IFRS®会計基準オンライン基礎講座 有形固定資産

IAS第16号「有形固定資産」について音声解説付きスライドにより分かりやすく解説します。

IAS第16号「有形固定資産」について音声解説付きスライドにより分かりやすく解説します。

チャプター別動画

解説文付きスライド

※2020年3月31日時点で公表されている基準等に基づき解説しています。

有形固定資産とは?

有形固定資産の「定義」と「認識規準」を満たす項目は、IAS第16号に従い有形固定資産として会計処理を行います。
有形固定資産の定義として、保有目的と使用期間の検討を行います。
保有目的が、財またはサービスの生産や提供のための使用、外部への賃貸、あるいは管理目的のいずれかに該当し、かつ、その資産を1会計期間を超えて使用すると予想される場合は、有形固定資産の定義を満たすこととなります。
認識規準としては、経済的便益と取得原価について検討を行います。
その項目に関連して将来、経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、その取得原価を信頼性をもって測定できる場合は、有形固定資産の認識規準を満たすこととなります。
これらの「定義」と、「認識規準」のすべての要件を満たす項目は、有形固定資産に分類されます。

取得原価の範囲

有形固定資産は当初認識時に取得原価で測定します。取得原価は、原則として、購入価格、直接起因コスト、資産除去コストの3つの要素で構成されます。これに、借入コストが加算されるケースもあります。
購入価格は、その資産の現金価格相当額であり、通常、対価として支払った金額と一致します。ただし、割賦購入のように対価に利息が含まれている場合は、利息相当額は有形固定資産の取得原価には含めず、信用期間にわたり利息費用として認識する必要があるため注意が必要です。
輸入関税や還付されない取得税などを支払う場合は、これも購入価格に含めます。例えば、不動産取得税は、わが国の税法基準では取得原価に含めるか租税公課として費用処理するかを選択できるため、IFRSと取扱いが異なっているケースも考えられます。
値引きや割戻しは購入価格から控除されます。
直接起因コストは、その資産を経営者が意図した方法で稼働できるようにするために必要な場所及び状態に置くために直接的に発生するコストをいいます。例えば、取得当初の搬入コスト、弁護士に支払った報酬、資産の建設に直接従事した従業員の給与等が該当します。他方、新製品のための宣伝広告費、新店舗オープンのための従業員の研修費等は直接起因コストではないため、有形固定資産の取得原価には含まれません。
資産除去コストは、その資産の解体・除去、敷地の原状回復に必要なコストの当初見積額をいいます。有形固定資産の取得原価に含まれる資産除去コストは、有形固定資産の取得に伴い発生するコストであり、取得後に製品製造のためにその有形固定資産を使用に伴い発生した資産除去コストは棚卸資産の取得原価に含めて認識します。

交換取引

交換取引の場合には、その取引に経済的実質があるか否かを検討する必要があります。
経済的実質のある交換取引の場合は、原則として、譲渡した資産の公正価値で測定します。
ただし、新たに取得した資産の公正価値の方が明白であることが明らかな場合は、例外として、取得した資産の公正価値で当初認識を行います。
他方、公正価値を信頼性をもって測定できない場合や、経済実態のない交換取引の場合は、譲渡した資産の帳簿価額で測定します。

取得後コスト

当初認識後に発生するコストのうち、日常的な保守コストは発生時の費用として会計処理します。
他方、定期的な取替コストや操業の継続の条件として行われる大規模検査のうち、有形固定資産の認識要件を満たすものは、有形固定資産の帳簿価額に含めて認識します。
例えば、航空機の場合、機体の耐用年数の途中で座席や調理スペースなどを取り替えるためのコスト、航空機の操業継続のために要求される定期的な大規模検査に係るコストなどを、有形固定資産の帳簿価額に含めて認識することが考えられます。

評価モデルの選択

有形固定資産の評価モデルには「原価モデル」と「再評価モデル」の2つがあります。

評価モデルの選択

企業は有形固定資産の種類ごとに、いずれかを会計方針として選択します。
例えば、土地は再評価モデル、建物は原価モデル、といった選択が可能です。
原価モデルは、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額を帳簿価額とする方法です。
他方、再評価モデルは、再評価日現在の公正価値からその後の減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額を帳簿価額とする方法です。
再評価は、必ずしも毎期行わなければならないわけではなく、期末日の公正価値を基礎とした場合の帳簿価額と大きく異ならないような頻度で定期的に行うことが求められます。
なお、再評価モデルは信頼性をもって公正価値を測定できる有形固定資産項目についてのみ選択することができます。

再評価モデル

再評価日における公正価値が帳簿価額を上回る場合、評価差益は原則としてその他の包括利益で認識します。
他方、公正価値が帳簿価額を下回る場合は、評価差損は原則として純損益で認識します。

再評価モデル

その他の包括利益を通じて資本に累積した再評価剰余金を、事後的に純損益にリサイクリングすることは禁止されています。ただし、資本内部で利益剰余金等に振り替えることは認められます。
再評価する項目が償却性の資産である場合は、再評価額がその後の減価償却の基礎となります。

減価償却

有形固定資産は、土地を除き、減価償却を通じて、その償却可能額を耐用年数にわたって規則的に配分することが求められます。
減価償却方法は、会計上の見積りであり、定額法、定率法、生産高比例法などのうち、資産の経済的便益の消費パターンを最もよく反映する方法を使用します。

減価償却

日本基準では減価償却方法を会計方針として任意に選択することが認められますが、IFRSでは減価償却方法は資産の消費パターンから自ずと決定されるものであり、企業が任意に選択するものではありません。
償却可能額は、会計上の見積りであり、取得原価から残存価額を控除して算定します。
残存価額は、耐用年数が到来した資産を現時点で処分した場合の見積処分価額から処分に要するコストの見積額を控除した金額をいいます。
耐用年数は、会計上の見積りであり、経営者がその資産を利用可能と予想した期間をいいます。
耐用年数は、その資産が経済的、物理的に使用可能な年数、いわゆる経済的耐用年数よりも短い場合があるため留意が必要です。
これらの会計上の見積りは、少なくとも各事業年度末に見直しを行い、見積りに変更がある場合は将来に向かってその変更を反映します。

減価償却の開始と停止

減価償却は、資産が使用可能となったとき、すなわち、経営者の意図した方法で資産を稼働できる状態になったときに開始します。
そのため、減価償却の開始日が、資産の実際の稼働開始日よりも早いケースも考えられます。
減価償却は、その資産が売却目的保有に分類されたとき、または、資産の認識を中止したときのいずれか早い日をもって終了します。
そのため、例えば、資産の使用を中止したものの売却保有目的の要件は満たさない、すなわち、「直ちに売却可能で、かつ、売却の可能性が非常に高い」とはいえない場合は、遊休資産であっても減価償却を継続する必要があります。

コンポーネント・アカウンティング

資産が複数の要素から構成されている場合は、その資産全体の取得原価総額に対して重要な構成要素に取得原価を配分し、それらの構成要素ごとに減価償却を行います。
この考え方を「コンポーネント・アカウンティング」といいます。
例えば、航空機の場合、機体、エンジン、大規模な定期検査、座席などの客室部分、その他の部分といった構成要素に区分し、それぞれの耐用年数にわたって減価償却を行うことが考えられます。
日本基準にコンポーネント・アカウンティングという用語はありませんが、税法の規定を参照して減価償却を行っているケースの中には、IFRSのコンポーネント・アカウンティングと同等の詳細さで減価償却を行っているケースもあるかもしれません。

資産除去債務の変動

有形固定資産の取得原価には資産除去コストが含まれます。
このコストの相手勘定である資産除去債務は、各事業年度末に見直しを行います。
資産除去債務は、時の経過に伴う割引計算の振戻しのほか、キャッシュ・フローや割引率に関する見積りの変更などにより毎期変動します。
時の経過に伴う割引計算の振戻しは、利息費用として純損益に反映します。
他方、キャッシュ・フローや割引率の見積りの変更による影響額は、有形固定資産の評価モデルとして原価モデルと再評価モデルのいずれを選択したかにより会計処理が異なります。

原価モデルの場合、資産除去債務の増減を、有形固定資産の帳簿価額に加減して反映します。
このため、残存する耐用年数にわたり、将来に向かって、資産除去債務の増減による影響を減価償却計算に反映する必要があります。

再評価モデルの場合は、資産除去債務の増減を、再評価剰余金に加減して反映します。
例えば、資産除去債務が増加した場合、その分、再評価剰余金を減少させます。

認識の中止

有形固定資産は、処分したとき、あるいは資産の使用又は処分から将来の経済的便益が期待できなくなった時に、認識を中止します。
処分に係る利得または損失は、純損益で認識します。

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