ドイツにおけるM&A・組織再編関連税制の動向 | KPMG | JP
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ドイツにおけるM&A・組織再編関連税制の動向

ドイツにおけるM&A・組織再編関連税制の動向

2015年前半における日系企業の海外M&A投資額は540億ドルを超えました。これは、2014年における年間投資額を上回る規模になります。業種別では金融業が海外M&A投資額全体の25%以上を占め、最も投資額が大きい業種となりました。海外M&Aとは対照的に、国内M&A や外国企業による対日M&A の総額は150億ドル以下でした。

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アベノミクス効果により日本経済は改善しているものの、外国人投資家が日本経済の先行きに不透明感を抱いていることがこのような内外投資額の不均衡の主な要因であると考えられます。一方で、国内市場の飽和化・競争激化および日本社会の高齢化という現状が日系企業の海外進出を推し進める原動力となっています。

近年、日系企業の欧州における投資額の45%はドイツ、イギリス、フランス(左記は投資額の多い順)においてなされています。ここ10年間において、日系企業のドイツに対する投資の重要性は、特にM&Aにおいて、在ドイツ日系企業数が年率5%の割合で増加していることからも明らかです。そのため、ここ数年のドイツにおけるM&Aの動向やこれに関連した税務上の問題に焦点を当てて解説いたします。

ポイント

  • 日系企業によるドイツビジネスの買収手法としては、主に資産譲渡または株式譲渡が考えられる。
  • 買収方法を検討する際には、資産・負債の評価替えとキャピタルゲイン課税、繰越欠損金の制限規定、不動産譲渡税を検討することが重要となる。
  • 事業買収後には、ビジネスの効率的な統合、たとえば、組織再編、合併後の事業統合(PMI)を進める必要がある。
  • 欧州持株会社または統括会社を設立する場合には、機能面、コスト面に加え、移転価格税制の観点からも検討することが重要となる。
  • 事業統合のためには、ドイツ国内の組織再編のみならず、クロスボーダー組織再編を実施することも可能である。

I. ドイツにおけるM&Aにおいて、日系企業が直面する税務上の問題

1. M&Aにおける税務上の一般的事項

(1)M&Aの手法(資産譲渡と株式譲渡)
日系企業によるドイツビジネスの一般的な買収手法は資産譲渡もしくは株式譲渡になります。

 

a)資産譲渡の場合
一部もしくはすべての事業上の資産・負債が売り手から買い手へ移管されます。このスキームには、基本的に個別承継による事業上の資産・負債の個別譲渡も含まれます。

株式譲渡の場合には個別の資産・負債の譲渡は不可能ですが、当該スキームによれば個別の資産・負債の譲渡が可能となります。

 

b)株式譲渡の場合
買い手はドイツ企業の株式を取得し、その被買収企業に属するすべての資産・負債に対する実質的な支配が買い手に移転されます。しかし、資産・負債そのものの帰属先は被買収企業のままであり、この点において買収前後に変更は生じません。

株式譲渡は事業買収の手段として通常それほど複雑となることはなく、原則として、被取得企業における第三者との契約関係に変更は生じません。

税務上の影響はM&Aの手法ごとにより異なりますが、その税務上の影響を詳細に記述する前に、理解の便宜のため図表1に重要と考えられる考慮事項をまとめておきます。

 

【図表1 M&Aの手法ごとの税務上の影響】

資産譲渡 株式譲渡 合併(参考)
1)資産負債の再評価とキャピタルゲイン課税
  • 資産・負債の譲渡は一般的に公正価値(FMV)でなされる。
  • 原則としてキャピタルゲインに対して課税される。
  • ただし、税制適格の場合など、例外は存在する。
  • 一方で、資産の公正価値が帳簿価額を上回る場合、買い手にとっては、償却費が増加する可能性がある。売り手にとっては、キャピタルゲインに対して、繰越欠損金を利用することができる。
  • 譲渡価額は、一般的には公正価値にて算定されるが、たとえば増資時には例外が適用される。
  • 売り手に生じたキャピタルゲインのうち、95%部分は非課税(ドイツ法人税法8b(Korper schaftsteuer gesetz))。
  • 残りの5%部分は課税対象となり、実効税率を30%とすると結果的にキャピタルゲインに対し1.5%の課税がされる。
  • 国内合併、国際合併ともに簿価もしくは公正価値もしくは両者の間の価額にて消滅会社から残存会社へ資産を譲渡することが可能。
  • この手法によると、移転資産に関して資産譲渡の場合のような課税関係を回避することができる、もしくはキャピタルゲインが発生した際は繰越欠損金を利用することができる。
2)繰越欠損金
  • 売り手が保有する税務上の欠損金は買い手に移転することができない。
  • 資産の売り手企業が資産譲渡後に清算した場合、その企業が有する繰越欠損金は消滅する。
  • 原則として清算配当は源泉税の対象となる。
  • 被取得企業の繰越欠損金は、株式の移転比率に応じて、部分的もしくはその全額が消滅する。
  • 取得比率が25%以下の場合、繰越欠損金に影響はない。
  • 取得比率が25%超50%以下の場合、部分的に繰越欠損金が消滅する。
  • 取得比率が50%超の場合、繰越欠損金は全額消滅する。
  • 通常、消滅会社の繰越欠損金は消滅する。
  • そのため、繰越欠損金を有効利用するために、税務上の観点から、どちらの会社を存続会社とすべきかを分析する必要がある。
  • 国際合併の場合にも同様のルールが適用される。すなわち、ドイツ企業が消滅会社であり、外国企業の支店となった場合、繰越欠損金は消滅してしまう。
3)不動産譲渡税
  • 不動産の移転は不動産譲渡税の課税対象となる。
  • 不動産譲渡税の税率はドイツの州ごとに異なる。また、不動産譲渡税は通常、売り手または買い手により支払可能。
  • 不動産譲渡税が課される典型的なケースは不動産を所有している会社が95%以上譲渡されるケースである(不動産所有権の間接的な変更)。
  • しかしながら、グループ内組織再編の場合には、最終(日本)親会社に変更がないケースにおいて、不動産譲渡税が免除されることがある。
  • 原則として、株式譲渡の場合と同様の取り扱いとなり、組織再編税制の免除規定が適用可能かどうかを確かめる必要がある。
  • 上記以外のケースでは、合併により新たな株主に不動産の所有権が間接的に移転することにより、不動産譲渡税の課税対象になる可能性がある。
4)のれん
  • 公正価値評価額が支払対象となるため、通常、その評価額は税務の観点から検討される。
  • 買収価額の各資産・負債に対する適切な配分が必要となる。
  • 取得企業がドイツ企業の場合、のれんはドイツ税法に基づき償却される。
  • 買収価額を検討するため、買収対象企業の公正価値評価を実施することが推奨される。
  • 買収企業がドイツの納税義務者の場合、のれんは通常株式簿価に含められ、一定の要件を満たした場合にのみ減損の対象となる。
  • 簿価による合併であり、かつ、それがドイツ税務署に申請されている場合には再評価の必要性はない。

2. 税務ストラクチャーの検討

通常、取引当事者が検討すべき主要な税務ストラクチャーは以下のとおりです。

(1)株式譲渡に係るキャピタルゲインの優遇税制(売り手)

(2)取得原価の減価償却、購入費用の償却(買い手)

(3)繰越欠損金の利用可能性(売り手、買い手)

(4)ドイツにおける不動産譲渡税(RETT)(売り手、買い手)

(5)リファイナンスコストの税額控除(買い手)

 

(1)株式譲渡に係るキャピタルゲインの優遇税制(売り手)
通常、売り手の最大の関心は売却により発生するキャピタルゲイン課税を最小化すること、もしくは免税となりうる手段を検討することにあります。

ドイツ税法では、法人における持分の売却益(キャピタルゲイン)には優遇措置が適用されます(法人税法8b)。その結果、売却益の95%が非課税となり、5%部分のみに課税されるため、実効税率は1.5%となります(15%の法人税率に地方税および連帯付加税を加味したドイツにおける平均的な税率により算定)。したがって、売り手は税務上の観点では通常、資産譲渡よりも株式譲渡を選ぶ傾向があります。

もし、事業が不採算事業であった場合、株式譲渡を採用すると株式譲渡価格が税務上の株式簿価を下回ることによる売却損を売り手では税務上損金算入できないため、売り手には資産譲渡が好まれる傾向があります。


(2)取得原価の減価償却、購入費用の償却(買い手)
資産譲渡の場合は、買い手側は買収価格に関して、税務上、償却費が最大となる方法を模索することになりますが、個々の資産を公正価値で購入した場合のみ、税務上の償却に関する検討が必要となります。

資産譲渡の場合、全体の買収価格を取得したすべての資産・負債にそれぞれの公正価値を上限に配分することが必要となります。これはすべての有形資産のみならず、知的財産や顧客リストなどのような無形資産も対象となります。

買収価格が、無形資産配分後の資産の金額から移管された負債を控除した金額を上回る場合、当該超過額はのれんとして認識されることとなります。

買い手が資産を購入する場合、個々の資産の買収価格の配分について売り手から詳細情報を引き出すことが重要となります。買収価格の配分は税務当局に事前確認することはできませんが、買い手が独自に行う配分計算よりも売り手からの情報に基づく方がより信頼性が高いと考えられます。


(3)繰越欠損金の利用可能性(売り手、買い手)
a)売り手における繰越欠損金の利用可能性

資産譲渡の場合、公正価値で資産が譲渡されることから、すべての資産が時価評価されたことにより発生する含み益が課税対象となり、売り手は当該含み益に対する税金を負担する義務があります。

黒字事業であるが、過年度に発生した税務上の繰越欠損金がある場合に、公正価値による資産譲渡を採用すると、発生した含み益に対し、当該事業が保有する税務上の繰越欠損金が充当できる可能性があるため、有益な譲渡方法となります。しかし、繰越欠損金の利用は1百万ユーロまでは全額、1百万ユーロを超える場合は所得の60%のみが控除対象となります。


b)買い手における繰越欠損金の利用可能性(法人税法 8c)
買い手が繰越欠損金を有する企業の株式を取得した場合、繰越欠損金は減少ないしは消滅する可能性があります。2008年以降の新しい法人税法で定められている支配変更のルールでは、取得前の繰越欠損金引き継ぎに関する厳格な制限が定められています。当該制限は以下の2段階に分けられます。

  • 5年以内に株式もしくは議決権の25%超50%以下が単一の取得者もしくはその関連当事者により取得された場合、按分比率で欠損金が消滅する。
  • 50%超の株式もしくは議決権が譲渡された場合、すべての繰越欠損金は消滅する。この場合、直接保有、間接保有を問わない。

結果的に繰越欠損金の引き継ぎに影響がないのは、25%以下の持分譲渡の場合のみとなります。

2010年以降は譲受人と譲渡人の株式の100%が同一者により、直接もしくは間接保有されている場合(グループ内再編や実質的な支配権の変更がない取引)では、所有において不利益な変更は存在しないため、当該制限は適用されません(グループ免除規定)。さらに、当該規定では、株式譲渡がなされても、未使用の繰越欠損金は、課税対象となる事業資産の含み益相当額を上限に引き継げることとなりました。

最近では多国籍に展開する日系企業など、多くの外国企業がこのグループ免除規定を利用した欧州もしくはドイツ子会社(赤字会社も含む)の組織再編を行っています。


(4)ドイツにおける不動産譲渡税(RETT)(売り手、買い手)
不動産譲渡税については通常買い手が納税者となります。不動産譲渡税は一般的に直接課税所得を減額させる税務費用とはなりませんが、株式譲渡の場合は取得株式に、資産譲渡の場合は取得不動産に加算される取得費用の一部となります。

一般的にドイツ不動産譲渡税(RETT)は、ドイツに所在する不動産が新所有者に売却・譲渡される場合に課税されます。さらに、ドイツの不動産を所有している会社の株式や持分の譲渡もまた、不動産譲渡税の課税対象となり得ます。少なくとも持分の95%が出資される場合や新株主に譲渡される場合が該当します。この規則は、直接および間接の株式譲渡に適用されます。

近年導入されたグループ内不動産譲渡税の特例によると、合併、分社および分割などのグループ内再編においては、一定の条件のもとで不動産譲渡税が免除されます。しかし、不動産を所有するグループ会社の株式を保有している中間持株会社の株式が譲渡される場合など、間接的な株式譲渡取引は不動産譲渡税の対象となります。当規制はクロスボーダーで実施される買収および再編において、見過ごされてしまうケースがあります。

しかし、不動産譲渡税の対象となるような複雑な取引スキームもしくはM&Aについては税務デューデリジェンスを通じて要因を特定することが可能であり、買い手は脱税など、不正な税務処理に関する指摘を回避するため、売り手との間で将来の税務リスクに対する表明保証条項などを織り込んでおく必要があります。


(5)リファイナンスコストの税額控除(買い手)
買い手となる日系企業はドイツ企業の買収を実行するにあたり、日本本社もしくは(地域ないしは事業)統括会社が直接取得するか、欧州もしくはドイツにある現地子会社を通じて取得するかについて、検討する必要があります。また、後者の場合、既存のグループ会社が取得するのか、もしくは新たに買収実行のために特定目的子会社(SPC)を設立し、取得するのかについても検討が必要となります。

これらの点について方向性が定まった後に次のステップとして、増資により資金調達を行うのか、外部借入(金融機関からの借入など)を行うのかに関する検討がなされます。

増資による資金調達を実行する場合、日本本社もしくは統括会社が直接自社資金を用いてドイツの対象企業を買収します。十分な買収資金がない欧州(もしくはドイツ)子会社を通じて買収を行う場合は、日本本社が当該子会社に対して増資ないしは出資による資金援助がなされます。

外部借入による資金調達を実行する場合、借入は日本本社が実行するのか、欧州(もしくはドイツ)子会社が行うのかが問題となります。

仮に、ドイツ子会社が借入を実行する場合は当該借入金に伴う支払利息は税務上の損金となり、課税所得から控除することができます。

一方で、ドイツ子会社(既存の子会社もしくは買収のために設立されたSPCを含む)が買収資金の借入を実行した場合、ドイツ税法の支払利息控除制限規定が適用されることになります。

 

a)支払利息を税務上損金算入させるための手法:金融債務の移転
企業買収に要したコストを税務上全額損金算入させる一般的な手法として、買収先企業に金融債務を帰属させる方法があります。これは買収先企業を存続会社、買収元企業を消滅会社としたダウンストリーム合併を実施するか、買収先企業が買収元企業より資金借入をし、これを原資として買収元企業に対して配当の支払いを行うことによって実現することができます。


b)その他支払利息を損金算入させるための手法:税務グループ(オーガンシャフト)
企業買収に要したコストを税務上全額損金算入させる一般的な手法として、買収元企業と買収先企業との間で税務グループ(オーガンシャフト)を組成する方法があります。買収元企業がドイツ企業の場合に、買収先企業で発生する課税所得を買収元企業(買収先企業の親会社)で発生する損失と相殺することができます。ただし、税務グループ(オーガンシャフト)組成前に発生していた税務上の繰越欠損金は相殺の対象外となるため留意が必要です(税務グループ(オーガンシャフト)組成期間中、当該繰越欠損金は「凍結」されます)。

II. 合併と買収後の組織再編

買収終了後、買収元企業は買収先企業もしくは買収先企業が有するビジネスとの効率的な統合を進める必要があります(買収後組織再編、合併後の事業統合(PMI))。

1. 企業再編の誘因、課題およびその手法

組織再編の主な誘因は以下のとおりとなります。

  • グループ全体の組織形態の簡略化、ガバナンス、ビジネスモデルなどの融合
  • 企業数の削減によるコスト削減(間接部門コスト、法定監査などのコンプライアンスに要するコスト)
  • 企業グループ間のシェアードサービス化によるさらなるコストの削減
  • 潜在的なシナジー効果の活用


一般的な組織再編プロジェクトには以下の検討要素が含まれます。

  • 欧州にある法人のすべての株式を保有する欧州持株会社の設立
  • もしくは、欧州にある法人をすべて支店化して、本店機能を有する欧州統括会社の設立
  • バックオフィス機能の統合と管理機能を集約し、以下の業務を集中管理するシェアードサービスセンターを設立
    • IT
    • 帳簿作成、財務諸表およびレポーティングの作成
    • ファイナンス
    • 人事
  • 調達機能の統合、ロジスティック、倉庫および移転価格戦略の集中管理など、集約型ビジネスモデルへの移行

2. ドイツにおける組織再編に関する税務上の一般事項

ドイツ組織再編法では以下の4つの組織再編形態について定められています。

  • 合併(Verschmelzung)
  • 事業・会社分割(Spaltung)
  • 特殊な資産譲渡(企業から官公庁もしくは保険会社)(Vermogensubertragung)
  • 法的会社形態の変更(Formwechsel)

組織再編が行われると、原則として、関係するすべての会社、たとえば吸収合併の場合には消滅会社、存続会社およびその株主に税務上の影響を及ぼすことになります。

税制適格組織再編における税務上の資産・負債の移転は、ドイツにおける資産の移転に関する課税権が制限されない限りは、帳簿価額もしくは帳簿価額と公正価値の間の価額をもって行うことも可能となります。ドイツがこのような取り扱いを認めているのは、諸外国の投資家に対してドイツへの投資を誘致し、グループ内の組織再編を促進することを狙いにしているためと考えられます。

3. 税務上の観点での統括機能の設置方法 - 持株会社の設立か統括会社の設立か

ドイツにおいて事業の取得を行う場合、従来であれば欧州持株会社を設置することによって欧州地域の統括を行うことが多くありました。欧州持株会社は新たに設立するケースもあれば、既存の会社をそのまま利用するケースもあります。これにより、欧州持株会社が日系企業の中間親会社として他の欧州の事業会社を統括することになり、欧州地域におけるトップマネジメントも多くの場合欧州持株会社から輩出されています。加えて、欧州持株会社に会計・財務・IT・購買・人事・各種レポーティングといったバックオフィス機能を集約することもあります。

一方、近年では、欧州持株会社の設立に代えて、欧州統括会社(本店)を設立し、既存の欧州各国の会社を欧州統括会社の支店として統合するケースも日本企業に見られます。欧州持株会社と比較した場合の主なメリットは、会社(法人)数が減少することによる各種経費が削減できることに加えて、本店への中央集権化と統括機能の強化ができることにあります。たとえば、在外子会社を在外支店に組織変更すると、多くの場合そのビジネスの形態は中央集約型になります。在外支店は在外子会社と比較するとリスク負担の範囲が限定的になり、その結果利益率も在外子会社より低くなります。さらに、親子会社形態と比較すると、本支店形態は、移転価格の観点から複雑性が低いビジネスモデルとして見られることが多くなります。


近年「OECD承認アプローチ(AOA)」が適用されたことによって、本店と支店の間の利益の帰属に関する考え方が移転価格の考え方とほぼ同様になっています。つまり、本店と支店が別個の法人であるかのように取り扱われることになります。その結果、本店と支店の利益率の決定に当たっては、それぞれが行っているビジネスの機能とそのリスクの程度を考慮する必要がでてくることになります。

本店と支店が行っているビジネスの機能とそのリスクの程度を判断する主要な指標のひとつは、どのような役割・担当の人がそれぞれの拠点にいるかということになります。

4. 会社の整理

会社の整理は、機能の重複を解消させたり、監査・法務関連のコストを削減することなどを目的として行われます。会社の整理は資産譲渡およびその後の会社清算や合併により行われます。


(1)クロスボーダーを含む合併
ドイツ国内における合併は、子会社同士の吸収合併、親会社による子会社の合併、子会社による親会社の吸収合併のいずれについても規定が整備されており、税制適格組織再編の方法となっています。また、クロスボーダーの合併も可能となっています。

たとえば、英国における既存の会社(UK Ltd.)に統括機能を持たせるために、ドイツの会社(GERMAN GmbH)の吸収合併を行うとします。このとき、資産および負債の移転が実質的に行われない場合には、GERMAN GmbHがこれまで保有していたすべての資産および負債は存続会社であるUK Ltd.のドイツ支店に帰属することになります。また、これまでドイツ法人として行っていた営業活動もUK Ltd.のドイツ支店として遂行されることになります。税務の観点からは、ドイツ支店は恒久的施設(PE)とみなされドイツにおいて課税の対象になります。

ドイツ税法では、合併は一般的に公正価値で行われます。しかしながら、税制適格組織再編の取引は帳簿価額をもって行うことや帳簿価額と公正価値の間の価額をもって行うことも可能であり、移転される資産の含み益相当額への課税権はドイツが有しています。組織再編時にドイツにおける消滅会社の税務上の簿価と取引金額との差額から生じたキャピタルゲインは、法人税および営業税の課税対象になります(ただし、最小課税ルールにしたがって既存の繰越欠損金との相殺は可能)。

消滅会社の決算書は税務上の組織再編日(steuerlicherUbertragungsstichtag)付で作成しなければなりません。この日付は会社法上の組織再編(Umwandlungsstichtag)より前になります。税務上の組織再編日から商業登記日の間に発生した消滅会社の利益は、遡及的に存続会社に帰属することになります。

存続会社は、たとえば減価償却について、消滅会社の法的な地位を引き継ぐことになります。しかし、たとえ合併が税制適格組織再編として行われたとしても、未使用の繰越欠損金とドイツにおける利子損金算入制限下で繰り越される未使用の利息費用は合併手続の完了により消滅することになります。また、組織再編における不動産譲渡税の取扱いについても一定のルールが存在していることから、その内容と手続について理解する必要があります。


(2)資産譲渡後に清算を行う場合の留意事項
組織再編が資産譲渡の方法によって行われた場合に、資産譲渡後の会社を清算する場合に留意すべき点は以下のとおりです。

  • 一般的に清算期間は3年を超えてはならない。清算期間の税務申告は一度にまとめて行われる。営業税の観点からは、利益は清算期間にわたって比例配分される。
  • 清算期間に発生した資産の処分に伴うキャピタルゲインは通常は課税対象になる。しかし、清算期間に発生した利益が費用または繰越欠損金と相殺が可能であることから、課税対象となるのは繰越欠損金との相殺がしきれない部分である。清算期間内も最小課税ルールによって繰越欠損金は繰り越されるが、清算結了時の未使用の繰越欠損金は消滅し、今後一切の使用ができなくなる。これは納税者にとって不利な取り扱いになるが、連邦財政裁判所の判決により当該取り扱いを行うこととなっている。
  • 未使用の繰越欠損金とドイツにおける利子損金算入制限下で繰り越される未使用の利息費用は清算結了と同時に消滅する。
  • 清算配当は現金を含む配当可能残余財産が資本価値およびいわゆる税務上の資本勘定を上回る部分を対象に行われる。それらの清算配当は潜在的にはドイツの源泉税(現行の日独租税条約上は15%)の対象になるが、所定の申請を行うことによって減免を受けられる可能性がある。
  • 税務当局が清算期間を対象に税務調査を行うことも想定すべきである。通常、会社は税務当局の同意がないと商業登記の抹消手続はできない。

III. まとめ

日本のマーケットが飽和してきていることから、特に日本の中小企業の中には欧州地域での新規の投資を検討しているところがあります。同時に、日系多国籍企業の多くは既存の欧州事業の再編を検討しています。これは、既存の欧州事業が多岐にわたっており、それぞれの会社が独自に事業を展開していることがあるためです。このような企業においては、バックオフィス機能の統合、適切なマネジメントのポジションの設置、各国のルールに基づく法定監査の必要性の検討などが課題となっています。たとえばこれからドイツを含む欧州諸国での新規事業の買収を行うことがある際には、同時に既存の欧州事業の再編も検討することで、経費の削減や統括機能の強化を図ることができます。

欧州全体ではOECDにおける最近の傾向に加えてEU指令や裁判所の判決も日系企業の投資の促進材料になっていますが、ドイツへの展開という点に着目すると、昨今同意した日独租税条約の改訂も投資の検討を促進する材料になっています。

その一方で、税法を含む関連法規には複雑な部分があり、これに伴う税務上の影響も多岐にわたることから、この点に対する十分な知識と経験が必要になることも事実です。

プロジェクトの管理者の立場からは、組織再編税制を理解して自社に当てはめて適用することがプロジェクトの全体管理を行う上で重要になってきます。特にM&Aにより新規に欧州進出を考えている企業においては、欧州組織再編プロジェクトに対する社内の知識や経験が不足しがちです。さらに、日本と欧州諸国の文化の違いや時差、言語の壁もプロジェクト管理上の障害になりうることから、プロジェクトの管理に当たっては自社のビジネス以外の点に関しても留意が必要になることも事実です。

執筆者

KPMG ドイツ
デュッセルドルフ事務所 税務部門
パートナー Jorg Grunenberger
シニアマネジャー Jan Schneemann

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