厚生年金基金制度の原則廃止の影響と企業の対応 | KPMG | JP

厚生年金基金制度の原則廃止の影響と企業の対応

厚生年金基金制度の原則廃止の影響と企業の対応

わが国の代表的な企業年金の1つである厚生年金基金制度を原則として廃止すること等が盛り込まれた法律(以下、「改正法」という)が平成25年6月19日に成立した。改正法では、厚生年金基金について、他の企業年金制度への移行を促進する一方で、財政状況が悪化して事業継続できなくなった基金については解散を促すしくみを設けることとしている。

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基金に加入する企業では、法改正を受けて、何らかの対応が必要になり、企業経営にも影響が生じると考えられる。

本稿では、改正法の内容を概説し、法改正によって企業が受ける影響や、想定される対応と留意点等について解説する。なお、文中意見にかかる部分は筆者の私見である。

改正法の概要

(1)改正法成立の背景

平成24年2月に、ある投資顧問会社に運用委託された年金資産の大半が実在しなかったという、いわゆる「年金資産消失事案」が発覚した。当該投資顧問会社の運用委託元の多くが厚生年金基金であり、従来から財政状況が芳しくなかったところに、当該事案が追い打ちをかけることとなった。その結果、厚生年金基金の積立水準の悪化が大きくクローズアップされ、あわせて、基金側の年金資産管理態勢のずさんさを指摘する声も散見されることとなった。

また、厚生年金基金は、国の厚生年金の給付の一部を代行している部分(以下、「代行部分」という)と、個々の基金ごとに独自に上乗せ支給している部分(以下、「上乗せ部分」という)を一体的に管理し運用しているが、年金資産が大幅に目減りして、代行部分に必要な積立金さえ確保できない状況が目立つようになった。基金が解散する場合には代行部分の支給義務を厚生年金本体に戻すため、必要な資産を国に返還しなければならないが、その額が返還されず厚生年金本体の財政に影響が生じる懸念も強まった。

こうした状況を受けて、平成24年7月に「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」が報告書を公表し、厚生年金基金制度の運営体制の見直しや制度そのものの抜本見直しを含めた提言が行われた。今回の改正法は、こうした議論を受けて、厚生年金基金を原則として廃止するものとなっている。

(2)改正法の内容

改正法では、公的年金制度の健全性および信頼性の確保を図るため、厚生年金基金を他の企業年金制度に移行させることを促進しつつ、特例的な解散制度の導入を行うとしている。具体的な内容は以下のとおりである。

なお、施行日については、改正法の公布日である平成25年6月26日から1年を超えない範囲で、政令で定めることとされているが、現時点では平成26年4月1日からの施行が想定されている。なお、解散要件の緩和など一部については、平成25年10月1日からの厚生労働省通知の改正によって施行される。

1)厚生年金基金の新設の禁止

改正法の施行日以降は、厚生年金基金の新規設立は認められなくなる。既存の厚生年金基金については、「存続厚生年金基金」として、旧法および改正法の附則が適用される。

2)特例解散制度の見直し

「特例解散制度」とは、解散時における積立金が最低責任準備金を下回っている場合に、基金加入企業が当該不足額を分割で納付することを認める制度である。従来のルールでは、分割納付期間中に加入企業が倒産した場合は他の加入企業が連帯して納付しなければならないため、財政が悪化している基金であっても、これを嫌気して解散が決議できない状況を生んでいたといわれている。

今回の改正では、改正法の施行日から5年間の時限措置として、「特例解散制度」を見直し、基金の解散時に国に納付する「最低責任準備金(代行部分に係る必要積立金)」の納付期限・納付方法の特例を設けることとされている。具体的には、分割納付の際の加入企業間の連帯責任を外すことや、返済利息の固定化、納付期間の延長を行うことによって、基金の解散が促されると考えられている。

また、従来の解散プロセス(「自主解散」)に加えて、「清算型解散」というプロセスが新たに設けられている。これにより、厚生労働大臣から「清算型基金」として指定を受けた基金については、清算計画を提出することによって、加入者の同意や代議員会の議決等がなくても解散が行われることとされており、事実上、基金の意思にかかわらず早期の解散が促されることになる。

なお、特例解散の場合に国に返還する最低責任準備金については、従来の特例解散制度と同様、通常のルールで計算した最低責任準備金と、所定の特例的方法によって計算された額とのいずれか小さい額になるため、財政決算時の金額より小さくなる場合もある。

3)厚生労働大臣による解散命令の発動

改正法の施行日から5年経過後は、代行資産保全の観点から設定した基準を満たさない基金については、厚生労働大臣が第三者委員会の意見を聴いて、解散命令を発動できることとされている。

4)他の企業年金等への積立金の移行に係る特例措置

上乗せ給付の受給権保全を支援するため、厚生年金基金から他の企業年金等への積立金の移行について特例を設けることとされている。
これは、多くの厚生年金基金では中小企業の加入が多いことにかんがみ、中小企業が他の企業年金を採用しやすくなるための措置と考えられる。具体的には次のような方策を実施するとされている。

  • 解散によって分配される積立金を、個々の加入事業所ごとに、確定給付企業年金や中小企業退職金共済に移行できるしくみの創設
  • 移行後の確定給付企業年金における積立不足の償却掛金(特別掛金)の支払年数の延長
  • 簡易な制度設計で設立できる確定給付企業年金の対象の拡大

5)附帯決議

改正法では、財政状況が健全な厚生年金基金については事業を継続できることとされているが、同制度の完全廃止を主張する声に対応するため、「施行日から10年以内に、厚生年金基金が解散するか他の企業年金制度に移行するように検討し、速やかに必要な法制上の措置を講ずるものとする」といった附帯決議がなされている。

6)その他

基金の解散決議に必要な同意要件の緩和(代議員会や加入員の同意数を4分の3以上から3分の2以上に緩和)や、解散理由に係る要件の緩和などが行われ、解散を行いやすくするための改正がなされている。

また、最低責任準備金の計算方法の精緻化が行われている。厚生労働省の公表資料によれば、当該精緻化によって、最低責任準備金を積立金が下回る額(いわゆる「代行割れ」)の総額は、平成23年度末の約1.1兆円から約6千億円に縮小すると試算されており、解散時に必要な最低責任準備金が確保しやすくなることから、解散のハードルを下げる効果があると考えられる。

さらに、企業年金の選択肢の多様化策として、「キャッシュバランスプランの制度設計の弾力化」が行われている。

(3)基金の選択肢

厚生労働省の資料によれば、現存する厚生年金基金については、各基金の積立状況に応じて図表1のような対応が行われることになる。厚生年金基金として存続できるケースは健全な基金(現状、全体の約1割)に限られ、残る約9割の基金は、5年以内に、解散または他制度への移行を行うことが求められ、5年以内に当該措置を実施できなかった場合は、解散命令が発動されることもある。また、財政状況が健全な基金についても。前述の「附帯決議」により、将来は厚生年金基金としての存続が認められなくなる可能性もある。

(図表1)厚生年金基金制度廃止の基本的な考え方

財政状況
施行後5年間の対応 施行後5年経過後の対応
健全な基金(約1割) 他制度へ移行または存続 他制度へ移行または存続
代行割れ予備軍(約5割) 他制度へ移行または通常解散 厚生労働大臣が第三者委員会の意見を聞いて解散命令の発動を行える
代行割れ基金(約4割) 特例解散により早期(5年以内)に解散

(出所)厚生労働省ホームページより筆者が作表。左欄に記載した数値(割合)は、平成24年3月時点の562基金に占める割合。

法改正が企業に与える影響

(1)影響を受ける企業

企業年金連合会の統計によれば、平成25年7月1日現在、厚生年金基金の件数は555件あり、そのうち、単独・連合型が69件、総合型は486件となっており、総合型基金が大部分を占めている。

単独型は単一企業のみで設立する基金であり、連合型は主に同一企業グループで構成される基金である。一方、総合型は、同一業種や同一地域などの資本関係がない企業で構成され、業界団体等を基盤に設立されているため、中堅・中小企業が多く加入しているといわれている。したがって、今回の法改正の影響を受けるのは、一部の大企業を除くと、中堅・中小企業が多いと考えられる。ただし、厚生年金基金を設立していない大企業においても、連結子会社や関連会社が総合型基金に加入している場合には、企業グループとして法改正の影響を受ける点に留意する必要がある。

(2)基金の解散等による具体的な影響

基金が解散したり他制度に移行したりすれば、基金に加入している企業は、次のような影響を受けることが想定される。

1)財務面の影響

基金が保有する積立金が最低責任準備金に満たない場合、当該不足の穴埋め負担が必要になる。他の制度に移行する場合は規定どおりの額を一時に穴埋めする必要があるが、特例解散として、最低責任準備金の減額や不足額の分割納付が認められた場合は、納付額や納付方法が変わってくる。

また、最低責任準備金以上の積立金を保有している場合でも、上乗せ部分の給付のための穴埋め負担が生じることがあり得る。特に、他の制度に移行する場合は、移行先の制度のルールに応じて、積立不足の穴埋めが必要となることが多い。

なお、一般に、企業の退職給付会計上、総合型厚生年金基金の給付については引当金の計上を行っていない(いわゆる「例外処理」)ことが多いため、前記のような穴埋め負担が生じると、企業会計上は一時の費用として処理するものと考えられる。

2)給付設計面の影響

代行部分の給付については、解散の場合でも他制度への移行の場合でも、基金に代わって国(厚生年金本体)から支給されることになるため、基本的には従業員や受給者への影響はないと考えられる。

ただし、上乗せ部分の給付については、加入者や受給者の給付に何らかの影響が生じることが多く、基金の積立状況や基金の選択する対応によって影響額は異なると考えられる。

たとえば、解散の場合は、上乗せ給付を含めた必要額(最低積立基準額)に見合う積立金がないままでも解散ができるため、加入者のみならず受給者への給付が実質的に減額されたり、まったくなくなったりすることがあり得る。また、仮に最低積立基準額が確保されていても、将来の加入期間に相当する給付がなくなるため、従業員に対して代替給付を提供するかどうかの検討が必要になる。

また、他の制度に移行する場合は、受給者については基本的に従来の給付が維持されるように検討される場合が多いものの、従業員については、移行先制度の給付設計によって、従来と給付水準や給付条件などが変わることもある。

ケーススタディ

(1)単独・連合型の場合

単独・連合型の場合は、単一企業または企業グループで構成されるため、意思決定がしやすいといわれている。そのため、企業財務面や人事労務面への影響を検討し、自社または自社グループに適した選択肢を取ることが可能と考えられる。

以下では、「1)基金の解散」、「2)確定給付企業年金への移行」の2つのケースを想定し、具体的な影響や留意点について考察する。なお、企業または企業グループとして、退職給付会計基準の原則法を適用しているものとする。

1)基金の解散

解散に際しては、年金資産の積立水準によって、次頁図表2のような検討が必要になると考えられる。

なお、図表2のいずれの場合においても、解散後は基金の上乗せ給付がなくなることから、従業員に対して将来勤務分の代替給付を行うかどうかの検討が必要になる。

(図表2)単独・連合型基金が解散する場合の影響

積立水準
穴埋め負担
給付面の留意点
積立金<最低責任準備金 特例解散制度により、納付額の減額や分割納付の申請を検討する。 上乗せ給付に係る分配はないので、加入者や受給者への補てん、代替措置の検討が必要。
最低責任準備金<積立金<最低積立基準額 最低積立基準額に満たない額を穴埋めするかどうかを検討する。 最低積立基準額が充足されない場合は、加入者や受給者に不利益が生じる。
最低積立基準額<積立金 不要 特になし

(注)基金全体の最低積立基準額=最低責任準備金+上乗せ部分の最低積立基準額 である。

また、会計処理としては、企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」(平成14年1月31日制定)に基づき、「制度の終了」の処理を行うことになると考えられる。すなわち、退職給付債務と年金資産の消滅を認識し、これに終了した制度に係る未認識差異の残高を加減した額を一時の終了損益として認識するものと考えられる。

なお、単独・連合型の場合は、基金の上乗せ給付を企業の退職一時金規程の「内枠」で支給する(基金の上乗せ給付相当を控除した額を企業が退職金として支給する)こととしているケースも多いと思われる。このような場合においては、基金が解散すると基金からの上乗せ給付相当がなくなり、退職一時金規程に基づいて支給する額が増加することも考えられる。そのような場合は、厚生年金基金(上乗せ給付)から退職一時金に支給義務が移った部分に関しては、「制度の終了」ではなく、「確定給付型制度間の移行」として取り扱うことが妥当な場合も考えられるので、注意が必要である。

2)確定給付企業年金への移行

確定給付企業年金への移行に際しては、代行部分の資産を国に返上すること(代行返上)が必要になるため、年金資産の積立水準によって、図表3のような検討が必要になると考えられる。

(図表3)単独・連合型基金が確定給付企業年金に移行する場合の影響

積立水準 穴埋め負担 給付面の留意点
積立金<最低責任準備金 移行時点で最低責任準備金を確保する。 移行先の確定給付企業年金の制度設計が従来より不利益となる場合は、所定の同意が必要。
最低責任準備金<積立金 最低責任準備金を超える額を確定給付企業年金に移管する。新制度での積立不足があれば特別掛金を設定することが想定される。

また、会計処理としては、企業会計基準適用指針25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」(平成24 年5 月17 日改正)の46項に基づき、代行部分に関しては「制度の終了」に準じた処理(代行返上に関する会計処理)を行い、上乗せ部分に関しては確定給付型制度間の移行として「給付の増・減額に伴う処理」を行うものと考えられる。すなわち、代行部分に関しては、退職給付債務と最低責任準備金の差額に、代行部分に係る未認識差異の残高を加減し、さらに最低責任準備金に対する積立不足があった場合は当該追加拠出額を含めて、一時の終了損益として認識し、上乗せ部分については、制度変更前後の退職給付債務の差額を「過去勤務費用」として、企業の会計方針に基づき処理するものと考えられる。

(2)総合型の場合

総合型の場合は、資本関係のない多数の企業で構成されることが多いため、意思決定がしにくいといわれている。そのため、基金が決議した方針に従いつつ、自社の企業財務面や人事労務面への影響を考慮して、一定の対応をしていくことも考えられる。たとえば、基金が上乗せ給付を維持することなく解散する場合であっても、会社が独自に何らかの代替措置を講ずることなどが考えられる。

一方で、基金での合意形成に時間がかかりそうな場合や、基金のしくみそのものに関する不安などから、基金の意思決定を待たずに基金から脱退することも考えられる。

以下では、「1)基金が解散した場合」、「2)基金から脱退する場合」の2つのケースを想定し、具体的な影響や留意点について考察する。なお、当該企業は、厚生年金基金の給付について、退職給付会計基準の例外処理を採用しているものとする。

1)基金が解散した場合

解散に際しては、年金資産の積立水準や基金の意思決定等によって、図表4のような対応が必要になると考えられる。

なお、すべての場合について、解散後は基金の上乗せ給付がなくなることから、従業員に対して将来勤務分の代替給付を行うかどうかの検討が必要になる。

(図表4)総合型基金が解散する場合の影響

積立水準 穴埋め負担 給付面の留意点
積立金<最低責任準備金 特例解散制度により、納付額の減額や分割納付の申請を検討する。その結果に応じて加入企業の穴埋め負担額や方法が変わる。 上乗せ給付に係る分配はないので、加入者や受給者への補てん、代替措置の検討が必要。
最低責任準備金<積立金<最低積立基準額 最低積立基準額に満たない額を穴埋めするかどうかを基金が検討する。穴埋めをする場合は加入企業が追加負担を求められる。 最低積立基準額が充足されない場合は、加入者や受給者に不利益が生じる。
最低積立基準額<積立金 不要 特になし

また、会計処理としては、実務対応報告2号「退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱い」(平成19年2月7日改正)の「Q10 例外処理を採用していた確定給付年金制度(複数事業主制度)における解散又は脱退の場合の会計処理は、どのように行うか。」に基づいて行うことになると考えられる。すなわち、前記の穴埋め負担額を、一時の終了損益として認識するものと考えられる。

2)基金から脱退する場合

基金から脱退する場合は、基金の規約に基づいて、脱退時の一括拠出金の負担が必要になる。この額は、基金が継続する前提で、脱退する企業の加入員がすべて退職したと仮定した場合の必要額を基礎に計算されるため、基金が解散する場合の必要額とは一致しない場合が多い。

逆にいえば、解散の場合は、加入者や受給者の給付が規約の定めどおりに支払われないことも多い一方で、脱退の場合は、いったんは加入者や受給者の給付を規定どおりに支払うことが前提になる。なお、受給者(脱退によって受給者になった者を含む)については、あくまでその基金の受給者として扱われ、引き続きその基金から給付がなされるため、脱退後に基金が解散すれば、規定どおりの額がもらえない場合もあり得る点に注意が必要である。

また、会計処理としては、前出の実務対応報告2号のQ10に基づいて行うことになると考えられる。すなわち、前記の脱退時一括拠出金を、一時の終了損益として認識するものと考えられる。

終わりに

昭和41年にスタートし、50年近くにわたって企業年金の中心であった厚生年金基金制度は、その歴史的役割を終えることになった。今後、おおむね5年の間に、解散や他の制度への移行を行う基金が多くなると想定される。

自社または自社グループで厚生年金基金を実施している場合は、平成14年に解禁された代行返上等のスキームを使うなどして、他の企業年金制度への移行を検討することが多いと思われる。他企業の先行事例も多く、検討は比較的スムーズに行えることが多いと思われる。また、すでに退職給付会計において基金の積立状況を認識していることもあり、金額的な影響も想定内におさまる場合が多いと思われる。

一方、総合型厚生年金基金に加入している企業では、退職給付会計基準の例外処理を採用していることも多いため、基金の積立状況が認識されておらず、想定外の金額的影響が生じる可能性がある。加えて、多数の企業が加入しているため、意思決定に時間を要し、また自社にとって望ましい意思決定がなされるとは限らない。まずは基金の現状を早急に把握し、基金の動向や、今後公表される政省令等の内容、行政の対応状況等をウォッチしていくことが必要であり、そのうえで、適宜適切な対応を検討する必要があるだろう。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
枇杷 高志(びわ たかし)

日本基準のトピック

中央経済社「経理情報 2013年9月10日号」に掲載されたものを転載しています。

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