事例1のとおり法令違反発生後の対応であり、有事にこそ、コンプライアンス体制等の至急の見直しが必要となる。一方、法令違反に係る当局の調査・摘発等の有事には、迅速かつ確実に対応すべき事項が数多く存在する。

以下に示すものは一例に過ぎないが、それでも、複数部門の関与が必要となる、あるいは社内では経験・ノウハウが蓄積されていないなど、多くの企業にとって難易度が高いと考えられる取組みを含んでいる。

  • コンプライアンスに関するルール・体制等の見直し
  • 日本公正取引委員会、米国司法省等の当局対応
  • 各種メディア対応
  • 情報統制・情報管理
  • 従業員対応(事情説明、懲戒等)
  • 外部専門家を交えたプロジェクトの管理

これらに加え、独占禁止法の改正後は、課徴金の減額を求めて公正取引委員会の調査に協力するとした場合に、必要とされる水準の対応が実施できるかが、課題となり得る。

たとえば、調査協力の一環として、文書やメール等を証拠として提出するにあたり、それらの管理にかかる社内規則が不明確であったり、不徹底であったりして、十分な対応ができないということも想定される。それにより、カルテルの防止義務の怠慢、また、内部統制上の課題から、違反を自主申告して課徴金減免を受ける「リニエンシー制度」を利用せず会社に損害を与えたなどとして、株主代表訴訟につながった事案と同様のリスクが発生する可能性も考えられる。

5. まとめ

会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの策定を経て、リスク管理を含むグループガバナンスにかかる社会の要請が高まっている昨今、未然防止を図ることは当然として、それに加え、自社では法令違反・摘発は発生しないと盲信することなく、リスクを客観的に把握・評価した上で、有事対応体制の整備・見直しを進めていかねばならない。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
マネジャー 水戸 貴之

リスクマネジメント解説

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