国連グローバルコンパクトなどによるカーボンプライシングに関するガイドの発行

国連グローバルコンパクトなどによるカーボンプライシングに関するガイドの発行

2015年11月、国連グローバルコンパクト(UNGC)、国連環境計画(UNEP)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は、世界資源研究所(WRI)らと共同で「カーボンプライシング」に関するガイド(Executive Guide to Carbon Pricing Leadership: A Caring for Climate Report)を発行しました。

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世界でカーボンプライシングを採用する企業は増えています。CDPによれば、2014年には150社であったカーボンプライシング採用企業は、2015年には435社にまで増加しています 。しかし、カーボンプライシングの定義、目的、メリットなどについてのわかりにくさから、カーボンプライシングにどのように対応していけば良いか考えあぐねている日本企業は少なくありません。今回発行されたガイドはそのような企業にとって参考になるものであると考えます。以下では、ガイドの内容を解説しながら、カーボンプライシングについて考察します。

カーボンプライシングの定義

ガイドは、「カーボンプライシング」について、「気候変動の社会的、環境的、経済的なコストを財務的な意思決定に反映させるためのメカニズム」であると定義しています。しかし、カーボンプライシングは、炭素税や排出量取引などを通じて外部から課せられるカーボンプライシング(「外部的カーボンプライシング」)と企業自らが自主的に設定するカーボンプライシング(「内部的カーボンプライシング」)のどちらの意味でも用いられるため、しばしば混乱が生じます。カーボンプライシングについて議論する際にはどちらの意味のカーボンプライシングを指しているのかについて明確にする必要があります。

カーボンプライシングのアプローチ

ガイドでは以下の3つの(内部的)カーボンプライシングのアプローチが示されています。

1) シャドープライス

このアプローチは、炭素税などを通じてカーボンプライスが外部的に課せられた場合にそれがプロジェクトの採算性に与える影響を理解するとともに、GHG排出量を削減するインセンティブを与えるためにGHG排出量に仮想的な価格を設定するというものです。後述するように、ある程度高い水準の価格が設定されることにより、企業のGHG削減プロジェクトは実現しやすくなります。

2) GHG排出量に対する課金あるいは排出量取引

GHG排出量に対して課金することを通じ、GHG排出量を削減するインセンティブを与えるとともに、GHG排出削減プロジェクトのための資金を調達する、あるいは、組織内の排出量取引の仕組みを設けることを通じてGHG排出量が組織内で取引されるようにし、GHG排出量を削減するインセンティブを与えるというアプローチです。

3) 暗示的な価格

GHG排出量に対して直接に価格を設定することはしないものの、GHG排出削減の意欲的な目標を設定することを通じて、GHG排出量に対して価格が暗示的に設定されるようにするというアプローチです。

カーボンプライシングのメカニズム

企業がGHG排出量を削減しようとした場合、単位当たりのGHG排出量を削減するための正味のコストが小さいプロジェクトから優先的に実施されることになると考えられます。単位当たりの正味の削減コストが小さいものからプロジェクトを並べると、正味の削減コストがマイナスになる場合もあるため、多くの場合、下図のようにマイナスのコストから始まる削減コストカーブとなります。外部的なカーボンプライシングも内部的なカーボンプライシングもなければ、多くの場合、q1までのGHG排出量削減にとどまると考えられます(単位当たりの正味削減コストがマイナスであるため)。しかし、pの水準の炭素税が課せられた場合、企業にとってはさらにq2までGHG排出量を削減するのが合理的な判断となります(炭素税の水準よりも単位当たりの正味削減コストが低いため)。内部的なカーボンプライシングでは、(特にシャドープライスのアプローチの場合、)炭素税が課せられた場合と同じような意思決定となるよう、企業自らがGHG排出量に仮想的な価格を設定します。

例えば、560百万円の初期投資が伴う省エネルギープロジェクト(主たる設備の耐用年数が8年、プロジェクト終了時に追加で生じる支出及び収益はなし)を考えてみます。これにより、次の年から毎年、70百万円のエネルギー費用が節減され、3千トンのCO2排出が削減されることとします。8年目までの期間で考えると、内部収益率(IRR)は0%となり、プロジェクトにゴーサインが出る見込みは薄いでしょう。しかし、10千円/tCO2のカーボンプライスを設定した場合、IRRは9%となり、プロジェクトにゴーサインが出る可能性は高まります。このように、ある程度の水準の価格が設定されることにより、企業のGHG削減プロジェクトは実現しやすくなります。

カーボンプライシングの目的と価格との関係

ガイドによれば、シャドープライスのアプローチを採用する企業は高めのカーボンプライスを設定する傾向があり、反対に、GHG削減プロジェクトの資金を調達する目的でGHG排出量に対する課金を行っている企業は低めのカーボンプライスを設定する傾向があります。前者の場合、GHG削減のための効果的なインセンティブを与えるためには、ある程度高めの価格を設定する必要があります。後者の場合、負担をなるべく軽くしたいという意図が働くこともあれば、そもそもGHG削減プロジェクトのための資金を調達するためにはそれほど高い水準の価格を設定する必要がないということもあります。

カーボンプライシングのメリットと課題

ガイドでは、実際にカーボンプライシングを実施している(あるいは実施を検討している)企業の声を集め、カーボンプライシングのメリットと課題を以下のように整理しています。

メリット 課題
  • GHG排出量をわかりやすい金額の単位で示すことで、内部的な説明が容易になる
  • エネルギー効率プロジェクトのための設備投資が実現しやすくなる
  • 意欲的なGHG削減目標の達成を支援する
  • カーボンプライスを設定するための標準的な方法やガイダンスがない
  • 国の気候変動政策が長期的にどのようになるか見通しにくい
  • 競争力に影響を与えるほど高すぎず、投資意思決定に影響を与えないほど低すぎない「適正価格」を設定することが難しい

 

カーボンプライシングは、導入の目的によって設定されるべき価格の水準や仕組みが変わってきますので、導入の検討にあたっては、最初にカーボンプライシングによって何を実現しようとしているのかを明確にし、その上で他社の事例を参考にしながら導入の検討を行うのが望ましいと考えます。

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